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邪神さんと冒険者さん 73

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一行が村に到着する頃には

空はすっかりオレンジ色を失い、

段々と夜の藍色へと移ろうとしていた。

初夏の空はまだまだ明るかったが

ただでさえ木々に囲まれて日差しが遮られる山道は

あと少し日が沈んでしまうだけで

すぐに辺り一面真っ暗になることだろう。

それだけに、鬱蒼とした山道を抜け、

木々の合間から民家の夕餉の支度であろう煙が見えた時には

闇の中を進む羽目になる前に到着できた事に

一同はほっと胸をなでおろした。

 

「ふ~、どうにか暗くなる前に着けた~っ! いやぁ良かったですね~」

「ほんとね。松明や魔法の灯りがあるとはいえ、夜の山道は危ないもんね」

ホッとした様子のサリアの言葉に、フィルと共に先頭を歩くリラが

自分の盾に灯る魔法の灯りで前を照らしながらうんうんと頷く。


先の戦闘で唱えたライトの呪文は

フィルの以外は全て効果時間切れで消えており

今は代わりに皆で持ってきた松明の灯りが一行を照らしていた。

炎の灯りは安定した魔法の灯りと比べれば若干不安定ではあるものの

それでも山の麓に到着して周囲の木々が無くなったおかげか

それとも山の暗さに目が慣れてきたのか

先程より若干明るく感じられるようになった道を進んで

一行は何事も無く山道を抜けて村と外の村を繋ぐ街道に出る事が出来た。


「ここまで来れば、朝の集合で利用した広場はすぐそこよ」

「……あっ! あそこ! みんな待っててくれたみたいですよ?」

リラの案内を聞いていたサリアが

村の入り口に人が集まっているのに気が付き、フィル達へ声をかけた。

サリアの言葉通り、村と外界との境界ぐらいの場所で

ランタンや松明を持った数人の村人が立っているのが見える。


おそらく広場から村の通りに出てすぐの所でフィル達を待っていたのだろう。

日が落ちきって暗くなった景色の中でもそこだけ明るく、

人が存在していることを力強く主張していた。

「あ、フィルさんフィルさん。ほらほら! フラウちゃんも居ますよ!」

村人達の中にフラウの姿を見つけたサリアが嬉しそうにフィルを呼ぶ。

「ああ、そうだね。あんなところで待ってないで、広場で待っていればいいのに」

「むぅ~。もうっ、そこはちゃんと喜んであげないと! ダメですよっ?」

フィルの言葉に、まったくこれだから、男の人というのは……と頬を膨らませるサリア。

フィルとしては、わざわざあんな所で立っているのは大変だろうにと

親切心のつもりだったのだがと、少女の理不尽さにため息を吐く。

「ありゃうちのカミさんだ」

「ああ、うちのもいるなぁ」

灯りで照らされたその顔は殆どが見知らぬ顔だったのだが、

フィル達の後ろ歩く村人達からそんな声が聞こえてくるところを見るに

どうやら、今回参加した者達の身内が出迎えに待っていてくれたのだろう。

向こうもフィル達に気づいたようで、

遠くで松明を振ったり手を振ったりしているのが見えた。


「あ、ほら、みんなこっちに気付いたみたい。手を振ってますよ? おーい!」

そう言って自分も嬉しそうに手を振り返すリラ。

後ろを見ればサリアやダリウ達も、皆、手を振り返している。

そんな皆の嬉しそうな様子に、フィルだけが一人戸惑っていた。


フィルが以前いたパーティでは、

厳つい男ばかりの一団だった所為もあってか

一般の人々からは必要以上に怖がられる事が多かったような気がする。

依頼で討伐をして戻って来たとしても出迎えがあった事なんて殆ど無いし

依頼解決後は、余計な不安を与える前に、

ひっそり速やかに立ち去るというパターンが常だった。


普段慣れない事にタイミングを逃したフィルがどうしたものかと迷っていると

それを見つけたサリアが意地悪な笑みを浮かべて近づいてきた。

「ほらほら、フィルさん! あそこで、あんなに頑張ってるフラウちゃんに、応えてあげるべきじゃないですか?」

年甲斐もなく恥ずかしそうにしているフィルに

楽しそうにフィルの手を取って無理やり振らせるサリア。

サリアの身長からは手を伸ばしてもフィルの頭の少し上ぐらいにしか行かないのだが

それが余計、恥ずかし気に手を振る仕草のようにも見えて

フィルは思わず苦笑いを浮かべる。

とはいえ、確かにその手に指し示される先では

最前列で一生懸命手を伸ばして振っているフラウの姿が見える。

サリアのお節介も、フィルには少しだけ嬉しいものではあった。


「フィルさーん、フィルさーん!」

手だけでなく、フラウの声も届くようになって、ほらぁと得意げな笑顔を浮かべるサリア。

「ほらほら、ちゃんと応えたほうがいいですよ?」

「……やっぱり応えたほうが良いのかな?」

「やっぱり応えたほうがいいですって!」

自信満々に答えるサリア。そのやり取りにくすくすと笑う少女達。

最後の抵抗を試みてみるものの、それも笑顔で却下され、

とうとう観念してフィルは自分で手を振って応える。



「ただいま。帰ったよ」

「えへへ、お帰りなさいです!」

待ちきれずに、こちらに駆け寄ってきたフラウはそのままフィルへと飛びつく。

汚れた革鎧にもかかわらず飛びついてきた少女に

フィルは頭を撫でたい誘惑にかられるが

さすがにこの汚れた手ではと、どうにか思い留まる。


「フィルさん達が返ってくるの、ご飯を作って待っていたんですよ! 皆さんも食べて行って……皆さん大丈夫なんです!?」

ようやくフィルから顔を離し、見上げてにっこり笑う少女。

だが、ようやくフィルから目を移して

リラやダリウ達の方へと顔を向けた時に、その惨状に目を丸くした。


時間が経ったおかげで大分固まってはいたが

いや、固まった所為でより一層

彼らの革鎧やサーコートには浴びまくった返り血が

赤黒い染みとなってべっとりと付いていた。

そんな恰好で血の匂いをまき散らしながら歩いているのだから

慣れない者が見て驚くのも無理のない事だろう。


「みなさん、怪我とか大丈夫なのです!?」

「ええ、誰も怪我はしてないわよ。……返り血をかなり浴びたけど」

リラ達のあまりもあまりな姿に、

不安げに尋ねるフラウに、にっこり笑って得意げに応えるリラ。

「うんうん、私たちは最前線で戦いましたからね。おかげで返り血浴びまくりですよ」

「少しばかり怪我をした者も居たが、すぐに魔法で治したし。今回は完勝だったな」

サリアとダリウの言葉にようやくホッと安堵の息をつく。

その頃にはフラウと一緒に待っていた村人達も合流し、

家族との再会やらで、一行の周囲はかなりの賑わいとなっていた。

そんな中、先ほどまでフラウと共に待っていた一団にいた

村のご婦人の一人がフィル達の方へやってきた。


「皆さんの為に夕食を用意していたんです。あちらでぜひ食べていってください。お酒も少しですがありますよ。あなた達も、たくさん食べてらっしゃい」

笑顔でフィルとリラ達にそう言う婦人。

フィルとしてもこれから家に帰った後で更に自炊しなくて済むのは願っても無い事だったが、

喜ぶフィルとは反対に、リラを含め少女達は困ったようにお互いの顔を見合わせた。


「ええっと、それなんですけど……ごめんなさい! 私たちもご一緒したいのだけど、先に体を洗いたいんです!」

そう言ってリラは自身のサーコートを軽く摘まんで見せる。

返り血は体だけでなく、腕まで真っ黒に染め上げていた。

顔や髪には一応現地で拭いてはみたものの、

残った血が赤黒い塊となってくっついている。

「さすがにこの格好でご飯を食べるのは……それに今日はちょっと色々あり過ぎて、皆でもう休もうかって話をしてたんです」

ねっと同意を求めるリラ。

周りを見れば、後衛だったアニタはともかくとして

全員が同じような血まみれの有様だった。

「確かにそうねぇ……分かったわ。軽く食べる分を詰めておいてあげるから、ちょっと待ってなさいな。その恰好じゃ皆の中に行くのも嫌でしょ? 皆には私から言っておいてあげるわ」


ご婦人は同情を浮かべてそう言うと、

料理を取りに行くために広場の方へと向かってくれた。

リラはそんなご婦人を見送った後、今度はフラウの前にしゃがみこむ。

「そういうわけで、ごめんね。今日はもう家に帰ろうと思うんだ。それでなんだけど……」

そういうとリラはフラウの耳元に何やら話しかける。

それを聞くフラウはふむふむなるほどと頷き、ぱぁっと明るい表情になる。

それからフィルの方へと向き直ると、

「フィルさん。私もお姉さんと一緒にお家に戻ろうと思うんです。いいです?」

そう言ってフィルに尋ねると、期待に満ちた瞳で首をかしげて見せる。

この娘達の家に行って一緒にお泊りでもするのかとも思ったが、

フィルの家で風呂を使いたいのだと思い当たった。

それからふと少女達の方を見てみると、期待に満ちた視線が四つ。

フィルとフラウのやり取りに注がれているのが分かる。

(まぁ、その位はいいか……)

さすがにこれだけ頑張った娘たちに

これから川で洗って来いというのも酷い話だ。

そのくらい貸すのも問題ないだろう。


「ああ、大丈夫だよ。みんなと一緒に行ってあげるといいよ」

そう言ってフィルが頷くと、なぜかフラウの後ろで歓声が上がるのが聞こえる。

これじゃあ、全然隠している意味はないなと呆れるフィルだったが

「はいですっ!」

フラウが満面の笑顔で頷くのを見て

フィルは、まぁ、仕方ないかと、苦笑いを浮かべて諦める。

それから、少女達はご婦人から幾つかの料理の入った籠を受け取ると、

ダリウやラスティ、それから一緒に行った村人達に簡単に挨拶を済ませ、

彼女達の家へと戻っていった。



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