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邪神さんと冒険者さん 67

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「これは……すげえな……なんか地面が切り取られたみたいだ……」

フィルと共に大広間の入り口に立ったダリウは

完全な暗闇の中、そこから松明の灯りが照らす僅かな地面と

その先に広がる壁のような闇を見て唸った。


今も暗視が利いているフィルから見れば、

ゴブリン達は全て片付き、すでに危険と呼べる危険も無い、

残るはゴブリン達の残した生活の跡や

粗雑な罠が無造作に転がるだけの、ただ広いだけの空間だ。

だが、夜目の利かない者がこの場所に立って辺りを見渡したのならそうはいかない。

フィル達の立っている場所の周囲こそ、

辛うじて松明が地面を照らしているものの、

灯りから少しでも離れてしまえば、

光の一切届かないそこはもう、地面以外は全て黒の世界。

それはまるで上も下も無い虚空の中、

地面だけが切り取られたかのように

浮かんでいるように見える事だろう。


さすがにそんな場所に立って、

それからさらに奥に踏み込むには

結構な勇気が必要なのだろう。

「おいっ、ここに入るのか!?」

「むっむりだ、こんな場所、危なすぎる!」

「お、奥に何か居たりしないのかっ!?」

大広間を前に、ざわつく村人達一行。


「山の中にこんな場所があったなんて……ゴルムさんはこの洞窟の事って知ってたの?」

「いや、この辺りに洞窟があるとは聞いていたが、どんなものかは俺も初めて知った。……モード爺さんは知っていたか?」

先ほどとダリウと同様、

一面の闇に圧倒されながらのリラの問いを

ゴルムはそのままモード老に投げる。

そんなゴルム達の質問に、モード老は首を横に振って答える。

「洞窟の前に来たことは何度かあったが、さすがに中はワシも知らなんだよ。洞窟の中はなにかと危険だからのう。余程の事が無い限り、中に入ったりはせんよ」

そう言いながら、お前たちも肝試しとか言って無暗に入ったりするんじゃないぞと

笑いながら若者達に釘を刺すモード老。

こんな場所でも笑える辺り、

普段から夜の山にも踏み入ったりする経験の差なのだろう。

流石に老狩人は他の村人達とは違い、

これだけの暗闇を前にしても動じてはいないようだった。


確かに老狩人の言う通り、

洞窟の中というのは何かと危険が潜んでいる事が多い。

腹を空かせた巨大蜘蛛や、寝床として住み着いたトロル。

果ては地下世界~アンダーダーク~への入り口まで、

それなりに熟練の冒険者であっても

洞窟というのは自然に出来たものであっても

人の手によって造られたものであっても

いづれにしても気軽に中を覗くには危険すぎる場所だった。

何か特別な、無理に行く理由が無いのなら、

まず中に入ることは無いだろう。


「それはそうと……フィルさん。もうこの中って生きたゴブリンは居ないんですよね?」

背中越しに聞こえてくるリラ達の会話を聞きながら、

フィルの横に立って尋ねるサリア。

目の前の暗闇に少し腰が引けているようではあったが

それでもレイピアを手に油断なく前方に注意を払う様は、

新米とはいえ一人前の冒険者といったところか。

そんなサリアからの質問に、

こちらも武器を手に暗視で闇の向こうを確認しながら答えるフィル。


「ああ、討ち漏らした覚えはないし、ここから見る限りも姿も見えないね。とはいえ、あの向こうには幾つか岩があるから、その物陰に隠れている可能性はあるかな」

今の状況と可能性を伝えただけの何気ない受け答え。

だが、敵が居るかもという言葉に村人達は敏感に反応し、ざわめきが大きくなる。

「もうっ。フィルさんったら。そんなこと言って不安にさせてどうするんですか」

こちらも敏感に村人達の様子の変化を感じ取ったサリアがフィルの脇腹を肘で小突く。

彼らは不安や恐怖に対して耐性がある訳でもなく

ましてや、冒険者や傭兵のように死ぬ覚悟がある訳ではない。

そんな村人達を不用意に不安にさせたり、怯えさせたりすればどうなるか。

脇腹を突きながら窘めるサリアにフィルは素直に謝る。


「ああ、ごめんごめん。でも可能性は伝えておいた方が良いと思ってね」

「それでもですよ。もうちょっと言い方に優しさを乗せてあげてください」

ジト目でフィルを睨むサリアに謝りながら、

フィルは村人達を動かすにはどうしたものかと思案する。


暗視を持たない生き物は本能的に闇を忌避する。

ゴブリンはもう居ないからと理性で恐怖を抑えていた所を

いきなりゴブリンが居るかも言われれば、

不安になるのはたしかに当たり前の事だろう。

とは言え、ここでやるべき事はゴブリン達の全滅だ。

その為にはどちらにせよ、この場所を探索して、

危険が無くなったことを確認する必要がある。

今が怖いからと問題となりそうな点に見て見ないふりをして、

結果、最悪の事態に陥るなんてことは何としても避けたい。


「ふむ、それじゃあ、こうしましょう」

フィルは後ろ振り返ると、村人達を見回して言った。

「まずは暗視が効く僕が、この先の様子を見てきます。皆さんは数人ごとに班を組んで、ここから近い所から、ゴブリンの死体の回収をお願いします」

フィルの提案を聞いて、ほっと胸をなでおろす村人達。

それぞれの班が近くにいれば、お互い松明の灯りが届き、

より広い範囲を見ることが出来るようになる。

それに何かあったら、すぐに助けに行けるというのは心強い。

さっそく村人達とリラ達はそれぞれに二、三人に分かれる。

村の男衆は三人一組で二つの集団を作り、

リラとトリスとアニタも三人の班を作り上げる。

「初めはそれぞれの班で離れ過ぎないようにしてください。それからある程度離れたら松明を設置して光源を増やしていけば、この場所の様子も分かるようになるはずです」

フィルの説明にほっとした顔で頷く村人達。


実際の所、先ほどは注意を促す意味でもああは言ったが、

この大広間はそれほど地形が複雑な訳でも危険な訳でもない。

ここに到着してからこれまでの間、

フィルの鋭敏になった感覚にゴブリンの気配が全く入ってこない事からも

未だにこの場所にゴブリンが潜んでいる可能性なんて殆ど無いだろうし、

村人達を恐れさせているこの闇だって

今は全ての灯りがこの出入り口付近に村人達と共に集まっている為に

大広間内の中をまったく見ることが出来ないが

三組に分かれて探索して、広間の幾つかの場所に光源が出来れば

ここの雰囲気も大分変わるはずだ。


恐る恐るだったが、皆で分担して探索を始める村人達を眺めながら

フィルは満足気に頷き、それから隣で同じように満足気に立つ少女を眺める。

「……それじゃあサリア、僕たちも出発するよ?」

「はいっ」

やれやれといった風のフィルの呼びかけに

こちらは嬉しそうに元気よく返事するサリア。



班分けの際、

一人残ったサリアはフィルと行動を共にすると言い出した。

「フィルさんはきっと暗視があるからって灯りを持たずに暗闇の中に入ってしまうはずです。ですから、私は皆さんがフィルさんがどこに居るか分かるよう、灯りを持ってフィルさんに同行しようと思います」

とても大事な役目なのですよとばかりに、

自信たっぷりに村人達に説明するサリア。

確かに闇の中でも遠くに光があれば、

あそこまでは大丈夫だと安心できるだろう。

それは灯台のようなもので、フィルが灯りを持って奥へと行けば

それだけ、この広間が続いているという事が分かる。

この空間がどこまで続いているのか分からず

不安に思っている村人達にとっては有益な情報なのだろう。

そんな事を考えながら、とはいえ先程も言ったように

また危険は無くなった訳じゃないのだけどと

サリアを見やるフィルだったが、

やる気に満ちたサリアの顔を見て溜息を一つ吐くと、

フィルは観念した表情で同行を認めることにした。



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