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邪神さんと冒険者さん 57

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細い小道を一列になって洞窟へと向かう一行。

ゴブリン達によって踏み固められたとはいえ、

元は動物がたまに通る程度の微かな獣道は

広げられた後でもようやく大人一人が歩けるぐらいの幅しかない。

その上、ほど良く足の躓きそうな高さにせり出した木の根や

青々と葉を伸ばす雑草の裏に上手く隠れた深めの窪みなど

野山らしい悪路が一行の行く手を邪魔した。


フィルにとっては先ほど注意しながら通った道であり、

危ない場所は大体分かるので別段問題はないのだが、

初めて通る歩く悪路で、それも集団が急いでの移動となると、

山歩きに慣れていない者の中からは

よろけたり躓いたりする者も出てくる。

その中でも盛大に自然に翻弄されている者が一人……。


「きゃぅっ、ふぎゅっ!」

「あ~その辺りは地面が滑るところもあるから気を付けるんだよ?」

後から聞こえてくるサリアの悲鳴と何かが倒れる音に、

フィルは注意を促しながら少女達の方を振り返える。

見ればサリアが頭から地面に倒れ込んでいる。、

地面に手をつき、顔を上げたサリアの顔はまっ赤で

少しばかり涙目になっていた。


「そう言う事は、先に教えてくださいよ~!」

自分に文句を言うのは流石に八つ当たりだと思うのだが、

耳まで赤くなって口をとがらせているサリアを見るに、

こういう事はあまり蒸し返さない方が良いとフィルの直感が告げる。

「あ、ああ、ごめんごめん。慣れないうちは十分に気を付けて歩くんだよ?」

曖昧な笑顔を浮かべ適当なアドバイスを伝えると

自分のするべき事はやることはやったと

そそくさと前の方へと再び向きを直るフィル。

「分かっていますって! きゃう!」

そんなフィルの言葉に言い返したとたん、

今度は木の根に足を乗せて滑らせたのか

短い悲鳴と共に何かが落ちる鈍い音が後ろから響いてくる。


「うう……やっぱり装備がダメなんでしょうか?」

「まぁ……そうだね……確かにサリアのは山歩きに適した装備とは言えないけど……」

尻もちをついているサリアに、フィルはやれやれと再び振り返り

立ち上がるのを待ちながら改めてサリアの装備を眺めてみる。


クロークを羽織り、その中には、

革鎧の上に、下は少し短めのスカート、

膝上まである靴下とブーツと言う姿は

まさに旅のバードと言った格好なのだが、

たしかに山の中を分け入るには少し頼りないかもしれない。


(けどまぁ、それよりも本人の慣れの問題だよなぁ……)

たとえ山歩き専用ではないとはいえ、

ブーツは荒れ地を歩くに十分実用的な物だったし、

服装にしても動き易さを損なわない、

冒険者としてはごくごく一般的な物だ。

普通の冒険者でこれぐらいの装備なら

そう山歩きで苦戦することはないとは思うのだが……。

「でも、それを言うなら皆の装備だって似たようなものだし、やっぱ慣れなんじゃないかな?」

「むぅ……そうかもしれませんけど……」

フィルの説明に、まだ納得がいかないといった感じで拗ねたように口をとがらせるサリアに

これだけ元気なら大丈夫だろうと苦笑いをしながら前へと向き直る。


「ふふふっ、大丈夫ですか?」

トリスに手を貸してもらい、ようやく体を引き起こすサリア。

言葉こそ相手を気遣うものだが

楽しそうなその笑顔はあまりサリアを心配しているようには見えず、

むしろ少女の微笑ましい様子を楽しんでいる風にも見える。

「あ、ありがとうございます……」

あはは……と照れ笑いを向けながらどうにか立ち上がると

立ち上がり手や膝についた土を払い、

ため息とも気合を入れるともつかない息を一息ついて再び歩き出す。

「もしかして山歩きは初めてなんです?」

「え、ええ……恥ずかしながら……これまで殆ど街から出た事がなかったもので……」

「そうなの? 確かにコツがいるものね」

「いやあ、山歩きがこれほど大変とは思っていませんでした」

「ふふふっ、きっとすぐに慣れるわ。頑張りましょう?」

「いやぁ……あははは……面目ないです」

「無理はするんじゃないぞ。他の奴らに合わせる必要は無いからな」

「あ、あははは……ど、努力します」

トリスに続いてゴルムからも励まされ、

サリアは面目無いような恐縮したような苦笑いを浮かべる。


流石に自分でもなんとかしたいと思ったのだろう。

サリアはトリスから危ない場所の見分け方や、

転ばない歩き方を教わりながら進んでいく。

「コケの多い所は滑るから気を付けてくださいね」

「は、はいっ」

「足全体でしっかりと地面を踏み歩くと滑らないですよ」

「おお~、確かに滑らない気がします!」

トリスのアドバイスを試しつつ、

徐々に山歩きに慣れていくサリア。

優しく分かり易く教えていくその様子は

流石クレリックと言うべきか、

こうして見ると先生役が良く似合っている。


「それにしても……皆さん凄く慣れてますよね? 普段から山を登ったりするのですか?」 

「ええ、皆、普段から薪拾いや山菜取りとかで山に入っていますからね。さすがにこんな奥にはあまり行きませんけど」

トリスの言う通り、たしかに村人達は山歩きに随分と慣れているように見える。

それは魔法使い力仕事とは縁遠そうなアニタでも例外ではなく

小柄なローブ姿の少女が急な斜面を危なげなく登っていく。

おそらくは、普段から山へと入り山に親しんでいるのだろう。


「そうそう、村から畑までの道だってこんな感じだしね」

「確かに……こんな感じの所多いよね。ゴルムさんの所も階段とか作れば良いのにね」

トリスの説明にリラとアニタが同意する。

だよねーといお互い笑い合う少女達に

すぐ後ろを歩くゴルムがやれやれと言った感じで応じる。

「仕方ないだろう、下手に工事をすればオーク達に何されるか分かった物じゃなかったからな」

たとえ村人達に反抗の意志が無くても、

少しでも何か動きがあればオーク達はすぐにも村に襲い掛かっただろう。

相変わらずの厳つい顔の所為でなかなか感情が読み取れないが

苦笑い交じりの返事に、少女達は再び顔を見合わせ笑い合う。



「あ……そういえば……良かったんでしょうか? こんなに大きな声を上げちゃって」

先程までは盛大に悲鳴やら抗議の声を上げていたというのに

今更ながらに心配そうに尋ねるサリア。

「大丈夫なんじゃないかな。どうせ相手には気付かれている訳だし」

そんな今更なサリアに前を歩くアニタが

今更心配しても仕方ないと言わんばかりに答える。

他の村人達も同様なようで、周囲を警戒こそしているものの

会話を止めようとする者は誰もいない。

「それはまぁ……そうなんですけどね?」

「そうだね。待ち伏せも居ないみたいだし、この辺りは大丈夫だと思うよ」

先頭を歩くフィルも周りを周囲を警戒しながらだが

軽い調子でサリア達へと話しかける。


小柄さと素早さを活かした回避力と、暗視が取り柄で

集団で一人を取り囲んでの攻撃を得意とするゴブリンにとって

それらの利点を活かす事ができない細い道、

しかも視界も明るい昼間の戦闘はゴブリンにとって利益は何一つない。

奇襲にしても、先ほどのゴブリンが返り討ちに合った事から

それも成立するとは考えにくい。

それ故、わざわざここを狙っての襲撃は考えづらく、

そしてフィルの予想通り一行はゴブリン達の襲撃を受ける事もなく

洞窟の入り口近くまでたどり着くことが出来た。



「皆、一旦ここで止まって」

一度皆の歩みを止めた後、フィルは振り返る。

「どうしたんですか?」

あと少しと言う所で止まり不思議そうに首を傾げるリラに

フィルは村人達にも聞こえるように説明を続ける。

「ああ、洞窟の入り口で相手の待ち伏せがあるかもしれないからね。先に僕が行って待ち伏せがないか確認してくる。安全が確認されたら、皆にも来てもらう」


先程までとは状況が異なり、

今のゴブリン達はフィル達の襲撃を知り、

いつ来ても撃退できるよう万全の備えを整えているはずだ。

この状況で戦闘経験をろくに持たない者達が

いきなり洞窟に突撃するのはかなりの無謀と言える。

入り口に弓兵を揃えて一斉に射られるだけでも

村人達に大きな被害が出る事は必至だ。


それでなくても、これより先はどんな罠が仕掛けられているか分かったものではない。

その点、フィル一人ならばゴブリンの矢ぐらいそうそう当たることは無いし

万一、矢が命中したとしても、手持ちのアイテムですぐに傷を癒すことも出来る。

パーティにローグやレンジャーが居れば話は別だが

この一行の中で敵の発見や罠の解除を満足に出来るのはフィルのみ

我ながら甘いとは思うが、

それでも村人達に無駄な被害が出るよりは何倍もましだろう。


「あ、それなら私も行きます!」

仕方の無いことだと、半ば諦めの気持ちで説明を終えたフィルだが、

すぐ前に居たリラから声が上がった。

「けど、入り口で待ち伏せされるかもしれない。弓が集中して飛んでくるかもしれないよ?」

「大丈夫ですよ、盾も鎧も魔法のクロークだってあるんですから!」

たしかにこれだけの重装備ならゴブリンの矢程度なら殆ど防ぐことが出来るだろう。

とはいえ、もし一撃でも受ける事になれば、

フィルとは違い経験の浅いリラはそれだけで致命傷になり得る。

「リラには、皆を護っていてもらいたいところだけど……」

「こっちはきっとだ大丈夫ですよ! それに、私達だって頑張らないと駄目だと思うんです!」

「う~んん、でも……」

危険だよと、そう言いかけてフィルは言葉を止めた。

おそらくは村人達の場所へとゴブリンが来ることは無いだろう。

それよりも入り口での待ち伏せの方が、可能性はよほど高い。

だからこそ安全なこの場所にリラを留めようとした訳だが

果たしてそれが本当にリラの為になるのだろうか?


そもそも彼女達に冒険者として一人前になってもらう事も目的のはずだ。

何でもかんでもフィルが手を出すのではなく

彼女の成長の為にも経験を積ませる必要があるのではないか?

「……まぁそれもそうか。ついて来ても良いけど、自分の身は自分で守るんだよ?」

「もちろん! 大丈夫よ!」

気合たっぷりに返事をするリラに軽くため息をつくと、

フィルは弓を手にリラを連れて坂を駆け上る。

入り口の見える距離まで一気に詰めると、

そのまま入り口の様子を確認する。



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