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邪神さんと村娘さんのんびりした一日4

フラウが「皆で頑張った」と言った通り、

昼食はどの料理も味も量も素晴らしいものだった。

「フィルさんフィルさん。こっちのパイ、とってもおいしいですよ。はいっ」

あれやこれやと世話を焼いて、フィルの口の前にパイの切れ端を乗せたスプーンを運ぶフラウ。

そんなフラウに差し出されるまま、フィルはスプーンにぱくりとかぶりつく。


パイの中にはたっぷりの具が詰まっており、

噛むと具からたっぷりの肉汁がしみ出してくる。

肉や玉ネギ以外にも他の食感と旨味があるのだが……これはキノコだろうか?

程よい旨味が加わり、肉の味を更に引き立てている。

「ありがとう。……うん、おいしいね。酒場とかで食べるのとはちょっと違う感じがするけど、これはこれでなかなか……」

「えへへー。あ、こっちのもとってもおいしいんですよっ。はいっ」

次にフラウに差し出されたスプーンに乗っていたのは肉と野菜の炒め物で

肉にも野菜にも程よく味が付いて、ハーブや素材の味以外にも何か別の旨味も感じられる。

これが家庭の味と言うべきか、おふくろの味と言うべきか、

他のどの料理にも何かしらの隠し味というか一手間が入っているようで

普段食べ慣れた食堂や酒場の料理とはどこか違う、

けれども確かに美味しい、どこか懐かしい味だった。


「……うん、これも美味しいね。これも一手間、何かあるのかな?」

「えへへー。「かくしあじ」があるんですよー。ほかのもみんな、いろんなかくしあじがしてあるんです」

そう言うとフラウは嬉しそうにそれぞれの料理にどんな隠し味が入っているのか

フィルに一つ一つ説明してくれた。


フラウが言うにはこれらはご婦人達の家庭でのレシピで

皆で昼食を作った時に彼女達から作り方を教えてもらったのだそうだ。

元々この村の子供であるフラウやこの村で育ったリラ、トリス、アニタだけでなく

部外者であるサリア、アンジュも一緒に料理を教えてもらったようで

そのおかげなのか既にサリアもアンジュも

ご婦人達と打ち解けて楽しそうに会話に花を咲かせている。


……とはいえ、

「あらー、それじゃあ貴方、騎士様なの?」

「いえ領主に仕える騎士ではなく、神殿に仕える聖騎士なんです」

「まぁ! そんなに凄い人だったなんてねぇ。どうしましょ?」

さして困った風でも無く、笑顔で困ってみせるご婦人。

「うちの子の嫁にと思ったけど無理みたいねぇ」

「もぅ、あんたはいつもそればっかり、ごめんね、お嬢さん、この人いつもこうなのよぉ」

そう言って笑い合うご婦人達。

アンジュはというと、ご婦人達の勢いにどう返したら良いか分からない様で

少し引きつった笑顔を浮かべながら固まっている。

相手がどうであれ、若い娘さんに対するお母さんというのは

古今東西あまり変わらないようである。


そんな食事の会話風景であったが

幸いフィルとフラウはご婦人達の餌食にされずに済んでいた。

というのも、ご婦人達の座っている席の隣にはリラ達が座り、

その隣、リラ達を挟むようにしてフィルやフラウ、ダリウとラスティが席に着いていたからで、

お陰でご婦人達の会話の相手はリラ達が引き受け、

こちらまでは被害が届かなかったという訳である。

ありがたい話である。


これが酒場で相手が酔っ払いなら、絡まれたとしても

ひと睨みした後でこぶしで黙らせれば済む事なのだが、

流石に一般人、それもフラウ達の済む村の人にそんな真似は出来ない。

そんな訳でご婦人達に絡まれたらどうしようかと密かに心配していたフィルであったが、

その事を察してくれたのか、サリアやリラが座る場所を今のように指定してくれたのだ。

お陰でフィル達はこうしてご婦人達からの余計な質問をされずに

のんびり昼食を食べられるという訳である。

本当にありがたい話である。


とはいえ、今もこうしてご婦人達の格好の話題の中心……

というか彼女達の好奇心の餌食にされているサリアやアンジュを見ていると、

なんというか、申し訳ないなあ……と罪悪感すら覚えてしまう程であった。

あまり世間慣れしているとは言えないパラディンのアンジュはもとより

世間慣れの権化ともいえるバードのサリアですらもご婦人達が相手では分が悪いようで

ご婦人達の質問の勢いに押されながらも

困った笑顔を浮かべて何とか話を逸らすのが精一杯のようである。

そんなサリアの姿に敵の猛攻をシールドで押し留めるファイターの面影が重なる。

……まぁ、全然違うのだけど。

(……これは多少の贅沢も許してあげるべき……なのかな?)

今日の昼食では大量の肉を使われたりもしてお仕置きをと思ったりもしたが、

なんだかんだと彼女達には世話になっていると思う。

今もこうして村人との関係が悪くないのは

彼女達が間を取り持ってくれたおかげであり、

そう考えれば多少の我儘や贅沢も許すべき……なのだろうか?

(うーん、それとこれとは何か違うような気もするけど……まぁ、いいか)


そんな事を考えながら隣の席を見てみると

隣のフラウの席では、床に置かれた自分の分のご飯を食べ終えた子オオカミのシルが

フラウに椅子に前足を乗せて支えして、後ろ足で立ち上がってご飯をねだっていた。

最近ではご飯が欲しい時にはフラウにおねだりすれば良いとすっかり学習しており、

今日もフラウを見上げて「わう」と催促をするシル。

フラウもシルに甘えられるのが嬉しい様子で

「わぁ、自分の分のご飯を食べれたんですねー。えらいですねー」

と、シルを両手で持ち上げると自分の膝の上に載せてシルのためにご飯を選び始めた。

「えへへー、なんでも食べられるって、とってもすごいですよね」

選んでいる最中、ふと思い出してこちらを見てにっこり笑うフラウ。


食卓にある料理には本来なら犬が食べるには問題のある玉ねぎ等の食材を使った物も多い。

だが、今シルの首には毒を無効化するアミュレットが装備されており

お陰で食材に気を遣う事なく好きな料理を食べさせる事が出来るようになっていた。

これまでは毒沼や毒霧で満たされた部屋や敵の猛毒攻撃、

あるいは貴族の晩餐会に招待された時なんかで使っていたものだが、

こういう使い方も悪くは無いと思う。

「はは、そうだね。でも、アミュレットを身に着けてない時にはあげないように気を付けないとだよ?」

「はいですっ。えへへー」

無邪気に微笑むフラウの頭を撫でてやり、

今度は自分の手で料理を口に運ぶフィルであった。



そんな賑やかな昼食も終わり、

再びエンチャントの作業をするため二階の作業室に戻ったフィルは、

それから暫くして強化のエンチャントを無事に終えて、

さらに追加のエンチャントに取り掛かった。

(さてと、どんな効果を符呪するか……)


アンジュの希望は神聖ダメージを与えられる武器だった。

通常、この手のダメージを与えるエンチャントとしては「ホーリィ」が定番だが

残念ながらこのエンチャントはアンジュの予算では足りない。

ついでに言うとこのエンチャントを行うには

信仰呪文のホーリー・スマイトやキュア・クリティカル・ウーンズが必要になるのだが

ウィザードのフィルにはこれらの呪文を行使する事が出来ない。

一応手持ちのスクロールを使えば良いのだが、

どちらの呪文も第四段階の信仰呪文でそれなりの技量の必要とする呪文であり、

当然難しい呪文となれば書かれたスクロールも高価になり、

スクロール代を含めると完全に予算オーバーとなってしまい本末転倒である。

(まぁ、呪文でのエンチャントをする訳じゃないし、その辺は問題無い訳だけど)

前回力を込めるやり方で試した時に神聖ダメージの効果を付与出来る事は確認済みだし、

副作用についても今の所は多分、問題は無いと思う。

(あとはどの位の強さでするか……)

あまり威力が強すぎると価格と性能が見合わない代物となってしまい、変な注目を集めかねない。

最悪の場合、逆に呪われた武器なのではと疑われてしまうかもしれない。

なのでここは、通常のホーリーのエンチャントよりは少し弱め、

フレイミングやフロストなんかと同程度が無難だろうか。

(よし、じゃあ始めるか)

……

神聖ダメージのエンチャントをロングソードに施し、

改めて符呪された剣を前に、魔力の流れをディテクト・マジックの呪文で確認し、

エンチャントの出来栄えを確認するフィル。

こうして改めて魔力のオーラを見てみても

オーラからは+1の強化に相当する微弱なオーラが殆どで。

若干の不可解なオーラも見えるが、

これが神聖ダメージのエンチャントとして機能している様にはとても見えない。

(うーん、この辺は実際に使って貰って納得してもらうしかないか)

見た目は怪しいが威力は確かなものであるし、

本来この威力であれば、これだけでも価格的には強化の第二段階相当、

基本価格で金貨八千枚相当の価値がある武器となる。

前もって説明もしてある事だし、多分アンジュは納得してくれることだろう。


(とはいえ、正規のエンチャントじゃないし、もう少し色を付けてあげた方が良いか?)

金額的に微妙のお得、というだけでは納得しても不満は出るかもしれない……

そんな事を考えるフィルだが、

とはいえ、あまり強力なエンチャントをすると後々面倒になるだろうし、

そこそこ便利で、あまり強力過ぎない、それでいてパラディンでも嬉しいエンチャント……。

(ふむ……どんなのが良いか……)

候補としては、先程符呪した神聖ダメージの他に

炎や冷気といった別のダメージ追加系のエンチャントを施すという物。

特に魔法ダメージのエンチャントなら属性も無いし、扱いやすいだろう。

他の候補としては、切った時に呪文が発動するという物。

こちらも前回試しており、ある程度の呪文ならば動作する事を確認している。

その中でも、このロングソードと相性が良いものとなると……。

(ふーむ、……そうだ、切った時にシアリング・ライトが発動するのはどうだろう?)


シアリング・ライト……第三段階の信仰呪文で

聖なる力を太陽光線のように収束させ、きらめく光を撃ち出す呪文であり、

通常のクリーチャーが相手ではさしたる効果は無いのだが、

アンデッドや光に弱いクリーチャーが相手には大きな効果を与えるという呪文である。

切り付けた際にシアリングライトが発動するようにすれば

切り付けた瞬間に敵と触れた部分が激しく光る感じになるぐらいだろうし

この呪文は通常のクリーチャーへのダメージは大した事はないので

呪文レベルを低めにしておけば威力で悪目立ちする事も無いだろう。

アンデッドに高い効果を及ぼす呪文なんてまさにパラディン向きと言える。

問題はこの呪文はクレリックが扱う事のできる信仰呪文で

クレリックでもないフィルが使えるというのは多少疑われるかもしれないが、

まぁ、スコーチング・レイをベースに似たような効果が発動しているのだとか

スクロールから呪文を発動してエンチャントしたのだとか

誤魔しようは色々ある。


(よし、ではさっそく……)

エンチャントの効果が決まったフィルは

さっそくアンジュの錬金術銀のロングソードに対してエンチャントを開始した。

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