69 撮影会デビュー
朝9時半、大阪の鶴見緑地に到着したワゴン車からKAORIが降りた。鶴見緑地は花博会場の跡地を利用した広大な公園だった。撮影会デビューをあえて大阪にしたのは、関西の方が偏執的なカメラオタクが多いからでもあったが、東京では仙台の前歴がばれる懸念が高くなったからだった。どんな売れっ子のモデルだって女優だって、ヤンキー時代にいたずらに撮ったヌード写真の1枚や2枚はあるものだ。風俗といってもランパブ程度なら問題にならなかったが、短期間でもソープはまずかった。仙台時代の源氏名を隠して使っていたことがダメ押しになって、日振はKAORIの関東でのメジャーデビューをあきらめた。売れっ子になった後で過去がばれれば、揉み消しに余計な金がかかり、下手をすると致命傷になりかねないからだ。しかし関西なら、仙台の前歴が問題になる懸念が小さかったし、そもそも風俗に肝要な土地柄だった。大阪人の受けがよければ、関西限定のタレントとして売り飛ばしてもいいという魂胆だった。関西でファッションショー、モーターショー、ローカル局出演、広告モデルなどで露出回数を増やし、移籍料を吊り上げようというのだ。
集まった20人ほどのアマチュアカメラマンたちの前で、KAORIはメジャーなファッション誌の専属モデルが内定している新人だと紹介された。あながちそれはウソではなく、KAORIはオーディション合格率が高く、ネット上ではファンもつき始めていた。KAORIの容姿を気に入り、撮影そこのけで高嶺の花にならないうちに買っておこうと舌なめずりする者も何人かいたが、日振は安売りするつもりはなかった。関西遠征は3泊4日の予定で、夜はすべてVIP客とのパーティが入っていた。
遅咲きのやや元気のないバラ垣の前で撮影が始まった。ウィンドブレーカーを脱ぐと、下はミニのドレスだった。
「かわいい」をスタッフが連呼するなか、KAORIは笑顔を絶やさずに様々なポーズをとった。要領はスタジオ撮影と変わらないが、撮影会ではあらゆる方向から向けられるレンズに愛想を振り向けなければならなかった。
カジュアル、ロック、レースクィーン、エレガントと衣装を変えての撮影会は2時間続いた。ワゴン車の中でロケ弁を食べながら、神戸に向かった。
午後の最初の撮影会場となったのは北野異人館外にある旧オランダ領事館、通称「香りの家」だった。KAORIの関西デビューにふさわしいと、慎重な日振には珍しく名前だけで選んだのだ。いくつもの風情のある洋館の外構を背景にして、午前中と同じ衣装での撮影が2部入れ替えで行われた。
わずかな休憩時間に、異人館の一つを改装したバックスターコーヒーによって、毎日飲みたいティーラテで一息ついた。その時だけはミーハーな観光客みたいに冗談を言いあう余裕もあった。着替えの時間まで細かく決められたスケジュールの中で、それがこの日のKAORIの唯一のわがままだった。
昼の部の撮影会は無事に済み、、夜の部のパーティが開催される大阪堂島のロイヤルプラザホテルに向かった。車中であわただしくイブニングドレスに着替え、化粧をパーティーメイクに変えて、最上階のバンケットルームに駆け込むと、ホスト役として仙台から呼び出された神崎梨花が、シャネルのスーツを決めてマイクを握っていた。
ツバサプロとタイアップしている大阪のモデル事務所からも、何人かの新人モデルがコンパニオンとして呼ばれていた。ローカル局のバラエティ番組に出演しているパーソナリティ、パチンコチェーンのキャンペーンガールなど、それぞれに売出中のタレントで、みんな有名になるために体を張ってきたことが、一目で見え透いていた。そんな中、胸元をドレープで強調した真紅のイブニングドレスを優雅に着こなしたKAORIの美しさは飛び抜けていた。
シャンペンはドンペリニオン、ワインはオーパスワンが奢られ、ウイスキーはマッカラン18年、市内の老舗のバーからマティーニの得意なベテランバーテンも呼ばれている贅沢なパーティだった。




