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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第6章 取り引き
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74 夢とウソ

 「逆に原発の反対運動ってどう思う?」伊勢海老が活きたまま焼ける香ばしい香りを嗅ぎながら辻仲が聞き返した。

 「耳学問ですけど、無くすべきだけどなくせない」

 「うん、そうか。どうして無くすべきかな」

 「また地震と津波がきたとき、安全が保障できないから」

 「じゃあ、どうして無くせないのかな」

 「電気が足らないから」

 「100点の答えだね」

 「ウソです。0点だって顔に」

 「ばれたかな」

 「バレバレです」

 「なぜ、無くすべきか。それは安全じゃないからじゃない。世界中の大半の人が、30メートルの津波が来る国の原発は安全じゃないと思ってるからだ。つまりね、日本という国の信用の問題だ。信用は理屈じゃない。原発ゼロを宣言できない日本は国際社会から二度と信用されない」

 「信用されるための宣言ですか。それって人も国も同じですか」

 「まあ、そうだな。宣言て、つまりそういうことだよ。できるできないの問題じゃない」

 「できなくても宣言すべき」

 「そう、そのとおり。だけど原発は無くせるよ」

 「知ってます。火力発電所の古いのを再稼動すればいいんですよね」

 「たしかに窒素封印して温存してた。ただし、関電はだめだよ。さすが女子大生」

 「やめてください、そんなじょ…」

 「伊勢海老、僕の分も食べて」

 「いいんですか、遠慮なく食べますよ」

 「水槽ごと食べたっていいよ。そうだ、君、たしか法科留学したかったんだよね」

 「ええ、それが夢です。日振さんに聞いたんですか」

 「誰から聞いたかは忘れたよ」

 「日本の弁護士はバカばっかりだから、日本の法学部には行きたくないんです」

 「まったく大正解。1人としてまともな弁護士はいないね。あいつらはクソだよ」

 「それでも政治家になった人も」

 「ああ、俺のクライアントにも弁護士政治家は多いよ。つまりクソの上のクソさ。だがね、弁護士は政治家向きだ。一言の真実も言わないくせに、自分の発言が真実だと弁護することに熱中できる。ウソにかける情熱は政治家に不可欠な資質だ。だから弁護士の選挙プランニングは引き受ける。左翼じゃなけりゃね」

 「左翼はどうしてだめですか」

 「病識がないんだ。自分のウソをウソだと自覚していない病人とは付き合えないよ。ウソだとわかって夢を語る連中となら付き合いようがあるが、病人はダメだ」

 「ウソとわかって夢を語るって、詐欺師ってことですか」

 「詐欺師は詐欺師でも公認詐欺師だよ。ウソで公然と金儲けしてる連中さ。たとえば占い師だ。生まれた日が同じなら同じ運命なのかい。とんでもないウソつきだろう。宗教家も同じだよ。そして政治家、自分で信じていないホラを吹く。最後が弁護士、人殺しの無罪にする理屈をでっちあげる。つまりはこの4つの仕事には相通じるものがある。ウソつきじゃないと天下一品になれない」

 「運命は決まっていないんですか」

 「あたりまえじゃないか。人の運命が決まっているとしよう。君が生まれたことは君の両親の運命として決まっていたことになる。君の両親が生まれたことは、それぞれの両親の運命として決まっていたことになる。そうやってさかのぼっていくと、何億年も前に生命が誕生したときから、君が生まれることは決まっていたことになる。そんなはずないじゃないか。だけどね、そこは話術だ。運命はあるともないとも証明できない。あるといえばあるがごとく、なしとなせばなきにも似たりだ。詐欺師は証明できないという言葉につけこむに敏だよ。詐欺師は物事を単純化する天才だ。占いも政治もね、天才は単純な言葉で大衆を騙す」

 「なんだか弁護士になる自信が揺らぎました」

 「なると決めたのならなることだ。手に入れてから捨てるのと、手に入れられないのとはまるで違う」

 「法科に留学するとしたらどこがいいですか」

 「ハーバードかカルフォルニア・バークレー校がいいけど、その前に北京大かシンガポール国大に行っておいても面白いと思う。これからはアジアの時代だからね」

 「参考になります。それから英語を早く覚えるコツは」

 「外人の彼氏を作ったらいい。ただし若いのはダメ。教養のある中年ビジネスマンがいいね」

 「なんでもアドバイスできるんですね」

 「それが仕事だからね。頭も胃もいっぱいになっただろうし、そろそろ子宮もいっぱいにするかい」

 「辻仲さん、シモネタもお上手なんですね」

 「褒められたらもっと話したくなった。京都のお茶屋で飲みなおすか。そのまま泊まってもいいしな」

 「これから京都ですか」

 「東京から横浜に行く程度だよ」

 「お茶屋さんて、一度行ってみたかったです」

 「宮川町にいちおしの若女将がいるから紹介しよう。君の美しさには嫉妬するかもしれないが」辻仲は上機嫌で生酒の杯を傾けた。

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