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邪神さんと冒険者さんのコボルド退治2

「よし、到着」

一行がテレポートした地点は街と街を繋ぐ街道と、

そこに村から伸びる支道が合流する場所だった。

コボルドの襲撃地点はここからもう一方の街の方、

普段使う道とは逆の方へさらに進んだ場所にある。

そのためフィルにとってここから先は初見の地であり、

なのでフィルが知る中で最も目的の場所に近い、この場所に移動したのだった。

一応テレポートの呪文に「必ず一度は赴かなければならない」といった制限は無いが、

それでも知らない場所、情報の少ない場所への移動は成功率が大きく下がる。

今回は危険を冒してまで急ぐ必要はないので確実に移動できるこの場所が選ばれたのだった。


「まぁ! これがテレポートの魔法なんですねっ。私、初めてですっ」

「私もなんですっ。いやぁ、凄いですよねっ!」

「あはは、いきなり景色が変わるとちょっとびっくりするよね」

三者三様、初めてのテレポート体験に盛り上がるアンジュとサリアとリラ。

一方でトリスとアニタはというと、こちらは前回の山羊を送る際に既にテレポートを体験しており、

二回目という事もあって平然としたものである。

一応、「二回目だから」とか「私も一回目はかなり驚いたわよ」とか言っているが

この二人は初めての時も結構平然としていた様な気がしないでもない。

……まぁ、二人はクレリックとウィザードで魔法とも親しいし、

今の自分の技量では無理でも、テレポートがどういう物なのか、

想像がついていたのかもしれない。



「はいはい。そろそろ先に進むわよ? これより後はフィルさんは索敵と戦闘へは参加するけど決定は私達でするのよ?」

「うん、そうだね」「はーい」「うん」「はいっ」

未だにテレポートの話題で盛り上がっていた少女達だったが

クレリックのトリスの言葉に四者四様、元気に返事をする。

こういう時、一番年上の姉的な存在であるトリスは皆を纏めるのが上手い。

冒険者としてのリーダーはファイターのリラなのだが、

皆の纏め役は今でもトリスという事なのだろう。

そんなトリスに促されて、街道を進む一行。


トリスの言葉通り、ここからフィルは一行の見守り役として一歩退き、

冒険中の判断や決定は基本、彼女達に任せる事になっている。

が、一応、まだ罠の発見や足跡追跡には不慣れな彼女達なので

斥侯役のメインをフィルが引き続き引き受ける事になっていた。

専業のローグが居ないパーティではよくある事で

こうしたパーティでは通常分担して索敵や罠解除や開錠を担当するのだが、

いかんせん全員駆け出しであり技能も未熟なものである。

過保護と言われようと当分はフィルが斥侯を行った方が良いだろう。

という訳で今回のフィルの装備は革鎧に腰にロングソード、

背にはコンポジットロングボウと、一見するとローグかレンジャーと言った風体である。

(以前使っていた装備と比べればまだまだ着慣れたとは言えないけど、この鎧もここ数日で随分と着慣れたよなぁ)

元は二線級にも満たない、貸し出し用に保管していた装備を間に合わせで使っていたのだが、

存外に愛着も沸き、今ではすっかりフィルの主装備となっている。

勿論以前からの使い慣れた装備の方が性能も使い勝手も良いのだがいかんせん高価な代物で、

そんなのを装備して駆け出し冒険者のパーティに居ても浮くだけである。

そんな訳でまだ当分はこの装備と付き合って行く事になりそうである。



「じゃあ、ここから街道沿いに進んで襲撃地点を探そう。街道での隊列は私とフィルさんとアンジュが前列で、後列はサリアとアニタとトリスね」

リラの指示に頷く少女達。

まぁ、とはいえ索敵と言っても、この時間は襲われる可能性は殆ど無いと言って良いだろう。

街で手に入った情報では襲われるのは殆どが午後になってからだという。

おそらく午前中にこの辺りを通るのは早朝の開門直後に出発した一団で

そう言った集団は出発前に同行者を募集して、

ある程度人が集まってから移動を始めるのが常だ。

ちょっとした隊商の様であり、自衛できる戦力を持つ場合も多い。

コボルド側からしたらそんな団体を襲撃するのはリスクが伴うのだろう。

なのでコボルドを含めて野盗が活動するのはもっぱら午後になってから、

単独で道を進む商人や旅人が標的となる。



という訳で一応警戒はしている、とは言うものの、

早朝の初夏の心地良い風を浴びながらの移動はのんびりとしていて平和なものであった。

それに一応警戒はしている、とは言うものの

これまでフィルのいた中年男ばかりのパーティとは大違いで

何だか雰囲気も華やかな気がするのだから不思議なものである。


「それにしても街道に誰も居ないね」

何かないかな?と周囲を一通り見回してから、

異常も何も見つからない至って普通な景色にリラがつぶやく。


まだ早朝と言っても良いだろう街道には、一行以外に他に人の姿は見あたらなかった。

あるのは遠くから聞こえてくる鳥の声や、心地好い風が頬に当たるばかりである。

「街の門が開くのは日の出の頃だし、まだみんな、街から出て少しの所くらいにいるんじゃないかな?」

リラのつぶやきに、その後ろを歩くウィザードのアニタが答える。

アニタの言う通り、この場所は街から数時間はかかる位置にある

「あーでも、この辺りなら、途中の村で一泊してそこから朝早くに出発する人とかいませんかね?」

「うん。そういう人はいるかも。近くに村があれば、そこから来た人と会うかも」

そこに更にバードのサリアが加わったりして更に賑わう一行。


街と街とを跨ぐ移動というのは大抵は一日で済まず、数日かかる事も多い。

その為、途中、街道沿いにある村に立ち寄り、

村の宿で一泊して……というのは良くある事で、

実際、街道沿いには歩いて数時間の距離で村々が点在し

そういった旅人を目当てに村では宿や酒場を置いてある事が多かった。

村人にとっては外貨を得る数少ない機会であり

旅人にとっては安全に休む事のできる数少ない場所という訳である。


「ここから少し先に村がありますけど、二、三時間ぐらいの所になりますから、出会うのはもう少し後かもしれませんね」

アンジュの説明に「そうなんだ~」「なるほど~」と納得する他の少女達。

アンジュ自身、街の外に行く機会は決して多くは無いようだが、

寺院には参拝に来た信者や、取引している商人などを通じて様々な情報が聞けるらしい。

おかげで寺院に居ながらにして周辺地域や遠方の時勢については、

ドラゴンに支配されて村から出る事が出来なかったリラ達よりは遥かに詳しかった。

時勢といえばバードのサリアも結構詳しかったりするのだが、

残念ながらサリアは旅して最近この土地にやって来た、いわばよそ者であり、

周辺地域の大凡の世情については皆の中でも一番の物知りだが

この土地の詳しい情報については現在目下勉強中である。

そしてフィルもサリアと同様、最近この地に住み着いたばかりのよそ者であり、

そんなのばかりのパーティにとって、

アンジュの持つこの土地の周辺情報はとても有難いものだった。


周囲を注意しながら、時折他愛ない話をしながら

特に何事も無く歩を進めていく一行。

結局、街道では他に人とは出会うことは無く、

二時間ほど街道を進んだ所で、一行は襲撃の跡地を発見した。

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