邪神さんと冒険者さん 5
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店の主人がお勧めするだけあって
夕食はなかなかのものだった。
まずはパンと鳥とキノコのミルクスープが出され、
それからすぐに、大皿のジャガイモの揚げ物が置かる。
そしてメインには厚切りの豚肉のステーキが出てきて
更にはソーセージの盛り合わせまでついてきた。
「これはサービスだよ! さっき衛兵たちを助けたっていうじゃないか」
「いやー、ほんとに凄かったんですよ! さすが竜殺し! 格が違うって感じですよ!」
嬉しそうに話す店の主人とサリア。
店の主人の様子をみるに、大体の内容は伝わっているのだろう。
(居場所を探すのには確かに一番確実だろうけど……)
それにしても、さっきの事がこうも早く皆に伝わってしまうとは
このバードを野放しにしたのは失敗だったかもしれない。
目の前でフラウと一緒に無邪気に喜んでいるバードに
何か言ってやろうかとも思ったが、
楽しそうにサリアと話すフラウを見て、
不本意ながら、とりあえず今回は少女の笑顔代として我慢することにした。
フラウといえば、次々に出てくる料理に、終始ご機嫌だった。
子供でも飲めるようにと、水で薄め、
更に果実を絞り入れたワインを飲んで、
もぐもぐと幸せそうに肉をほおばる少女。
そんな様子を見て機嫌を直したフィルも気を取り直して食事に取り掛かる。
「これは随分豪勢な食事になったね」
「はいです! なんだか今日はずっと美味しいものを食べてばかりですね!」
これだけ喜んでもらえただけでも、この宿にして良かったと思える。
「へぇ~今日はずっとだったんですかー。 どんなの食べたんですか?」
「ええと。お昼もここで食べたんですけど、その時もとっても美味しかったです! あと、お屋敷に行った時も美味しいお菓子を食べたんです。あ、あとお昼はここでプリンをもらいましたです」
「おお、昼間からお菓子にプリンとは豪勢ですね!」
「はいです。あ、その前に街に着いたばかりの時もお菓子を食べたんです!」
行ったり来たりで、少しおぼつかないフラウの説明だったが
サリアはそんなフラウの話を楽しそうに聞きながら、
時折、相槌や質問を挟んだりしている。
バードは元々、交渉術に長けたクラスだが、
この少女がクラス以前に世話好きな性格なのかもしれない。
フラウもちゃんと聞いてもらえて嬉しいのだろう
楽しそうに今日あった出来事をサリアに伝える。
サリアの方は、今日ここにやって来たばかりだという事や
最近バードになったばかりで、冒険や戦闘は殆どしたことが無く
もっぱら、酒場で詩って稼ぎながら旅をしているのだという。
ついでに、旅の途中の出来事や、
事前に仕入れてきた、この街の名所や
美味しい場所に付いても教えてもらう。
「そおいえば、サリアさんはどうして襲われてたんです?」
「あー、あはは、小さい男の子が、あの大男にぶつかっちゃってですね、その子のお母さん共々、難癖をつけられてて、止めようと割って入ったのですけど……」
「すごいです!」
少女の勇気ある行動に目を輝かせるフラウに
そうでもないよと恥ずかしそうに笑うサリア。
「いやー、衛兵もいるからそっちに止めてもらえば大丈夫かなーと思ってたんですけどね、思ってた以上に危ない人達だったみたいで、いつの間にか大事になっちゃったんですよ」
「ほら、フィルさん。やっぱりサリアさんは悪い人じゃなかったのです」
「衛兵がもう少し強ければ問題なかったのですけどねー、おかげで助かりました」
「フィルさんったら、衛兵さんが何とかするだろうからって言ってたんですよ」
やっぱり行って良かったのですと
デザートに出てきたプリンを食べながらフィルを責めるフラウ。
とはいえ、それもおいしいですとか言いながらでは
勢いは大分ふにゃっとしたものとなっていた。
「ははは、そうだね、でも、僕としては避けられるトラブルなら避けたかったなぁ」
穏やかな暮らしがしたいんだよ。とフィル。
「でもフィルさん。困っているかわいい女の子がいたら、助けちゃうって言ってました。ちゃーんと覚えていますもん」
そんなフィルに、フラウはフィルを見上げて嬉しそうに言う。
フィルもそんなフラウと目が合い、
あの時自分で言った言葉を思い出して、
少し照れくさそうに答える。
「はは、確かに言ったね。うん、ちゃんと覚えている」
「えへへ、はいです!」
覚えているという言葉に、さらに嬉しそうに笑うフラウ。
「おや? フラウちゃんとても嬉しそうですね。さてはその時、嬉しいことがあったんですね?」
「えへへ、ないしょなのです」
「えー、気になるなー」
「えへへー、ないしょなのですー」
さすがは勘の良いバードだけあって、
話がそれだけでなかったであろう事をすぐに察し
それとなくつついてみる。
思った通りのフラウの嬉しそうな様子に
楽しそうに知らない事の不満を伝え、さらにフラウを喜ばせる。
「サリアさんを助けた時すごくかっこよかったですよ! きっとフィルさんなら困っている人を沢山助けられるのです!」
「そうですよ! あれだけ強ければ、フィルさんもドラゴンスレイヤーになれますよ!」
話を逸らそうとフィルの話題に変更するフラウに乗って
サリアも一緒にフィルの話題に変更する。
そんな息がぴったりの少女二人に標的とされてしまったフィルは
苦笑いをしつつ、さて、どうしたものかなと思案する。
「いやぁ、僕はもう冒険者を引退しているからなぁ……それにドラゴンスレイヤーになりたいとも思わないし……」
「何言っているんですかー! 冒険者なら誰もが憧れる偉業じゃないですか! 私だってバードの端くれ、詩にさせてもらいたくて、ここまでがんばちゃったんですよ!」
「まぁ詩にできるかは、親に聞かないと分からないかな……。あの家に戻ってくるかどうかも分からないけどね」
「むぅ~、そうですか……それならダンジョンを見るので我慢しておきますね。ところで、フィルさんはどんな冒険をしてきたんですか?」
「え?」
見ればサリアの目がこちらを真っすぐ見つめている、
表情こそ先ほどまでの明るい表情のままであったが、
少しの情報も取りこぼすまいといった真剣さが感じられる。
大体こういう時は、相手の言葉の真偽を図ろうとしている時だ……。
フィルは、心の中でため息をつきつつ返答した。
「ああ、あまり大した冒険はしてないんだよ。ちょっとしたゴブリン退治?とかね。今はもう引退しているし、現役の時もそれほど面白い冒険をしたわけじゃないし、あまり詩人殿のお役には立てないと思うよ?」
「そうなんですか? うーん、そうだ、フィルさんはまた冒険に行きたいと思ってます?」
「え? うーん、今は行くつもりはない……かなぁ」
その返事に落胆するかと思ったフィルだが、
サリアは何かに気が付いたように表情を動かしただけで、
すぐにいつもの笑顔に戻った。
真意看破をされているなぁとは思ったが、
それを確認するのも藪蛇となりそうなので、
こちらから質問することも出来ず、
それ以降は始終サリアとフラウ、
二人の賑やかな会話の聞き役に徹しての夕食となった。
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