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邪神さんと生贄さん 4

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フラウを連れて、フィルは二階へと向かった。

壁掛けのランプやシャンデリアが全て取り去られて

暗い廊下をランタンの明かりを頼りに進む。

昼間は玄関や東西の窓から日の光が差し込み、十分に明るかった廊下だが

さすがに月明かりはそこまで届かないようで、

昼間と違って、重々しい雰囲気が感じられる。


「この屋敷は、使用人も一緒に住んでいたらしくて、客間も含めると寝室が結構あるんだ。僕はそのうちの客間の一つを使っている。ああ、ここから階段だから気をつけてね」

ランタンを持って先導しながらフィルは部屋の説明を続けた。


二階には現在フィルが寝室として使用している客間と、もう一つ客間があり、

残りは元貴族の寝室と私室、使用人の部屋が二つとなっていた。

使用人の部屋と客間はどちらもベットや家具などが残っており、

寝泊まりする分には問題なさそうだった。


元主人の寝室は縁起悪そうだから、

後で魔法の実験室にでもするつもりと冗談を言いつつ、

順に部屋を見ていく。


客間はフィルの住んでいる部屋と間取りこそ違うものの、

家具などは同じ構成で、なかなかに住み心地が良さそうだった。

豪華なベッドを興味深そうに手で押してみたり、

椅子に試しに座ってみる。

「なんだかお姫様になったみたいです」

楽しそうな少女の様子に、先ほどの怯えた様子が無くなった事にほっとしつつ

フラウを次の部屋へと案内する。


使用人の部屋はといえば、広さは客間の半分ほどだが、

それでもサイドテーブルや椅子、クローゼットなどはきちんと用意されており、

ベットも客間の様な二人分は寝れる大げさな物でなく、

人一人が快適に寝れる適度な大きさであり、

これはこれで住み心地は良さそうな部屋だった。


何より、前の持ち主が綺麗好きだったのだろう、

部屋は万全な状態で整えられており、

下手な安宿の個室などよりも遥かに住み心地が良さそうだった。

こちらもベッドに腰かけてみたり、椅子に座ったりして使い心地を試すフラウ。

「こっちもちいさいですけど、すごく気持ちよさそうです」

「さて、どれか気に入った部屋はあったかい?」

一通りの部屋を見て回り、どれも好きなのをどうぞと、少し得意げに言う。

だが、そんなフィルに対してフラウは困った様子で、

「あの……フィルさんと一緒のところがいいです」

「えっ……」

「だめ……です?」

 思いがけない言葉に顔が赤くなるフィルに対して、フラウは言葉を続ける。

「ここの廊下、暗くて……お化けでそうで……一人でいるの怖くて……です」


本気でおびえた様子で懇願するをフラウを見て、

それから今通ってきた廊下を見てなるほど納得する。

確かに暗く静まり返った屋敷は不気味といえば不気味だ。


普通の貴族の屋敷なら、夜でも使用人が働いているから、もう少し人の気配もあるだろう。

……何より、少なくとも照明がきちんと準備されて廊下が真っ暗なんてことは無いはずだ。

 さらに言えば、手持ちのランタンの明かりは屋敷の奥までは届かず、

あの闇の向こうから何かが出てきそうな感じがしなくもない。

これもフラウを怖がらせてしまった一因かもしれない。


「確かに……明かりのない家はお化け屋敷も同然だね……すまない。廃墟とかダンジョンとか当たり前だったんで気がつかなかった」

まじめだが的外れな答えと反省に、一瞬きょとんとしたものの、

すぐに説得を再開するフラウの顔は真剣そのものだった。

「ご迷惑かもなのですけど、お願いします!」

「ああ……大丈夫。分かったよ。僕の部屋で寝るといいよ」

(本当に怖いのだろうけど、僕だって男なんだけどな……まぁ怖がられるよりはいいか)

泣きそうな顔でほっとするフラウ。

そんな少女を見て、何となく自分の立ち位置を把握したフィルは、

いったん浴場に戻ることにする。が……。


「あの、フィルさん」

「うん? どうかした?」

「あの、その……お手洗いを……」

「ああ、たしかここを真っすぐ行った……」

「あうぅ……一緒に来てほしいのです……怖いです……」

本当に泣きそうなフラウ。

慌てて、フラウをトイレまで連れていき、

ランタンを持たせ前で待っているよと伝え扉を閉める。

定期的に聞こえてくるフラウの問いかけに逐一答えつつ、

フィルはがっくりとうなだれた。



「さてと、湯加減も丁度いいみたいだし、フラウが先に入るといいよ」

「はいです! でも……そ、その、ちょっと暗くて」

フラウは大きなお風呂に入れることには、今すぐにでも入りたそうだったが、

その前、お風呂の前に広がる闇に躊躇していた。

浴室はそれなりの広さがあり、ランタン一つの明るさでは確かに心もとない、

幼い娘が暗闇の中、この明かり一つで取り残されるというのは確かに心細いのだろう。


少しだけ思案した後、フィルは腰のバッグから金貨を一枚取り出し、

掌に持つと短く呪文を唱える。

すると金貨は白い光を放ちだし、それはすぐにも浴室全体を照らす明るさになる。

フィルは光る金貨を、浴室に備え付けられた、

本来あるはずの物が持ち去られたランプ掛けに置いた。


「これだけ明るければ大丈夫かな。コインは僕が入ったときに回収するから、そのままにしてていいからね」


返事がないことにおやっと振り返ってみると、

フラウはぽかんとした表情で金貨を見つめていた。

「うわぁ……すごいです! フィルさんって本当に魔法使いだったんですね!」

初めて見る魔法、暗い部屋も一瞬で明るくしてしまう魔法の技に少女は素直に感動しているようだった。

が、ふと何かに気が付いたようで、少し拗ねた顔になる。


「あの、こんなことができるならこのお屋敷を暗くしたままにしなくてもいいんじゃないですか?」

「あ~、いや、ごめんごめん。でも、このライトの呪文は今日は一日二回分しか準備してなかったんだ。あまり無駄遣いしたくなくてね。それに、この呪文は一度に一つの物しか光らせることが出来なくてね。一度にたくさんの物を光らせることが出来ないから家の照明には向かないんだよ」

フラウはまだ少しふくれていたが、

もう一度ごめんね?と謝ったことで、

ようやく機嫌を直してくれたようだった。


「それじゃあ、すぐにお風呂に入っちゃうですね」

「うん、熱くなったらそこの蓋を上にあげれば冷たい水が出るからね。それじゃあ、隣の厨房にいるから、ちゃんと入ってくるんだよ?」

それでも少し怯えた様子のフラウを宥め、

落ち着いたところで、ようやくフィルは厨房に向かった。



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