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邪神さんと冒険者さん 29

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村での用事を済ませて屋敷に戻ったフィル達は

お昼ご飯の前に軽く訓練をしようという事になり

リラ達三人とサリアは休憩もそこそこに、

それぞれ装備に着替えるため部屋へと戻っていった。

残されたフィルとフラウの二人は

居間でソファに座り、のんびりと皆が戻ってくるのを待つ事になった。


「フィルさんは準備とかしなくても良いのです?」

居間のソファでいつものようにフィルの横にちょこんと座り、

こちらを見上げて尋ねるフラウにフィルは笑って答える。

「ああ、僕の方は準備は終わっているからね」

「でも訓練って戦うんですよね? 朝からずっと戦えるように準備済みだったんです?」

「うん、まぁ、実際の所は普段から何時でも戦えるよう準備してあるだけなんだけどね」

わぁと感心をしてくれたフラウに

特別な事は何もしていないのだと照れ笑いを浮かべるフィル。

準備をしていたと言えば聞こえが良いが、

実際の所は冒険者をしていた時の習慣が抜けておらず

何時襲われても戦えるようにしているだけで

訓練の為、特に何かしたという訳ではなかった。

とはいえ、一応、昨日の夜には訓練用に呪文を覚え直しているし

魔法使いとして、やるべき準備はやっているとは言える。


「ふふふ、それでもちゃんと準備していたんですよね。フィルさんえらいです」

「そんなに偉いもんじゃないさ。冒険者やっていた時、ずっと何時襲われる分からない生活だったせいで、すぐ戦えるようでないと、どうにも落ち着かなくなっちゃってね」

「ふぁ~、そうなのです?」

苦笑いまじり溜息まじりにそう言うフィルを不思議そうに見るフラウ。

ドラゴンに支配された村育ちといえども

流石に突然寝込みを襲われた経験は無いようで

どんな生活なのだろうと首をかしげる。

そんな少女に実感できない方がいい事だよと、笑いながら頭を撫でてやるフィル。

「あ、でも、そのおかげで街ではサリアさんを助けられたんですよね? それに今みたいにゴブリンが出たりもしますし、準備しておいて良かったですよね?」

フィルの自嘲にも、いい所見つけましたと嬉しそうに言うフラウ。

そんなフラウにありがとうと頭を撫でるフィル。

「そうだね。もう暫くは今のまま、準備しておくつもりだよ」

「はいです!」



それから暫らく居間で待っていると準備を終えた四人が戻ってきた。

どうやらサリアとアニタは、リラとトリスの鎧の着付けを手伝っていたらしい。

「おまたせー」

「おかえりなさいですー。わぁ、皆さんかっこいいです!」

部屋に入るリラの声に振り向いたフラウは

皆の姿を見て歓声を上げる。

フィルもまた入って来た四人を見てほうと息をつく。

「ほう、これは随分と……」

フラウが褒めたように、四人ともこうして装備を整えてみると

なかなかどうして、ちゃんとした冒険者のように見える。

しかも、鎧やローブなどに女の子らしさが感じられ

機能一辺倒で戦闘集団といった見てくれだった前のパーティからすると

なんとも、随分と華やかな印象を受けた。


「これ……どうですか?」

少し照れくさそうにそう言うリラ。

リラとトリスはチェインメイルの上からお揃いのサーコートを羽織っていた。

スカート付きのサーコートが金属鎧の冷たい印象を包み

普段フィルが目にする戦士とは違った女性らしい雰囲気を出している。

(あの無骨なチェインメイルがここまで見違えるとは)

アニタの方も、フィルが着ているような飾り気の無い旅用ローブと違い

下がスカートになった可愛らしいデザインの女性用ローブを着ていた。

魔法の品では無さそうだが、胸にはリボンが付いているなど

おしゃれに気を使う所が少女らしくもあり、なんだか微笑ましい。


「さすがに女の子というか。なんか装備が可愛らしいね……」

「何をスケベなおじさんみたいな事言っているんですか」

そう肘でフィルを突きつつ、突っ込みを入れるサリアは、

村に来るまでと同様、旅の服の上にレザーアーマーを着込んでいる。

街から村への道中はあまり気にしなかったが、

こうして見ると、三人と一緒にいても違和感のないあたり、

サリアもなかなか女の子らしい、可愛らしい格好と言える。

「いや、そうは言うけど、僕の貸したあの鎧がこうも可愛くなるとさすがに感心するよ」

そう言ってもう一度皆を見るフィル。

サリア以外の三人が照れくさそうにしているのは

普段着ることが無く、着慣れていないからだろうか。

とはいえ、そう恥ずかしがられると、なんだかこちらも照れてしまう。


「よ、よし、みんな準備は済んだようだね。それじゃあ装備を渡しておくね」

取り敢えず、別の事を考えればすぐに恥ずかしさも消えるだろうと

そう言いながら、フィルはバッグからカイトシールドを二つと、

ルビーが装飾されたクロスボウを取り出す。

「おー、これが魔法の盾なんですね!」

案の定、すぐに意識が盾に移ったリラは

嬉しそうに盾を手に取り、

手の甲でコンコンと叩いて感触を確かめながらフィルに尋ねた。


「うん、強い魔法じゃないけどね。そのチェインメイルと一緒で単純に防御を増すための魔法だよ。こっちのクロスボウは、命中しやすくなるのと、対悪属性の敵に対して追加で魔法ダメージを与える付与がされている。あと、戦闘時に敵に意識を集中させてコマンドを唱えると相手を恐怖させるコーズ・フィアーを一日一回使用できるから後で練習しておくといいよ」

「は、はいっ」

「ふふ、そんなに緊張することないって。アニタだってクロスボウは使ったことあるんだし」

フィルの差し出したクロスボウを恐々と受け取るアニタに、

リラは軽い調子で励ましの言葉を贈ると、

さっそく盾を腕に着け、軽く振って重さの確認をしている。


アニタはそんな、友人にため息をつくと

「ねぇリラ……この装備って幾らぐらいするか知ってる?」

「え? さぁ?」

友人の呑気な返事にアニタは心配そうな視線をフィルへと送る

その視線を受けてフィルは少し苦笑いする。

「はは、大事に使ってもらえれば、そりゃもちろん嬉しいけど、自分の身を守ること優先でいいからね?」

「え、は、はい!」


元より魔法の武器と言えば高価な品物なのだが、

単純に強化されただけでなく、

他にも複数効果を持つアイテムは、さらに高価な品となる。

魔法使いであるアニタもその辺の事情は知っていたのだろう。

付与された魔法の多さに心配そうに武器を見る。


「ほらーフィルさんだってそう言ってくれてるじゃない。心配しなくても大丈夫だって!」

魔法の鎧に盾、普通に暮らしていたら、

まず身に着けることは叶わないであろう装備達。

そんな装備に身を包み、嬉しそうに腰回りや肩の動きをあれこれと試したり、

武器の構えのポーズを試して、鎧が体に馴染むよう動きの確認をするリラ。

「こうして魔法の装備で身を包んだ姿を見ると、リラも凄腕の冒険者みたいね」

「えー? 鎧の見えてる部分なんてほとんど違い分からないし、盾は一緒なんだし、トリスだって似たようなもんじゃない?」

「いいですよねー私も何か装備欲しかったなー。いいなー魔法のそうびー」

「皆さんとっても強そうです!」

お互いの装備した武具を見て、

わいわいと楽しそう装備を弄るリラとトリスにサリア。

それに混ざってやっぱり楽しそうに装備を弄るフラウ。

アニタはそんな友人達の能天気な様子を見ながらフィルに尋ねた。


「この武器っていくらぐらいするのですか?」

「うーん、あまり気にしないで貰いたいけど、二万ちょっとぐらいかな?」

値段を聞いてアニタの顔が強張る。

駆け出しにすらもなっていない彼女からしてみれば、

金貨百枚というレベルでもすでに大金だ、

食堂の仕事を何年すれば返済できるのだろうという思いがよぎる。


顔色から血の気が引いていく少女の様子を見て、

フィルは少し慌ててフォローを入れる。

「これは冒険の最中に手に入れたものだし、元より誰かに使ってもらうために取っておいた物だし、本当に気にしなくていいからね。それに魔法で強化されているから、そう簡単に壊れたりしないよ」

「はい、ええと……だ、大事にします!」

まだ強張っている少女の頭に手を載せ、優しく撫でてから

フィルは後ろでリラをモデルにポーズ大会をしている四人に声をかける。


「それじゃあリラ、準備が終わったら軽く訓練を始めようか。まずは盾は無しで行こう」

フィルの言葉にリラの顔が真面目な表情になる。

「分かったわ。よろしくお願いします!」

トリスにアニタ、サリアもいよいよかと表情を引き締めた。

「あと、アニタは暫くはそのクロスボウに慣れてもらおうかな、今日の分としてボルト五十本を使って練習をしてみて。トリスとサリアはアニタの手伝いをしてもらっていいかな?」

「分かりました」

「はっはい!」

「わかりましたー」

それぞれ元気に返事をする娘達を見てうんと頷くフィル。

「午前中はリラの訓練をメインにして、四人で戦う訓練は午後からにしようと思うけど、結構大変になると思うから三人はそれまで軽い運動程度にして体を慣らしておく位がいいかもね」

「えーそれって、私はずっと大変ってことですかぁ?」

先ほどの真面目な顔から一転、情けない声を上げるリラに笑って答える。

「ははは、戦士は体力も大事だからね。その辺も慣れておかないとね」

「はーい……」


と、そこでフィルの手を小さな手が引いてきた。

「フィルさん、私は……何かお手伝いできます?」

見ればフラウがこちらを見上げている。

自分が戦闘に参加できない分、

頑張ってお手伝いしますとやる気満々なフラウ。

「ありがとう。フラウにはお昼ご飯を作ってもらえるかな? 野菜を切ったり手伝えなくて済まないのだけど」

「はいです!」

料理なら私でも大丈夫ですと笑顔で答えるフラウ。

「あ、何か食べたい物とかあります?」

フラウの頭を撫でてやりながら、そうだなぁと思案するフィル。

包丁とか火とか、使うのは危ないかもという思いがよぎるが、

フラウも家の手伝いで炊事はやっていたという事だし

基本的な料理ならお任せしても大丈夫だろう。

「さっきも山を登ったり、午後も結構な運動になるだろうから、お肉とか調味料とか贅沢に沢山使ったのが良いかな。あ、麦のスープも良いかな……腹に溜まるし」

「はいです! それじゃお肉とか贅沢に使っちゃいますね!」

「ははは、楽しみにしてるね」

頑張っちゃいますねと嬉しそうなフラウに見送られて

フィル達は、屋敷の外へと向かった。



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