表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/288

邪神さんと冒険者さん 33

---------



昼食を済ませ食器を洗い終えた後、

フィル達は皆で居間に集まっていた。

とはいっても特に何か用事がある訳ではなく、

厳しくなる午後の訓練に備えて、

午前の疲れをとっておこうというサリアの提案で

小一時間ほど休憩をとることにしたのだった。


思い思いにソファに身を沈める四人

フィルとフラウも皆にあわせてソファに身を預ける。

こうしてのんびりしていると、

窓から入ってくる山特有の涼しい風が心地よく

このまま昼寝をしたい欲求にかられてくる。

だが、目を開けて回りを周りを見てみると、

戦闘を前にしたトリス達は流石にそれどころではないようで

目を閉じて体の力を抜きつつも、緊張している様が見て取れた。

ただ一人、午前中に一人動物相手に戦闘をしたリラは

疲れが溜まっていたのか、ソファに座って暫くすると

隣のトリスに寄り掛かってうつらうつらと舟をこぎ出していたが。


「あ……やっぱり緊張してしまいますね」

緊張に耐えられなくなったのか、それともフィルの視線に気が付いたのか

丁度、目を開けたトリスと目があう。

彼女は肩の上で眠る妹分の頭がずれ落ちないよう注意しながら、

少しばつが悪そうにフィルへと話しかけてきた。

周りを見ればトリスだけでなく、アニタやサリアも先ほどからどうにも表情が硬い。

昼食の時はそれほどではなかったが、休憩が終わり、

これからいよいよ訓練となると、やはりどうしても緊張してしまうのだろう。


「トリスはこれまで実戦形式での訓練はしたことがあるのかい?」

「いえ……一応武器の使い方はリラから教えてもらったのですけど……少し振ってみる程度でしか……」

「なるほど、それなら確かに緊張するか……まぁ、君たちのパーティにはリラが居るし、きちんとリラをサポートしていれば、後はリラが倒してくれるよ」


格上が相手の場合ならともかく、

ゴブリンのような同格か格下相手なら

油断して囲まれたり、不意を突かれさえしない限りは

トリス達でも十分に勝利出来るだろうとフィルは考えていた。


適当な助言に聞こえるかもしれないが、

相手がゴブリンなら特殊攻撃も致命傷とならないものが殆どだし、

トリスやサリアの攻撃で十分なダメージを与えることも出来る。

基本通りにファイターが壁の役目を果たして

他のメンバーがそれをサポート出来れば

ある程度一度に襲い掛かってきたとしても対応できるはずだ。

そういう意味では、基本に忠実に動けば十分に勝利可能な相手と言える。


「でもそれだと、なんだかリラに押し付けているようで……」

「それがファイターの役目だからね。その代わり、君達はリラが敵に囲まれないよう、きちんと周囲を確認して護ってあげるんだ。ファイターがいくら頑強と言っても、敵に囲まれれば脆いものだからね」

「なるほど……」

「囲まれたり、罠にかからないように気を付けるだけで十分生存率は上がるし、油断さえしなければきっと大丈夫だよ」

そう言うフィルに、不安は拭いきれないものの、はいと素直に頷くトリス。

「大丈夫だって、始まっちゃえばそんな事、気にしてられなくなるんだから」

いつの間にか起きていたリラが、

それでもトリスに寄り掛かったまま呑気なアドバイスをする。

一足先に戦闘を経験しているだけあって、

その言葉は実感がこもっているが

戦闘を未経験の者が相手では、残念ながら効果は少ないように見える。

「もうっ、普段から訓練していたリラならそうかもしれないけど……」

呑気な妹分へとため息を一つついて、少し呆れたように言うトリス。

幸か不幸かこれまで戦闘らしい戦闘経験の無いトリスにとって

今回の訓練は初めての戦闘だし、やはり怖いものは怖い。

だが、リラと話したことで、その表情にはまだ幾分緊張が残るのの

大分柔らかい物になったように見える。



「ところでフィルさん」

トリスが落ち着いたようでほっとした所を、

今度はサリアの声がフィルを呼び掛ける。

「うん、どうしたんだいサリア?」

「午後からはフラウちゃんはどうします? 今からご飯の支度はちょっと早すぎますし」

そんなサリアの質問にフィルはふむと頷き、

隣に座っているフラウを見てみる。

たしかにサリアの言う通りで、

今は正午を少し過ぎたぐらい、夕食の時間にはまだかなり間がある。

流石にこの時間からご飯を作っていてくれと言うのは気の早い話だと思う。


それに午後の訓練は、それほど時間が掛からないだろうとフィルは予想していた。

実戦形式の訓練は、普通の運動と比べ激しく体力を消耗する。

極度の緊張と瞬間的な全力行動の繰り返しは

普段から訓練を積んでいるリラはともかく、

体力的にはごく普通の村娘と言ってもいいアニタやトリスでは

一、二時間も動ければいいところだろう。

そんな訳で午後の訓練とは言っても、

訓練は夕方前には終わるだろうから、

それから晩御飯を皆で作るでも十分に間に合うはずだった


フラウも特には考えてなかったようで

どうしましょう? とフィルを見上げ首をかしげる。

「ええと、おうちのお掃除をしちゃいましょうか?」

フラウの提案は有り難かったが、

時間が空いたからと、新しい仕事を与えるのはなんだか違うような気もする。

「うーん、掃除は魔法でやるつもりだったし、無理にやることないかなあ。そうだなあ……フラウの自由にしてていいと思うけど、それじゃあちょっと退屈かな?」

好きにしていいと言うのも、それはそれで無責任な気がしたが、

せっかくできた暇な時間なのだし、自由に使ってもらいたい。

そう言ってフラウの方を見やると

フラウはうーんと少し考えこんでから、にっこりと笑顔を返す。


「はいです。それじゃあこの辺りで遊んでいますね」

「うん、ごめんね、午後の訓練はそんなに時間はかからないと思うから、それから皆でご飯を作ろう」

「えへへ、はいです」

「何かあったらすぐに呼ぶんだよ? 困ったことがあったら……」

「もうっ、フラウちゃんはしっかりしていますし大丈夫ですって!」

尚も心配そうに言葉を続けるフィルだったが

その過保護さ加減に呆れたサリアから突っ込みが入る。


「う、それは、まぁ、そうなんだが……」

「本当にフィルさんは心配性なんだから……。フラウちゃん位の子供を持っている親御さんは、そんな風に娘を常に監視したりしませんよ?」

「監視だなんて、そんなつもりじゃないって。ただフラウが一人では寂しくないかと……」

「も~。そう言って一日中ずっと一緒じゃないですか? それじゃあフラウちゃんも息苦しくなってしまいますよ?」

「う……」


サリアの言葉に言い返すことも出来ずに黙ってしまうフィル。

たしかにサリアの言う通りで

自覚がなかったせいか、これまで気にして無かったが

ここ数日はずっとフラウと一緒だった。

初日こそは怯えるフラウを慰めることで頭が一杯だったが

だいぶ落ち着いた二日目以降もずっと一緒に行動しているのは

監視と言われも仕方がない。


「確かに……出会った時があれだったせいで気が回らなかったけど、確かにずっと一緒というのは変だよね」

そう言ってフラウを見てみると、

少し戸惑った顔で見上げるフラウと目が合う。

フラウは何と言ったものか、

視線を彷徨わせ、少し間思案していたようだったが

やがて何を言おうか決めたのか、もう一度フィルの方を見上げる。

「ええと……そうかもですね」

「そうだよね……気がつけずにごめんね」

やっぱりそうか、と、気落ちするフィルに、

フラウはでも、と言葉を続ける。

「でも、フィルさんと一緒にいるの好きです。これからも一緒に居たいなって……」

そう言って、えへへと笑い見上げるフラウの顔は少し恥ずかしそうだが

その視線はどこか嬉し気で、フィルの次の言葉を期待しているようにも見える。


「そっか……ありがとう」

「えへへ……私こそ、いつもありがとうです」

フィルの感謝の言葉にフラウも嬉しそうに言葉を返す。

思えばフラウがやって来てから、慣れない事に戸惑いもしたが、

二人で過ごすのんびりとした暮らしは、思いのほか心地よかった。

だからなのだろう。フィルもまた、できる事なら

このまま二人、静かな暮らしが続けばと漠然と思っていた。


「そうだな、僕も一緒に居たいんだと思う。初めは、あんな事があったからどうしたものかと悩んだけど、でも今はこうして暮らすのも悪くはないと思っている」

周りからの興味津々な視線もあって、

口にするのはかなり恥ずかしくはあったが、

憐憫だけで一緒に居る訳じゃないとは伝えたかった。

その気持ちが伝わったのかどうかは分からないが

フィルのその言葉にフラウの表情が期待から喜びへと変化する。

「えへへ、嬉しいです!」

そう言いながら嬉しそうにフィルの腕に抱きつき寄り添うフラウ。

「ふ、フラウ?」


皆の前という事もあって、抱きついてきた少女の扱いに戸惑うフィル。

フラウは女性として扱うべきなのか?

それとも幼い子供として扱うべきなのか?

そもそも女性はどうやって扱えばいいのか?

どちらにせよ男一人が長すぎてどう接するのが良いか分からないフィルは

考えばかりが空回りして動くことが出来ずに固まってしまう。


「あらあら、フラウちゃんは幸せさんですね」

「うんうん、フィルさんも嬉しそうですねーあつあつですね~」

声の方を見てみれば、案の定、

リラ達の微笑ましい光景を見る視線がフィルとフラウへと注がれていた。

仲の良い兄妹を見守るようなトリスの言葉にあわせて

サリアがうんうんと満足気に頷いている。


思えばこの話のきっかけは、サリアの言葉からだった訳で

一仕事やり終えた感を漂わせてこの状況を楽しんでいる問題の元凶に対して

フィルは無言の抗議を視線で訴えるが、

その訴えは軽やかに受け流されてしまう。


「ふふふ、それじゃあ、お二人が仲良くなったことですし、そろそろ訓練を再開しましょうか!」

「ふふっ、そうね、それじゃあフィルさん先に行ってますね!」

サリアの言葉にリラ達も同意し、それぞれ外へと向かっていく。

四人ともすっかり緊張の色が無くなったのは喜ばしい事だが

そのためのエサにされたようで何だか釈然としない。

仕方なしに結果良しと諦めたフィルはため息を一つつく。


「……それじゃフラウ、行ってくるね」

フィルとフラウの二人が残された居間で

まだ嬉しそうにくっついたままのフラウに声をかけるフィル。

「えへへ……はいです! がんばです!」

声をかけると、少し残念そうながらも

素直に腕を解放するフラウ。

そんなフラウの頭をもう一度撫でてからから

フィルはようやく腰を上げる。


せっかくの休憩が皆から弄られただけで終わり、

むしろ気疲れが増したフィルだが

それでも最後はフラウの笑顔に元気を取り戻し、

皆の後を追って外へと向かった。



---------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ