21 バベルの塔
一週間後の夕方、脇田が脇実組の運転手たち7人を招集した。児玉も末席に立って、ポケットの中の指輪を触りながら脇田の話を聞いていた。
「オメエら、よおく聞けや。不法投棄はもうおしめえだ。いつまでも続けられるもんじゃねえ。こんあたりが潮時だわ。ええか、もう2度とやんなよ」
「そんじゃあ、俺ら仕事はどうすんすか」運転手の1人が言った。
「しんぺえすんな。実はよ、那酉川漁港の仮置場の権利を買ったんだわ。だからよ、これからは昼間堂々と運べんぞ。ほれ、これが業務車両証だわ」脇田はプラスチックフィルムが被ったB5版の車両証を全員に配った。運転手たちは本物かどうか疑ぐるように入場車両証をためつすがめつした。
「偽物じゃねえぞ。1枚百万だかんな。盗まれねえようにしろよ」
「番号合わせしてもいいすか」古顔の運転手の1人が言った。脇田を信用していない様子だった。
「あんで」脇田が不愉快そうに顔色を変えた。
「コピーなら番号かぶるでしょう」
「勝手にしろ」
男たちが集まって番号合わせをした。児玉もなんとなく参加した。
「連番じゃねえけど、いちおう全部違う番号だわ。とりあえず安心したわ」男の1人が言った。
「だけんど寄せ集めって感じっすね」別の男が言った。
「テンプラに百万払うほど社長もバカじゃねえべ。信用すんべよ」もう1人の男が言った。テンプラとは衣を被せて形よく揚げた見てくれだけの偽物という意味だった。テンプラ学生、テンプラナンバーといった使い方をする。
「俺はコピーだってかまわねえよ。仮置場に行ってるダチに聞いたらよ、毎日何千台も来んだってよ。どうせ誰もよく見やしねえよ」
「これって期限はないんすか」また別の男が言った。
「あるよ」
「いつまでっすか」
「ここに書いてあんべ。6月いっぺえだ」
「じゃ、あと1月とちょっとじゃないすか」
「そんだけあれば十分だっぺ。1日2回運べば20万だ。10日で200万、悪くねえだろう。つうわけで、てめえらの手間から車証代は引くかんな」
「ちぇ、ただくれんじゃねえのけ」
「ばかたれが、どんだけ苦労して集めたと思ってる」
「じゃ、今夜からやりましょうよ」
「昼間しか運べねえよ。納得いったら今夜は祝杯やっか。久々に酒も女も無礼講にすんぞ」脇田が上機嫌で言った。
「俺はいいすよ」児玉があっさり最初に抜けた。
「なんだてめえ、レコでもできたか」
「俺もいいや。夜のうちに積んでおいて朝一に入れば3回運べるっしょ。こいつだけに抜け駆けはさせねえっすよ」古顔の運転手が言った。
歯が抜けるように次々と男たちは自分の車に戻りだした。児玉は単に人付き合いが面倒くさかっただけだが、他の連中は稼げるうちに稼ぐつもりだった。それに脇田がけちなのはわかっていた。女といったって地元のババアしかいない安スナックで遊んでも面白いわけがなかった。
「好きにしやがれ。俺1人でオメエらの分まで遊ぶわ」脇田は捨てせりふを吐いたが、むしろ出費を免れてほっとしたような顔をしていた。




