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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第4章 廃棄物調査
47/91

47 無線屋

 目黒警部は偽者だった。これは紛れもない事実のようだ。しかし3日間の廃棄物調査がすべて調査費を騙し取るためのやらせだったとは思われなかった。調査がたとえやらせだったとしても、翼商会は美姫の行方につながる唯一の手がかりだ。いや、やらせならなおのこと、翼商会は美姫の指輪の発見と無関係ではないことになる。

 目黒警部の偽者が残した手がかりはもう1つあった。涸沼は無線屋を捜してみようと思い立ち、秋葉原で3万円のハンディレシーバーを手に入れた。電気街の雑踏を抜け出した涸沼は、さっそく買ったばかりのレシーバーのスイッチを入れた。430メガ帯をサーチすると、たちまちトラック無線の会話が飛び込んできた。涸沼は物珍しさに、夢中で無線の会話に耳を澄ませた。だが、産廃の話題はなかなか聞こえてこなかった。酒の話、女の話、そして競馬や競輪の話、そんなありきたりの世間話が延々と続くばかりだった。

 産廃ダンプが溜まっている場所を見つけなければだめだと思って、自家用車のパジェロで常磐道のサービスエリアまで出かけて再び傍受を試た。夜中になっても通話量は減らなかったが、やっぱりこれといって産廃を話題にした通話はなかった。駐車場を見ても、長距離トレーラーや大型コンテナ車は多いものの、産廃を運んでいそうなダンプはほとんど見かけなかった。

 涸沼は毎日、仕事が終わると仮眠を取り、深夜に起き出して常磐道だけではなく東北道のサービスエリアまで調査範囲を拡げ、夜明けまで無線の傍受を続けた。被災者用のパスを使えば、高速道路料金はかからなかった。何日か続けて聞いていると、聞き覚えのある声がだんだんわかるようになった。会話の内容は相変わらずの酒、ギャンブル、そして誰それが女を捨てたとかいったゴシップ話だった。高速警察隊の検問情報だけはたびたび流れた。

 そのうち東北道で毎晩同じ時間帯に情報を流している男がいるのに気づいた。甲高い特徴的なテナーは1度聞いたら忘れられなかった。ニューヨークというハンドルネームは、ダンプ同士の無線交信でも時々出てきた。産廃の捨て場を斡旋する無線屋ではなくても情報通には違いなかった。

 「今日もかっとばしてるかい、トラック野郎ども。さあて今日の道路情報だが、朝っぱらからとんでもねえ検問情報が入ってきたぜ。軽井沢に向かってるお人好しの運ちゃんはいねえか。いたら今すぐ進路を東に変えるこったな。さもねえとそのお人の好さがあだになること請け合いだぜ。荷主さんがよ、もう1杯持ってけ泥棒なんておだてられて、その気になって積載オーバーしてねえだろうな。そのお人の好さがおいらは好きだが、マッポは違うらしいぜ。てなわけで今日はこんなところにしとこか。また新情報入ったら流すからチャンネル開けて待ってろよ。じゃあしばらく曲を流すぜ。CDは紅人クレドの…」

 ニューヨークと接触できたらなにかわかるかもしれない。心は急いたが無線では秘話ができない。涸沼はニューヨークの電波を求めて東北道をサービスエリアからサービスエリアへと徘徊しながら情報を集めた。ニューヨークはどうやら都心と仙台を往復している長距離定期便の運転手らしかった。無線を聞き続けているうちに、ニューヨークがツイッターのアカウントを持っていることも知った。それどころかハンドルを握っていない時は、片時もスマホを手放さないツイットジャンキーだった。

 ニューヨークお気に入りのサービスエリアで、涸沼は毎晩ツイットをフォローしてみた。

 「安達太良SAなう」ニューヨークがツイットを始めた。

 やっぱりこのSAだった。タイムリミットは30分。それがニューヨークのサービスエリア滞在時間だ。涸沼は携帯に夢中になっている男を捜し回った。だが、携帯を触っている男は多かった。タバコを吸っているのか、コーヒーを飲んでいるのか、なにかもう1つ手がかりが欲しかった。

 「じゅうねん長生きソフトなう。じゅうねんて年の10年じゃなく、エゴマのことだぜ」意外なツイット。しかも写真付きだった。

 涸沼はソフトクリーム売り場に急行し、ソフトを舐めている男を捜した。だが、見当たらない。買ったばかりのソフトを持っているのは女ばかりだった。

 「うまそう。いくら?」試しに初めてフォローバックしてみた。

 ソフトを舐めながらスマホに反応した女がいた。まさかニューヨークは女か。涸沼は慎重にその女を観察した。やや小柄なほっそりした体つきの女が、ベンチに座ってショーパンから伸びた生足をこれ見よがしに投げ出し、スマホに夢中になっていた。ソフトを口一杯にほおばる横顔が不思議となまめかしかった。

 「330円。ミニストップより高いよなあ」女が打ち込んだかどうかはわからないがフォローバックがあった。

 「ソフト売ってるお姉さんは美人かな?」涸沼は適当にフォローバックしてみた。とたんに女が売り場を振り返った。間違いない、ニューヨークは女だった。無線では声をつぶして男のふりをしていたのだ。

 ニューヨークが立ち上がった。気づかれないように遠目に後を追い、車を確認した。予想どおりの大型車、20トン以上ありそうなセミトレーラーだ。ニューヨークは女には高すぎる運転席にひらりと飛び乗った。ナンバーを確認し、後をつけてみることにした。

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