邪神さんと邪神
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(コワセ……)
(何をコワセというんだい?)
(コワセ……)
フラウも眠り、一人、呪文を覚えなおしているフィルは、語りかけてくる声に対し、試しに質問をしてみた。だが、声は応えることは無く、ただ、フィルに責務の全うを要求するのみだった。
あの日以来、声はずっと続いていた。フラウと笑っていた時でさえも、ずっと語りかけてくる声。
だが以前のように自身を失う恐怖は、今のフィルには無かった。
前に火竜を倒したときに分かったが、この声は自分の欲望に働きかけることはできるが、この声が自分の欲望ではないらしい。
あの時、止められそうにないほどの破壊衝動が襲ったのは、あの時の自分がそう考えていたから……。
仲間を全てを失い世界を破壊したいと思ったのも、聖女や女魔法使いに対する破壊衝動も、自分の嫉妬が存在したからこそ。それを認めることは、自分を惨めにするが、それでも、目の前のベッドで眠る少女を破壊したいと思わないでいられることに、フィルは少し安堵していた。
(悪いけど、今は壊したいものは何もないんだ)
声は止まない。おそらく、これからずっと止まないのだろう。だが自分の意志がきっかけならば、少なくとも後悔するような破壊は避けることができるだろう。そんな考えを抱きながら、明日、この魔法で少女はどんな顔をしてくれるのだろうかと、喜ぶ顔を思いフィルは呪文書をめくった。