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邪神さんと冒険者さん 32

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射的場では、トリスがサリアにスリングを投げる時のコツを教わっていた。

「ふぅ……なかなか難しいですね」

「でも方向はいい感じだったし、この分なら直ぐに真っすぐ飛ばせると思いますよ。心持ち、もう少し早く放せば当たるんじゃないですかねっ」

そう言って、先ほど撃ち出したトリスの投げ方を真似ながら

この辺? と腕を止めて見せるサリア。

「この、辺? かしら?」

「そうそう、私は大体この辺で手を放してますよ」

そう言って、今度は放つときの仕草をして見せるサリア。

バードの職業病とも言うべきか、身振りが少し大げさな感じになっているが、

それだけに分かり易くもあり、説明には丁度よい。

なるほどーと感心しながら説明に聞き入るトリスだけでなく、

その横では、練習している武器が違うはずだが

アニタも一緒になって、なるほどーと説明に聞き入っていた。

そこに剣の訓練を終えてやって来たフィルとリラも加わる。


「あ、フィルさん! ね、トリスの投げ方はフィルさんからはどう見えました?」

やって来て早々にフィルに尋ねるサリア。

このメンバーで唯一の実戦経験者であるフィルなら

もっと実践的なコツを教えてくれるかも、との考えなのだろう。

先ほどのトリスを投げている姿を思い返し、

ふむ……と少し考えたが基本は出来ていたし、

特にこれと言って問題にするような所は思い当たらなかった。

「覚えたてであれだけ真っすぐ飛ばせるなら十分凄いと思うよ? 投げ方も問題ないように見えるし、それに威力もありそうだったしね」

後は練習して慣れるぐらいだよと言うフィルに、

先輩冒険者から問題無いと言われるのは心強いのだろう

ほっと笑顔を見せるトリス。


「ふふ、ありがとうございます。サリアは教え方がとっても上手なんですよ」

「いやーそんなことないですよー。本人の素質ですって!」

自分が褒められて、こちらも嬉しいのか気恥ずかしいのか、

サリアはお返しですよとばかりに褒めてくれたトリスを褒め返す。

お互いに褒めあう少女たちを眺めながら

フィルは、サリアは自分の時もこの位の優しさを持ってくれればなぁ

と思ったりもしたが、口に出せば、絶対に藪蛇になりそうなので、

とりあえずは黙っておくことにする。


「メイスだって使いこなせるみたいだし。人は見かけによらないですよねー」

ね? とフィルに同意を求めるサリア。

確かに、クレリックという事もあってか

普段はリラ達三人娘の中でも一番おっとりして見えるトリスだが、

こうしてチェインメイルを身に纏い、

武器を振るう姿は普段と違い凛々しさすら感じる。

とはいえ、こうして訓練の合間では

いつものおっとりした感じにすぐ戻るあたりは

やはりこちらがこの娘の素なのだろうと思える。


「たしかにそうだね。ところで、サリアの方はスリングの腕前はどうなんだい?」

「ふっふっふ。見てみますか?」

サリアのスリングの腕前を問うフィルに

自信満々でサリアはトリスからスリングを受け取ると、

受け革に石を装填して、手にしたスリングを数度回転させる。

遠心力で綺麗な円を描き

回転する紐の速度が十分な速さになったところで放たれた石は

空を裂く小気味良い音を立てながら飛び、そのまま的に命中する。


「やたっ!」

「ほう、上手いものだね。投げ方も綺麗だったし」

「どうです? サリアちゃんを見直しました?」

ふふふんと控えめな胸をそらすサリア。

「ははは、これだけ上手ければ心強いね」

「まぁでも、威力はトリスに敵わないんですけどねっ」

「それでも命中するって言うのは大事だからね。良いことだと思うよ?」

「ふふふ、フィルさんに褒めてもらえるとは、明日は雨にならないといいですね! はい、それじゃあどうぞ!」


憎まれ口を返しつつもも褒められたのは嬉しいのか

上機嫌なサリアは、今度はスリングをフィルへと差し出す。

「私も見せたんですから、フィルさんの腕前も見せてくださいねっ」

そう言いながらもう片方の空いている手でフィルの手を取り。その上にスリングを乗せる。

「うふふふ、これで外したりしたら、罰ゲームですからねっ」

なし崩し的に罰ゲームを賭ける事にして悪戯っぽく笑うサリア。

そんな少女にフィルはやれやれと苦笑いを浮かべる。


「まったく、仕方ないなぁ、そんなこと言っていると次から褒めないよ?」

そう言いながらスリングを受け取るフィル。

「えーいいじゃないですかー! サリアちゃんは褒められて伸びるんですよっ。さぁさぁお手本な腕前を見せてくださいねっ!」

フィルの抗議に悪びれもせずに、

手を取ったまま、そのまま射撃をする場所までフィルを引いていく。

「腕前と言っても普通だと思うけどね……」

ノリノリなサリアに手を引かれ、

はいっここからですよっと立たされた所は

サリア達が練習に投げている位置からもさらに倍近く離れた位置だった。

そんな所に新たに線が引かれて

ここを超えちゃダメですからねと立たされるフィル。


「はい、それじゃあ、頑張ってくださいねっ」

楽しそうなサリアの言葉に、

仕方ないなぁと諦めのため息を一つ吐いた後、

フィルはスリングを回転させる。

数度回転させ、スピードが乗ったところで

そのまま更に投げるように腕に力を入れ振り切る。

遠心力と投擲の威力が乗った弾は

バチンと言う破裂音と共に凄まじい勢いで撃ち出され、

的に当たると激しい音ともに的を弾き飛ばす。


「あ、あれ?」

スリングの威力に当のフィル自身が戸惑っていた。

神になって以来、敏捷や筋力など自身の能力が全体的に上がっている事は感じており

これでも大分抑えたつもりだったが、

想像していた以上の威力だった。

少なくとも先ほどの一撃は、フィルが人間だった頃では出せない威力だ。


「わぁ……すご!、スリングってあんなに威力が出るものなんですか!?」

「は、ははは、力を乗せられれば威力も上がるからね。ほら、マジックアイテムで筋力とか上げてるし」

うわーと無邪気に感動してくれるリラに少し慌てて答えるフィル。

まぁ、あれぐらいならマジックアイテムのブーストがあれば実現可能な威力だし、

まだ異常な状態とは言えないはず、と何とか動揺を隠し平静に努める。


それにしても、こうして分かりやすい形で見えてしまうと、

たしかに異質に見えてしまうのかもしれない。

やはり、こういった事をする時は注意が必要だと、改めて思い知るフィル。


「むぅー、フィルさんの苦手な所でもありますとかだったら少しは可愛いのに!」

「ははは、これでも訓練を受けた身だからね。この位はさすがに出来ないとね」

リラ達三人には素直な尊敬の眼差しを貰えたのだが、

そう言いながらむくれるサリアに、苦笑い浮かべるフィル。

フィル自身、もちろんスリングの扱いは身に着けているし

弓やクロスボウと違って常に持ち歩いても邪魔にならず

手軽に遠距離攻撃を行えるスリングは

予備武器として、普段から所持もしている。

一度も使った事が無いような武器ならともかく

それなりに使う武器ならば、これ位は出来て当然と言える。


「やれやれ、僕に何を期待しているのだか……と、そうだ、アニタはクロスボウはどうだい?」

スリングの話題ですっかり目的から離れてしまっていたが、

元々ここで練習するはずだった武器を思い出したフィルは

そろそろサリアからの追求を逃れたい下心もあって

両手でクロスボウを抱えるように持った少女へと話題を振る。

「アニタは元々器用だもんね。魔法の武器を使ったらかなり当たるんじゃないの?」

リラの言葉にアニタは少し照れくさそうに頷く。

「うん、このクロスボウ、魔法のおかげか、ほとんど的から外れないみたい」

聞けば練習を始めてから、

かなりの数撃っているが一回しか外していないのだという。

「魔法の武器を使っているとはいえ凄いですよね!」

「ああ、それだけ当たるなら木の的は十分そうだね。後は動く的で試してみるのがよさそうだ」

アニタを褒めるサリアに同意してフィルも頷く。

動く的……という事は、先ほどまでリラがやったように

実戦形式で襲ってくる相手に、という事なのだろう。

フィルの言葉にアニタは少し緊張して頷く。


「とはいえ、その練習はお昼ご飯の後にしようか。そろそろ時間も良い頃だし」

フィルがそう言ったその時、

屋敷の玄関が開いて、家の中からフラウが顔を出した。

フラウはフィル達を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「みなさーん。ご飯できましたよー?」



フラウに手を引かれて食堂へと向うフィル。

その後にリラ達も続く。

食堂に入ると既に料理と皿が準備してあり、

昨日と同じように席を片側に寄せて並べられたテーブルには

大鍋に入ったシチューと、大皿に盛られた茹でたてのジャガイモがどんと置かれていた。


「おおー、これは美味しそうだね」

そう言いながらフィルが鍋の中を覗いて見てみれば、

白いシチューの中にたっぷりの野菜やベーコンや鶏肉が入っており、

そこからは熱したチーズの良い香りが漂ってくる。

ジャガイモの方はといえば文字通り大皿一杯に山と盛られており

こちらからも湯気と共に茹でたて特有のいい香りを漂わせていた。


「皆さん運動の後ですから、お腹空いているかなって、たくさん作っちゃいました」

「確かに、これならお腹一杯になれそうだね。それにしてもこれだけの量、頑張ったね」

「えへへ、頑張りました! はいです!」

フィルの言葉に嬉しそうに答えるフラウ。

そんな少女に、ありがとうと頭を撫でるフィル。

「えへへ、さぁフィルさんも座ってくださいです!」

「そうだね。さっそく頂くとしようか。茹でたてのジャガイモって美味しいんだよね」

「はいです! たくさん食べてくださいねっ」


運動の後という事もあり、空腹も丁度良い頃合いの一同は

さっそく席につきジャガイモを取りスープを皿に盛る。

バターの置かれた皿から、バターをすくいたっぷりつけて、

そこに塩をかけてからジャガイモを口に放り込む。


茹で立てのジャガイモは芯までほくほくとして

そこに塩味とバターのコクがあわさり、

シンプルながらも沢山食べられる美味しさだった。

シチューの方もミルクとチーズのスープの中に

カブや大麦、ベーコンや鶏肉がこれでもかと盛り込まれ、

これまた食べ応え満点となっている。


「いやぁ、茹でたてのジャガイモってどうしてこう美味しいんだろうね」

「こっちのシチューもすごく味があって美味しいですよ」

「うん、本当にすごく美味しいね」

サリアの言葉に同意を返しながら、

フィルもまたシチューの一杯目を平らげる。

「えへへ~、お代わりも沢山ありますからね?」

「ありがとう。それじゃあ遠慮なく貰っても良いかな?」

そう言って差し出された空の皿を嬉しそうに受け取ると

お皿にたっぷりとシチューを盛って、フィルへと返す。

「はいです! 沢山食べてくださいねっ」


朝には村まで行ってあれこれと駆けずり回り、

その後は訓練で武器を持って駆けずり回りと、

朝からずっと体を動かして空腹になっていたフィル達は

全員が旺盛な食欲を発揮して

茹でジャガイモとシチューを全て平らげていった。

昨日の夕食ではどちらかと言うと控えめだった、

アニタとトリスも流石に今は空腹なようで

それぞれ少し恥ずかしそうにシチューをお代わりしてしている。


「ご馳走様。美味しかったよ。それにしても、食料は近いうちに買ってきたほうが良いかもね」

「えへへ……そうかもです」

一カ月ぐらいは持つだろうと思っていた食料は、

元々二人で食べることを想定しての量だったため、

これだけ大人数で食べると、あっという間に減っていく。

食料は他にも色々買ってあるし、今はまだ在庫も十分な余裕があるとはいえ、

このペースで消費していくと食料が尽きるのは予想よりもかなり早くなりそうだった。

「……まぁ、あと一週間は大丈夫だろうし、その後でもいいか」

「えへへ、その時はまた街にお買い物です?」

「そうだね。次はもっとゆっくり見て回ろうか」

「はいですっ」

街での買い物を思い出したのか

嬉しそうに尋ねるフラウにフィルも笑って答える。



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