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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第7章 復讐
88/91

88 供述

 救急車とパトカーが次々にホテルに到着し、失血で瀕死の破鬼田がまず運び出された。小手山はすでに絶命していた。血の海にうずくまったままの涸沼と香夜子も警察官に抱え込まれるようにしてホテルを出た。現場から逃げた者も多かったが、どうせコンペの名簿が漏れると開き直り、物見胡散に居残る者もいた。同伴の女たちが現場の写メを撮ってツイッターやフェイスブックに流したので、報道も集まり出していた。報道ヘリのローター音も聞こえてきた。

 「城山さんは無事ですか。無事が確認できるまでなにも話したくありません」銃刀法違反容疑で西伊豆署に連行された涸沼は、なにを聞かれてもそれしか答えなかった。

 「女は無事だってよ。手首を脱臼しただけで、大きなケガはしてないそうだ。ショックを受けてたが、鎮静剤で落ち着いたんで、病院から署に戻ってきて、今は婦警が付き添ってる。それから破鬼田はドクターヘリで神奈川の大学病院に運ばれた。手首は切断するしかなかったが生きてるぞ。危なかったが、止血がうまかたってよ。お前がやったのか」小太りの小野田警部補が憎めない布袋顔で話しかけた。

 「いえ、居合わせた人が」

 「そうか。おまえがやったなら情状になったのにな。取調べに応じる気になったか」

 「城山さんはどうなるんですか」

 「あの女が小手山を撃ったってことだな」

 「誤射ですよ」

 「引き金は重いんだ。誤射ってことはねえな。殺意があったと俺らは見てる」

 「正当防衛ですよ。殺らなきゃ殺られてたんだから」

 「それは検事と裁判官が決めることだ。俺ら下っ端は事実を調べるだけ。おまえも今のとこは殺人の共犯者だ。黙秘権があるがどうする」

 「殺人事件じゃありません。事故です」

 「ピストルを持ってヤクザのパーティを襲撃して事故で済むか」

 「それはそうですが、城山さんが小手山を撃ったのは事故です」

 「それは女から聞く。おめえはおめえのことだけ話せ。話すのか話さないのか」

 「お話します」

 「じゃあ、名前と住所、生年月日だけ言え。詳しい話は一眠りしてから聞こう」

 「眠れません。今全部話してもいいですか」

 「いいよ、俺はかまわねえ」

 涸沼は一呼吸して話し始めた。涸沼の供述は、美姫の失踪から指輪の発見、廃棄物調査からピストルを入手して城山香夜子の手引きで小手山を襲撃するまで、8時間に及んだ。

 供述の中に福島の処分場の死体遺棄事件が含まれていたので、翌日には福島県警から妻木警部補がやってきた。涸沼は同じ供述を繰り返した。

 涸沼の供述が終わってから、妻木は福島の処分場で発見された死体の身元確認ができたと説明した。

 「死体の身元はあんたの彼女じゃないんだ。名前は大友理沙、歳は20歳、本籍は浪江町だが、都内でモデルをやってた。モデル名はKAZAMI、どうして全裸で発見されたか疑問だったが、あんたの供述の裏が取れれば解決だ。五浦の別荘でヌード撮影中に地震にあって転落し、首にワイヤーが絡まって窒息死したとすれば、司法解剖結果と符合する。撮影会の参加者全員の供述を取れば、事故の状況はもっとはっきりする」

 「それじゃ美姫は活きてるんですね」

 「佐々木美姫は事故があった別荘のオーナー、チョーの内縁の女房だ。2人の行方を捜しているがわからない。チョーには出国記録があるが女にはない。ただ偽造パスポートで出国したかもしれない」

 「そんなに簡単にわかること、どうしていままで」

 「まあ、そう言うな。俺らもこんなこととは思いもよらねかったかんな」

 「城山さんは罪になるんですか」

 「それは静岡県警のヤマだから、なんとも言えんな。殺人容疑だが、弁護士は正当防衛を主張するだろう。それよりあんた、自分の心配をしろ。銃刀法違反は免れめえ。城山香夜子と共謀して小手山を襲撃したとなると、共犯どころか殺人の主犯だぞ」

 「共謀なんてしてません。ピストルを持ってたことは彼女に言ってないし、非常扉を開けてもらっただけです」

 「まあそういうことなら女の罪は軽いかもな。震災孤児で苦労したそうだし、裁判員も同情するだろう」妻木警部補は供述調書にサインを求めながら憎めない顔で言った。

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