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邪神さんと冒険者さん 44

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「フィルさん。フィルさん。あさですよ~」

「ん、ああ、おはよう……」

朝になり、フィルは早起きのフラウに揺られて目が覚めた。

声の聞こえてくる、すぐ隣を見てみると

フィルと同じ目線の高さ、それもごく間近で

フィルの肩に手をかけ、嬉しそうに揺すっているフラウの笑顔が見える。

同じベッドで寝ているのだから当然と言えば当然だが、

同じ目線に顔があると、やはり少し気恥ずかしい。

「あ、ありがとう……ちゃんと起きたよ」

「えへへ、はいです!」

フィルは少し身をよじると揺すられている方とは逆の手でフラウの頭を撫でる。

嬉しそうに眼を細めるフラウを眺めながら

名残惜しさを感じつつも身を起こした。


「それじゃ、僕は一旦外へ行くから、フラウは先に着替えちゃうといいよ」

「はいです。あ……フィルさん」

「うん?」

フラウの呼びかけに、どうしたのかと身を起こしたまま少女の方を見やると

フラウはベットの上に座り直して、フィルの方へと向き直った。

「えっと……みなさんをどうかよろしくお願いします」

「ああ、大丈夫。絶対に無事に終わらせるから安心して」

心配そうな、真剣な眼差しで見上げてくるフラウに

フィルはそう言って、もう一度少女の頭を撫でる。

「はいです。えへへ」

「うん。それじゃあ僕は廊下で待っているから、着替えが終わったら呼んでね」

「はいです!」

その言葉に安心してもらえたのか、フラウに笑顔が戻ったところで

フィルは廊下へと出ると、扉の前でフラウが着替え終わるのを待つ事にした。


暫くの間、フィルが廊下で待っていると

トリスとアニタの部屋の扉が開き、身支度を整えた二人が出てきた。

二人共、既に鎧やローブを着こんで、

手には盾やクロスボウを抱えている。

二人もフィルに気が付いたようで、こちらへとやって来た。


「フィルさん。おはようございます」

「お、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

声をかけてきたトリスとアニタにフィルも挨拶を返す。

「やあ、二人共おはよう。もう準備も済ませたんだね」

「ええ、フィルさんは、フラウちゃんの着替え待ちですか?」

「ははは、そうなんだ。僕も着替え終わったら下に行くから、居間で朝食にしよう」

「わかりました。それでは先に行って準備しておきますね」

「あ、私、リラとサリアを起こしていくね」

そう言い、トリスは一階へ、アニタはリラの部屋へと向かう。


それからさらにフィルが待っていると、

やがて部屋の扉が開き

着替え終わったフラウが出てきた。

「お待たせしました! えへへ、どうでしょうか?」

街で買った白い服を着て

フラウがそう言いいながらフィルの前でくるんと回って見せると

くるりと回った拍子にフリルが付いたスカートがふらりと膨らむ。

「今日はイグンおばあちゃんの所に行くのでとっておきにしたのです!」

「ははは、うん、とても可愛いよ」

「ほんとですか? えへへ……」

フィルに褒められ嬉しそうに笑うフラウ。

フィルはそんな少女の頭を撫でてから

入れ替わりで部屋へと入ると、

昨日準備していた装備を取り出した。

(これを装備するのも随分と久しぶりな気がするな……)


最近は周囲から魔法使いとしての役割が求められる為

見た目も魔法使い然とした格好の方が都合が良かったり、

神の力を手に入れて跳ね上がった敏捷を活かすには

僅かと言えども動きを阻害する革鎧よりも、

布で動きを阻害しないローブの方が都合が良かったりで

ローブを身に着けてばかりだったが、

以前のパーティで冒険者をしていた頃は

このレザーアーマーを装備して戦っていた。


特にフィルが持つレザーアーマーは

通常、鎧を装備すると発生してしまう秘術系呪文が失敗する可能性を抑え

ローブと同じように失敗のリスク無く魔法を扱うことが出来る魔法の品で、

更には受けた傷が高速で治癒する機能を備えるという

魔法戦士と言いながらも鎧の詠唱ペナルティを軽減する特技を持たない

エルドリッチナイトが前線で戦おうとするにはありがたい鎧で

冒険の最中見つけてからは、随分長い事この鎧と共に戦っていた。


レザーアーマーを着込み、

腰にポーチの付いたベルトを巻き、

もう一本のポーチやダガーや投げ矢の付いたベルトをたすき掛けに装備し、

それからブーツ、クローク、グローブと身に着けていく。

準備万端になった姿を鏡で確認したところで

最後に腰にロングソードを腰に差して、

コンポジットロングボウと矢筒を手に持つ。


身支度を終えて廊下へと出ると、

そこにはフラウが待っていて、

出てきたフィルの姿にわぁ~と声をあげた。

フィルの周りをまわって興味深げにフィルの装備を眺めて回る。

「フィルさん、すっごくかっこいいです!」

「あはは、そうかな? ありがとう。さ、ご飯を食べに行こうか」

「はいです!」

その後も楽しそうにフィルを装備を眺めるフラウを連れて

階段を下りたフィルは居間の扉を開けた。

「おはよう」

「おはようございますー。わぁ……」

居間に入り挨拶をする二人。

居間には既に他の全員が揃っており、

武器やら荷物やらは壁の方へと寄せて

それぞれ鎧やローブ姿で朝食の準備を始めていた。

「なんだか、お城の騎士様みたいです!」

「ははは、流石に騎士でも戦いの無い時は朝から鎧を着たりはしないと思うけどね」

普段と違う食卓の雰囲気に対するフラウの感想にフィルは笑って答える。

「あ、二人共おはようございます。フィルさんは今日は鎧を着ていくんですか?」

そんな二人の様子に挨拶を返すサリアだったが、

フィルの姿におや? と首を傾げる。


「ああ、今日は前に出て戦う可能性もあるし、山道も歩くだろうからね」

「なるほどー、それにしてもこうして見ると……ローグかレンジャーみたいですね」

そう言いながら興味深げにフィルの元に近づき、

ベルトに取り付けられたポーチやダガーをしげしげと眺める。

「それにポーチが一杯……これ全部、何か入っているんですか?」

「こらこら、あまり弄らないでくれよ?」

完全武装ですねーとか言いながら、

無遠慮に腰のポーチを開けてみたり

フィルの体をあちこち見て回るサリア。

他の娘たちも好奇心がうずいたのか

皆集まって皆興味深そうにフィルの装備を見つめている。


「へぇ~、ダガーだけじゃなくて投げ矢もあるんですね」

「あ、こっちにはスクロールやポーションもあるんだね」

「もう二人共! フィルさんが困っていますよ?」

好奇心に赴くままフィルの身体検査を始めたサリアとアニタ。

そんな二人をトリスが窘める。

「そういえばフィルさんは何でも入るカバンを持っていましたよね? あちらは使わないんですか?」

とはいえ、やはりトリスも興味があるのか

フィルのポーチについての疑問を尋ねる。

「ああ、あのカバンは取り出すのに少し時間が掛かるからね、戦闘で即座に使えるように、こうしてポーチに入れているんだ」

「なるほど……私達もポーチを用意しておいたほうが良いのかしら」

「そうだね、ポーションとかアイテムを手に入れたら用意しておくと良いかもね」

フィルの言葉に頷くトリス。

「へぇー、あんな便利なアイテムも得手不得手があるんですねー。それにしても、流石はベテラン冒険者、いろいろ持ってますね!」

フィルとトリスが話している間も、

ポーチの中身を物色してまわっていたサリアだが

一通り見て満足したのか、その顔はとても上機嫌だった。

サリアが言う様にポーションやスクロール等

様々なアイテムを身に着けそれを利用できるようにしている姿は

幾つかの冒険を経て、様々な戦利品を手にした冒険者ならではと言える。

「あ、でもこれらって、今回使っちゃうと赤字になりません?」

「ん? まぁ使わないに越したことは無いけど、かといって君達に万が一の事が無いようにしないとね」

そんなに出費してもいいんですかと尋ねるサリアに

半ば諦めた表情で答えるフィル。


ポーションやスクロールは金貨数十枚から数百枚といった品も珍しくない。

今回のように報酬が当てに出来ない案件の場合、

中位のスクロール一つ使っただけでも金貨数十枚の赤字となる。

かといって何も対策をしなかったばかりに、

リラ達が死んでしまったりしては話にならない。

その為に備えてのアイテムなのだとフィルは皆に説明する。

「無事に済むようなら使うつもりは無いから皆もそのつもりでいて欲しい」

「なるほど……念のためのアイテムという事ですね。ふふふっフィルさんってば心配性なんですから!」

「そうは言うが君達は実戦経験のない駆け出しなんだし、仕方ないだろう? とはいえ、あくまで基本はちゃんと自分の力で頑張るんだよ?」

「はーい。わかってますよー」

楽しそうに答えるサリアに、フィルはやれやれとため息をつく。

駆け出しの冒険者ではゴブリンの攻撃と言えども

数回喰らえば命を落としかねない。

さらに言えばこれから行くのは敵の巣穴なのだ

罠にかかるかもしれないし、敵に囲まれるかもしれない。

我ながら心配のし過ぎとも思いはするが、

用心するに越したことは無い。

「やれやれ……本当に気を付けるんだよ? まぁそれはそれとして朝食を済ませて村へと行こうか」

フィルの言葉に他の五人の少女達は元気よく返事をする。

その元気の良さにフィルは

今日、これからこの娘達が命のやり取りをしなければならないと思うと複雑な気持ちだったが、

そこは出来るだけ顔に出さないよう気をつけながら食卓についた。



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