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邪神さんと冒険者さん 17

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全員の部屋も決まり、一階の居間に戻った一行。

燃料を節約するため、一旦フィル以外の手持ちランプの灯りを消すと、

部屋は再び、松明にかかる魔法の灯りが照らす明るさへと戻った。


「さてと、ご飯を作ってこようと思うけど、リラ達はご飯は済んでいるのかい?」

思えば、村へと向かう途中の休憩時に昼食の弁当を食べて以来、

飲み物以外は何も口にできていない。

村にたどり着いたら、村人に呼び出されるし、

家に帰り着いた後も、リラ達三人が訪ねてきて

なんやかんやで時間が過ぎてしまった。

普段の晩御飯の時間はとうに過ぎており、

三人とも口には出さなかったが、かなりお腹が減っていた。

一人ならば、文字通り手持ちの干し肉でもかじってその場をしのぐところだが、

フラウやサリアには、やはり簡単でいいから、

きちんと食事をさせてあげたい。


「あ……あはは、実は私たちもまだなんです」

三人に尋ねるフィルに、リラがえへへと照れ笑いで答える。

「そうか……どうせ今日は泊っていくんだし、夕食も一緒に食べていくといいよ」

いや~助かりますと、ニコニコと素直に申し出に乗るリラとは対照的に

アニタの方は恥ずかしそうに下を向いてしまい。

トリスはご飯までごちそうになっても良いのでしょうかと

少し心配そうにおろおろしていた。


「あの、突然お邪魔した身ですし、私たちは……」

「作る手間はそう変わらないし、やっぱ食べるなら皆で食べたほうが美味しいしね。良ければ一緒に食べてもらえると嬉しいな」

「……それでは、お言葉に甘えさせていただきますね」

フィルの言葉にそれならとほっとした様子で答えるトリス。


「喜んで。それじゃ僕はご飯を作ってくるね。まぁ、男の適当料理なんで味の方はあまり期待しないでもらえると助かるけど」

「あ、それじゃあ、私もお手伝いします!」

部屋から出ようとするフィルに、フラウが当然といった感じで、

座ったばかりのソファから立ち上り駆け寄っていく。

そんな少女にありがとうと頭を撫でながら尋ねる。


「それは凄く嬉しいけど、今日は一日色々あったし、疲れてない? 休んでいてもいいよ?」

「まだまだへっちゃらです。それに一緒に作ったほうがきっと楽しいです!」

そう言ってにっこりと笑うフラウ。

「ははは、ありがとう。それじゃ、お願いしようかな」

「はいです!」

ありがとうと、もう一度頭を撫でると、

フラウの方もえへへと嬉しそうに撫でられるのに身を任せる。

「あ、フィルさん、もしよければ私達も何か手伝いさせてもらえませんか?」

手伝おうとするフラウに勇気づけられたのか

厨房へと向かおうとする二人にトリスが提案する。

部屋を用意してもらった上、

さらにご馳走になるのは、さすがに気が引けるのだろう。

「私達も料理から普段からしていますし、皆で作ればすぐにできますわ」


たしかに、今日は六人分と、いつもよりも大量に作る必要がある。

その上、料理に慣れているとなれば、この手伝いの申し出はかなりありがたい。

トリスとしては、ただ好意に甘えるのは本意ではないのだろう。

これなら、気兼ねなく申し出を受けることが出来ますと

目の前でにこにことしているクレリックを見て、

フィルもまた素直に好意を受けることにする。

「ああ、それは助かるな。フラウはともかく僕はそこまで料理が得意じゃないからね。むしろ、料理が出来る人が居ると心強い」

その言葉にホッとした様子で、トリスとアニタ、

それに引きずられるようにリラも立ち上がる。


「むー、これでは、私だけになっちゃうじゃないですかー。私もそっち行きますー」

周りが全員立った後、

最後に残されたサリアも慌てて立ち上がる。

「かまわないけど、邪魔はしないようにね」

「はーい、私だってちゃんとお手伝いしますよー」

「ふむ、サリアは料理は出来るのかい?」

「私だって少しは料理ぐらいできますーっ」

といったんは頬を膨らませるが、すぐに自信なさげになり、

「……簡単なのだけですけど」

と、フィルから少し視線を外す。

ある意味、素直な態度にフィルも苦笑する。

「まぁ、サリアも頼りにしているよ」

「はい! 任されました!」

実際、冒険者なら野宿の機会も多く、

簡単な料理なら作れる者は多い。

それに、もし失敗したとしても

この人数ならそんなに大変な事にはならないだろう。

そんなフィルの打算を知ってか知らずか

上機嫌なサリアも皆について行く事になり、

一行は全員で厨房へと移動する。


「でも、こんなに大人数で行ったら窮屈じゃないです?」

居間を出たところで、サリアが疑問を口にした。

たしかに普通の台所なら六人も入ってはかなり窮屈になるだろう。けど、

「たぶん大丈夫です。このおうちの台所はとっても広いんですよー」

そんなサリアへ自信満々に説明するフラウ。

やはりすぐ近くに沢山の人が居るというのが心強いのだろう。

今日のフラウはフィルにくっつくことなく、

フィルの横で楽しそうにしている。

少し寂しい気もするが、この方がやはり良いのだと思う。

「ね、フィルさんっ」

「ああ、そうだね」

取り留めなく考えていたところを不意に呼ばれ

思考が現実へと引き戻される。

隣を見てみれば、フラウが笑顔で見上げていた。

今は怖くないはずだが、

それでもこうして傍にいてくれることが少し嬉しい。

早い所、屋敷の中にランプをきちんと設置して、

怖がらなくても済むようにしてしてあげたいとフィルは思う。


「へ~そんなに広いんだ? やっぱ、貴族のお屋敷と言ったらパーティとかしたんですかね」

「パーティです?」

「ええ、こうした貴族のお屋敷は、他の貴族を招いてパーティを開催するんです。皆で綺麗なドレスを着て美味しい物を食べたりするんですよ」

「わぁ~」

「私もバードの端くれとして、そんな場所で歌を披露してみたいものです」

まだ見ぬパーティに色々想像を膨らませているフラウに、

うんうんと頷くサリア。


「元の持ち主はそれなりの身分みたいだったから、一応そういったことも想定して建ててあるみたいだよ。こっちの部屋なんかは広い応接間や大食堂になってて、壁を取り外すと更に広く使える造りになっているからね」

サリアの疑問に、フラウから引き継いでフィルが答える。

へぇ~と大広間の扉を開けてのぞき込むサリア。

「おお~確かに広い! でも、こう暗くて広いと結構不気味ですね」

「まあね、それにその部屋、実際にはパーティに使われたというより、パーティを名目にした悪だくみの場だったみたいだしね」

(そしてそのパーティの参加者は全員処刑にされたわけだけど、さすがにそれは言わなくても良いか)

「ううう……そういうところにはお呼ばれされたくないですね…… それにしても勿体ないですよねー。これだけ立派なお部屋なのに、きちんと使ってもらえてないなんて」

そう言って扉を閉めるサリア。心なしか少し寂しそうに見える。

「そうだね、まぁ以前のように大広間として使うかはともかく、何かいい使い道が無いか、これから考えるさ」

「ふふふ、もしパーティを開くなら私が歌ってあげますよ?」

「そうだね、その時は頼もうかな?」

寂しげな顔から一転、今度は悪戯っぽい笑顔になるサリア

ころころと変わる少女の様子にフィルは少し苦笑をすると

再び厨房へ向かって通路を進んだ。



厨房に入ると、リラ達三人やサリアから、おおぅと歓声が漏れる。

「おー、確かに凄いですね!」

「わぁ、村の食堂の厨房よりも広いわね。あ、窯もあるんだー」

入ったとたん、歓声を上げて奥の方を見に行くサリアに、

一つ一つの設備を確認して、どんなことが出来るのか見て回るリラ。

「トリス見て見て、井戸があるよ」

「家の中に井戸があるなんて凄いわね。あれ、でもここって井戸あったかしら?」

水場ではアニタとトリスが井戸を見て不思議がっている。

「その井戸は魔法の水瓶から出ているんだ」

「「へぇ~」」

魔法の品と聞いて興味が湧いたのか

もう一度、井戸を覗き込むアニタ

他の設備を見て回ったリラや、サリアも加わって

わいわいと井戸端会議状態になっている。


そんな少女たちの様子を少し離れた所で見ているフラウとフィル。

その微笑ましい様子に顔を見合わせる。

「さてと、今日は何を作ろうか」

「そうですね~。ミルクやバターやお肉がありますし、シチューもいいですけど、昨日の夜もシチューでしたから、今日は豆の煮込みとかはどうでしょう?」

「ふむ、確か、街でレンズ豆も買ってあったね。あれなら煮込みも短くて済むし、それでいこう」

「はいです!」


その様子を背中で聞いていたトリスが振り返る。

「それでは、私たちはパンを焼きましょうか? 寝かせてないから無発酵の平パンですけど」

「いいわね、そうしましょ」

「私も、それでいいよ」

「私も焼きたてパンは大好きです!」

「それじゃ、私たちも頑張っていきましょう!」

「「おー!」」」

トリスの号令に、勢いよく返事する三人。


「それじゃあ、僕たちも始めるとしようか」

皆に食料庫や調理器具の場所を教え終わったフィルはそう言うと、

フラウと二人、調理台の前に立った。

買っておいた玉ねぎとニンジン、それとニンニクを刻む。

「あ、玉ねぎは僕の方でやろうか?」

「だいじょうぶですよー。だいじょうぶ……ごめんなさいー、お願いします~」

「ははは、分かった。それじゃあ僕と場所を交代しようか」

「はいです~」

玉ねぎで目を開けていられなくなったフラウにフィルが笑って応える。

フラウは暫く作業を中断してフィルの横で涙と格闘している。

ようやく涙も収まってくると、

玉ねぎを細かくみじん切りにしているフィルの横に立って料理を再開する。

「えへへー、こうやって一緒にお料理するのって楽しいですね」

「ははは、そうだね、今日はいつもよりも賑やかだしね」

そう言って見上げた先にはリラとトリスが小麦粉を練っているのが見える。


流石に戦士を志しているだけあって、

リラのこね方はなかなか力強い。

だが、意外なことにトリスもリラに負けずに

しっかりと小麦を練り上げていく。

「ふぅっ、こんな所でいいかな?」

「そうね、それじゃ、これを平たく伸ばしていきましょう」

「トリス、リラ窯の方は準備できたよー」

「ありがとうアニタ。平たく伸ばしたものから順に焼いてしまいましょう」


「僕らも、頑張って料理を作らないとね」

「はいです!」

手際よく進んでいくパン作りに感化されたのか

フィルの言葉にフラウも気合十分と言った感じで返事を返す。

切り終えた野菜やベーコンを、

今度はフラウが鍋に入れて炒めに掛かる。

良く炒めた野菜やベーコンに豆と水を入れて、

かき混ぜながら全体をなじませる。

流石に六人分は量が多いのか、

前よりも大きい鍋を一生懸命かき混ぜるフラウ。

最後に濃縮された街で買った出汁と塩を入れて味を整える。


「うん、美味しく出来ましたー。こんな味がお手軽にできるなんて便利ですよねー」

味を整えるために、味見をしたフラウは

美味しく出来上がっている事に満足しながら、

先ほど加えた出汁の効果に感心する。

「そうだね。おかげで出汁をとる手間が省けて大助かりだよ。少し高かったけど買っといてよかったね」

「はいです!」


フラウが豆を煮込んでいる間、

トリス達の方では続々と平パンが焼きあがっていった。

釜から引き揚げられたパンから放たれる

小麦が焼ける香ばしい香りが厨房に立ち込める。

「パンの方は順調そうだね」

「ええ、窯のおかげで、沢山のパンを一気に焼くことが出来ますからね。ちょっと贅沢な使い方ですよね」

様子を見にやって来たフィルの言葉にトリスが楽しそうに答える。


平パンは、薄く伸ばした生地を焼くだけの簡単な造りのパンで

きちんとしたパン焼き釜が無い家庭でも手軽に作ることが出来る。


パン釜は大抵公共の施設で、多くは有料だったり、

他の利用者も居て、利用できる日時に制限があるため

少し贅沢な品である普通の丸くて大きなパンと比べて

暖炉に置いた平たい石や鉄板で焼くことが出来る平パンは

気軽に食べることが出来る家庭の味と言えた。


「たしかにそうだね。できれば今度は普通のパンを焼きたいところだよ。せっかく家に釜があるんだしね」

「ふふふ、良いですね、焼きたい時に焼けるなんて、村には窯が一つしかないから、使うの大変なんですよ?」

「君達が良ければこちらの窯を好きに使うといいよ。遊びに来てくれればフラウも喜ぶだろうしね」


出来上がった煮込みの入った鍋とパン、それと皿とを持って居間に戻るため

厨房をでる一行。その一行をサリアが呼び止める。

「そうだ! フィルさん、どうせなら居間じゃなくて、食堂で食べてみませんか?」

「うん、確かにこの人数だと、居間じゃ手狭か……」

居間のテーブルはそれほど大きくなく、

六人分の料理を並べるには確かに手狭と言える。

なにより、居間のテーブルは高さが低く作られており、

食べるのにはあまり適していない。


二人だけの時は食堂は広すぎて使う気にならなかったが

今なら、あの広い部屋でも寂しい食事にはならないだろう。

「そうだね。それじゃあ、食堂で食べようか」

そう言うとフィルはすぐ横にある食堂の扉を開けた。



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