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邪神さんと冒険者さん 6

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夕食を済ませた三人は二階の部屋へと戻る。

「こちらが部屋になりますー」

上機嫌のフラウを先頭に続いて入っていくサリアとフィル

「おお、良い部屋ですねー。布団も清潔そうですし」

初めて部屋に入ったサリアが感心感心といったていで中を見渡すが

最後にフィルが入って来たところで

「あはは、さすがにちょっと三人だと狭く感じますね」

「君が言うか君が」

この際だから狭いのは我慢するにしても、

狭くした原因に言われるのはやはり納得いかない。


フィルの泊まっている部屋はベットが二つある以外は

共有のサイドテーブル代わりにも使えるチェストが一つあるのみ、

余分なスペースもベットの足側に最低限の空間があるぐらいで、

座る場所もベッドに腰かけるという部屋だった。


二人の時は殆ど感じなかったが、

部屋に三人集まり、

サリアが旅の荷物を置くと、

さすがにかなり窮屈な感じがする。


「あれ、そういえばフラウちゃん達の荷物はここには置いていないんですか?」

部屋の中を見回し、旅の荷物が見当たらないことに

さっそく自分のベッドに腰かけたフラウに尋ねるサリア。

「フィルさんがみんなバッグにしまってくれてるのです」

「へぇ~、ホールディングバッグですか~」

なるほど~とフィルの腰のバッグを見た後、

「ありがとうね。でも、フィルさんのバッグの事はあまり他の人には言わないほうがいいかもしれませんねー」

「だめなのです?」

「うーん、フィルさんの持っているバッグって、とても高価なアイテムなんですよ。悪い人が見かけたら盗もうと知るかもしれないですからね」

サリアに言われて、

いけないことをしてしまったとフラウは斜め向かいのベッドに座ったフィルの方を見る。

そんなフラウの頭を撫でてあげつつ

「たしかにサリアの言うように、狙われる可能性があるから、あまり言わないほうが良いね。まぁ、僕も商店でバッグを使ったりしてるし、ここなら大丈夫かなという時は隠さないこともあるから、少し気を付けるぐらいでいいんじゃないかな。治安の悪い場所や、お金に困っている人の前では言わないほうが良いね」

「はいです。あ、だから広場でお洋服を買った時はすぐにしまわないで、人のいない所でしまったんですね?」

「うん。広場でバッグを使わなかったのはバッグを人に知られない為だね。信用のある商店相手ならともかく、露店の人や待ちゆく人に見られるのはさすがに危ないからね」

ああいう市場には盗賊が紛れていることもあるからねとフィル。

「なるほどですー」

わかりましたーと嬉しそうに言うフラウ。

そんな少女の様子をいい子だなーと嬉しそうに褒めるフィル。

ひとしきりフラウを褒めた後、

フィルはサリアに向かって、自分が座っている方のベッドを指さして言った。

「さてと、今日寝る場所だとけど、とりあえず、サリアはこっちのベットを使うといいよ」

「あ、それだとフィルさんのが……」

「僕は床でいいよ。それこそ地面で寝るのは慣れているし、さすがに女の子を床で眠らせる訳にはいかないしね」

「うー、あ、フィルさんフィルさんもこっちで寝るといいです! 私なら小さいからフィルさんと一緒でも大丈夫ですよ!」

「ははは、それはとてもありがたいけど、もし寝返りうって、フラウをつぶしたりしたら大変だからね。床で大丈夫だよ」

床で寝るというフィルに心配そうなフラウ。

そんな二人の様子を見ていたサリアは今度はフラウの寝ていたベッドに腰かけると

「ふむ、それなら私がフラウちゃんと一緒に寝ますよ。こう見えて寝相は良い方なんです!」

「いやさすがに客人にそういうことは……」

「大丈夫ですって、フィルさんにはご迷惑かけてばかりですしね、ちゃんとベッドで寝てください」

「うーむ、フラウはそれでいいかい?」

「はいです。私の方は大丈夫です」


ちょっと残念ですと言いつつ、

フラウも納得したところで、

一人ずつ宿の浴場へ湯あみに行くことにする。

この宿の湯あみ小屋は母屋から離れた場所にあり、

そこでは沸かしたお湯の入った桶が用意されており、

その湯を使ってタオルで体を拭くというものだった。


お湯は一人が使い終わると宿の者が補充しており、

その者が不審者が覗かないように見張り番も兼ねていた。

先にフラウとサリアを行かせ、

入れ替わりに自分もさっぱりしたフィルは

そのまま二階へは戻らず下の食堂へ向かった。

夜も更けての食堂は、まだまだ夜もたけなわといった感じで

食事から酒目的に移った客でにぎわっており

そこを従業員が一人、注文や配膳に動き回っていた。


「おや?どうしましたか?」

カウンターで食器を洗っていた店の主人に呼ばれたフィルは

夜食にとエールと何かつまみが無いか聞いてみる。

「おや?夕食じゃ足りませんでしたか?」

「ははは、あの時は結構おなかいっぱいだったんだけどね、さっぱりしたら何か飲みたいなって」

「なるほど、酒を飲むなら、つまみは必須ですからね。それならチーズとソーセージがありますよ」

「ああ、それは良いね。それをもらうよ」

「はい、少々お待ちを」

そう言って、主人はソーセージを数本を茹でて

チーズを数枚、切り出すと、器へと盛る。

「はい、どうぞ、エールとあわせて銀貨一枚です」

「ありがとう、これって二階で飲んでも大丈夫ですか?」

「ええ、食器は明日回収しますからご安心ください」

銀貨を支払い、主人に礼を言って、

エールとつまみを二階へと持ち帰る。


部屋ではサリアがフィルの寝るはずのベッドに腰かけていた。

フラウの方はとベッドをみてみると、

既に少女は眠っているようだった。


「あ、お帰りなさい、さっきまで元気だったのだけど、やっぱ疲れがたまっていたみたい。横になったとたんに眠っちゃいました」

フィルさんを待とうと頑張っていたんですけどねーと

フラウを起こさないように移動したのだという。

「朝から色々あったからね。疲れていたんだろうね。ああ、下でつまみをもらってきた。食べるかい?」

「あれー、お酒、私の分はないんですか? 気が利かない男性はもてませんよ?」

「いやぁ、君の好み以前に、飲めるかどうかすら知らないからね僕は。知っていたら持ってきたんだけどね。実に残念だよ」

むぅ~っとむくれるサリアに、

下の食堂で買えるよと教えると、

私も、と外に出ようとするが

扉の前で何か思いついたのか、立ち止まりフィルの方へ向くと、

「あ、私の好みですけど、あんまり沢山は飲めませんけどエールもワインも大丈夫です。その日によってどっちが飲みたいとかはありますけど、ご馳走して頂けるならとっても嬉しいです。覚えておいてくださいね」

「はは、分かった。覚えておくよ」

えへへと笑顔を残して去っていく少女。

まったく本当に一直線な娘だなと思いながらエールを一飲みする。


暫くするとエールを持ったサリアが戻ってきて、

フィルの座る側のベットに座った。

フラウを起こさないようにという配慮なのだろうが、

年頃の少女と二人きりでの会話なんて、

もう何十年としていないフィルからすると、

この上なく居心地が悪い。

とりあえず二人の間につまみの皿を置いてやる。


「お酒はこぼさないでくれよ。後で主人に迷惑がかかるからね」

「は~い。……うーむ、フィルさんって、なんだかお父さんみたいですよね?」

「なっ、そんなにオヤジ臭いかな?」

たしかに、若返ってなければ普通なら中年だし

生活で何か若者らしく振舞おうと気を使った事も無い

とはいえ、これまでのふるまいでオヤジ臭い事はした覚えもない、はずだ、多分。


「う~ん、なんというか、過保護というか……娘さんが大事すぎ?」

「そうかなぁ……まぁ、こんな年頃の娘が二人もいるんじゃね、しかも一人は危なっかしくて、そりゃ過保護にもなるんじゃないかな?」

知らない人の部屋に上がり込んで

一緒にベットでお酒を飲んでいる娘に対して

チクリと反撃をしてみる。

「え~、でも、私とそこまで離れていないじゃない。せめて兄妹ぐらいを希望します!」

「兄妹って、それこそ僕は独り身だったからね。そんなの分からないよ、でも、そうか、確かに親子ほどは離れていないんだな」

言われてみれば、この娘は今のフィルにとっては

少なくとも見た目的には、そこまで年齢差はない。

親子の年齢差に感じていたのは、

なんだかんだで四十過ぎの中年だったころの感覚が離れないのだろう。

いや、無理に自分を若くしようとする必要もないのだが。


「そうですよ~なんだか落ち着いているといえば聞こえはいいけど、なんだかおじさん臭い感じがしますよ!」

「仕方ないだろう? 僕だって冒険者をしたりして、それなりに人生経験を積んでいるんだから。大人の対応ができているって褒めてもらいたいぐらいだよ」

「ふむふむ。ではでは、僭越ながら」

と、少女はつまみの皿をどかすとフィルの横に移動し、頭に手をのせる。

「えらいえらい、フラウちゃんに優しいし、私にも優しくしてくれるし。フィルさんは良い子ですねー」

「褒めてもらいたいとは言ったが、これはこれで、恥ずかしいね……」

「ふふふ、ですよねー。でも、やめてあげませんよー。今日わたしを置いていきましたからねー。大変だったんですよ?」


楽しそうに頭を撫で続けるサリア、

酒のせいだろうか。

何となく口調もふわふわしている。

「悪かったとは思うけどね? まさかここまでついてくるとは、正直想定外だったよ」

「えへへ、どうです、見直しました?」

「ああ、さすがはバードだと思った。前にいたパーティの時はバードがいなかったから少し甘く見てたよ」

「そうですよ、こんな有能なサリアちゃんを大事しないと損ですよー? 大事にしてくださいよー?」

「はいはい、わかったよ……ん?」


なでなで攻撃が止み、

ようやく解放されたと見ればサリアはそのままベッドに丸くなろうとしていた。

「サリア? こぼすといけないからお酒は預かるよ?」

「大丈夫ですよ~。もう全部飲んでありますもん」

確かにジョッキを見ればエールがほんの少し残るばかり。

ため息をつきながらジョッキを取り上げチェストの上に置く。

そして、左右で幸せそうに寝息を立てる少女達に

布団がしっかりかかっているか確認し布団をかけなおしてやり

今日の洗濯物(なぜかサリアの分も置かれている)に対して、

プレスティディジテイションを使い、

呪文の再設定を行い、明日の支度が全て整うと、

ようやくといった感じで床の毛布にくるまった。


結局のところ、ベッドは娘二人に占拠されることになり、

今日もフィルはベットで寝ることは叶わず、

いつものごとく、愛用の毛布で床に寝ることとなった。



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