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邪神さんと冒険者さん 35

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「ふぅ……おつかれ……」

「怖かったぁ……」

「確かに……きつかったですね……」

「みんな、お疲れさま……」


全てのオオカミが倒れたのを確認した後、

四人は皆、力が抜けたように地面に座り込んだ。

さすがに野犬と比べると厳しかったのだろう、

地面に座り込んでからは皆、喋る気力も無いようで

息を整え、体の疲れを取るのに専念しているようだった。


少し離れた場所から見守っていたフィルは、

休憩ついでに様子を確認するため、四人のもとへと向かった。

途中、木陰で応援していたフラウもフィルに合流し、

四人が休んでいるところに到着すると声をかけた。

「お疲れ様。皆、頑張ったね」

「みなさん、すごかったです!」

「えへへ、ありがとぉ…」

安堵のせいか、サリアの気の抜けた返事のを聞きながら

フィルは先ほど何度かオオカミに噛まれていたリラの前でしゃがむ。


「お疲れ様。一応、腕とか脚に傷を負ってないか確認させてもらっても良いかな?」

そう言ってリラの腕を見るフィル。

「あ、はい、痛くもないし、多分大丈夫だと思いますけど……」

「僕もそうは思うのだけど、とはいえ結構盛大に噛まれていたからね。打ち身とか戦闘で興奮して気が付いて無い可能性もあるから一度確認したほうが良いよ」

「そうですね……。ちょっと待っててくださいね」

そう言うと、チェインメイルの腕をめくり腕を確認し、

腕が無事な事を確認すると今度は脚を確認する。


「うん、大丈夫そう。傷も打ち身もなさそうです」

「そっか、それなら良かった。その鎧ならあれ位耐えられるとは思っていたけど、確証が無くてね」

リラの報告に安堵したフィルは

そう言って少女の装備しているチェインメイルを眺める。

防護が付呪された鎧には、オオカミに噛まれたところには貫通跡も歪みも見られない。

衝撃をどこまで吸収できるかが少し不安だったが

これなら、ゴブリンの攻撃も大抵のものならしのげるだろう。


「噛まれた時も衝撃が殆ど来なくて、あれ?って思ったぐらいですし。やっぱり魔法の効果なんです?」

「そうだね。魔法の鎧はそれ自身を頑丈にさせるだけでなく、受けた時の衝撃を和らげてくれるからね」

「なるほどー」

「いいなー。私達にも鎧欲しいなぁー」

感心して鎧を眺めるリラの後ろから

大分回復をしたらしいサリアが声をかける。

「サリアは前に立たないんだから、今あるのでも大丈夫だよ」

「むぅ~」

「駆け出しのうちは戦士以外が前に出て戦う方が危険なんだ。だから今は防御に少し不安があって、慎重に動くぐらいがいいんだよ」

「むぅ……しかたないですね。それじゃあ、もう少し成長したら鎧くださいよ? あ、あとレイピアも!」

「ははは……わかったよ」

「え、ほんとにいいんです!?」

諦め気味なフィルの返事に、約束を取り付けてはしゃぐサリア。

何だか上手く乗せられた気がしないでもないが、

嬉しそうにしているサリアを見ると、

まぁ、後輩たちへの餞別だと思えば、悪くはないのだろう。


「そうそう、さっきのオオカミだけど、ゴブリンがよく飼っているゴブリン・ドッグはこれと同じぐらいの強さと思ってほしい。場合によってはゴブリンよりも脅威になるから十分に気を付けてね」

ゴブリン・ドッグは、オオカミや野犬より不潔なモンスターで、

毛皮に触ればじんましんになることもある。

特にある程度の集団では番犬として飼っている確率も高いから十分注意する必要がある。

そんな説明をしているフィルの耳に遠くから足音が近づいてくるのが聞こえてきた。



まだかなり離れているが足音はこちらを目指しており、

数は七、八……結構な人数、足音の重さからして成人の男性といったところか。

(村人達か? ゴブリン退治への志願か、それともこの娘達を連れ戻しに来たか)

あるいはその両方か……それよりも、と、

フィルは隣でアニタ達と楽しそうに話しているフラウへと目をやった。

村の中を歩く程度ならともかく、

こんな状況で大勢の大人と正面から向き合うのは、

せっかく生贄にされたショックも回復してきたこの娘を、

再び傷つけてしまうかもしれない。

そう思いフラウに声をかけようとしたところで

リラ達も足音が近づいてくるのに気が付いたようだった。

「あれ、誰か近づいてきますね。こんな時に誰でしょう?」

「なんだか沢山いるみたい……」

怪訝そうなトリスの言葉に、アニタが不安そうに答える。

三人は少なくとも村人達と相談してやってきたと言う訳ではない

自分達を連れ戻しに来た可能性に思い当たったのだろう。


「ふむ……ゴブリン退治に参加してくれるのか、君達を連れ戻しに来たか……まぁ、話を聞いてみないと分からないか。フラウ、人が沢山来るみたいなんだけど、うちの中に入っているかい?」

「フィルさん?」

フィルの言葉に首をかしげるフラウ。

「ほら、前回フラウと一緒に来た人達とかいたら、顔を合わせると辛いんじゃないかなって……」

「あ……」

生贄という言葉は使わなかったが、

フラウもフィルが言わんとしている事は伝わったようだった。

表情が強張り、どうしようかと屋敷とフィルの顔を交互に見て悩んでいたが

何度か迷った後、どうするか決心したようで、フィルの方を見上げる。

「たぶん……大丈夫だと思うのですけど……フィルさんと一緒に居てもいいです?」

そう言ってフィルを見上げるフラウは不安そうで

どこか会った頃の、今にも壊れそうな印象を思い出させる。

「……そっか、分かった。それじゃあ一緒にいようか」

「はいですっ」

フィルの言葉に嬉しそうに返事をすると、

さっそくフィルの元へと駆け寄り傍に座りこむと、こちらを見上げて、

まだすこし強張ってはいたが、えへへと笑顔を作る。

こんな所を村人に見られるのは少し恥ずかしい気もするが

フィルもそんなフラウの頑張りに頭を撫でてから、

休憩も兼ねて、皆で足音の主たちが姿を見せるのを待つことにする。

そして、それほど時間をおかずに、足音の主達はフィル達の前に姿を現した。


予想していた通り、足音の主は村の男達だった。

まだ若者と言える者から、働き盛りの中年といえる年代まで

十人ほどの男衆が、腰には棍棒やダガーを携えこちらにやってくる。

何人かはレザーアーマーを着込んでおり、

戦闘を想定しての集団であろうことは明白だった。


「あ……」

傍らのフラウが声を漏らすのに気が付いたフィルが見てみると

フラウの顔色が、明らかに先ほどよりも緊張しているのが見て取れた。

「えと、お父さんがいるの、です……」

フラウの言葉にフィルが集団をもう一度見てみると、

向こう側も気が付いたようで、

集団の中に明らかに一人だけ、男性が表情を強張らせていた。

「……どうする? やっぱり家の中に行く?」

「うう……だ、だいじょうぶだと、思います……」

かなり悩んでいたようだったが、

それでもフィルの傍を選らんだフラウに対して、

フィルはもう一度頭を撫でてあげてから

男達に対応するため腰を上げて向かい合った。


男達は広場に居るフィル達を見つけると、

真っすぐこちらに向かってきた。

集団の先頭にはリーダー格なのだろう、

体格の良い大男が皆を引き連れている。

(うーん、敵意は特に感じられないか……?)

フィルがそんなことを考えながら様子を見ていると、

先頭の大男がフィルに声をかけてきた。


「あんたがフィルでよかったか? あんたに頼みがあって来たんだが……」

「確かに僕がそうです……どのような要件ですか?」

大男からの確認と要件のみ言葉に、フィルも確認のみを返す。

大男はそこで、不躾な切り出しだったかと思ったのか

コホンと咳ばらいを一つするとフィルを真っすぐ見て言う。


「ああ、名乗りもせずに済まない、俺はゴルムという。この村で自警団のようなものをしている。で、頼みと言うのは俺は俺達に武器の使い方を教えてほしい。ゴブリンだけじゃない、他のモンスターとも戦えるようにしたい。その代わり」

そこまで言うとゴルムはフィルの傍で休んでいるリラ達をちらりと見て言う。

「その代わり、あの娘達は戦わせない。俺たちが戦うのならば問題なかろう?」

「まってよゴルムさん! 勝手にそんな事決めないで!」

リラの抗議をゴルムは受け流し、フィルをじっと見つめる。

どうやら彼が以前フラウの言っていたゴルムで、

という事は、後ろにいるのは自警団の者達なのだろう。


少し気になる事と言えば、

ここに居る者達の顔は昨日の食堂での話し合いでは一人も見かけたことが無く

また、幸か不幸か、この中にあの時……フラウを生贄に差し出してきた時に参加していた者が

一人も居ないというのがフィルの心に引っかかった。

しかしたら自警団というのは、

村の偉い人間からは蔑ろにされているか

もしくは疎まれているのかもしれない。


そんなことを考えながらもゴルムを見ていると、フィルの返事を待っているようで、

フィルはもう少しだけ考えたふりをした後、ゴルムへと返答を返す。


「ふむ……申し訳ないですけど、彼女達とは先に約束をしたんです。僕はその約束を破るつもりはありません」

「あいつらはこの村の娘だ、あんたの好き勝手にはさせない」

「これはあの子たち自身の意志だ。それこそ、あなた達の好きにはさせないよ。何なら力ずくでもよいが?」

フィルはそう言うとゴルムを見つめる。

抑揚こそそのままだが、殺戮に慣れたものがが放つ

手を出すならば容赦はしないという雰囲気に

いくら力に自信があるとはいえ

普通の村人であるゴルムは気迫に押され次の言葉を飲み込む。


「……わかった、あの娘達も参加で構わない。だが俺達もゴブリン退治に参加させてくれ」

「それなら歓迎します。人数は多いに越したことがないですからね」

ゴルムが折れたのを確認すると、すぐに威圧を解く。

正直なところ本業がウィザードであるフィルにとって

威圧はあまり得意ではないので内心ひやひやしていたのだが、

無事成功したことに心内でほっと息をつく。



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