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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第5章 転身
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63 替え玉

 ツバサプロモーションの情報はネットで面白いように集まった。大半は怪しい伝聞情報だったが、芸能界には疎かった涸沼にもおぼろげに構図が見えてきた。ツバサプロの背景は暴走族の上部団体である東日本連合だった。プラダが言ったとおり、ツバサプロはモデルとして登録した女性をさまざまな仕事に派遣しているようだった。直営店も見つかった。キャバクラの「MAIHIME」と「SORA」、モデル派遣クラブの「フラッシュ」だ。

 フラッシュのHPを見た涸沼は衝撃を受けた。そこには指輪を持ってきてくれた城山の写真があった。モデル名は「KAORI」。薄々そうじゃないかと思っていたが、彼女もツバサプロ所属のモデルだったのだ。そうなると彼女は小手山か破鬼田とグルかもしれない。指輪を堂本から預かったという話も怪しいものだ。考えれば考えるほど、なにもかも怪しい。プラダも破鬼田も、いつだって登場のタイミングが良すぎるし、情報にムダがなさすぎる。これは自分を嵌める罠かもしれないと思われてきた。だが、なんのために。

 罠だとわかっていても、涸沼はAKANEに会わずには居られなかった。アマチュア写真家らしく見せるために同僚から一眼レフを借り、週末に上京して五反田駅に向かい、AKANEを指名するためにフラッシュを探した。モデル派遣なら、ホテルで2人きりになれると期待が膨らんだ。

 東口の階段下からHPに書かれた番号にかけて初めてだと言うと、事務所に来店して会員登録をする必要があると言われ、道順を指示された。

 フラッシュの事務所は普通のマンションの一室で、看板もなにもなかった。電話で聞いた暗証番号を打ち込んで入館し、ロビーのインターホンで603号室を呼び出した。インターホンの上にはカメラがあった。部屋のモニターで客の姿をチェックする仕組みなのだろう。特段怪しまれなかったらしく、名前を名乗るとエレベータホールに入るドアのロックが外れた。エレベータを降りると狭い外廊下の奥が603号室だった。インターホンを押すと「どうぞ」と女の声がした。ドアの上にも監視カメラがあった。

 受付に出てきたのは中国人風の若い女だった。運転免許証が必要だと言われたので、やむなく本名で登録を済ませた。ネットにアップされていた「AKANE」はいないのかと尋ねると、午後2時からならモデル料に指名料2000円上乗せで呼べると言われ、周辺のラブホのマップを渡された。

 予約時刻までは余裕があったので、涸沼はマップに書かれたJR高架の西側にあるラブホテル街をとりあえず下見した。雑踏している駅前からちょっと離れただけなのに、昼間でも人通りはほとんどなく、ホテル前で人目も気にせずにいちゃつく中年のカップルが目についたくらいだった。駅方向に戻りかけると、若作りをした年増の立ちんぼが近づいて来た。

 「お兄さん、マッサージどう。いい子紹介するよ」くたびれた声だった。

 涸沼は無視してガードに沿ってホテル街へとUターンした。年増が追って来ないかと振り返ると、駅方向からマイクロミニに生脚が艶かしい女が大股で歩いてくるのが見えた。遠目にも肌の露出が目立つことこの上なく、理由もなく心臓がドキドキした。とっさの機転で立ち止まり、携帯を耳に当てて電話をするふりをしながら、女をやりすごした。帽子を目深にかぶり、大玉のサングラスをかけているので顔立ちはわからなかったが、プロポーションは抜群だった。女は脇目も振らず涸沼の前を通過した。オーデコロンの強い残り香が鼻腔をなぶった。携帯を耳に当てたまま女の後姿を目で追うと、マップに載っているホテルの1つ「ペガサス」に消えた。彼女もフラッシュの派遣モデルなのか。そうでなくともデリヘル嬢には間違いなかった。AKANEがもしも美姫だったら、やっぱりこんな薄着をして来るのだろうか。そんな空想に頭がくらくらした。

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