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邪神さんと冒険者さん 39

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その後もフィルによる召喚魔法での実戦訓練は続き、

村人達に野犬を、リラ達にはオオカミを

各組に四回ずつ召喚したところで

フィルの呪文が底を尽き、召喚による戦闘訓練は打ち止めとなった。

(さすがにこれだけ人が多いとあっという間に消費されるなぁ……)

呪文は多めに準備していたつもりだったが、

さすがに三組相手には不十分だったようだ。

当初の予定では訓練はリラ達一組のみだったので

戦闘を一回終えた後はしばらく休憩し、

疲れが取れたところで戦闘再開、という予定だったのだが、

三組が相手では次に自分の組が来る頃にはすっかり前の組の休憩が済んでしまい、

フィルだけが休み無しで訓練を見守る羽目になってしまった。

結果として呪文はあっという間に使い尽くし、

予定よりも早く底をついてしまう。


元よりウィザードに限らずクレリックやドルイドでも、

マジックユーザーが一日に使用できる魔法の数というのは総じて多く無い。

アニタのような駆け出しの魔術師なら初級と第一段階を合わせても五回ぐらいが良い所で

高位のウィザードとなれば使用回数が増えるとはいえ、それでも限りがある。

十数回の召喚呪文と言うと中位のウィザードなら

ほぼ全ての呪文スロットを消費している事になるので

周り……(特に同じウィザードであるアニタ)から怪しまれない範囲と言うという意味でも、

この位で終えるのが丁度良いと言える。


さらに言えばフィルが手に入れた神の力を狙って

何時誰に襲われるか分からない身である以上

万が一の時に備えて戦闘用の呪文も確保しておかなければならない。


このぐらいの訓練で十分だろうかと

リラ達のグループや、村人達の様子を見れば

戦闘にも大分慣れたようで、始める前の不安そうな顔は既に無く

あの時はどう動くか、俺はこう動くからよろしくな。などと

すっかりスポーツか何かのような感じで

和気藹々と作戦の相談などをしているのが見える。

(まぁ、戦闘に慣れるという目的は達成できたか)

まだまだ日も高く、夕方にもかなり時間があり

他の訓練をしようかとも考えたが

これから村人たちがライトシールドの制作することも考えると

まだ日の高い内に終わらせるのが良いだろう。


フィルは最後の村人パーティの戦闘が終わると、

休憩していたゴルムの元へと向かった。

「戦闘には慣れましたか?」

「ああ、おかげで大分慣れた。盾も助かった」

「こちらこそ、ライトシールドを使ってからは前衛に怪我人も無いようですし、貸した甲斐があるってものですよ」

「盾の方はこの訓練が終わり次第作るつもりだ。皆の安全を考えると後衛の分も作ってやりたいしな」

「ああ、その訓練の事なんですが、僕の魔法が尽きたので、訓練はこれで終了しようと思いまして」

「そうなのか? それなら、この後の予定は何かあるのか?」

「とりあえず今日の訓練は終わりにして、休息と盾の制作をお願いします。それから明日についてですが明日は早朝からゴブリンの巣を捜索します。早いうちに巣が見つかれば、その日のうちに駆除にしたいと思っていますが……こればかりは結果次第ですね」

「なるほど……それで俺達はどうしたらいい? このまま盾の制作で良いのか?」

「はい。皆さんは盾の制作をお願いします。後、ゴブリンの巣や何処に居たかとか、何か情報がないか村の人から聞いてもらえますか?」

「分かった、村に戻ったらゴブリンを実際に見たという者に聞いてみよう。あとは猟師にも山で何か変わったことが無いか聞いておこう。あいつらならこの辺りに詳しいからゴブリンの巣になりそうな場所に心当たりがあるかもしれない」


たしかに直接巣穴の場所を知らなくても、山の異変について情報があれば

そこからゴブリンの居場所を割り出すことが出来るかもしれない。

「なるほど、それじゃすみませんがよろしくお願いします」

「ああ、今日ならば狩りから戻ってくるはずだからな。ああそれと、今夜は念のため見張りをしたいと思うのだが、何か意見を貰えないか?」

「見張りですか……」


たしかにゴブリンは夜行性で、村を襲う時も大抵が夜に行われる。

村の近くで既に発見されているという事は、

遠からず畑か家畜か、

いずれかが狙われる日も近いかもしれない。

とはいえ、正直言えば、村人を夜の見張りに立たせるのは避けたかった。

何せ、相手は夜目が利き、こちらはまるで利かないのだ。

松明やランタンがあったところで、

背後に回られたら戦闘経験の殆ど無い村人などすぐに殺されてしまうだろう。


「うーん、あまりお勧めしませんが、見張りは必ず三人以上でするのが良いでしょう。あと犬を傍に連れて見張りをして下さい。ゴブリンは特に犬や馬を殺したがりますから、犬の近くに居れば襲われても助けることが出来るし、先に犬が気付いたり戦闘の助けにもなります。馬の方は馬小屋で物音がしないか注意するようにしてください」

「分かった。だが一カ所に三人は多くないか? 見張れる場所も狭くなる。別れて見て回った方が良くないか?」

「相手が夜目が利く分、夜はこちらが不利になりますからね。一人だと襲われた時に対処できない可能性が高いんですよ。下手すると声をあげる前に殺されて、一人ずつ全員がやられる可能性もあります」

「なるほど……わかった、他の村人にも声をかけて人を増やそう」

「あとは……投光式ランタンがあれば、松明とランタンの両方使って見張りをしたほうが良いでしょう。松明は照らす距離は短いものの周囲を照らせますし、投光式ランタンは照らす範囲は限られますがゴブリンの暗視が届く範囲とほぼ同じぐらいの距離を照らすことが可能です。それとできれば畑や家畜小屋とかの重点的に見張る場所に、遠くからでもわかるように松明を設置しておくと良いかと思います」

「ふむ……分かった。参考にさせてもらう」

「そんなところですね。あ、ちょっと待ってください」


フィルはゴルム達を待たせると、皆から少し離れた場所に移動した。

そこで自分のバッグへと手を突っ込み、

松明を三本と以前砕いたルビーの粉の残りの入った容器を取り出すと

松明に対してコンティニュアルフレイムの呪文を唱える。

(明日の探索で使うつもりの灯りだったけど、使うのは明日だし今日の見張りに使ってもらうか)

そうして出来上がった松明を持って村人達の所に戻ると、

ゴルムへと松明を手渡した。


「これは? この火は熱くはないようだが?」

「これはコンティニュアルフレイムと言って、要は熱くなくて燃やすことが出来ないけど消える事が無い魔法の光です。山へ続く道の近くなどの危ない所にこれを設置して、遠くから見張る様にしておけば、安全に見張ることが出来るはずです」

「それはありがたいが……こういった物はそれなりに値がするのでは?」

「元々明日の捜索で巣穴が見つかった時に使うつもりで準備していたので、その時に返してもらえればいいですよ。まぁ、そのおかげで三本しか用意できないのですけどね」

「それではありがたく使わせてもらおう。三本でも助かる」

「取り敢えずそんなところですかね。明日はリラ達のパーティと、男性陣を今日みたいに二つのパーティにして三パーティで探索しようと思います。メンバー構成は今日の訓練と同じで行こうと思うのですがよろしいですか?」

「ああ、それで構わない」

「よろしくお願いします。それじゃあ今日はこの位ですかね」


ゴルムとの打ち合わせも終わったフィルは広場に全員を集め、

ゴルムと共に皆の前に立った。

「えーと、皆さんお疲れ様です。訓練はここまでとします。明日からはゴブリン退治に移りたいと思っています」

おおという声が村人たちに漏れる。

今日の訓練で大分自信をつけたのだろう。

男達の表情に先ほどまでの不安そうな様子は無い。

だが、最前線になるであろう少女たちは逆に緊張で黙りこむ。


「まずはゴブリンの住処を見つけないといけないので、山を捜索をしようと思っています。それでゴブリンの住処とか知っている方は居ますか? もしくは、何か心当たりがあればだいぶ楽になるんですけど」

ゴルム同様、村人の中から声は上がらなかった。

ここにいる村人の中では見た者は居ないらしい。

そうなるとゴブリンを見かけたという場所から辿って巣を追跡することになる。

やはり村に戻って、ゴルムに発見者から情報を聞いて来てもらうのが良いのだろう。


「明日の捜索では森の中でゴブリンに遭遇する可能性があるので五人一組の三パーティで捜索をします。割り振りは今日の訓練と同じ構成です。また、彼女達のパーティは四人なので僕が同行します」

先ほどまでの訓練で、やっと連携が取れてきたばかりだ

今から変更して連携が崩れてしまうよりは、このまま行くのが良いだろう。


「ゴブリンと遭遇した時は二匹までは戦ってもいいと思いますが、三匹以上の時は速やかに逃げてください。そして村に戻って遭遇した場所を他の人に伝えてください」

「ふむ、それでは村に伝令役を置いておいたほうが良いな」

ゴルムの提案にフィルも頷く。

「そうですね。すみませんがここに居る人以外で、どなたかにお手伝いをお願いできますか?」

「ああ、俺の家の者に頼んでみよう。他からも手助けしてもらえないか頼んでおく」

「すみません。よろしくお願いします」

伝令役の目途が立ち、フィルは再び説明に戻る。

「捜索は明日の朝から夕方にかけてやります。ゴブリンは夜行性なので、遭遇の機会が減るとは思いますが、それでも見張りがいる可能性が無い訳じゃないので気を付けてください。集合時刻や場所は、三時課の鐘の頃に食堂前にお願いします」


フィルの説明が終わり、男達は村へと戻っていく。

見送るフィルのもとにダリウとラスティがやってきた。

二人とも、少なくとも見かけの年齢としてはフィルと近いこともあって、

他の村人ほどフィルへの風当たりが強くなく、

練習の合間も戦い方について何度か相談を受けたりしているうちに、

普通に会話をするぐらいになっていた。

「かなり勉強になった。ありがとう。この武具はどうしたらいいんだ?」

「取り敢えず、武具はこの件が終わるまで暫らくは貸しておくから、家で素振りをしたりするといいよ」

「分かった。それじゃあ遠慮なく借りておく」

「ありがとうございます。僕も頑張ります」

「俺達も自前で剣とか持っていれば少しは自警団らしく見えるのだがな……」

そんなダリウの独り言にふむとフィルは考える。

ロングソードは数打ちの量産品と言えども金貨十五枚はする。

唯の村人が気軽に買うには高価な品だった。

それにこの村では、作ろうにも素材が足りないと

今朝鍛冶屋の主人に言われたばかりだった。


「剣か……まぁゴブリンを倒せたら、持っている武器とか防具を奪うというのも手かな」

「ゴブリンの持ってた装備か……汚くないかそれ?」

「それ以前にサイズ小さくないですか?」

「まぁ武器はともかく、鎧はそのままじゃ使い物にならないけどね、綺麗に洗って素材として再利用すれば鎧を作る時の足しになると思うよ」

「ゴブリンってそんな使える物を着てるんですか?」

「ゴミを適当に組み合わせて武器や防具とするものいるけど、大抵のゴブリンが使っている武具は人間やハーフリングやノームの物を拾ったり盗んだものだからね。中にはチェインメイルとか着てたりするのもいるよ」


フィルの言葉に二人は何とも言えない表情になる。

装備について自分達よりも恵まれているモンスターに

我が身の貧乏さを思い知らされているのだろうか。

「確かにそれを倒せば素材が手に入るが……でもそうなると、まずはチェインメイルを着込んだゴブリンと戦わないとってことだよな?」

「まあね」

「それはやっぱり手強かったりするんだろ?」

「他よりは確かに固いね。でもそのぐらいなら棍棒やメイスで叩けばあまり変わらないんじゃないかな。鎧が硬い時は二人で挟み込んで後ろから頭狙うとかでもいいね」

「ああ、なるほど、無理に胴体を狙うことは無いか」

「うん。君達の背丈なら振り下ろした位置が丁度頭の位置になるだろうし、それほど苦労は無いと思うよ」

「なるほど、確かにそうだな」

「別に正々堂々戦う必要なんてないんだ。どうせ相手だって卑怯な手は使ってくるはずだしね。とにかく生き残ることを優先して戦うんだ。そのためにも普通と違う個体や三匹以上には手を出さない事。いいね?」

「ああ、わかってる。俺達も死にたくはないしな」

そう言うダリウにラスティも同意する。

暫くは男三人、雑談やら戦闘のコツやらを放していたが、

ダリウ達と話していたフィルにもう一人の村人から声が掛かった。

「すみません、少しいいですか」

見るとそこにいたのはフラウの父親だった。



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