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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第1章 大震災
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9 落とし前

 児玉は落合と結城を探すためにチネチッタ通り(川崎の繁華街)に戻った。2人はこの辺りにいるという確信があった。1時間ほど路地をうろついて、高校生相手に脱法ハーブの売人をやっている結城を見つけた。

 「昨日は世話んなったな。落合はどこだ」

 「おっと」児玉を見た瞬間、結城は弾かれたように逃げ出した。児玉もすぐに後を追った。土地勘では負けない自信があった。

 落合に刺された脇腹の傷口が開くのもかまわず全速で走り、結城を銀柳街に追いつめた。

 「てめえ、ただじゃすまねえぞ」革ジャンの襟を絞め上げると、小柄な結城の体が浮き上がった。

 「すんません。落合のあにいがあんなことするなんて、俺思わなかったもんで」

 「落合は誰に頼まれたんだよ」

 「それは…」結城は口ごもった。「落合のあにいの勝手な思い込みっすよ」

 「落合はどこだ」

 「知んないすよ」

 「んなわけねえだろ」児玉は結城の腕を取ると得意の一本背負いで投げ飛ばした。結城はアスファルトに打ちつけられた右肩を押さえて転げまわった。児玉は折れた鎖骨を踏みつけた。

 「いてえいてえ」結城は折れた鎖骨がずれる激痛に悲鳴を上げた。

 「落合の居場所言えよ」

 「すんません。ほんとに俺」結城は激痛に麻痺した肩を押さえ、脂汗を流しながら言った。

 「言え」児玉は再び肩を蹴るまねをした。「言わねえと鎖骨が肺に刺さるぞ」

 「ア、アイーダっすよ。そこの呼び込みやってます」

 「情けねえ、そんなけちな仕事。で、落合が俺を刺したのは誰の指図だか知ってるよな」児玉は結城の胸倉をつかんで起き上がらせた。

 「山伊田一家の破鬼田さんすよ」痛みに耐えられなくなった結城はあっさりとゲロした。

 「なんでだよ。鷹目親分とは兄弟分じゃねえか。親分のいねえ組を盛り立てるのが筋じゃねえのか」

 「組を売ったんすよ。それであにいが帰ってきたのを知ってつぶせって」

 「なんでなんだよ」

 「鷹目の親分を殺した落とし前をつける必要があるって」

 「わけわかんねえよ。破鬼田さんはどこだ」

 「それはほんとに知りませんよ」

 「もういい。さっさと病院へ行け」児玉は結城を見放して踵を返した。

 アイーダは児玉も知っているショーパブで、本格的とは言えないが、川崎では珍しいSMショーが人気を呼んでいた。児玉は脇腹の傷口が疼くのを気にしながらアイーダに向かった。結城から連絡をもらって落合は逃げたかもしれないし、逆に破鬼田に加勢を頼んだかもしれない。どっちにせよ行ってみればわかることだと思った。

 アイーダの入っている雑居ビルが見えたのとほとんど同時に、背後からカラカラと小気味のいい排気音がした。赤いフェラーリF430が児玉と平行して走り始めた。小さな窓がわずかに下がり、サングラスをかけた長身の男が児玉を見た。鷹目組を売った山伊田一家若頭の破鬼田だった。

 「もう出てきたのか、児玉。それとも地震のどさくさで逃げたのか」

 「破鬼田さん、なんで鷹目組を」児玉が立ち止まったのでフェラーリも停った。たちまち児玉を数人のチンピラが囲んだ。

 「手え出すなよ」フェラーリから降りた破鬼田が男たちに命じた。

 「組をけえせ」児玉は隙をついたつもりで破鬼田の腕を掴んだ。だが喧嘩慣れしている破鬼田の腕は微動だにしなかった。逆に腕をひねり上げられ、落合に刺された脇腹を膝で蹴り上げられた。歯がたたねえと思った瞬間には首を決められていた。

 「インター杯準優勝だっけか。その程度の腕で俺に勝てると思ってんのか。百年はええわ」

 意識が落ちる瞬間、児玉は落合が勝ち誇ったように金歯を輝かせながら、醜く破顔するのを見た。

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