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邪神さんと冒険者さん 12

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峠を越えて村に入り、

暫らくの間、左右を木々に囲まれながら

カーブした坂道を下っていた一行は

廃墟のある四辻が見えるところまで来た時

廃墟前に松明を掲げた人影が二つ、立っているのを見つけた。

二人共、服装を見る限りは村人のようだが、

腰にクラブらしい得物を吊り下げているのが見える。


「フィルさんフィルさん。あそこに誰かいるみたいです」

フラウも見つけたようでフィルへと振り返る。

「うん、そうみたいだね。あそこには、いつもああやって人が居るのかな?」

「うーん、あそこに夜、人が居るのは聞いたことありませんです。でも、夜にあそこに行ったことなないですから、もしかしたらいつも見張りをしているのかもです」

自分も詳しくないらしく、少し自信がなさそうなフラウ

そんな少女の頭を撫でてやり、ありがとうと伝える。

「なるほど、確かに夜出歩くのは危ないからね」

「はい、夜の村の外は危ないから行っちゃだめなんです」

今度は元気よく答えるフラウ。

「そっか、フラウはちゃんと言いつけを守ってたんだね。えらいな」

「えへへ」

フラウに元気が戻ったところでフィルは前方を見直す。


「とりあえず盗賊とかではなさそうだけど……武器を持っているのが気になるな」

見れば、むこうの人影もこちらに気が付いたようで

しきりに松明を左右に振っている。

まだ、空の光が残っているとはいえ、

夜も近づき、大分暗くなってきた街灯も無い山道では

遠くで揺れる松明の炎は、

さながら誘導灯のように見えた。

暫らくすると、二人のうち一人は奥へ走っていき、

もう片方がこちらを待ち構えるように道路に立ちふさがる。


「フィルさんたちって、村人と仲が悪かったりします?」

「いや……なにか不興を買うことした覚えはないが」

サリアの問いに、ねぇとフラウに聞いてみるが、

フラウもはいですと、やはり心当たりはないらしい。

「村から出たのを怒っているのでしょうか?」

心配そうにフラウがフィルに尋ねる。

馬の揺れで分かりずらいが少し怯えているようだった。

「大丈夫だよ。フラウは僕が絶対に守るから」

「はい……えへへ」

フラウが落ち着いたことを確認したフィルは

念のため自分は馬から降りて、

そのまま馬を引きながら四辻まで歩を進める。


フィル達を待っていたのは、やはり村人の一人だった。

村人は馬に乗ったフラウを見て

ほっとした様子でフィルへと話しかけてきた。

「良く戻ってきてくださった。実は村で問題が起きてしまいまして、貴方の力をお借りしたいのです」

「問題、ですか?」

襲われる訳ではないことに一安心のフィルだったが

新しい厄介事に少し眉をひそめながら尋ねる。

心当たりと言えば、街で聞いた、

この辺りにいる盗賊にモンスターと言ったところか。

「はい。ここではなんですので、村の食堂まで来てもらえませんか。今、村長達、皆が集まってるんですが、そこに呼びに行かせましたんで」

そう言うと、自分が来た道へと向き直り、

村の中心にある食堂を目指す村人。

「どうしましょうか?」

「とりあえずついて行ってみよう」

サリアの問いに、フィルは仕方なくといった感じで答える。

念のため、フィルは徒歩のまま、

フラウの乗った馬を引き、

サリアとフラウにはそのまま馬に乗って行く事にして、

一行は村人の後を続いて、街の中心へと向かった。



案内の村人に連れられて入った食堂は

以前、食事に来た時とは大分違う様相を見せていた。

前はそれぞれバラバラに配置されていた木のテーブルは

今は中央に寄せられて、さながら会議室の大テーブルのようになっており

その大テーブルを囲んで村長と

村の長老達なのであろう老人数人を中心に

十数人ほどの村人が集まっていた。

そして、そこには初日にフラウを生贄として連れてきた

村人の顔もいくつかあった。


入って来たフィル達に顔を向けた村人のうち何人かが

一行の中に知らない顔であるサリアに気付き、

村人たちの間にささやきが漏れる。

「失礼ですが、そちらの御方は?」

「ああ、彼女は私の仲間です。それで、問題とは何ですか?」

中にいる長老の一人らしい老人からの質問に適当に答えると、

用を済ませるべく、呼び出された理由を尋ねるフィル。

突然の呼び出しの上に、無用な詮索をされてと

少しばかり機嫌が悪い。

村人たちにもフィルの思っている事が通じたのか

今度は村長が慌てて

むっとして何か言おうとしている老人を遮り

そうですかと了解の旨のを伝えると、本題に移った。


「え、あ、はい、問題というのは今日の昼、村のはずれで数匹のゴブリンがいるのが見つかったのです……」

「はぁ……ゴブリンですか?」

村長の言葉に、少し拍子抜けした感じでフィルが聞き返す。

ゴブリンといえば確かにモンスターではあるが、

あまり強い方ではない。

むしろ弱いぐらいの相手だった。

オークやバグベアなんかが相手ならともかく

その程度の相手ならば、

冒険者を雇うなり、村人たちで戦うなり、

いずれにせよ、わざわざ呼び出すほどの事ではない気がするが……

「はい、それでゴブリン退治を貴方にお願いできればと……」

村長の依頼はいたって簡単だった。

すなわち、あんたは冒険者なんだからゴブリンを退治してくれと。


「問題についても、依頼内容も分かりましたが、無理です」

「なっ」

少しだけ考える素振りを見せた後、依頼を断るフィル。

あっさりと、簡単に依頼を拒否されたことに

村人たちがどよめく。

だが、大きく落胆しているというよりは、

やっぱり駄目だったかとか

やはり、この者に頼るのが無駄だったんだ

などという会話が、フィルの方にまで入ってくるところを見るに

初めからそれほど期待をしての事ではないようだった。


「少なくとも魔術師一人では相手が群れだった場合はゴブリンすらも無謀です。一匹ならともかく、群れならば呪文が尽きた時点で、残りのゴブリンに殺されるのが関の山です」

魔法使いは、パーティの戦闘の切り札ではあるが

主戦力にはなりえない。

さらに言えば、相手の戦力も分からない状況で

魔法使い一人で挑むなど、無謀もいい所だ。

フィルは、そう説明するが、

この場に居る村人たちが話を理解しているのかは、どうにも怪しかった。


「ゴブリンなら、冒険者のパーティを雇うのが良いのではないですか? 此処に居なくても、街まで行けば冒険者の宿もあるようですし」

「はぁ、それですが、村には蓄えが……」

……またそれかと、フィルは内心ため息をつく。

「いや、僕だって、冒険者として雇われるならば相応の代金は請求しますよ?」

「あ、あんたはこの村に住んでるんじゃろうが! 村のもんなら協力して当然じゃろうが!」

先ほどサリアに質問を投げた老人が

突然いきり立ってフィルを怒鳴り飛ばす。

老人からすればフィルは村人の役目を果たそうとしていないのだろう。

だが、フィルは涼しい顔をして老人を見据える。

「それとこれとは、話は別ですよ。僕に危険な役目を全て押し付けるのであれば、それは協力じゃない。ただの利用でしょう。冒険者を利用したいというのであれば相応に支払ってもらわないと」

口調はおとなしいままだが、

怒気を含め、真っすぐ見つめる魔法使いの気迫に押され老人は押し黙る。

反論が無いことを確認してから、フィルはさらに続ける。


「あなた達には少しは動くことをお勧めしますよ。ゴブリンは基本的には数頼みのモンスターだ。自警団なり、村の若者なりが力を合わせれば、狩ることも追い払うことも可能だとは思いますが?」

「ですが、わしらは、ここ十年近く武器もろくに使ったことが無いのです」

長老の言い訳のような言葉に、

つまらなそうにフィルは言葉を返す。

「じゃあ、武器の使い方ぐらいなら教えますよ? それなら追い払えるでしょう?」

フィルからすると、いくら非力な村人でも二十人ぐらい力を合わせさえすれば

よくある規模のゴブリンの集団ぐらいなら容易に駆除できそうなものなのだが

周りの村人達からは、

そんなの無理だ、だの、

怪我をしたらどうするんだ、

といった声が聞こえてくる。

どうしても、自分達が動くことは避けるつもりらしい。

そんな様子を見ているフィルの顔はますます不機嫌になっていく。


「あなた達は、何か勘違いしてませんか? 私は、あなた方の救世主でも、召使いでもありません。自分達が支払うべき対価を支払おうともせずただ甘い蜜を吸おうとする者に手を貸したりはしませんよ」

「あんたは、この村がどうなってもいいというのか!?」

「このままでは村に大きな被害が出てしまうぞ」

「戦闘経験のあるあんたなら、何とかなるんじゃないのか?」

「だから、自分達でやってみろと言っているだろ! そのための手助けならしてやるよ!」

あくまで被害者面の村人たちに対し、

いい加減うんざりしてきたフィルは

最後は怒鳴り声となっていた。


「自分達がやらなければ、喰われるのはあんた達だぞ。分かってないようだから教えてやるが、ゴブリンは放っておけばすぐに数を増やすぞ、そのうち犬や赤ん坊が食われ、次は女子供だ! そして十分に数が増えればあとは村ごと喰われるぞ。そうなりたいのなら勝手にするがいい! 数が少ない今ならあんた達でも十分、相手に出来る。頼めないなら自分達でやるしかないだろうが!」


「どうする?」

「いや、下手に手を出して、逆襲されれたら……」

「ゴブリンの恨みを買って村が襲われるかもしんねぇ……」

「このまま放っておけばそのうち居なくなるかも……」

「だが、このまま居ついちまったら……」

「怪我したら、仕事に支障が……」

言いたいことを言って一息ついたフィルは見回すが、

この村のまとめ役なのであろう、

中年や老人の村人達は皆小声で話し合うばかりで、

聞こえてくる内容も、

自分たちがやらない事への正当化ばかりだった。


暫く村人たちの様子を見たフィルは、

席を立つと、そのままフラウ達を連れて食堂を出た。

後ろから村長からフィルを呼ぶ聞こえたが

そのまま無視して、出口の扉をくぐる。

店を出たフィルは、

店の前の道端で心配そうに待っていた食堂の給仕娘や

村の若者なのであろう青年達と目があうが、

先ほどの会話が聞こえていたようで、

気まずそうにしている彼らの横を素通りし、

無言で馬へと向かう。

そしてそのまま、馬に乗ると自分の家へと戻った。



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