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ブルームーン ~震災悲話~  作者: 石渡正佳
第2章 不法投棄
22/91

22 ノーズロ

 脇実組の運転手たちは、翌朝から会津若松の置場で積み込んだガレキを、那酉川漁港の公共仮置場へ搬送し始めた。高速道路は復旧していたがICには監視カメラがあるので、下道を使えと脇田は指示していた。下道にもNシステムのカメラがあるのだが、そこまでは気にしなかった。児玉だけは郡山と福島の市境の最終処分場から放射能に汚染されたガレキの残りを積み込んで那酉川に向かった。

 津波で壊滅した那酉川漁港周辺は、4月に来た時はまだ遺体の捜索以外は手付かずだったが、5月になってガレキの撤去が急ピッチで進んでいた。しかし殺伐とした風景にはあまり変わりがなかった。漁港に散乱していた建物はきれいに片付けられ、跡地にガレキの仮置場がいくつもできていたが、どこもすでに満杯だった。新堤防内に造成中だった新漁港には最大の仮置場があった。ここはまだ余裕があり、新漁港に渡れる唯一の橋の手前には、ガレキを運ぶダンプの行列ができていた。児玉のダンプもその末尾に並んだ。欄干が津波でさらわれた橋の向こうに目指す仮置場が見えた。壊れかけた橋は交互通行になっており、それがダンプの渋滞の原因だった。誘導員の指示で橋をノロノロと渡ると、バベルの塔のように天に向かって聳える廃棄物の大山が間近にせまった。50メートルもありそうな斜面に、1列に並んで順繰りに廃棄物を掻き上げている10台余りのユンボが、ミニカーのように小さく見えた。

 児玉のダンプは荷降場に着くまで1度も検問を受けなかった。フロントグラスに掲げた車証のチェックもおざなりだった。ガレキ類をダンプアウトする時が一番緊張したが、誰も放射能を警戒する者はなかった。こんなに簡単でいいのかと拍子抜けがした。こんなことでは、ここに運び込まれてくるガレキの何割が便乗投棄なのか知れやしないと思った。しかし児玉のように放射性廃棄物を便乗投棄する者は少ないだろう。脇実組の仲間たちは1日に3回運ぶと言っていたが、児玉はこんな気疲れする仕事は1回でたくさんだと思った。

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