24 ドンペリ
郡山の処分場にガレキを戻してから、仙台に着いたのは夜の9時だった。湊に連絡を取ろうとした瞬間、着信があった。ナオからだった。「ねえ、どこに居んの」
「仙台」
「え、ほんと。あたしも仙台よ」
「なんで」
「仙台でリカがお店やるって言ったじゃん。今日が開店なのよ。それでヘルプで入ってんの。ねえ、仙台に居るなら来てよ」
「ちょっとリカに代わってくんねえかな」
「え、なんで」
「お祝い言いてえから」
「そっか、ちょっと待って」
5分ほど店の喧騒を聞かされてからリカが電話に出た。「久しぶり。仙台に居るなら来てね」
「1つ相談していいか」
「なによ」
「ダンプ売れねえかな」
「え、なに? うるさくて聞こえないよ」
「ダンプ売りてえんだけど、買い手いねえかな」児玉は大声で怒鳴った。
「ああ、ダンプかあ。今ならけっこう高く売れんじゃないのかな。とにかくお店来てよ。お店で相談しよう」
「ああ、わかった」児玉は店の場所を聞くと脇田にもらった携帯の電源を再び切った。堂本のダンプをリカに売ると決めた以上、脇田にも湊にももう連絡できなくなった。
リカが開店したキャバクラ「美神連合」は仙台随一の繁華街、国分町のど真ん中にあった。
想像していたよりずっと大きな店で、国分町でもトップレベルの高級キャバだった。
「ひさしぶり~」ピンクのドレス姿のナオが児玉を目ざとく見つけてすぐにフロアの端から走りよってきた。15センチヒールのプラダの赤いサンダルを履いて、エックス脚をばたつかせながら、大きめの尻を振って走るしぐさがかわいいと思った。大きく開いたドレスの胸元からは自慢のバストが毀れ落ちそうで、初心な客だったら目のやり場に困るほどだった。
児玉はナオに手を引かれて贅沢なバッファローレザーのボックスに着いた。
「すんげえ店だな」児玉は周囲を見回しながら言った。高級店なので、若い客は児玉1人だった、
「でしょう。リカすごいよね」
「朱雀隊は解散か」
「リカは卒業ね。だけどあたしらはまだやるよ」
「地震の後、ゴミの仕事増えてんだろう」
「川崎はそうでもないよ」
「いらっしゃいませ」リカが挨拶にやって来た。児玉には値段はわからなかったが、いかにも高級そうな和装だった。和服のママの居る店なんて来たことがなかったので、ドキドキした。しかもリカはつなぎ姿のダンプドライバーだったとは見違えるほどの美人になっていた。
「お願い」リカに目配せされ、ナオはセットを取りに席を外した。
「こちらにはお仕事ですか」リカは歯痒くなるような敬語で言った。
「ガレキを運んでたけど、事情があってダンプを売ることになった。そんで相談してえと思って」
「だったら印鑑証明と住民票、それに免許証が必要だけどだいじょうぶかしら」リカはいきなり事務的に言った。
「あ、そんなもの必要なのか」
「名義変更できないとだめよ」
「そっか。そうだよな。なんとかなんだろう」堂本の免許証がジーンズのポケットで疼いた。
「書類が揃ったら車を査定してもらうわ」
「ダンプの持ち主の書類ってことだよな」
「そりゃそうよ」
「わかったよ」児玉は心の中で堂本に成りすますしかないと思った。
「話が済んだなら飲みましょう。ごちそうするわよ」リカは届いたばかりのグラスにシャンペンを注いだ。若いのに来店早々ママの相伴でドンペリを開けた新来の客に、周囲の客が羨ましそうな眼を向けた。
「乾杯してもよろしいかしら」リカが最高の笑みで児玉を見た。
「うめえなこれ」児玉はもうドンぺリを飲んでいた。




