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邪神さんと冒険者さん 45

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朝食を済ませたフィル達は、

残りの料理を簡単に包んで弁当にしてから

屋敷を出て村へと向かった。


今日も空は晴天で、早朝の澄んだ空気の中、

木々の隙間から心地良い風が吹き込む。

そんな長閑な山道を下っていく一行。

先頭を歩く青年と幼い少女、

その後に続く賑やかな会話に興じる年頃の少女達と言うのは

少女達が身に纏う武具が無ければ

ピクニックに行く少女にその引率といった方が納得できただろう。


「今日もいい天気ですねー。昨日の夜は雨が降って来たから少し心配しましたけど、晴れて良かったですね!」

「そうね。最近は夜に雨が降っても直ぐ止むから、大丈夫だろうと思っていたけど、さすがに少し心配しちゃったわ」

木陰を歩きながら深呼吸をするサリアにリアも同意する。

少女たちの言う様に、昨夜降った雨は小一時間ほどで元の晴れ空に戻り

朝方には地面もすっかり乾いている。

「ここの所、毎日のように降るのよね。でもあの雨のおかげで村の作物が枯れずに済んだし、有り難い雨ではあるんだけどね」

「へぇ~そうだったんですね。随分と都合の良い……っと、何はともあれ、今日が晴れて良かったですね」

雨を降らせた張本人がすぐ前にいる事を知ってか知らずか、そう言って笑いあう二人。

後ろから聞こえてくるそんな会話に、フィルがむず痒さを感じていると

フィルの手が小さい手に握られて引っ張られる。

見れば嬉しそうにフィルを見上げるフラウの顔があった。


「えへへー」

村の人に感謝されているのが聞けて殊更嬉しいのだろう。

共犯者のフラウは良かったですねと言わんばかりに、にこにこと見上げている。

「うん? ははは、内緒だよ?」

「えへへ、はいです!」

元気よく頷くフラウにフィルも笑みを漏らす。

村人に知られたところで、何か問題がある訳ではないが

もう暫くの間は自分が中程度の力しか持たないウィザードと思っていてもらいたい。

大きすぎる力なんて、頼りにしたところで碌な事にはならないのだから。


「それにしても雨かぁ……このパーティ、レンジャーもドルイドも居ませんからねー。雨の中じゃ足跡を追うのも、敵を見つけるのも大変ですもんね。あ、そう言えばフィルさんは生存とか視認の技能って持っているんですか?」

フラウとの会話で考え事をしていたフィルだったが、

サリアの問いかけに現実へと引き戻された。

「うん? 一応、どちらも少しだけ習っているけど、得意と云うほどではないかな。晴れてくれて本当に良かったよ」

「そうなんですか? うーん……やっぱり誰か覚えたほうが良いんですよね……?」

生存も視認も荒野を歩く以外にも何かと役立つ技能だ。

サリアの言う様に、冒険をするならパーティの内、誰かは使える方が好ましい。

「そうだなぁ……あえて取るとするなら戦闘の要のリラか、トリスやアニタで分担して習うのがいいんじゃないかな」

「あれ、私も技能覚えるのは結構得意ですよ?」

「確かにバードのサリアは技能を覚えるのが得意だろうけど、バードは他に覚えておいて欲しい技能が沢山あるからね」

「ああ……確かにそうですね」

バードは知識や交渉、果ては軽業や登攀といった運動まで、

他のクラスと比べて多くの技能を覚えやすいという特徴がある。

それであれば覚えやすい類の技能を効率よく覚えて行った方が

結果としてパーティの利益になるだろう。

フィルの言葉にうんうんと頷くサリア、


「でもそうなると、結局、リラやアニタやトリスが不慣れな技能を覚えないといけなくなっちゃうんですよね? やっぱりレンジャーかドルイド欲しいですよねー」

「まぁ、どんなパーティにも得手不得手はあるもんだよ」

溜息をつくサリアを慰めるフィル。

そんなフィルの手を先ほどから繋いだままのフラウの手が引く。

「ドルイドさんやレンジャーさんが居ないと大変なのです?」

フィルとサリアの会話を聞いていたフラウがフィルを見上げて尋ねる。

ファイターやクレリック、ウィザードといったクラスは身近にいるし良く知っているが、

レンジャーやドルイドというあまり聞かない名称に、どんな人たちなのです?

と興味津々といった表情で見上げるフラウ。


「そうだね。レンジャーやドルイドは自然の中で冒険するのに相性の良いクラスでね。レンジャーは動物を相棒にして二刀流や弓を得意とする身軽な戦士、ドルイドは自然の力を操る術者で、どちらも動物の足跡を見つけたり、森の中を移動するのに頼りになるんだ。もっとも今回は目的地の目星もついているし、それぞれの洞窟は近くまで獣道が通っていて移動もそこまで困難じゃないし、僕達だけでも大丈夫だとは思うけどね」

「そうなんですね。それなら安心ですねっ」

フィルの説明に、なるほどとすっきりした顔のフラウ。


「レンジャーかぁ……こうして見るとフィルさんの格好って、なんかレンジャーっぽいですよね。革鎧で弓と剣を装備している所とか」

そんな二人の会話を後ろで聞いていたリラの何気ない感想に、フィルはふむと頷く。

たしかに、どちらも軽装の戦士であり、装備の構成は似通っている。

とはいえ、それぞれのクラスが持つ目的や役割は大分異なる。

「うん? うーん、まぁ、確かに近い格好か、まぁ技能や魔法を重視するクラスは大体革鎧になるし。弓だって戦士系のクラスならこれが一番都合いいからだし。格好が似るのは仕方ないんじゃないかな」

「なるほど……確かにそうかもですね……あ、そういえばレンジャーもエルドリッチナイトもどちらも魔法戦士ですよね?」

「うん、もっとも、レンジャーが使える呪文はクレリックと比べて大分少ないけどね。それで言うとレンジャーはバードに近いと言えるかな?」

そこまで言うと、フィルとリラは、リラの横を歩いているサリアを見やる。

「え? 私がどうかしたんですか?」

話題を振られたサリアが小首をかしげる。

こうして見るとフィルとくらべて体が華奢で小柄という事もあるが

革鎧こそ着ているものの

リュートを背負い、細身のレイピアを腰に差したその姿は

正直な所、戦士と言うには無理があるように思える。


「ふむ……バードを魔法戦士と言うのは……どうなんだろうね?」

「うーん、そうですね……」

「む、フィルさんもリラも、なんか失礼な事を言っていませんか?」

「い、いや、サリアは戦士っぽく見えない方がそれっぽくていいんじゃないかなと思うよ?」

サリアの抗議に慌てて言い繕うフィル。

リラの方は特に気にした風でもなく

サリアの格好に何か気が付いたようだった。


「あれ、サリアは弓を持って無いんだね? 使わないの?」

「ああ、言われてみれば、確かバードもショートボウが使えたよね」

リラの言葉にフィルは昨日の訓練でサリアがスリングを使っていたのを思い出す。

たしかにスリングの方が持ち運びも簡単で、弾の調達でも有利だが

威力、射程は共にショートボウに及ばない。

「やっぱり持ち運びが便利だからかい?」

「え? まぁそれもあるんですけど、私のは主に資金的な理由で……」

冒険者になったばかりでお金が無いんですと、

リラの問いにどこか遠くの方へと視線を逸らすサリア。

そんなサリアにリラとフィルはああ…と納得する。


「その代わりスリングがあるんですし良いじゃないですかー。フィルさんこそ魔法も使えるのに弓って必要あるんですか? なんですかそんなに武装してずっと戦うんですか!?」

やけくそ気味な物言いだが、たしかにサリアの言う様に、

あれだけの魔法が使えるならわざわざ弓を使う必要なんて無いようにも思える。

そもそも大半のウィザードは大抵は杖を愛用しており、

それ以外の武器、剣や弓なんかを持つ者はかなりの少数派だ。

アニタのクロスボウも、いくらウィザードでも扱えるとは言え

一般的なウィザードからするとかなり異色で

もしもフィルから勧められなかったら今日も持っていなかっただろう。


「ああ、魔法使いらしく無いかもだけど、魔法は使用回数に限りがあるし融通も利かないからね。魔法の節約にもなるし、離れた敵との戦闘では弓の方が都合のいい時もあるし、それこそずっと戦い続ける事になる場合もあるからね」

「う、あんまりそんな戦闘したくないですね……うーん、私も弓を持ったほうが良いのかな……でもお金が無いんですよね……」

フィルの言葉に、今度はリラがつぶやく。

リラもまた、資金不足で弓が買えない者の一人だった。

そんな駆け出し冒険者たちが揃ってため息をつく様にフィルは笑って答える。

「二人共焦ることは無いよ。余裕が出来たらで良いんじゃないかな。ま、山賊に遠くから射られたり、飛び回るハーピーを相手にしたりすれば嫌でも買わなきゃってなると思うだろうけどね」

「あははは……やっぱそうなるんですね……うーん、今度作ってもらおうかな?」

リラのぼやきに、今度はフィルが興味深そうな顔になる。


「この村で作れる人が誰かいるのかい?」

昨日鍛冶屋を覗いた時は、弓は置かれていなかった。

もし別の所で手に入るなら、

そこでアニタや自警団の為のクロスボウが調達できるかもしれない。

「え? あ、はい。昨日、ゴルムさんと一緒に来たモードさんとか、猟師の人はみんな狩りで使う弓を自分で作っているんですよ。それでお願いしてみようかなって」

たしかに仕事で使う道具を自作するというのは良くある話で、

猟師ならば罠や弓を自作しても不思議ではなかった。


「とはいっても、ロングボウやショートボウぐらいで複合弓は流石に無理だって言ってましたけどね」

「そうなんだ。クロスボウが作れたら自警団に良いかなと思ったんだけどな」

「自警団にですか?」

「うん。彼らの身の安全のためにも剣や棍棒よりも、離れて攻撃できる武器が欲しいんだよね。クロスボウなら扱いが容易だし、自警団に持たせたいんだ」

「なるほど、それならモードさんに相談してみるのも良いかもしれませんね」

リラの提案にそうだねと頷くフィル。

たとえモード老達が今は作れないとしても、

鍛冶屋に作り方を教われば作ることが可能かもしれない。

なににせよ村人達に自警団として活動してもらうなら、

どこかでクロスボウを調達しておきたかった。

フィルがそんなことを考えているうちに、一行は山を下り終えて村へと到着した。



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