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邪神さんと冒険者さん 65

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通路を戻り再び大広間に出たフィルは、

すぐさまもう一つの通路、ダリウ達が戦っている通路へと急ぎ向かった。

岩の通路の先からは、村人とゴブリンの武器や盾がぶつかり合う音と

悲鳴や怒声といった叫び声が、今もなお洞窟の通路内に鳴り響き渡る。

声の様子からは双方共に予断の許さない雰囲気だったが

それでもリラ達が加勢したことで形勢が村人側に有利になったのか

先ほどまではゴブリン達の声は罵声や怒声ばかりだったのが

次第に悲鳴や混乱の金切り声の叫びが混ざるようになっていた。


『ヒィ! コッチキタ!』

『ハヤクシロ! ナニシテンダ!』

『ヒノバケモノ マタヤラレタ! コッチハダメダ!』

『マエハダメダ! コッチシカナイ!』

どうやら呼び出したファイアーエレメンタルは良い仕事をしているようで

蜷局を巻いて通路を塞ぎ、

じわりじわりと後ろから迫り追い詰める炎の大蛇に

恐慌をきたしたゴブリン達の悲鳴が上げる。

その燃え盛る炎の体は威圧には十分な効果があり、

ゴブリン達を追い詰めるという役目を立派に果たしていたが、

それでもフィルには不安に思う所があった。


フィルが召喚した精霊は決して上位の精霊ではない。

見た目こそ相手を威圧するのに十分な姿格好だが、

その熱量は並の炎と同程度しかなく、

大きさも人間の大人と同程度といったところ。

より上位なら持っているダメージ減少能力も持っていない。

いくら相手が最弱と言われるゴブリンとはいえ、

集団で襲い掛かられれば流石に厳しい。

今の所は洞窟の先から聞こえてくるのはゴブリンの悲鳴ばかりで、

フィルの懸念は杞憂に終わりそうな気配ではあったが、

ゴブリン達が少しでも冷静になって相手を観察したりすれば

その状況はすぐにも覆ることだろう。

ゴブリン達がそこまで出来る可能性は低いかもしれないが

それでも、万が一の可能性があれば、

それが行われ、そして成功してしまう事もまた、稀に良くある事だった。

フィルは念の為と、ゴブリン達が精霊を倒して

こちらへと向かってきても対応できるよう

剣を抜いたまま通路の先に注意しつつ慎重に前へと進んでいく。



そのゴブリンは最前線からは一歩下がった所で

仲間達が盾を構えた人間達に襲い掛かるのを忌々しく眺め、

それからすぐ後ろから迫る炎の大蛇を睨んだ。

人間達はそれほど強くはないのだが、とにかく堅かった。

大きな盾もそうだが、正面の男達はなぜか

革鎧のくせに、まるで金属鎧のように武器が弾かれた。

そして、後ろから来た炎の大蛇。

ゴブリン達の力では炎の精霊にはまるで敵わなかった。

襲い掛かっても瞬く間に噛みつかれ、

咥えられたまま、口から炎を吹き出して焼かれてしまうのだ。

試しに二匹同時に襲い掛かってみたのだが、

大したダメージも与えられないどころか

一匹目は近づいた瞬間に飛び掛かられて噛みつかれ、

振りほどく間もなく、そのまま口の中から溢れ出る炎に丸焼きにされ、

そして二匹目も大蛇に大した傷を負わせる間もなく、

すぐさま焼け焦げた死体を吐き捨てた大蛇に飛び掛かられると、

避けることが出来ずに噛まれ、そのまま成す術も無く焼き殺された。

大きな蜷局を巻き、ゴブリン達を逃がさないように詰め寄るファイアーエレメンタル。

正面からまともに戦いを挑んで勝てる相手ではない事を

先ほどから睨んでいたゴブリンは、この僅かな時間で十分に学んでいた。

だが、その一方でゴブリンは相手が一匹であるという点に勝機を見出していた。

少なくとも、あの蛇は一匹ずつにしか攻撃できない。

ならば仲間が一匹殺されている間なら安全に逃げられるだろう……。


かなり後ろ向きな勝機ではあったのだが、

ゴブリン達の種族の属性は中立にして悪。

それは純粋かつ単純な私欲による純粋な悪であり、自分の身の為ならば

たとえ目の前の、ファイアーエレメンタルに次に襲われるのが

自分が生まれてからずっと一緒だった親友であろうと躊躇は無かった。


そして、ゴブリンの予想通り、

意図せず囮となってしまった彼の親友が炎の大蛇に噛みつかれている間に

その炎に包まれた胴体の横を駆け抜け戦場から逃走していく。

ファイアーエレメンタルの体は焚火のような熱気を放つものの

近寄っただけでは燃やされたりしない。

それも先ほどのゴブリンの犠牲で分かっていた事だった。

それを見ていた他のゴブリンも本能的に今がチャンスと悟ったのか、

一匹、また一匹とファイアーエレメンタルの横を通り抜けようと試みる。

炎の精霊もゴブリンを逃すまいと、逃げる一匹に尾を伸ばすが、

それも尾の一本が限界で、二匹目のゴブリンに尾を当てて絡み取ったものの

そのせいでさらに動きずらくなってしまい、

三匹、四匹と駆け込んでくるゴブリン達を防ぐ術も無く逃走を許してしまう。

そうして、三匹のゴブリンがまんまとファイアーエレメンタルをかわし

戦場から逃げおおせることに成功した。



洞窟の通路を歩くフィルの耳に

通路の奥からゴブリンの足音が三匹分、

此方へとやってくるのが聞こえてきた。

大方、大広間へと戻り暗闇に身を潜め

村人達が居なくなるまで隠れてやり過ごす魂胆なのだろう。

程なく三体のゴブリンが通路の先から姿を見せ、

フィルの姿に驚きバランスを崩しながらも急停止する。



ほうほうの体で駆け込んできたゴブリン達は

フィルと、その手にあるロングソードをみて三匹顔を見合わせる。

『オイ! ヤツダ!』

『アイツハヤバイ モドルゾ!』

『ココはセマイ! サンニンデ ヤレバ コロセル!』

『ココナラ ヤレルゾ!』

先ほどフィルの一方的な殺戮の様を見ていたはずだが、

自分達の方が数が多いと安心したのか、

それとも、今回も仲間が殺されている間に、自分が逃げる腹積もりなのか、

ゴブリン達は軽い相談の後、嫌らしく笑いあうと

その小さな手に握ったショートソードを振りかざしてフィルへと飛び掛かってきた。


フィルはそんなゴブリン達の行動を妙な安心感をもって見下ろしていた。

こうやって敵意を剥き出しにして襲い掛かってくる手合いというのは本当にやり易い。

特にゴブリンの場合は放っておけば、どんどん数が増えてしまう。

それを防ぐためにも皆殺しせざるを得ない場合が多い。

今回の件でもそれは変わらないだろう。

そんな状況で下手に降伏されたり命乞いされたりすると、かなり気まずい事になる。

村人達の今後の為とはいえ、

必死に命乞いしたり、泣き叫ぶゴブリンに止めを刺すという作業は

何度も経験したフィルであっても、未だに慣れる事が出来ない事だった。

そういう意味で言えば今回のように喚きながら襲い掛かって来てもらえると、

余計な情が湧かず、心置きなく切り殺せる。

そういう意味でも、今回は初心者向けの仕事だったと言えるかもしれない。


そんな事を考えながら

フィルは一匹目が到着する寸前、自分から距離を一歩詰めると

瞬く間に一匹目、さらに近くに居たもう一匹を薙ぎ払う。

そして瞬間の出来事に呆気にとられ動けずにいるもう一匹に詰め寄ると、

これも一太刀で切り伏せる。

(まぁ、こんなところか)

瞬く間に三匹のゴブリンを切り殺し、刃に付いた血を振り払ったところで

フィルは息を吸い込み大声で通路の方へと呼びかける。

「ダリウ! こっちに逃げた三匹は倒しておいた! 僕もこっちに加勢する!」

「ああ! 頼む!」

フィルの声に少し間をおいて、通路の奥からダリウの返事と、

それに先ほどのリラ達の時と同様ゴブリン達の一層の喚き声が聞こえてきた。

(これでこっちの戦闘も村人達の優位は確定だろう)


今頃、フィルの襲来に怯えたゴブリン達は

焦ってなりふり構わずダリウ達に突っ込んでいる事だろう。

一度態勢が崩れると、立て直すのは容易な事ではない。

特殊個体の居ない、ただのゴブリンの集団なら尚更だろう。

そして、フィルの予想通り、

フィルがダリウ達の戦う通路の入り口に到着する頃には

既に戦場の流れは村人側になっていた。


フィルが到着した時もゴブリン達はしぶとく抵抗していたが

それでも地面にはかなりの数のゴブリンの死体が横たわっていた。

対して村人達はというと、何人か負傷者は出ているものの

盾役のダリウもラスティも未だに健在であり、

戦場の流れが完全に村人達の側へと向いているのが分かる。


フィルが到着したのはアニタがスリープを唱え終えたところだった。

呪文により強制的に眠らされていくゴブリン達。

もちろん呪文に耐え、仲間を起こそうとするゴブリンも居たが

そのゴブリンが仲間を起こそうと近づく前に

動きを止めたゴブリンの頭や胸に

リラのクロスボウやモード老達の矢が撃ち込まれていく。


後衛の活躍の一方で前衛の方はと言えば、

相変わらずの小康状態だったが

それでもサリアの鼓舞の効果で武器を当て易くなったからなのか

それとも何度かの戦闘に、ゴブリンの動きにも慣れてきたからなのか

少しずつだがダリウ達の剣はゴブリンに手傷を負わせることが出来るようになっていた。

決して通路の奥には踏み込まず、陣形を守り、

誘いに乗って前に出てきたゴブリン達に一斉に武器を振るう男達。

ゴブリン達も通路の入り口から、こちらに来ようとしない男達に

あの場所で戦う事の危険性には感づいていたのだが

それが分かったところで、後ろから迫るファイアーエレメンタルの所為でどうすることも出来ないでいた。

さらには先ほど洞窟の奥から聞こえてきたフィルの声。

おそらく逃げ出した臆病者はあの人間に切り殺されたのだろう。

前からも後ろからも追い詰められ、

恐怖で混乱したゴブリン達は、最後の望みをかけて

ダリウ達を突破して逃げようとなりふり構わず突撃を試みる。


ゴブリン達の必死の突撃。だが体格の良い村の男達に対して

小柄なゴブリンの突撃などそうそう通用するはずもなく、

必死の突撃は盾で防がれ、そのまま押し返される。

そして押し返されて攻撃の流れが崩されたところを、

こん棒の一撃や、矢が撃ち込まれ、ゴブリン達はその数をさらに減らしていく。


「これで、どうだっ!」

ダリウはそう叫びながら、

破れかぶれに突進してくるゴブリンの攻撃を盾ではじき、

弾かれた拍子にバランスを崩している隙をついて剣を突き出す。

だが、サリアの鼓舞を受けているとはいえ、

慣れない剣の動きは見切られ、

ゴブリンは体をずらしてこれを避けてしまう。

剣をかわし、ダリウへ向けて嫌らしい笑みを浮かべるゴブリン。

そんなゴブリンだが、避け終えて動きが止まった瞬間

その隙を逃さずクロスボウのボルトが撃ち込まれ、

その衝撃で後ろへと倒れ込んでいく。


残りのゴブリンは後四匹……。

既に、ゴブリン達は前からも後ろからも追い詰められ、逃げることも絶望的となっていた。

それから数十秒の後、最後のゴブリンにリラのクロスボウが撃ち込まれ

ここにきて、ようやく洞窟のゴブリン討伐が完了したのだった。



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