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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第3章 なりすまし
36/91

36 捜査法

 涸沼は借りておいたレンタカーに目黒を載せてフタバックス最終処分場に向かった。

 「どうして原発はこんなことになったんですか」目黒が警視庁の警部と知って気を許した涸沼がハンドルを握りながら言った。

 「バカばっかりだからだよ。知識のねえやつが偉くなって、現場でがんばってるやつは浮かばれねえ世の中だからな。まったく知ったかぶりの連中の腹の立つこと」

 「警視庁からもずいぶん応援に来てるんですよね。でも目黒さんは何か事件捜査のためにお見えなんですよね」

 「応援つったって上の点数稼ぎだわ。なんの役にも立ちやしねえ。俺も実は捜査じゃねえんだ。警備課だったもんで、しばらくこっちで検問の指揮をやってたんだ。それにしてもオメエ、ずいぶん上手に検問抜けるじゃねえか」涸沼が裏道を迷わず走り継いで行くのに目黒は感心した様子だった。

 「堂本さんに道を教えてもらいました」

 「なるほど堂本にねえ」

 1度しか行ったことがないのに、涸沼は児玉が案内したとおりの道順で走り続け、警戒区域に入ってからはヘッドライトも消して、まったくストレスなく処分場に到着した。検問にはとうとう一度も会わなかった。

 「どんな様子だ」

 「こないだと変化はないみたいです」

 「よし、中へ入れ」

 目黒の指示で涸沼は車を場内に進め、鉄板敷きの仮設路の末端で車を停めた。

 「これをつけろよ」目黒は用意していたマスクとゴム手袋を涸沼に渡した。

 「だいじょうぶですよ」

 「ここは放射能が高いんだ。用心に越したことはない」

 「わかりました」

 2人は車を降りて、まっ暗な処分場を歩き出した。月が明るく、ライトも必要ないくらいだった。

 「なるほど、こいつは便乗投棄だなあ」現場を見るなり目黒が言った。

 「なんですか」

 「これはどさくさにまぎれて余所者が捨てたゴミだわ。堂本が指輪を拾ったっつうのはどこだ」

 「あっちです」涸沼が懐中電灯を点けると、大きなこぶのような形に投げ捨てられた廃棄物が光を反射して白く輝いた。

 「あのへんだな。ちょっと荒らしたあとがあるな。オメエらがやったのか」

 「いえ、ちょっと覚えてないんです」涸沼の答は曖昧だった。

 「それじゃ、始めるぞ」

 「なにをですか」

 「手掛かりになるのは紙くずだ。紙にはかならず字が書いてある。会社の名前とか、店名とか、ゴミの出所がわかる紙くずだ。伝票とか、注文書とか、カルテとか、いろいろあるはずだ。それを探すんだ」

 「そこがこのゴミを捨てたってことですね」

 「ゴミを持ってきた会社は、最初にゴミを出した会社とは違うぞ。ゴミを出した会社に1つ1つあたって、どこに収運を任せたか調べるんだ」

 「しゅううん?」

 「ゴミを集める会社を収集運搬業者っていうんだ。収運は燃やせるゴミと燃やせないゴミに分別して、燃やせるゴミは中間(処理施設)へ、燃やせないゴミは最終(処分場)へ運搬するんだ」

 「それじゃここに来てるのは燃やせないゴミですか」

 「不法投棄に回されるゴミってやつは分別しないで無許可のダンプに任しちまう。だけど、いったんはどっかの保積(ほづみ、積替保管場)に積んだはずだ。そのルートを洗えばいいんだ。ルートは1つとはかぎらないが、その中から指輪を運んだルートを炙り出すんだ」

 「気の遠くなるような話ですね。そんなことできるんですか」

 「産廃ってのはみんなそうして捜査するんだ。地道に調べたら必ず手掛かりがあるぞ。つべこべ言ってねえで、そこらにあるトン袋の中身を全部ぶちまけちまえ」

 「はい」

 目黒に言われたとおり、懐中電灯を頼りに1つ1つゴミを漁りはじめた涸沼は、すぐに1枚の紙くずを発見した。引っ越しセンターのFAX注文書だった。見知らぬ人の名前の書かれたその注文書が、まるで初恋の人から届いた手紙を10年ぶりに発見したように懐かしいものに感じた。ブティックの顧客名簿、工事現場の看板、図面類など、証拠はおもしろいように次々と発見された。

 「これって、地元のゴミじゃないですよね」目黒に遠慮して沈黙していた涸沼が我慢しきれなくなったように言った。

 「ああ、そうみてえだな。都内と神奈川か」

 「川崎のが多いです。あと相模原、町田」

 「思ったとおりだな。こいつは神奈川の保積から来たな」

 「それじゃ美姫も神奈川にいたってことですか」

 「さあ、それはどうかな。都内のゴミもあるじゃねえか。こいつは目黒だ。俺の名前と同じだな。こいつが臭いな」

 「偶然じゃないですか」

 「刑事の鼻を甘くみるなよ。どっから来たにせよ、都内か神奈川からここへ来たとなりゃ、運んだのはゴミのプロだな。だがそのほうがいい。プロのほうが調べやすい」目黒の産廃の知識は確かなものだった。

 「よおし、そろそろ仕上げだ」目黒は発見場所に証拠を並べ、位置を特定するために一点一点写真を撮影した。プロらしい仕事を涸沼は感心して眺めていた。

 「調査は都内からはじめんぞ。平日になるけど、休暇は取れんのか」

 「え、僕もですか」

 「おいおい、オメエの調査だろう。それにな、刑事は1人じゃ行動しねえ。相棒がいるんだよ。オメエ、2人分の経費出せんのか」

 「休暇なら、震災でだいぶ残業しましたから1週間くらいならなんとか」

 「じゃ再来週から始める。それまでに証拠のリストを作っておけ。証拠に触る時はマスクと手袋を忘れんな。放射能がたっぷり降りかかってっから、用が済んだらトランクにでも入れておけ。埃を吸い込むのが一番いけねえんだ」

 涸沼は集めた証拠をビニール袋に詰め込み、レンタカーに積んで引き上げた。

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