25 不能
目が覚めると児玉はホテルのベッドに寝ていた。仙台市内のラブホのようだったが、入室した記憶がなかった。隣にナオが寝ていた。服は着ていなかった。
「なあ、俺ゆんべなにかしたか」児玉は目をこすりながらナオのキレイな背中に手を置いた。
「しなかったよ」ナオが寝返りを打ちながらあっさり言った。胸の隆起を隠そうともしなかった。
「起きてたのか」
「あんた、うなされるばっかだし、最低だよ。こっちはぜんぜん寝らんねえじゃんよ」豊満な乳房が児玉の腕に押しつけられた。信じられないくらい柔らかかった。
「どれくらい飲んだんだ」
「ドンペリ1本、ワイン2本、あとお店のウィスキーも」
「ほんとか」
「うん」
「頭痛えわけだわ。金払ったか」
「払ったよ。意外とお金持ちなんだね」
「でもねえわ。みいんなあぶく銭だわ」
「あの指輪なに?」
「あ」
「青い指輪だよ。ジーンズに入ってたでしょう。ほらこれ」ナオは右手で指輪をつまんで見せた。
「ああ、拾ったんだ」女は目ざといなと児玉は思った。
「なら、あたしがもらってもいいかな。ほら、似合うでしょう」ナオはシーツの下から左腕を抜いて、勝手に指輪を填めた。
「だめだよ。そいつには呪いがかかってんだぞ」児玉は顔がつぶされた女の死体を思い出しながら、声を震わせて言った。
「やだ、ほんと」ナオは指輪を外そうとした。「どうしよう、ねえ外れねえよ」
「だから呪いがかかってるって。早く外さねえと指が腐んぞ」
「まじ、脅かさないでよ。クリームつけてもいいかな」
「かまわねえよ」
ナオは枕元に置いた化粧ポーチからコールドクリームを取りだして指にベトベトに塗った。それでようやく指輪が外れた。
「なにこれ、やばいじゃん」ナオは興味無さそうに指輪を放り出した。
「だから言ったろう」児玉は大事そうに指輪を拾うと、シーツでクリームを拭き取った。
「ねえ、まだ時間あるけどやってから出るう」ナオが誘惑するような目で児玉の股間を見た。
「俺、行くとこあんだ」児玉はナオを無視して身支度を始めた。
「なによ、女に恥ばっかかかせてさ」
「別にやらせてくれって頼んでねえぜ」
「勝手にしろ。あたしはまだ寝っからね。ぜんぜん寝てねえから」
「朝飯食わねえのか」
「そっか、そうだよね。だけどあたし、お化粧時間かかんよ」
「どれくれえだ」
「急いで1時間かな」
「待っててやるよ」児玉は着かけたシャツを放り出してベッドに身を投げ出した。
「意外とやさしいじゃん。じゃ、速効でやっからね」恥じらいもなく、ナオは全裸で起き上がるとバスルームに走った。
ナオのふくよかな臀部を見送りながら不思議だなあと児玉は思った。ナオの体が嫌いなわけじゃない。むしろめったにないいい体だと思うのに勃起しない。こんなこと今まで1度だってなかった。考えてみれば留置場を出てから1度も勃起していない。いや、そうじゃない。城山香夜子を背負って空港まで運ぶ時に不覚にも勃起した。その夜、空き家で夜明かしする時、香夜子の肌の感触を思い出しながら自慰したことも思い出した。勃起しなくなったのはその後だ。だが別に香夜子じゃなければだめなほど惚れたわけじゃない。あんまり死体ばかり見たんで霊が憑いてインポになったかなと思ったが、気にしないことにした。




