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邪神さんと冒険者さん 42

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食事も終わり、フィルとフラウは

食事の後片付けのため、厨房で食器を洗っていた。

「フィルさん、訓練で疲れてません? 魔法も沢山使ってましたし、皆さんと一緒に休んだほうがよくないです?」

布で食器を磨きながら、少し心配そうに尋ねるフラウ。


「いや、あれだけの女の子の所に男一人でいると落ち着かなくってね。こっちの方が気が休まるんだよ」

「もうフィルさんったら。でも、一緒に居てもらえてよかったです。ここって一人だとちょっと怖いですから」

夜の厨房は広く静かで、一人で立つのは心細いのだろう。

軽い口調で答えるフィルに、ほっとした表情でフラウは微笑む。

「ははは、僕で良ければ何時でもお供させてもらうよ」

「えへへ。はいです!」

暫くして食器の後片づけも全て終わり、

二人が風呂の準備のために窯に火を入れていると

外の方で誰かがやってくる足音が聞こえる。

それから暫くして、玄関のドアがノックされる音が聞こえてきた。


「フィルさん。誰か来たみたいです?」

「うん、ゴルムさんがゴブリンについて聞いて来てくれたのかな」

「あ、そうかもですね!」

ぱたぱたと玄関へと駆けていくフラウに続きフィルも玄関へ向かう。

玄関の扉を開けると、そこにはゴルムがもう一人、

革鎧を着た初老の老人を連れて立っていた。


「夜分に済まない。今日中の方が良いだろうと思ってな」

「よく来てくれました。立ち話もなんですし中へどうぞ」

「ああ、失礼する」

そう言ってフィルは二人を招き入れると、

二人を連れて居間へと向かった。

居間の扉を開け中の様子が見えた所でゴルムの動きが一瞬止まる。


居間ではリラ達が会話に花を咲かせていたところだった。

テーブルには、こちらに来るときに持ってきたのだろう、焼き菓子が並べられ、

その隣には柑橘と水のピッチャーが置かれている。


「お前たち、まだここにいたのか! ……おい、この娘たちに変な事はしていないだろうな!?」

フィルに向けたゴルムの目が吊り上がる。

村の大人としては正しい反応なのだろうが

こちらとしても居座られている身であり

やれやれとため息をつくしかない。


「ちょっと! 私達はフラウちゃんが寂しくないようにってここにいるの! 変な事なんて無いんだから!」

威勢よく言ったリラだが、

ゴルムが一睨みすると、うっと苦そうな表情で黙り込んでしまう。

「ま、まぁ、なし崩しで此処に居る訳ですが……おかげでこんな山奥でもフラウが怖がらずに済んでいるんですし大目に見えてもらえませんか? もちろんいかがわしい事なんてありませんから」

まぁまぁと取り成すフィルも睨みつけるが

流石に威圧してもフィルは動じず、

結局、リラ達の説得とフィルの懇願に折れたゴルムはため息をつく。


「……迷惑をかけているようだな。だが、変な事はするなよ」

そう言うと、居間のソファーへと向かう。

座っていたリラとトリスが慌てて席を退い

空いた場所に老人と共に腰を下ろすと

持ってきたカバンから羊皮紙を取り出した。


「彼はモードという名で、村で猟師をやっている爺さんだ」

「おう、宜しくの。あんたが噂の魔術師さんかい。随分若いのう」

ゴルムの簡素な紹介の後、

モード老はそう言って軽くお辞儀をした。

年老いて顔には深いしわが刻まれているが、

長年、山で鍛えられたのだろう、小柄ながら体つきはがっしりとして

如何にも山の男と言った風格がある。


「昨日、山でゴブリンを見たそうだ。だから詳しい事を直接聞くために一緒に来てもらった」

そう言うと、羊皮紙を広げて見せる。

どうやら羊皮紙の内容は村を中心とした周辺の地図のようだった。

村を流れる川とほぼ平行に走る道に沿って

車小屋や鍛冶屋や宿屋など、主要な施設の位置が書き込まれ、

村の周辺には森や山に続く道が幾つか書き込まれている。


「モード爺さんが言うには、巣穴を直接見た訳じゃないが、ゴブリンを見た位置から巣穴の場所に心当たりがあるそうだ。明日はその場所を確認するのが良いだろう」

「なるほど、それは助かります。それで、見たのはどの辺りで、何時ごろに見たんですか?」

「ああ、このあたりだ、村からそう離れてはおらんかった。時間は昼を少し過ぎた頃だのう」

そう言うと、モード老は地図上の村から北側の地点を指差した。

村からはさほど離れておらず、歩いて一時間ほどの距離といったところか。


「鎧を着たゴブリンが一匹だけじゃったよ。ふらふらと特に目的も無く歩いている感じだったのう」

「ふむ……昼ですか。昼に出歩くのは珍しいですね。普通、昼は寝ているものですが」

「ああ、大方、寝ずの見張りが退屈でサボっておったんじゃろ」

夜行性のゴブリンは昼は洞窟などの住処で寝ているのが普通だ。

モード老の言う通り、昼に起きているのといえば、

外敵から守るために寝ずの番をしている番兵ぐらいだろう。

この辺は夜に見回りに出る自警団員とよく似ている。


「確かに、村を偵察しようというなら夜にするでしょうね。だとすると、その近くに巣か、もしくは別の何かがある可能性が高いですね」

「ああ、儂もそう思っとる」

モード老の言葉にもう一度地図を見てみる。

示された場所は村から少し離れているが、かといって遠すぎる距離ではない

これ位適度な距離なら、村はゴブリンにとって良いエサ場になるだろう。


「……ふむ、この場所の近くに水場が近くて巣になりそうな場所、洞窟とかありますか?」

「ああ、洞窟ならここと……この場所にあるな。どちらもそれなりの大きさがある。そこまで行く理由もないし危険だから村の者はめったに行かないがね」

そう言うと川沿いから近く、ゴブリンを見た地点からもほどに近い場所を三カ所ほど指し示す。

示された洞窟の内の一つは発見地点からかなり近い。


「なるほど……それだと、ここの洞窟が本命ですね。明日はこの三カ所を重点的に調査しましょう」

「そうだな。午前中に分担して洞窟を確認して、当たりなら午後に全パーティで行くのが良いと思うが」

「そうですね。それが良いでしょう。本命のこの洞窟は私達のパーティが行きます。あと、もしゴブリンが居ても無理はしないでくださいね。あくまで確認だけで良いですから」

「ああ、分かった」


そういってゴルムと頷きあう、

それを見ていたモード老が口を開く。

「ふむ、あんたもゴブリン退治を手伝ってくれるんだってな?」

「ええ、とはいえ村の人達も一緒にやりますし、私だけという訳ではないですが」

「それにしてもだよ。まともな報酬すら出ないってのに村の為に頑張ってくれるんだ。ありがたい事だよ。あんたとそこの嬢ちゃん達が動かなかったら、最悪、儂ら猟師が何とかせねばならんところだった。今日も二人でゴブリンと戦う用の罠を拵えていたんだが、お陰であんたのとこの訓練に出そびれちまったわい」

「なるほど、それで今日は見えなかったんですね」

「ああ、村のモンもヤル気になったようだし、これなら何とかなるじゃろ。明日は儂等も一緒に行ってもいいかね?」

「こちらこそ是非に、山歩きに慣れた人が欲しかったところでしたから。村人達のパーティに付いて山の捜索で先導をお願いできますか?」

「わかった。まかせなされ」



話し合いも終わりゴルムとモード老が帰宅した後、

フィルは風呂を済ませると、

明日に備えて自分の武器を整備するために厨房に残った。

同じく自分のロングソードを研ぐというリラが加わり、

そこにフラウがフィルについてくる形でさらに加わった。


「お父さんが鎌のお手入れをしているのとやり方は一緒なんですね」

砥石を当てて刃を研ぐフィル達を興味深げに見守るフラウ。

「そうだね、どちらも刃で切るという所は一緒だからね」

「なるほどです。でも研ぐところが多くて大変そうです」

「ははは、確かに鎌と比べると研ぐ所は多いね。でもまぁ、ちょっとしたメンテナンスなら刃を揃える程度だし、それほど大変じゃないよ」

そう言いながらフィルは砥石にロングソードの刃を当てていく。

フィルの言う様に、軽いメンテならそれほど時間はかからないようで

暫くすると両刃全ての刃を研ぎ終わる。

「よし、これで良いかな」

「こっちも終わりました。それにしても、魔法の武器でもちゃんと研がないと駄目なんですね。てっきり魔法の武器はメンテいらずかと思ってました」

「ああ、確かに一部の武器には自己再生や壊れないというのもあるけど、この剣に付与されているのは少し扱い易くて、少し強度がある程度の魔法だからね。普通の剣と取り扱いは殆ど一緒だよ」


魔法の剣と言えども基本は消耗品と言える。

上位の魔法の武器ともなれば、それこそ半永久的に朽ちないし、

凄まじい切れ味と強度をずっと保ったりするが、

それでも使用し続ければ何時かは刃は損耗するし、

伝説の聖剣だって刀身が破損することもあり得る。

ましてや、通常の剣を多少強化した程度のこの剣は

並みの剣より少しだけ頑丈といった程度でしかなく

それ故に日頃のメンテナンスも疎かに出来ない。


「でも魔法の武器って古代の遺跡から全然朽ちずに見つかったりしますよね? あんなに丈夫でも消耗しちゃうんですか?」

「ああ、魔法の武器の多くは保存の魔法が掛かっているから年月による劣化や風化には強いけど、武器として使用すれば相応に消耗するんだ」

「なるほど……あ~あ、私も早く魔法の武器、手に入れたいなぁ」

魔法の武器が欲しいというのは駆け出しの冒険者、

特に戦士系の者なら誰も思う事だろう。

世の中には魔法の付与された武器でないと傷つかない相手もおり

魔法の武器の有り無しで戦闘の有利不利が大きく変わることもある。

自分の駆け出しの頃、パーティの戦士が良くぼやいていたのが思い出される。

「冒険者をしていれば、きっと手に入る機会もあるんじゃないかな? 敵や宝箱から拾う可能性だってあるしね」

フィルは、リラが冒険の中で魔法の武器を手に入れる場面を想像してみた。

やはり初めての魔法の武器に浮かれて、名前をつけたりするのだろうか?

ともあれ、この娘なら手に入れた武器をきっと大切に扱う事だろう。

「リラお姉さんならきっと大丈夫です!」

「ふふっ、ありがと」


フィルとフラウの言葉に照れくさそうに微笑むリラ。

武器のメンテナンスも済んだ三人は再び居間へと戻った。



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