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邪神さんと村娘さんのんびりした一日1

「フィルさん~あさですよ~」

朝になり、フィルはすっかり恒例となった

フラウの元気な声とその小さな手に揺り起こされていた。


街にいた時は鐘の音が目覚ましだったが、

鐘の音が聞こえない人里離れたここでは

時間を知る手掛かりは太陽の高さと自分の腹具合ぐらいである。

そんな中で農家の娘であるフラウは相変わらず早起きが得意な様で

日の出と共に目覚めては

隣で寝ているフィルを起こしにかかったのだった。


「フィ~ルさん~」

「ああ、おはよう。フラウ」

暫くフラウに揺らされるのを味わってから、

フィルは瞼を開けていつもの様にフラウに朝の挨拶をした。

長い冒険者生活の所為で、僅かな変化でも起きる事が出来るフィルではあるが

この家でフラウと暮らすようになってからは

もっぱらフラウにこうして起こしてもらうのが日課となっていた。

一人で暮らしていた時なら気ままに昼前まで寝ている所だが

それはそれで寂しいというもので、

こうして朝に起こして貰えるのはとても有難い事だなあとしみじみ思うフィルなのであった。


「あっ、おはようございますっ」

フィルが起きた事を確認して、にっこり笑顔を浮かべるフラウ。

一仕事をやり遂げて満足そうにしているフラウの頭を撫でてお礼を言いながら

向こう側に視線を移すと少女の背後では今も子オオカミのシルが四本の足を延ばして熟睡していた。

どうやら野生の警戒心は三日目にして完全に失われたらしい。

気持ち良さそうに寝ているシルから更に窓の外に視線を移すと、

ガラス窓の向こうに見える空はまだ白く、

少し青みがかかっているといった感じで、どうやらまだ夜明け直後。

睡眠時間は十分と分かっていても、心なしか少し眠気を感じるのも納得である。

「今日もありがとうね」

「えへへ~」

少女の頭を優しく撫でてその労を労い、

ベッドから出た二人は早速交代で部屋で着替える事にした。

一旦フィルが廊下に出てフラウの着替えを待ち、

着替え終えて部屋から出て来たフラウと交代してフィルが部屋で着替える。


着替え終えた二人はフラウがシルを抱き抱えて一階の厨房へと向かった。

今はリラ達に加えアンジュも泊っているので、家で作る食事もかなりの量になる。

なので二人で朝ご飯の支度をしようというのである。


誰も居ない、朝の静かな厨房に入り、

とりあえず戸棚から大鍋を取り出すフィル。

宴会などで大勢に振舞うのを想定しているのだろうか。

数十人分は作れそうな大きな深鍋は大きすぎて持ち運びには苦労する為

前のこの家の利用者が家を去る際も、持ち去られる事なく残されていたという代物である。

そんな鍋であるが、家に人が増えた今となっては非常に有難い代物であった。


「きょうはなにをつくるんです?」

「そうだなぁ、街で買ったパンがあるから、朝ごはんは手軽にパンとシチューはどうかな?」

こちらを見上げて尋ねるフラウに、フィルは何気ない感じで答えた。

これと言って何かを作りたいと決めているという訳では無く、

普段通り、有り物で何か作ろうという感じである。

そんなフィルの適当な答えでもフラウはにっこり笑顔で

「わぁ~。おいしそうですっ! それでいいと思いますー」

と同意してくれるのだった。


フラウの同意も得られたようなので、

二人は早速朝食のシチューの準備に取り掛かる事にした。

早速フラウが小さい鍋で大鍋に水を汲み入れている間に、

フィルはコンロの炉に薪をくべて火をつける。


「……っと、そうだ、これを忘れてた」

火をつけてから少しして、フィルはそう言うと、呪文を唱えた。

呪文を唱え終えた後も周囲に何かが変わった様子は特に見られなかったが、

「玉ねぎとジャガイモとニンジンと小さめに切っておいてくれ」

フィルがそう命令すると、暫くして誰も手を付けてないのに食料庫の扉が開き、

さらに少しすると、空いた扉から数個のジャガイモがふよふよと浮かんでフィル達の所までやって来た。


「わぁ~、あ、これってあんしんさんです?」

「はは、そう。アンシーン・サーヴァントの呪文だよ。数日家を空けていたから、今日は一日、家の掃除とかやって貰おうと思ってね。そうそう、今回もフラウの言う事はちゃんと聞いてくれるからね」

「わぁ~! あっ」

フラウは何かを思いついたようで、厨房の棚に仕舞われていた両手鍋をもってくると、

前回のようにアンシーン・サーヴァントの頭にあたる部分に鍋を被せた。

どうやらフラウは以前アンシーン・サーヴァントに鍋を乗せてから

この格好が気に入ったようである。

鍋を帽子のように被り、すっかり正装のようになったアンシーン・サーヴァントが

黙々とジャガイモの皮をむいている隣で、

フィルとフラウもシチュー作りに取り掛かった。


「とりあえず、野菜を切るのはアンシーン・サーヴァントに任せるとして、他の材料はどうしようか?」

「そうですねー。お肉とー、まちでかったおだしとー。あとミルクとか……んー、あともう少し、何かほしいですよね?」

うーんと考えて、それからフィルを見上げて尋ねるフラウ。

確かにフラウの言うように、今の材料でも十分食べられる味だが

ここはもう一つ二つ、隠し味があった方が良さそうだ。


「そうだなぁ、とろみを付けるのに小麦粉をいれたり、隠し味にパセリやエールを入れたりするのが定番かな? あとは麦を入れて腹持ちを良くしたりとかもあるね」

「わぁ~おいしそうですねっ」

「はは、よく旅人のシチューって言われるやつだよ。酒場でよく食べるんだけど、結構おいしいんだよね」

「あ、やどで食べたシチューです? とってもおいしかったです!」

「宿ごとに隠し味とか細かい違いあってね。でも、どれも大抵はエールやパセリや小麦が入っているんだよ。あとはセロリが入っているのも多いね」

「あ、だからまちでパセリやセロリをたくさん買ったんです?」

「うん、これらの食材は結構色々な料理に使えるからね。自炊するなら食材は多い方がいいだろう?」

「なるほどですー。あ、それならおにわで育てるといいかもです。パセリもセロリもいちどうえれば一年中ずっととれますから、むらでもみんなおにわで育ててるんですよ」

「なるほど、確かに庭で育てれば何時でも自由に使えるね」


これまでずっと、ハーブは店で買うという生活だった所為か、

自分で育てればという事に思い至っていなかった。

前回果樹を植えてみたりしたが、折角、家の周りには使われていない土地が沢山あるのだ。

育てるのが簡単な作物から試してみるのも悪くないだろう。


幸い村にはその手の熟練者が沢山いるし、何かあったら相談してみるのも良い。

「はいですっ。ハーブをそうやっておにわで育てておくと、とってもべんりなんです」

「なるほど、後で村で種とか株を分けて貰えないか相談してみようか」

「はいですー。タイムとかローズマリーとかもあるととってもべんりなんですよっ」

さすがは農家の娘。まだ子供なのに色々なハーブの名前がポンポンと出てくる。

フラウを褒めて、本日のレシピに幾つかのハーブやバターを追加して

本日の朝食づくりが始まった。

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