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邪神さんと冒険者さん 13

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「あ~これは明かりが必要ですね……」

「まったくだ……」

村の中心部を抜けて、

わが家へと向かう坂道を前に

サリアとフィルは馬を止めて、ため息を漏らす。


食堂での話し合いに時間を取られたせいで

辺りはすっかり夜の暗闇に満ちており、

家からの明かりが漏れていた村の中央通りや

月明かりに照らされた川辺の道はまだしも

川辺から外れ、さらに山へと続く家への道は

左右を覆う木々のせいもあって、

まさに闇の領域となっていた。


「なんというか……こうも真っ暗だと、ちょっと怖いですね」

「あはは、サリアは冒険者なんだから、こういった場所も慣れないとね」

吸い込まれそうな闇は、

道があるはず空間を塗りつぶし、

あたかもそこに巨大な穴があるかのように錯覚させる。

闇に余り慣れていないのか、

及び腰になるサリアに対して

これまでも何度も経験をしてきたフィルは

特に気にした様子も無く、

自分のカバンを探り松明を取り出すと、短く呪文を唱える。

松明に炎ではなくライトの呪文による光が

灯ったことを確認すると、馬を進めた。

「どうして、わざわざ松明にライトをつけたんですか?」

「うん? いや、大した理由じゃないけど、炎だと揺らいで見辛いというのと、手軽に持てるのがこれだったってことかな。剣とか盾持っても重いだけだし。あとは、戦闘になって地面に置いても燃え広がらないからかな」

「あ、なるほどー」

不思議そうに尋ねるサリアに答えるフィル。

なんだかこうしていると、

自分が新米冒険者に教える先生のように思えてくる。


坂道も中盤に差し掛かった頃に

不意にフラウがフィルへと振り返り口を開いた。

「フィルさん」

「うん? どうしたんだい?」

食堂での出来事以来、ずっと黙っていた少女に

少し心配していたフィルは、

問いかけに出来る限り優しい声で返す。

「あの、お願いです。村の人たちを助けてあげてください。このまま皆さんが死んじゃったら私……」

ずっと思い詰めていたのか、

声を詰まらせてしまった少女に

少なくとも少女に対して、

我ながらひどい事をしてしまったと反省するフィル。

「大丈夫、ちゃんと助けるよ。だから安心して」

「えっ……?」

意図もあっさりと願いが通ったことに、少し呆けるフラウ。

「どうしたの?」

「ええっと、フィルさんすごく怒っていましたし、てっきり見捨てられるのかと思っちゃいました」

「ははは、そりゃまぁ、フラウが助けて欲しいと願うならね。フラウの願いを叶えることなら頑張るよー」

我ながらも歯が浮くセリフに、

フラウの方はといえば、

少し考えていたようだったが、

暫らくすると意図を理解したのか、

照れ隠しのようにもうっと拗ねだす。


ライトの白い光のおかげで

フラウの顔が赤くなっているのがよく分かる。

そんなフラウの様子に満足しつつフィルは言葉を続けた。

「でも、このままじゃダメなんだよ。僕がいつまでもここにいられる訳じゃないからね」

「え……」

その言葉に、今ので終わりではないと察したフラウの顔が強張る。

「まだしばらくは居るつもりだったけど、元々この土地の人間じゃないしね。いつまでいられるかは分からないよ。それに、もし今回、村人たちが誰も手伝わないようなら、僕は早々にここを去ろうと思ってる」

「あ……あの」

「うん?」

「私は……?」

今度こそフラウの泣きそうな顔に慌てるフィル。

我ながら無神経なことを言ったことに猛省する。

「フラウさえよければだけど、その時は一緒に来てくれるかな? できれば一緒に来て欲しいんだけど」

「あ……はいです! あ、でも村の人……」

自分が必要と言われたことは素直に嬉しそうだったが、

そうなった後の村の事を思うと、

どうして良いか分からず、

結局困った顔に戻ってしまうフラウ。


「一応、戦い方は教えるとは言ったし、頑張ろうって若者の一人や二人はいるんじゃないかな。ほら、宿を出た時に居た兄さんとか」

フィルは宿を出た時に居た青年達を思い出していた。

普通の村人らしく戦闘慣れこそしていない様子だったが

少なくとも皆、のろまそうにも、貧弱そうにも見えなかったし、

何よりそれほど臆病そうに見えなかった。


「はいです。でも、もし誰も来なかったら……」

「うん?」

何かを考えているのか、

口にする事をためらっているのか

少しうつむき深呼吸をする少女。

「もし誰も来なかったら、私がお手伝いします!」

意を決して真っすぐ見上げていうフラウ。

決意に満ちた目はとても頼もしいものではあったが

「だーめ、フラウじゃ戦力にできないよ」

少女の一大決心はあっさりと打ち砕かれ

またも涙目になる。

だが、これはフィルも通すわけにはいかなかった。


「いくら戦闘の仕方を教えたとしても、フラウぐらいの年の子じゃ、まともに戦闘を続けられる体力もないし、武器も大人用の武器をまともに扱えないだろうからね。最低限、成人した人じゃないと、かえって足手まといになってしまうよ?」

「あぅ~」

優しくはあるが、明確な拒否に、

今度こそ涙がこぼれる。

とうとう泣き出した少女に、

松明を手綱を持つ手へと持ち替え

空いた片方の手でフラウの頭を撫でてやりながら優しく諭す。

「ごめんね。でもやっぱりそんな危険なことはさせられないよ。村の人たちに任せよう? ね?」

「はいです……」

きちんと納得することも、

泣き止むことも出来ていない様子だったが

それでも、はいと返事をしてくれた少女にありがとうと言い、

フィルは少しフラウを抱き寄せた。


それからしばらく登ったところで、

ほどなく一行は屋敷に到着した。

先に二人を居間で待たせておき、

フィルは桃の苗木を庭の日当たりのよさそうな所に植えると

買ってきた食料を食料庫へと詰め込む。


ようやく食料の積み込みが終わったフィルが

蜜柑を絞り入れた水の入った瓶を持って居間に戻ってくる頃には

フラウの機嫌もだいぶ落ち着いたようで

顔を見せたフィルに、少し恥ずかしそうに微笑んで見せた。


「おまたせ、僕も少し休ませてもらうよ」

やれやれといった感じでソファーに座り込む。

「おつかれさまです。あ、飲み物注ぎますね?」

「ありがとう。フラウ」

甲斐甲斐しく水を汲んでくれるフラウは

何処か少し嬉しそうで、

疑問に思いながらサリアの方を見てみると

こちらは少し悪戯っぽい笑みを浮かべている。


「はいです。すごく冷たい水ですね!」

「うん、皆も喉が乾いてるかなと思ってね。食料をしまう前に冷やしておいたんだ」

「えへへ、私も少し喉が渇いてたのです」

「おお~気が利きますね。優しいなぁ。あ、しかも果物も絞ってあるんですね! 気が利きますねー」

フラウに続いて、サリアも上機嫌でコップを取り水を飲む。

それから、街で買ったお菓子を取り出し、

暫くのんびりする三人。


「はは、とにかく、少しのんびりしたいな。さすがに今日は一日疲れたよ」

「そうですね~、ずっと馬に乗っていましたからね。慣れない乗馬は結構大変でした」

「私もなのです……晩御飯は少し休んでからでいいですよね……」

「ああ、こうしてのんびりしていると眠くなってくるよね……」


移動の疲れも溜まって

三人が揃ってソファーでウトウトしている時、

フィルは遠くから数人の足音がするのを聞き取った。

ただ、今回は足音の数は大分少ないようで

せいぜい三~四人と言ったところのよう聞こえる。

足音は次第に家へと近づき

玄関の前で立ち止まると、

今度は三人も聞こえるドアノッカーが叩かれる音が響いた。



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