23 てんぷら
那酉川漁港へのsガレキの運搬を始めて3日目、仮置場に向かう道がいつにも増して大渋滞していた。漁港の方向に巨大な黒煙が上がるのが見え、消防車のサイレンが鳴り響いていた。上空には大型の消防ヘリや小型の報道ヘリが飛び交っていた。ガレキを積んだままダンプがあきらめて次々とUターンしていった。
渋滞に嵌って動けない児玉のダンプのそばに警察官が来た。「こっちはだめだ。農高の仮置場さ行け」
「火事なんすか」
「ボヤだ。明日にはなんとかなんべ」
「ボヤじゃねえでしょう。あの煙、半端じゃないすよ。火山が噴火したみてえだ」
「ゴミの中のタイヤとかが燃えてっから煙がひでえんだ。仙台からも見えっとよ。今日はだめだから、さっさとよそさ行けや」
「そうすか」児玉はそれ以上聞かずにダンプをUターンさせた。
農高がどこにあるかわからなかったが、前を行くダンプに適当についていった。町並が途切れ、田んぼの中の細道が続いた。どの田んぼも津波に運ばれたヘドロでドロドロだった。家の残骸やつぶれた車がまだたくさん田んぼに残っていた。遺体を捜索している自衛隊の車両もあった。いぐね(屋敷林)のおかげで津波に流されなかった旧家もあった。昔の人の知恵は大したものだ。農高の跡地かどうかわからなかったが、田んぼの中の仮置場に着いた。一方通行の進入路に入ろうとした時、脇田から預かった携帯が鳴った。
「すぐ戻って来い」脇田の声はいらついていた。
「今捨て場の前なんすけど」
「捨てねえで帰って来い」
「なんで」
「つべこべ言うでねえ」
「わかりやした」児玉は仮置場には入らないで会津若松に向かった。
国道まで戻った時、また携帯が鳴った。「俺だ、わかっか」
「いえ」
「俺は湊ってんだ。顔見ればわかっと思うけど、まあどうでもいいわ。オメエは新顔だろう。今どこさ居る」
「社長が帰って来いってから会津に向かってます」
「バカヤロウ、帰んじゃねえよ」
「なんですか」
「梁瀬ってトッポイ野郎がいたろう。いつもアロハみてえの着てたよ」
「ああ、なんとなく」
「あの野郎、車証を売りやがったんだ。そしたらすぐにテンプラだってばれてよ、ダンプ取られちまった上に半殺しだとよ。俺らのことも歌ったんならてえへんだぞ。脇実もこれでおしめえだな」
「それで捨て場に入らねえで帰って来いって言ったんだ」
「そうだよ。だからよ、会津にけえれば、オメエ、社長にダンプ取られちまうぞ」
「だってもともと社長んすから」
「それは堂本んだろうよ。社長にけえす必要なんかねえよ。なあ、そのダンプ俺が売ってやろうか。バクバクだけどよ、今は車が足んねえから300万にはなんぞ。山分けでどうだ」
「いい話っすね」
「だろう」
「じゃよ、仙台さこいや」
「仙台すか」
「こっちの方が仕事あんぞ。もう那酉川はだめだわ。北へ行くほどひどいかんな。俺はいっそ東松島か石巻さ行くべとかんげえてる」
「いいすよ、じゃ仙台で落ち合いますか」
「着いたら電話しろや。買い手は捜しとくかんよ」
「すんません」児玉は電話を切った。
仙台に向かおうとして、ガレキを積んだままなのに気づいた。昼間から不法投棄するわけにもいかない。どうせ捨てたところで、脇田からもう手間はもらえない。これ以上危ない橋を渡るより、郡山にいったん戻ることにした。
携帯がまた鳴った。液晶を見ると脇田だった。「今どこだ」
「そうすね、会津まであと2時間くれえすね」
「あんでそんなにかかる」
「下道っすから」
「高速使えや、アホタレ」
「だって社長が使うなって」
「今日は特別だわ」
「そうすか。あ、電波弱いすから切れっかも」児玉は見え透いたウソをついて携帯の電源を切った。




