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邪神さんと冒険者さん 22

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「それじゃあ、行ってみましょう! 第一回! 冒険者講座ー!」

まるで司会者のようなサリアの掛け声とともに、

わーという皆の拍手がフィルへとむけられる。

皆の妙なテンションに、あっけにとられるフィル。


……その少し前。

風呂から戻ったフィルが、窯の火を落とすために厨房に入ると、

そこにはまだフラウ達が全員集まっていた。

「あ、フィルさん。お帰りなさいです!」

フィルを見つけて元気に駆け寄ってくるフラウ。

「ただいま。まだここにいたんだ?」

そんなフラウの頭を撫でてやりながら尋ねるフィル。

「はいです。フィルさんが来てから、みんなで居間でゆっくりしましょうってなったんです」

「飲み物とか持っていくなら、フィルさんを待ってからの方が良いかなと思いましてね」

フラウを補足するサリアになるほどと頷くフィル。

そのまま、一同、居間へと戻り、

ソファに座ったところで、先ほどのサリアの掛け声となったのだった。



「さぁさぁ、冒険とは剣や魔法が使えればいいという訳ではありません! ここは先輩であるフィルさんに、冒険者としての知識を教えてもらいましょう! 明日では疲れて授業どころではないでしょうからねっ!」

司会進行役なのか、明るい調子で言うサリアに、皆がわーと言いながら拍手を鳴らす。

見れば、フラウもリラ達三人も、全て承知済みといった感じで、

驚かせたことを遠慮してか、少し控えめなトリスとアニタに対して、

リラやサリアは押し切ってしまえとばかりに、全力で拍手をしていた。


やれやれと、隣を見ればフラウも一生懸命拍手をしていた。

「フラウも、こうなることを知っていたんだね?」

「えへへ、はいですっ」

いきなり先生役を押し付けられて面を食らいはしたが、

びっくりしました? と楽しそうにそうに答えるフラウを見ると、

まぁ、それも良いかと気持ちになってくる。

フラウに毒気を抜かれて笑いあっているフィルの様子に、

計画通りと言った満足気な顔で、

フラウの更に隣に座るサリアが話を進めようとフィルを急かす。


「それではフィルさん。今回は第一回という事で、ゴブリン退治でお願いします!」

「なるほど……。とはいえ何から話したものかな……」

「そうですね~。はい! ではまず、前もって準備しておくものをどうぞ!」

さぁどうぞ! と、フィルをせっつくサリア。

こういう時、バードと言うのは本当に上手いものだと感心する。

……できれば自分を巻き込まないで、やってもらいたいところだが。


「う、うん、そうだな……まずは明かりかな。僕達は全員、人間だからね。暗闇を見ることが出来ない。だから照明は最も優先させる物だね。たとえ自分が使わないとしても予備として各自、松明を二、三本持っていくぐらいが良いと思う。これはどのダンジョンでも変わらないかな」

そう言うとフィルは一同を見渡す。

今回の件で、たぶん暗闇の怖さを嫌でも実感するだろう。

出来る事なら、怖がるぐらいで済んで欲しいなと思いながら言葉を続ける。

「人間は暗闇を見ることが出来ないから、明かりが無くなった瞬間、パーティ全員の視界が無くなってしまう。ゴブリンを含めて暗闇で物を見れるクリーチャーはかなり多いから、不意打ちを食らうというのが一番だけど、最悪な場合、同士討ちもあり得るからね。パーティで進むのなら常に松明を二つ以上灯しながら進むのが良いと思うよ」

フィルの言葉に一同がふむふむと頷く。


「ただ、松明は明るく照らせるのはせいぜい六メートルで、最大でも十二メートル先が見えるぐらいだから、探索の時は、それに追加して魔法の灯りを用意しておいた方がいいよ。ちなみにゴブリンは暗闇の中でも、おおよそ二十メートル先まで見えるから、松明だけというのも危ないんだ。今回だったら、アニタがライトの呪文を使って、サリアとトリスが松明を持つのが良いんじゃないかな。あと余裕があるならリラの装備にもライトをかけると良いと思う。ランタンは魔法が切れた時の予備に持つぐらいかな」

「なるほど、それじゃランタンは使わないんですか? 遠くまで照らせますし、お値段も買えないことも無いですけど」

リラの質問にフィルは確かにと頷く。


「確かにそうなんだけど、ランタンは壊れやすいんだよね。戦闘とかトラップとか、いつ壊れるか分からないから、あくまで壊れるのを覚悟で、予備として持つぐらいが良いと思うよ」

「なるほど……たしかに、何度も買い替えるのはちょっと……」

買えないことも無いとは言ったものの、

実際の所、比較的安めの覆い付きのランタンでも金貨七枚はする代物だった。

そんなものを、戦闘の度に壊すというのは

既に稼いでいる冒険者ならともかく、

今のリラ達の懐事情では、かなり厳しいものがある。


「まぁ、ランタンにも松明と比べて風に強いとか、遠くを照らせるとか長所もあるから、一つか二つあると重宝するのは確かだよ。僕も一つ持っているしね」

「たしかフィルさんのランタンって、魔法の品なんですよね? 冒険中壊れたらすごく勿体なくありません?」

食事の時に、明かりの少なさを指摘したサリアが、

フィルのランタンを眺めながら不思議そうな顔で尋ねる。

「うん? まぁ、このランタンが魔法で強化されているから壊れにくいというもあるけど、普段はこのバッグに入れているから、外からの衝撃は心配しなくてもいいんだ」

そう言うと腰につけている小さめなバッグをポンと叩いて見せる。


「この手の魔法のバッグの利点は、別空間になっているから沢山入るというのもあるけど、外からの影響を受けにくい、というのもあるんだ。ちなみに、割れ物を普通のバッグやポーチに入れていると、攻撃や吹き飛ばされた時の衝撃で、中で砕けることもあるから、瓶やランタンなんかは割れないように毛布に包んでおくとか、割れてもバッグの中の被害が少ないように別区画に隔離しておくといいよ」

「確かに、気をつけないとですね」

「今回はどうしましょうか?」

戦闘の一番激しい場所に身を置くことになるであろうリラと

その横に立つ事になるであろうトリスがそれぞれ感想をもらす。

「うーん、今回は長期の滞在という訳じゃないから、キャンプ用具とかは持たなくても良いと思うし、戦闘にも慣れてないし、動きやすいように松明と軽い食料と、治療用のポーション幾つかをバッグに入れて行くぐらいがいいんじゃないかな。あとは、リラは戦闘時にも使えるように、いつでも取り出せるポーチにポーションを数本入れておくと便利だと思う。トリスはもし治療の心得があるなら、簡単な治療セットがあると魔法の節約になるよ。それと、サリア」

一通り、荷物について説明が終わったところで、

フィルはサリアへと話題を振った。


「はい?」

「サリアは鍵開けや罠解除はできるかい?」

「あ~、一応やり方だけは習っているのですが、正直そこまで得意じゃないんですよね~」

あははと、少し申し訳なさそうに言うサリア。

(ふむ……僕がやってもいいのだけど、パーティとしてはサリアが出来たほうが良いか)

「このパーティ構成だとサリアにお願いする事になりそうなんだよね。一応僕も少しできるけど、まぁゴブリンの仕掛ける罠だし、そこまで手の込んだものはないと思うから、今回はサリアにお願いしていいかな」

「分かりました。頑張ってみますね」

任せてくださいと、笑顔で答えるサリア。

こういう時、なにも不満を言わずに受け止めてくれる人柄は頼もしくもあったが、

この娘に無理をさせているのではないかと、少し不安にもなる。

「うん、よろしく頼むよ。問題がありそうなら僕も手伝うから」


「こんな所かな……あとはそうだ、アニタはクロスボウを持っているかい?」

「い、いえ、持ってません」

突然話題を振られたアニタだが、

さすがにフィルにもだいぶ慣れたのか

少し驚いたそぶりを見せたものの

フィルの言葉にもしっかり返す。

その様子に、内心安堵しながらフィルは説明を続ける。


「駆け出しの内は、魔法を使える回数がかなり少ないからね。魔法以外でも援護が出来るようクロスボウを持っておくと良いよ」

一般に武器を用いての戦闘に不向きと思われるウィザードだが

そんなウィザードでも最低限の武器の扱いぐらいは習う。

具体的に言えば、扱いの簡単な、クラブ、ダガー、クロスボウ、クオータースタッフがそれであり、

その中でもクロスボウは、後衛にいる事が多いウィザードとは相性の良い武器と言える。

特に駆け出しの場合は、高レベルの冒険者と違い、

ファイターもウィザードも命中率にそう違いが無く、

援護射撃一発のまぐれ当たりが戦局を変える可能性もあるため

持っておいて損の無い装備と言える。


「は、はいっ。でも、あの、私もあまりお金持って無くて……」

リラ同様、普通の村娘であるアニタもまた、

武器とは縁の遠い暮らしをしていたのだろう。

そう考えると、こんな娘達を戦わせることが正しい事なのか

胸の中にもんやりとした罪悪感が湧いてくる。

「ふむ……それぐらいなら明日買ってあげるよ。ゴブリン相手なら普通の武器で十分だしね。もし売ってなければ僕のを貸すよ」

「ありがとうございます!」

ほっと胸をなでおろす小柄な少女を見て

胸の中にもんやりとした罪悪感が濃さを増していくが

今は仕方なしと、それを押し込めることにする。


「うん。とりあえず持っていくとしたらこれぐらいかな。あとは……今回は特殊な相手じゃないとはいえ、毒を使ってくるもあるだろうし、毒の罠がある可能性もある。この辺りの備えとして、毒消しのポーションや治療用具を僕の方でも用意しておくけど、十分に気を付けるようにね」

「「「「はい!」」」」


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