50 アフター
プラダと約束したとおり、涸沼は看板までR&Bに居続けた。請求は14万円余り。高いのか安いのかわからないままカードで払うと、手数料を4%乗せられた。看板になってしらけた店内で、プラダが髪を下ろし、私服のショーパンに着替えてくるのを待って一緒に店を出た。早朝の風俗街をショーパンに生脚の女と歩くのは少し照れた。美姫の妹の千愛もそんな恰好が好きだったが、子供だと思っていたので照れたことはなかった。
「かわいそうだから安いお店にしてあげる」そう言ってプラダが入ったのは安くもなさそうな鮨屋だった。
朝の4時だというのに店内は半分埋まっていた。客の大半がママやキャバ嬢との同伴だった。アフターは気を許した相手か特別の金ずるとしかしない。初会でアフターした涸沼とプラダは例外的だった。
「リカママのこと知りたいんだったらフェラーリを探しなよ」大トロを頬張りながらプラダが言った。
「ママはフェラーリに乗ってるんですか」
「違う。なじみの客が乗ってくるんだ」
「単なるなじみ客ですか」
「リカママの過去につながる男だね」
「フェラーリでもいろいろあるけど」
「F430、トラック無線の周波数と同じだって自慢してるいけすかない野郎だよ」
「フェラーリで無線屋やるんですか」
「あんたほんとおもしろいわ。フェラーリでやるわけないよ」
「実は川崎の翼商会でフェラーリを見ましたよ」
「ちょっと待って。あんた、どこま知ってんの」
「ニューヨークのことも少しは」
「まさか、高速からあたしを尾行してたのって、あんた」プラダの顔色が変わった。
「はい」涸沼はあっさり認めた。
「どこから」
「安達太良SAから」
「あたしとしたことがやられた」
「すいません。でも、ニューヨークが女性だとは思いませんでした。しかもこんな美人だなんて」
「お世辞言っても遅いよ。なんであたしってわかったの」
「ソフトクリームナウ」
「ああ、あんときか。頭いいじゃん」
「知ってること教えてくれたら、お金は払います」
「なにを調べてんの」
「失踪したフィアンセを捜してます」
「なにか手掛かりがあるの」
「指輪です」
「どういうこと?」
「指輪が見つかったんです」
「なんか面白そうじゃない。詳しく教えてよ」
涸沼は美姫の失踪から堂本との出会いまでを説き起こした。いつもながら小説を読むような滑らかな口調だった。
「なるほどねえ」プラダは感心したようにうなずいた。
「リカママのこと、なんでもいいから教えてもらえないですか。お礼はしますから」
「あんたの話おもしろかったから、ただで教えてあげる。リカママはつい最近まで、あたしと同じ大型の運転手だったのよ。朱雀隊って女だけのダンプ軍団のカシラだった。そのバックが翼商会よ。社長は最近、破鬼田ってヤクザもんに変わった。地震の後、やけに景気がよくなって、フェラーリも最近買ったの」
「翼商会とリカさんがつながり、リカさんと美姫がつながり、翼商会と美姫が指輪でつながる。すごいですよ」
「そうなのかな」
「破鬼田の羽振りがよくなった理由はなんですか」
「不法投棄やって儲けたっていうやつもいるし、放射能がらみだっていう噂もある。だけどあたしはなにかもっとヤバいネタを仕込んでんじゃないかと思うね」
「ネタとは」
「それはあたしもわからない」
「ニューヨークの情報網で調べてくれたらお礼します」
「あんたもお金お金ってしつこいわねえ。いらないわよ。ネタはお金で買うものじゃないわ。友情を見せてよ」プラダは適度に膨れた胸に手を置いて微笑んだ。
「すいません」
「無線じゃむりだけどツイッターだったらネタ集められるかも」
「お願いします」
「あんたのフィアンセには興味ないけど、どうせいつかリカママのことは調べたいと思ってたし、渡りに船よ。あんたの秘密もいっしょにあばいてあげる。ニューヨークに任せときなさい。そのかわり国分町に来たら、あたしを指名しなさいね」プラダは涸沼が手をつけない鮨を1人で平らげると立ち上がった。




