表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/278

邪神さんと冒険者さん 7

---------



「フィルさん……、フィルさん起きてください」

「うん……?、おはよう……フラウ」

床の上で毛布に包まっていたフィルは

フラウに揺り起こされて目を覚ました。


まだ寝てからそう時間は立ってないはずだけどと部屋を見れば

鎧戸から差し込む光も無く

どうやら眠ってから、まだそれほど経ってはいないように見える。

「ええと、まだ夜中なのです。あの……お手洗いにいきたいのです」

違和感を感じていると

フラウもそのことは分かっているようで、

少し、おそるおそるといった感じで、

フィルに起こした訳を伝える。


なるほど、そういえばフラウは布団に横になってすぐに眠ってしまったんだっけ。

この時間にお手洗いに行きたくなっても仕方ないか。

「ははは。わかったよ。それじゃ行こうか」

「えへへ、ありがとうございます」

フィルはそう言うとくるまった毛布からはい出し

ごめんなさいと謝るフラウの頭を撫でてあげてから手を取る。

「はは、そういえば寝る前は、僕を待とうと頑張ってくれてたんだって?」

「えへへ、でも、眠くて、気が付いたら、ねむちゃってました」

「そっか、今日は色々あったし、疲れていたんだろうね。さて、それじゃあ行こうか、周りの部屋じゃ寝てる人もいるだろうし静かに行こう」

「はいです」


サリアが起きないよう、そっと扉を開け、

手洗いのある一階へと向かう二人。

宿泊客は殆どが眠っているのか、

静かな、とはいえ、どこか人の気配のする廊下を壁のランプ頼りに抜け

一階へと続く階段を下りていく。


宿の手洗いは一階の食堂の奥にあるのだが、

この時間になると食堂の客も店員も全て引き払ったようで

手洗いの前以外は既に明かりは落とされており、

先ほどの賑わいが嘘のように静まり返っていた。


(こういうところは、普通の宿屋なんだな)

冒険者の宿だと、大体は夜中も飲んでいるグループの一つや二つあって

仲のいいパーティ同士なんかはランプの明かりを頼りに、

お互い、これまでの冒険を話し合ったものだった。

それは、単純な自慢話だったり、

珍しい敵の情報だったりと、

役に立つかどうかも分からない話がほとんどだったが

夜更かしして皆で飲んだあの時間は

今にして思えば、とても楽しいものだったのだと思う。


「フィルさん? ええと、手、離さないでくださいね」

フィルの歩みが遅くなったことに気が付いたのか、

少し不安そうにフラウが握る手に少しだけ力を込めてくる。

「あ、ああ、ごめん、少し考え事をしちゃってた。ちゃんと傍にいるからね」

フィルが謝ると、ほっとした様子で、ちょっと恥ずかしそう照れ笑いを浮かべる。

「えへへ~、おうちの廊下よりは怖くないんですけど、一人ではやっぱり怖いのです」

「あはは、やっぱりあそこの廊下の方が怖いか」

「はいっ、こっちは暗くても何となく人の感じがするのですけど、あっちは誰もいなくて吸い込まれちゃう感じがするのです」

「なるほど、何となくわかるような気もするな。ここは街の中だけど、あの辺りは人が住んでないからね」

「はいです。あ、でも、ここでも離れちゃいやですよ?」


手洗いに到着し、フラウを見送り、

時々フラウからの呼びかけに答えつつ入り口の前で待つ。

フラウの用も済み、二階の部屋に戻ったフィルは、

再度毛布にくるまろうとしたところで、フラウに手を引かれた。


「フィルさん、やっぱり床じゃなくてベットで寝てほしいのです」

本当はベットに寝れるはずだったのですしと、真剣に訴える少女。

とはいえベットが二つしかない以上、

フラウを床で眠らせる訳にもいかない。


「いや、でも、フラウが寝たほうが良いよ。さすがに女の子を床に眠らせたくはないからね」

「それなら、フィルさんもこっちで一緒に寝るのです」

「いや……しかし……」

「たまにはフィルさんもベットで寝て欲しいです。私は一緒でも……だいじょうぶです」

「うーむ、確かにベットで寝たいと思うけど、うーん」

「むぅ~……一緒はいやです?」

初めて聞いたかもしれない不満げな声に見れば、

フラウは真剣な表情でフィルを見つめていた。


昨日、一緒にいてもいいか、聞いてきた時もこんな顔だった。

この顔を見てしまうと、どうにも弱い。

フィルはフラウをそっと抱き寄せた。

「いやじゃないよ。フラウと一緒で嫌なんてことは全然ないよ?」

「えへへ……一緒が良いです」

「分かった、それじゃあ、お邪魔させてもらうね」

観念して、フィルが横になると隣にフラウが収まる。

さすがに大人用とはいえ、一人用のベットに二人が入ると若干窮屈に感じる。

「フラウの方は余裕あるかな?」

「こっちは大丈夫です」

一旦、片腕がぎりぎりベッドの端に着くまで寄ってスペースを確認する。

あれこれ場所を少し動かして調整している間、

いつにもましてフラウが嬉しそうに見えるのは気のせいなのだろうか。

ようやく位置取りも終え、そんなことを考えながら布団をかける。

「はは、ちょっと緊張する……かな」

「えへへ、えいっ」

フラウが横にピッタリくっつく。

うれしいけどかなり恥ずかしいなとか考えながら横を向くと

フラウの顔が間近にあった。

嬉しそうにフィルを見つめる少女。

少女特有の甘い香りが鼻をくすぐる。


「えへへ、なんだかこうしていると、フィルさんと同じ高さになったみたいです」

大人になったみたいですと、無邪気に喜ぶ少女。

「たしかに……こうしてみるとフラウが少し大人っぽく見えるかな」

「ほんとです?、私もフィルさんがなんだかもっと近くに見えます」

普段下から見上げるばかりで、

真横から見れることが嬉しいのだろう。

フィルに顔を近づけるフラウ。

「フィルさん、大好きです」

え、とフラウを見直してみると、

少女はさっき同様真剣な表情でフィルを見ていたが

恥ずかしさに耐えられなくなったのか

ふにゃっと半分泣きそうな顔になったかと思ったら

フィルの肩へと顔をうずめてしまう。


「フィルさんは誰にも渡しませんです」

必死に訴えるフラウ。

この子にあの時のような顔はさせたくない、

でも、さすがにこんな子供に好きと言うのはどうなのだろう……。

「あはは、そもそも僕と一緒にいてくれるような人なんているかなー?」

すこし、はぐらかす様に言ったところ、

フラウが身を強張らせるのを肌伝いに感じ、しまったと思う。

気の利いた言葉を言う事が出来ないことは、歯がゆくもあったけど

家族を失って傷ついて不安定になっている少女に

便乗するような事はすべきでない気がする。

「僕もフラウが大好きだよ。ずっと一緒にいて欲しいと思っている」

うずめたフラウの頭を撫でてやる。

フラウの強張ってた力が抜けたのが分かったが

それでも顔を出してはくれなかった。

「でも、もう少しゆっくりみるのがいいと思う。フラウはこれからもっと色々見たりして大人になっていくんだからね」

今はこれで納得して欲しい。

精一杯優しい声でフラウを宥める。


フラウも不思議と素直に、はいと返事をして

ようやく顔を出してくれた。

まだ恥ずかしいのだろうと、顔をうずめていたせいか

大分顔が赤くなってしまっていたが、

それでも、普段よりも嬉しそうな顔にフィルもほっとする。


それからも暫くは他愛ない事を話したが

さすがに夜も更け、フラウの眠気も大分戻り、

そのまま、二人寝ることにする。

明日、起きたらサリアになんて言われるのかなと、少し不安になったが、

それも眠気には勝てず、いつの間にか眠りに落ちていた。



---------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ