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邪神さんと冒険者さん 34

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休憩を終え、フィル達は庭の前に再び集まった。

リラ以外の三人は戦士職というわけではなく、

特にトリスとアニタは初めての実戦による戦闘ということで

緊張しているかと思いきや、どうやらそれほどでも無いようで、

各々、表情は真剣なものの、緊張したりと言った様子は殆ど見られない。

と、いうのも……。


「みなさーん。がんばってくださーい!」

広場の真ん中から少し離れた、屋敷の傍、

そこに立つ庭木の木陰から

気合十分なフラウの声援が飛んでくる。


結局、フラウは一人ではすることが無いからと、

午後は四人の応援をすることにしたようで

授業参観の父兄のごとく送られてくる声援は訓練の緊張感を随分と吹き飛ばしてしまい、

リラやサリアはもとより、アニタでさえも手を振り返すぐらいに余裕を取り戻していた。


いまいち緊張感に欠けるものとなってしまったが

午後の訓練は言ってみれば、戦闘に慣れてもらい

いざという時に動けるようになってもらう事が目的であり、

午前のように特定の技術を覚えるといった課題も無い事だし

これはこれでいいかとフィルもこのまま進める事にする。


「それじゃ、まずは危険な場所で行動する時の基本として、隊列を組んでみようか。セオリー通りならリラが前衛、次はサリアで、その後ろがアニタ。最後尾がトリスの順が良いかな」

フィルの言葉に従い、四人はリラを先頭に、

それぞれ十分な間隔を確保しつつ縦一列に並ぶ。

「うん、今後はダンジョンだけじゃなく、森の中や敵の勢力範囲のような、襲われる可能性のある場所では、その並びを基本にするんだ」

「はーい、質問です! トリスが一番後ろだと戦闘になった時に戦力が足りなくなっちゃいません? あとはアニタも後ろの方が安全じゃないですか?」

手を挙げて質問するリラに、フィルは頷く。


「うん。前からの敵と戦う時そうなんだけど、背後から襲われる場合もあるからね。しんがりもそれなりに戦える者でないと危険なんだ」

「ああ、なるほどー」

「もちろん、前から敵が来た時はトリスはすぐに前に移動する。逆に後ろから敵が来た場合はリラとサリアが後ろに移動するんだ」

フィルの説明を真剣な様子で聞き入る四人。


「大事なのは生き残る事だからね。状況次第でいろいろ動くことになるから慌ただしいだろうけど、どの方向からでも対応できるようにするのは、大切な事だからね」

「確かに……ダンジョンの中は敵の住処ですもんね。やっぱり隠れていたりするのかな」

「そう言う事。前後左右だけでなくて、天井や地面近くとか、奇襲には常に注意しておくんだ」

はーいと言う元気な返事を聞きながら、

説明を一通り終えたフィルは、訓練を始める為、

四人の前から少し離れた場所へと移動する。

戦闘に巻き込まれれないであろう、十分離れた位置へと移動すると

四人の方へ振り返り声をかける。


「それじゃあ訓練を始めるよ。まずは午前中と同じように野犬を前方に出すから、皆は武器の準備をして待っていて」

そう言うとフィルは午前同様、召喚の呪文を唱え始める。

詠唱開始を合図にて、

先頭のリラと最後尾のトリスはそれぞれの武器と盾を構え、

サリアはレイピアを片手に構え、

アニタはボルトをセットし、何時でも撃てる状態にしたクロスボウを両手に持つ。


呪文の終了とともに、先ほどまでと同様、

待ち構える四人の前方に四匹の野犬が出現する。

十分な数が呼び出されたことに満足気なフィルは

武器を構えるリラ達を見て言った。


「まずは小手調べだね。リラなら野犬程度にダメージを受けることは無いから、トリスとサリアは落ち着いてサポートに回るんだ。アニタは仲間の隙間から無理に狙ったりすると仲間に当たる可能性があるから無理に撃たず落ち着いて確実な場所を狙うんだ」

分かりました。や、はいーなどと、それぞれの返事を確認したフィルは

四人へと訓練の開始を知らせるとともに

野犬の群れへと行動を開始するよう指示を送る。

「それじゃあ、始め!」


野犬はフィルの掛け声とともに弾かれた様に駆け出し、

先頭のリラへと向けて一斉に襲い掛かった。

そんな野犬の集団に対して、リラは盾を構え、

隊列から更に一歩前に出て野犬の群れに立ちふさがる。

そして、リラから少し後ろ、控えるようにして左側にサリアが移動し、

少し遅れて、最後尾からやって来たトリスが右側に着いた。


野犬の内、二匹がそれぞれ左右からリラの横を抜けようとするが、

相手の注意が後ろに向いている事を察したリラは

すぐさま剣を振り、右から抜けようとする野犬に傷を負わせ、侵攻を食い止める。

だが同時に左を抜けてきた野犬には手が回らず、素通りを許してしまう。

「左!一つ後ろ抜けた!」

「任せて!」

リラの掛け声が発せられた時には既にサリアは前に出て

飛び出してきた野犬に対してレイピアを突き出し牽制していた。

そこにすかさず右にいたトリスが応援に入り、

野犬の背後、挟撃する位置につく。

サリアの一撃は致命傷こそ与えられなかったが、

野犬の注意がサリアへ向けられている事もあり、

その後に続くトリスの一撃により、ついに一匹目が倒れ伏す。


アニタはサリア達とは反対側、右に出ると、そこからクロスボウを構え、

先ほどリラに突進を止められ、注意がリラに向けられている野犬に狙いを定める。

一呼吸の後、放たれたボルトは見事胴体に命中し、

衝撃で半歩ほど吹き飛ぶと、野犬はそのまま動かなくなる。


残り二匹と、盾によりリラの位置で足止めされていた野犬のうち、

一匹をリラが仕留め、標的をもう一匹へと移す頃には、

既にトリスとサリアが野犬の後ろに回り込んでおり、

三人の一斉攻撃に最後の一匹も沈黙する。



「ふぅ……いい感じったね!」

野犬を全てを倒し、リラの言葉で我に返る三人。

戦闘の緊張の為か、戦闘後もしばらくはその場で武器を構えたままでいたが

リラの言葉で気が抜けたように武器を収める。

動いていた時間はほんの一瞬だったが、

それでもリラ以外は全員、肩で息をしてた。


「お疲れ様。皆、いい動きだったね。怪我はないかい?」

戦闘の終了を確認し、

四人の所へやって来たフィルの言葉を聞いた四人は、

気が付いたようにそれぞれ怪我をしていないか

腕を見たり、脚を見たり、体のあちこち見て回る。

「ちょっと、二人ともっ! 噛まれてもないし大丈夫だってばあ!」

攻撃を一手に引き受けたリラなんかは

心配するトリスとアニタに前後左右をくまなく確認されて

ようやく確認が完了となる頃には召喚された野犬も消滅しており

この位まで時間が経ってようやく勝利した実感がわいてくる。


「やれたの……?」

「私達、結構いい感じでしたよね!」

まだ少し半信半疑なトリスに

自分が動けたことを素直に喜ぶサリア。

それぞれがお互い褒めあう四人を見て、フィルも素直に感心する。

なにせトリスやアニタはこれまで戦闘なんてしたことすら無いのだ。

それを思えば、練習とはいえ、

皆がきちんと己の立ち位置で武器を振るえたという事だけでも喜ばしい。


「それにしても……なんか、不思議と午前中の時と比べて、凄く戦いやすかったような」

「たぶんそれはサリアが居たからじゃないかな?」

午前に既に経験済みだった為か、他の三人より幾分落ち着いていたが

今回の戦闘での違和感に、どこか不思議そうな表情のリラに

サリアの名前を口にするフィル。


「サリアが何かしていたんですか?」

「あっはい。たぶん勇気鼓舞のおかげだと思います。戦闘中戦いやすくなるんですよ!」

リラの疑問に横に居たサリアが答える。

特別、技として使用するものではなく

サリアが、と言うよりバードが一緒に居るだけで効果があるため、

特に使用を宣言していなかったが、

勇気鼓舞を使用していると、戦闘中、より行動しやすくなるのだいう。


勇気鼓舞……バードは鼓舞と言う、

バード自身の存在そのものを仲間の助けに繋げる技を持つ。

味方の勇気を鼓舞し、武器を容易に扱えるようにしたり、

さらには命中時のダメージも増加させる勇気鼓舞を筆頭とするこれらの技は、

強力な呪文などと比べれば効果は低く、

同時に別の鼓舞を使用することが出来ない等の制限もあるが、

リソースの消費が無く、

時間で効果切れになる事も無く、

さらにはパーティ全体が恩恵を受けるという事もあって

冒険を通じて有利にしてくれる便利な技であり、

次に加えたいメンバーにバードを指名する理由の一つとなっている。

「へぇー。凄いんだねサリアって! ありがと!」

「いえいえ、このくらいお安い御用ですよ」

リラの笑顔に、こちらも笑顔で返すサリア。


「よし、皆、自分がどう動けば良いかは大丈夫そうだね。じゃあ次からは少し強い相手にするから気を引き締めてね」

休憩も一段落し、皆の呼吸もだいぶ落ち着いた所で、

フィルの言葉に四人が再び真剣な表情に戻る。

そんな中で、フィルはアニタへと言葉をかける。

「アニタはチャンスがあれば、積極的にスリープを使うように心がけてみて。それでリラと敵が接敵している時でも効果がリラにかからないよう唱える練習をするんだ」

「はlはい! が、がんばります!」

先ほどはクロスボウを当てることが出来たとはいえ

ウィザードの本業は魔法による支援だ。

一日に使える回数に限りがあるとはいえ、

練習できるタイミングならどんどん使ってもらいたい。

返事をするアニタに頷いたフィルは、

再び四人から離れると呪文を唱える。

今度は先ほどより少し離れた場所にオオカミが三匹出現する。

野犬と比べ大きな体躯に少し怯むものの、

四人ともきちんと隊列を組んで待ち構える。


「それじゃ、はじめ!」

フィルの合図でオオカミが駆け出す。

野犬を大きく上回る素早さで、

一頭一頭が確かな重量感を持って突進してくる。


野犬には無いプレッシャーにリラも身構える盾に思わず力を込める。

その後ろではアニタが持っていたクロスボウを地面に置くと、呪文の詠唱を開始した。

リラとオオカミの距離がかなり近づきつつある中、

アニタは呪文の唱えながら腕を前に突き出す。

もう少しでリラとオオカミが接敵するというところで

アニタの呪文は完成し効果範囲内にいたオオカミ達は三匹とも力を失い地面に倒れ伏す。


「よし、それまで! よくやったね」

「やったね。凄いじゃない!」

「凄いわね、アニタ」

「スリープ凄かったですよ!」

「ふぅ……、あ、ありがとございます」

フィルの声に、緊張が抜けたのか、

それとも、緊張どころではない状態だったのが、落ち着いたことで再び戻って来たのか、

皆がアニタを褒める中、大きなため息とともに突き出した手を

自分の鼓動を抑えるかのように胸の前に置くアニタ。



「完全に接敵した場合でも、今みたいに効果範囲ぎりぎりで唱えれば、味方を含めずに眠らせることが出来るから上手く使うといいよ。アニタのレベルだと、グリースとか、もう少ししたらウェブなんかもいいかもね」

「は、はいっ」

「それじゃあ、今度は普通に戦ってみよう。オオカミ達を起こすから準備してて」

四人が元の隊列に戻るのを見届けながら、

フィルはオオカミ達を揺り起すと、召喚した場所まで戻らせる。


全員の準備が整ったところで

再度オオカミたちに合図を送り、

リラ達に戦闘開始を知らせる。

「それじゃ、はじめ!」

再びリラ達に向かって駆け出すオオカミ達。

先ほど同様にリラが前に一歩出て盾を構える。

オオカミはリラに接敵すると、バランスを崩させようと身をさらに低くし、

ねじる様にして足めがけて噛みつきにかかる。

リラも重心を低くし、盾の先で周囲のオオカミを牽制しつつ

一番右にいるオオカミを狙って剣を振り下ろす。


リラの剣には確かな手ごたえがあったものの、

オオカミを倒すに至らなかったようで、

それを確かめる間もなく、振り下ろした剣の向きを左に変えて、

すぐさま隣、真ん中にいるオオカミへと剣を走らせる。

二匹目のオオカミは自分の方に剣が来るのは予測していなかったようで、

リラの剣をもろに受けた。


攻撃を受けたオオカミ二匹はいまだ健在で

こちらも負けじとリラに飛び掛かる。

どうやらリラの攻撃を受けたことで、

完全に標的をリラに見定めたようで

真ん中のオオカミは盾に阻まれ近づくことが出来ずにいたが、

右のオオカミは、先ほど受けた傷のお返しとばかりに

気性荒く繰り返し腕を狙ってかみつきを繰り出す。


腕の方は剣で牽制し何とか捌いてはいるものの

何度かは腕を噛まれており、

これが装甲の薄い鎧だったら訓練では済まなかったであろうことは想像に難くない。

さらにオオカミは一度噛みつくと、そのまま首を激しく振り、

リラのバランスを崩そうと試みた。

リラはすぐさま体ごと腕をひねり、

オオカミのバランスを崩させると、そのまま顔を膝蹴りを加え、

たまらず離れたオオカミと、距離をとることに成功する。


一方で、リラとの戦闘には加わらなかった左のオオカミは、

トリスとサリアに前後を囲まれて残り二匹の手助けへと行けずにいた。

目の前に居るチェインメイルを着込んだ少女は

戦闘には慣れていないようだったが、

噛みついても鎧の固さに阻まれ、

更には盾やメイスで追い打ちをかけられる。

そこへ後ろからレイピアでの攻撃が加わり、

それぞれの攻撃はそれほど深くは無いものの

累積していく傷に、徐々にオオカミの体力が削り取られていく。


「こっちのオオカミは私達がします! リラとアニタであっちの二匹をお願い!」

サリアの言葉にアニタがクロスボウで、

先ほどリラに噛みつき距離をとった右のオオカミを狙い撃つ。

野犬の時と同様、今回も命中することはできたが、

前回の様に一発で仕留めることはできず、

逆にオオカミの気を自分に引き付けてしまう。


「グルルルルルッ!」

「ひっ」

アニタは向き飛び掛かろうと身を低くするオオカミの唸り声に思わず後ずさる。

が、オオカミのこの隙を見逃さず、リラの剣が左のオオカミを捉えた。

ロングソードに刺し貫かれたオオカミは

襲いかかることが出来ずにその場に崩れ落ちる。

続いて、トリスとサリアの攻撃が右のオオカミを倒し、

残った真ん中も後ろをリラとサリアにとられ

最後はリラの剣により倒れ伏した。



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