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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第6章 取り引き
67/91

67 脅迫

 児玉から鷹目が隠したお宝の情報を聞き出した宇田川は、大型ユンボを積んだ回送車を運転して秋保温泉に向かった。近代的な温泉ホテルが林立する峡谷を抜け、踏み固められた砂利道に入った。カーナビにも表示されない林道のはずだが、不法投棄に使われていたせいで、ダンプが通れる道幅に勝手に拡げられていた。宇田川は積載オーバーのユンボを積んで重心が高くなった回送車を、荒れた路面で転倒させないように慎重に運転しながら、児玉が業務上過失致死罪で服役することになった事故現場の穴(不法投棄現場)を探した。

 ここでなにが起こったのか、宇田川にはわかっていた。鷹目が死んだと早合点した児玉が現場から逃げ出した後、破鬼田が廃棄物が崩れたように見せかけて生き埋めにしたのだ。検視結果は脳挫傷と窒息、手当が早ければ救命の可能性があった。プラスチックが絡み合った廃棄物は簡単には崩れないのに、児玉は実況見分で何も言わなかった。

 どうして鷹目がわざわざ穴に立ち会ったのか。どうして破鬼田が鷹目のとどめをさす必要があったのか。破鬼田と鷹目が隠そうとしたブツはなんなのか。最初は死体か、それとも隠し金かなにか途方もない物が埋まっているに違いないと宇田川は睨んでいた。

 穴は50メートル四方ほどの大きさで、奥の谷に向かって傾斜する崖に作られていた。元々は土砂の採取場だったようだ。峡谷を吹き上げてくる北風は体感氷点下で、ダウンジャケットを着ていても身を切る冷たさだった。廃棄物はどこにも見えなかった。3年間放置された覆土は草に覆われていた。

 宇田川は荷台のユンボにキーをさし、スロープを使わずにアームを支えにして降ろした。児玉から事故現場だと聞いた崖っぷちの一本松を目印にして進み、雪と枯れ草に覆われた土砂を掘り始めた。覆土は薄く、真っ黒に変色してしっかり絡み合った廃棄物がすぐにゾロゾロと出てきた。2時間ほどやみくもに掘り散らかし、大きなフレコンバッグを掘り当てた。これかと思って、バケットの爪をバッグの底にひっかけてひっくりかえした。点滴チューブや、注射針や、紙おむつや、手術衣など、さまざまな医廃がごっそりと出てきた。宇田川はユンボを止めて穴の底に飛び降り、ぶちまけた産廃をでたらめに蹴飛ばした。まるで茸狩りでもしているような仕草だった。医廃の下からなにか本のようなものが転がり出た。半分焦げたようになったレザーの表紙のついたシステム手帳だった。一瞬、松本清張の黒革の手帳を思い出した。開いてみようとしたが、くっつきあったページが破れそうになったのでやめた。医廃はやばいブツには違いないが、命懸けで隠すほどのお宝じゃなかった。宇田川は再びユンボに戻り、鷹目が児玉に埋めさせたブツを探した。それがなんなのか児玉は知らなかった。1日目は芳しい成果がなかった。宇田川はユンボを置き去りにして引き上げた。

 2日目はやり方を変えた。児玉の記憶を鵜呑みにせずに、冷静に考えてみて、鷹目が生き埋めにされ、警察が遺体を掘り返した場所の痕跡を探した。だが、実況見分が行われたような穴はどこにもなかった。ブツはもう破鬼田が掘り返してしまったのか。そう思った時、足元のゴミが靴半分ほど沈んだ。ここだけ柔らかいってことは…。

 ピンと来た宇田川は、このへんかとあたりをつけて、ユンボのアームを伸ばした。柔らかく埋め戻した廃棄物を掘り下げるのは造作なかった。宇田川は一心不乱に何時間も同じ場所を掘り続けた。

 午後になって手応えのあるものをとうとう掘り当てた。ダンボールが2箱、発酵の熱がこもって熱々になっていたが、まだ原型をとどめていた。湯気の立ち昇るダンボールをワクワクしながら開けてみると、中にはぎっしりと書類が詰まっていた。帳簿類、伝票類、写真帳、CDなど様々だった。

 写真帳を開いたとたん、宇田川はほくそ笑んだ。それは、ツバサプロのモデルたちと顧客の密室プレイを隠し撮りしたビデオをキャプチャした写真だった。顧客の顔のいくつかに宇田川は見覚えがあった。政治家や芸能人だ。これが小手山の指示で破鬼田が鷹目に埋めさせたお宝に違いない。ちゃんと埋めたか、こっそり隠れて監視していたところに、児玉が鷹目をバケットでぼこるというハプニングが起きた。破鬼田は現場検証でブツが発見されないかとヒヤヒヤものだったに違いない。幸い、警察は鷹目の死体を掘り出すこと以外に関心がなかった。ほとぼりがさめてから埋め直しに来たとすれば現場の状況と矛盾がない。宇田川はダンボールが壊れないように気遣いながら、回走車の助手席に積み込んだ。

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