邪神さんと冒険者さん 51
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洞窟の偵察を終えたフィルは洞窟から離れ
少女達が待機する獣道との合流地点へ戻ることにした。
来た時と同様、足跡が残らないよう注意しながら小道を下っていくが、
帰り道ではより詳しく道にゴブリンが隠れていないか
木々の合間や枝の上、少し離れた場所にある盛り土の周りなど、
怪しい個所を見かけては、周囲に足跡や痕跡が無いかを見て歩く。
だが、やはり道中にゴブリンの姿を見かけることは無く
この細い道なら格好の待ち伏せが出来るだろうにと
少し拍子抜けな気分で細い坂道を下っていく。
小道がそれほど長いものではない事もあって
程なくして少女達が待機している獣道との合流地点が見えてきた。
(僕が偵察に行っている間、皆は少しは休めたかな?)
少女達をあの場所に置いて行った一番の理由はもちろん、
隠密行動で必要な『隠れ身』や『忍び足』といった技能を
彼女達の誰一人として持つ者が居なかった為だが、
もう一つの理由としては、
ここまでの探索で少女達に大分疲れが見えてきた為だった
四人ともここまで泣き言一つ言わずに良くついて来てくれたが
やはり慣れない戦いで体力はともかく精神的に大分消耗しているのだろう。
フィルから見ると先ほどの戦闘以降、
少女達の疲労の色はかなり濃くなったように見える。
当人達はまだまだ大丈夫とは言うのだが
あの洞窟がゴブリンの住処と確定した今、
この後、彼女達はゴブリン達と正面から戦闘する事になるのだ。
今無理をして肝心な時に動けなくなる、なんてことが無いように、
休むことができる時はきちんと休ませてやりたかった。
(とはいえ、それだけじゃ無事に勝利するにはやはり厳しいか……ここは何かアイテムを渡して補強しておくべきなんだろうけど……)
あまりアイテムで強化しすぎるのも良くないとは分かってはいるけど、
あの数相手では仕方ないか……。
そんな事を考えつつ坂道を下りきり
獣道との合流地点にたどり着いたフィルが
道を挟んで向かいに茂る藪の中、リラ達が隠れている場所を見てみると
それなりに上手くは隠れているものの
結構離れている、この場所からでも分かるぐらいに
少女達が藪の陰に隠れ、周辺を見張っているのが見て取れた。
その様子はどう見ても、休憩といった感じではなく
さながら臨戦態勢万全の戦闘開始直前といった雰囲気だった。
(うーん……やっぱ敵が近いって思うと休憩している余裕はできないか……)
サーコートのおかげで金属鎧が反射して目立ったりといった事は防がれ
ぱっと見た感じでは藪の景色に溶け込むことが出来ていたが
それでもフィルのように経験を積んだ者から見ると、
殺気のような、もしくは気迫のような気配が感じられ
あの場所に何かが潜んでいるという事が簡単にわかってしまう。
さらに言えば、獣道を通って敵が来ないかと見張っているようだが
頭を動かして左右を見る度に、藪の隙間の向こうから
赤毛や金髪がちろちろと動いているのが見えてしまっている。
これではせっかく藪の裏に隠れても、葉の隙間から見える動きで見つかってしまうだろう。
それは先ほどフィルがゴブリン達の存在に気付いた状況にも似ており
一生懸命に頑張る姿は微笑ましくもあるが
まだまだ未熟なその様子にフィルは苦笑いを浮かべる。
(ふむ、今度隠れ方についても、コツを教えておいた方が良いかもしれないな……でもまあ、こんなのはゆっくり慣れて行けばいい事、か……)
経験を積んだ冒険者や、海千山千の悪党ならともかく
ゴブリン相手ならこれでも十分通用するだろうし、
駆け出し冒険者であれば十分きちんとやれていると言えるだろう。
なによりこんなのは、
もう少冒険者としての経験を積んでいけば
自然と身に付いて行くものなのだ。
慌てずに彼女達のペースで成長していっても問題ないはずだ。
そんな緊張している少女たちに
間近で姿を現すのは驚かしてしまうだろうと
フィルは少し離れた場所で不可視化の魔法を解除して姿を現すと、
改めて皆のいる藪へ向かって歩き出した。
茂みの向こうでは姿を現したフィルに安堵したのか、
張りつめていた空気が少しだけ緩むのを感じる。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「ああ、やはりあの洞窟はゴブリンの巣になっていたよ」
フィルが帰ってきてようやく一安心といった様子のリラに
フィルは洞窟の周辺の状況を伝えた。
「外に居るのは見張りの二匹だけで他は見当たらなかったよ。足跡は洞窟の中へ続いていたけど、残りのゴブリンが洞窟の中に居るのか、それとも山の中で狩りをしているのか判断はつかなかった」
「昼だから中で寝ているのでしょうか?」
ゴブリンって夜行性と聞きますしと首を傾げながら言うリラにフィルも頷く。
「そう考えるのが妥当なのだろうけど、洞窟の中を改装しているという可能性もあるね。寧ろその可能性の方が高いと思ってる」
「う~ん……確かにそうですね……」
「あとは……あそこはダミーで本隊は別のことろに居るとか……まぁ、こっちはモード老の話を聞く限り、ほかに適当な場所も無いようだし可能性は低いと思うけどね」
「そうなんですね……あ、洞窟の中はみました?」
「いや、洞窟の中はまだ見てないよ。それは攻め込む直前にやろうと思っているんだ。今潜入したとして痕跡がゴブリン達に見つかったら余計な警戒を招くし、偵察してから戻ってくるまでの間に配置が変わって前の偵察が無駄になる可能性もあるからね」
「ああ、なるほど……それじゃあ、攻め込む直前にもう一度偵察をするんですか?」
「うん、そのつもりだよ。その後で作戦の調整をするのが良いだろうね。さてと、それじゃあそろそろ村に戻ろうか、と、その前に……」
フィルはそこまで言うと、自分のカバンに手を突っ込み、
中から同じデザインの白い外套を四つと、
ロングソードを一振り、レイピアを一振り取り出した。
「君達も見ての通り、今回のゴブリンは数が多いからね。少しでも確実に勝つために君達にこれを貸しておこうと思う。ゴブリンというのは集団になると、何かと厄介な相手になるからね。……あげる訳じゃないからちゃんと返すようにね」
最後にサリア対策として、そう念を押してから
フィルはリラ達へと順に装備を渡していく。
「おお~剣です!? 魔法の剣ですよリラ!」
「あ、う、うん。でもいいのかな? まだ普通の剣もきちんと使いこなせてないのに」
念願の魔法のレイピアに先ほどまでの緊張はどこへやら、
さっそく受け取り、嬉しそうに鞘から抜いて刀身を眺めるサリアに
こちらは、まだ駆け出しの自分が魔法の武器なんて
分不相応なんじゃないかと悩みながら受け取るリラ。
「そのレイピアの名前はネヴァースリープと言って傷を与えると稀に相手を眠らせることができる。ロングソードの方はコールドブレードと言って通常の魔法の強化だけでなく、冷気によって刀身が強化されている剣だよ。その武器は予備の武器として持っておいて、今使っている武器が壊れた時に使うようにね。いいかいサリア? あくまで予備の武器だからね?」
サリアの様子にフィルが不安そうに説明すると
浮かれた嬉しそうな返事と、少し緊張気味の返事がそれぞれ帰ってくる。
(うーん、このままだと、なし崩し的に自分の物にされそうだ……)
たとえ、いつかはサリアにあげることになる剣だとしても
まだまだ未熟なうちは、彼女の為にはならないだろう。
これが終わったら絶対に回収せねば……。
喜色満面に喜ぶサリアを見ながらフィルは密かに決意する。
「……あとは、と……こっちの外套は?」
剣を一通り検め終えたリラは
それから白い布地で織られた外套を広げてみた。
「布地はしっかりしてるし、雨も寒さをよく防いでくれそうだけど、今日は雨は降らなさそうですし、初夏だしこれを羽織って動くと少し暑いかもですよ?」
あ、でもデザインはかわいいですよねと、
身に着けて、着け心地を確かめながらも不思議そうに尋ねるリラ。
そんなリラを補足するようにアニタが訪ねてくる。
「フィルさんが渡す品だから、なにか魔法の品なんですよね?」
どんなマジックアイテムなのか興味がありますといった顔のアニタに、
フィルは頷くと自信ありげに答える。
「ああ、剣より寧ろこっちのほうが役立つと思うよ。これはクローク・オブ・プロテクション・バーサス・イービルと言って、属性が悪の相手からの攻撃に対して防御の加護が発生する外套だよ」
「へぇ~、普通のクローク・オブ・プロテクションとは違うんです?」
クローク・オブ・プロテクションは
ある程度のマジックアイテムを知っている者なら、ごくありふれた品と言える。
簡単に言えば装備すれば魔法によって反発する力が発生する外套で
鎧の強化する効果と重ねて用いることができるため、
手軽に防御力を上げたい時に重宝する品だった。
「そうだな……やっぱ一番の特徴は相手が悪属性に限定されたことでクローク・オブ・プロテクションと比べて、安くて高い効果が得られるということだよ」
魔法のアイテムというのは、誰にでも使える程、その価値は高くなる。
そのため、いくつかの魔法の品は扱える対象を限定することで
あえて価値を落として、手に届く範囲のコストに抑えるものがある。
その対象は、使用対象や攻撃対象、使用可能な時間など様々だが
この外套の場合は着用者では無く相手を限定することで
使い勝手を維持したまま、低コストと高い効果を実現した品と言える。
そう得意げに答えるフィルだが、
その内容にサリアはあからさまにがっかりな顔をする。
「……なんだかそれって、ちょっとせこいですね……」
「そうは言うけど、コストは大事なんだよ。予算だって無限じゃないんだから」
「それはまぁ……そうですけど……もっとこう、悪属性に対してより高い効果が得られるとか、言い方があるじゃないですか?」
「んー、一応は追加で精神操作呪文に耐性が付く効果も持たせてあるのだけど、こちらはあまり効果を実感できないんだよね……」
「むぅ……その効果も結構重要だと思いますけど……やはり安いのが一番のアピールポイントなんですね……」
「まあね。なにせ傭兵を雇って彼らに装備を貸し与えるのは結構大変な事だからね。武器や鎧は冒険で手に入れた装備から価値の低いのを貸し与えるからまだ良いけど、それ以外でマジックアイテムを買い揃えようとすると数が多いと出費も馬鹿にならないんだよ」
力説するフィルにその考え方も分からなくは無いですけどねと返事をするサリア。
この辺は、立場や視点の違いなのだろう。
ゴブリン相手できちんと効果があるのであれば、今はそれで良しとしよう。
それよりもと、改めて身に着けたクロークの端を手にしてみる。
「確かに……魔法の品は総じて高価なものばかりですけど……と言うか傭兵でもマジックアイテムを使うんですね……」
自分達の装備よりも優遇される傭兵に
やはり自分達は実力も信用も無い半人前ですからねと溜息をつくサリア。
「そりゃまぁ経験を積んだ傭兵なら私よりもずっと役に立つんでしょうけど……」
「そんなんじゃないよ。傭兵の場合は少しでも防御を堅めておけば生還率も高くなるし、結果として怪我の治療費や死亡時の慰謝料を支払わなくて済むからね」
自分達との優遇の差に落ち込むサリアに、笑って理由を教えるフィル。
傭兵は基本的に雇う際に前払いで支払えば雇用でき、
その後の食費や医療費などは傭兵自身が負担することが多い。
だが、戦闘で死亡したり重症を負った時には別料金を請求されることもある為
出費は少しでも低く抑えたい時はこれらを未然に防ぐ手立てが必要となる。
中にはわざと部隊を全滅させて
賃金の支払いを逃れようとする者もいたりするが
そんな雇い主は大抵、遠くない内に制裁を受けることになる。
傭兵の装備に気を配るのは安定して傭兵を雇うためのコツなのだと、
そう説明するフィル。
「君達はこれから冒険者として成長する必要もある訳だしね。過度な援助はかえって妨げになるんじゃないかと思うんだ。それに、その外套は悪属性の敵限定とはいえ、その外套とスタテッドレザーを着ているだけでスケイルメイルと同等の防御力を得ることが出来るんだ。僕らがこれから戦うゴブリン相手なら十分な品だと思うよ」
「なるほど……ところでこのクロークって、元は傭兵への貸出用なんですよね?」
フィルの説明に納得はしたものの、なんとも微妙な顔で尋ねるサリア。
「ああ、だからデザインも揃えて判別し易くしてあるんだ。って何か気になる事でもあるのかい? ちゃんと洗ってはいるけど」
中年オヤジと言うのはどうにも年若い少女からは避けられるようで
盗賊の娘っ子がパーティに加入したのだが、
やれ、洗濯は別にしろだ、水浴びの時は近寄るなだ
どうにも小言が多くて参ると
昔、酒場で聞いた別パーティの戦士の愚痴を思い出す。
配慮が足りなかったかと質問するフィルに
サリアは慌てて首を振る。
「ああ、いえ、白くてなんか神聖な感じもするし、こうしてみんなで身に着けると良い感じだなぁって思ったのですけど、この装備を厳ついヒゲ面のおじさん達が装備しているのを想像すると……」
そう言いながらも、その光景が思い浮んだのか、ぷぷっと噴き出すサリア。
「ああ、確かにそれは分かる」
そう言いながらアニタも思い浮かべたのか笑いが吹き出しそうになるの堪えている。
「ん? そんなに変なことか……? 色は特に染めるのが面倒だっただけだし……」
「ま、まぁ、みんながお揃いのマジックアイテムなんてそう手に入らないですし。デザインだって嫌じゃないんですよ?」
そこまで変な事だろうかと、同じ中年として少し憮然とするフィルに
慰めているつもりなのか、フィルの肩をポンポンと叩くサリア。
なんとも理不尽な良い様だが、おかげで皆の緊張も大分取れたようで
それと差し引きするなら致し方ないかと、軽く溜息をつく。
「……そう言ってもらえると助かるよ。さて、それじゃあ村に戻ろうか、途中戦闘があったり結構時間を使ったし、他のパーティはもう戻っているだろうしね」
戻るというフィルの言葉に頷く少女達。
帰りの道は最低限の探索に留めて足早に村へと向かう。
下り坂ということもあり、普通の速度で歩く分には楽に歩を進めることができ
周りの探索をしながらでも
往きと比べてかなり速いペースで進むことができた。
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