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邪神さんの街への買い出し109

自室を出て厨房に向かうフィルとフラウとシルの二人と一匹。

途中階段でフラウが子オオカミのシルを抱き上げて、

階段を下りたら一階の廊下を抜けて奥にある厨房の扉を開ける。

真っ暗だった厨房にクォータースタッフに灯った魔法の光が当たると

窯や台所や水場といった厨房の様々な設備が照らしだされた。


「わぁー、なんだかとってもひさしぶりなかんじです」

厨房に入って懐かしそうに周りを見回すフラウ。

「数日とはいえ、色々あったからね」

「えへへー。いろいろあったけど、とってもたのしかったです。シルちゃんともあえましたし」

そう言ってフィルを見上げるフラウは胸の前にシルを抱いており、

子オオカミと一緒でご満悦である。

抱かれているシルも満更ではなさそうにフィルを見上げている。


「ははは、そうだね。さて、ランプに火をつけるからちょっと待っててね」

「はいです」

フラウには少し待ってもらい、厨房の壁に設置された据え置きのランプへと向かった。

今も光源としてライトの魔法の灯りが灯ったクォータースタッフを持っているが

この杖を持って食料庫の整理に入ってしまうと今度は厨房が真っ暗になってしまう。

なので厨房にも照明をという訳である。

それに夜食を料理をするのに包丁や火を使うなら、明るく安全な方が良いだろう。


(流石にもう火種は消えてるか……)

普段は灰に埋めて置いた火種を使う所だが、

数日も家を空けてしまってはもう火種は消えてしまっている。

フィルは腰からダガーを取り出し起動ワードを短く唱え、刀身に炎を出現させると、

その炎を厨房の壁にかけられたランプにかざした。

魔法の短剣を火口代わりとか、高価なマジックアイテムの無駄遣いと怒られそうだが、

チャージ制のアイテムでは無いし、実際冒険者生活ではこんな使い方は日常茶飯事である。

一応リラ達駆け出し冒険者の前では控えているが、

今なら彼女達も居ないし別に問題無いだろう。


ランプに火が灯り、オレンジ色の光が

フィルの持っていたクォータースタッフの白い光に重なり

厨房の中を更に明るく照らし出す。

「これで良しと、それじゃあ僕は食料庫の整理をしてくるね」

「はいですー」

フィルがカバンの中から食材を食糧庫に移している間、

フラウには厨房で待っていてもらい、

その間、フラウは街で買ったシル用の食器に水を汲み入れ

冷たい水をシルに飲ませていた。

「ここのお水はつめたくておいしいんですよー」

語りかけるフラウの言葉を理解しているのかは定かではないが

シルは冷たい水が気に入った様で一心不乱に舌を動かし

容器の水を飲む音がフィルの所にも聞こえて来た。


道中、何度か水は与えていたので、そこまで喉が渇いているとは思えなかったのだが

冷たい水がよほど気に入ったのか、それとも道中に与えた水が足りなかったか、

いずれにせよ今後はあらかじめ水の入った容器を置いておき、

何時でも飲める水飲み場を作ってあげるのが良いかもしれない。


暫く食料庫で食料の移し替え作業をして

食糧庫がカバンから移した食料や飲料で満杯になった所で

ひとまず食料庫の整理を終えたフィルは

街の市場で買った果実水の入った瓶を持って

フラウとシルの居る厨房へと戻っていった。


実際の所、カバンの中には買い込んだ食料がまだ大量に残っているのだが

これは元々食料庫の容量以上の食料を買い込んでいた為であった。

バッグ・オヴ・ホールディングの中にある限りは腐らないし、

冒険中に食料が必要となる場面は稀に良くあるので

こうしてバッグ・オヴ・ホールディングを手に入れた後

多めの食料を買い込むのは冒険者では良くある事だった。

以前のパーティの時に買い込んであった食料もあるのだが

今のパーティではなるべくこちらの食料を消費する事にしよう。


「わぁ、ジュースです?」

フィルの持ってる瓶を見て尋ねるフラウに、フィルは少しだけ瓶を持ち上げてみせた。

「ああ、夜食を作る前に少し休憩をしようと思ってね。焼き菓子もあるよ」

ささやかではあるが、こういう贅沢も良いものである。

本音を言えばフィルとしてはエールが良いのだが、

フラウと一緒に飲むのに、酒を飲んでいる所を見せるのはあまり良くないんじゃないかと

最近はそんな事を考えるようになったフィルである。


「わぁ~。はいですっ。あ、じゃあみなさんよんできますね」

「あー……うん、そうだね」

二人でささやかに……と思っていたフィルだったが、

フラウはそんな事を微塵も思ってはいない様で、

皆を呼ぶためにパタパタと厨房から出て行ってしまった。

これは瓶は一本では足りないかもしれない。

ついでに風呂上りの分も冷やしておこうか

そんな訳で果実水の入った瓶を数本、食料庫から取り出すと水場で冷やし、

焼き菓子を広めの木皿に盛り付けたあと、

フィルは待っている間、お風呂を沸かすついでに夜食の準備を始める事にした。


(さてと……今日は何を作ったものか……)

とりあえず窯に火を入れ、窯と風呂を温めている間に

窯の前に座ってフィルはふむと考えた。

今日は既に夕刻前に重めのサンドイッチを食べているので

今すぐに食べれるものを作る必要は無く、

数時間ぐらいの仕込みがあっても問題無いという事である。

(……あとはサンドイッチ以外が良いか)

昼と夕刻前にそれぞれサンドイッチを食べているので

三食サンドイッチというのは避けた方が良いだろう。

何より本職の料理人が作ったサンドイッチを二回食べ続けた後で

素人の自分が作ったサンドイッチを食べさせる度胸はフィルには無い。


(まぁ、夜食として食べるのだし、手軽に摘めるものが良いか)

無難な所で平パンとシチューを作っておくか?

シチューは腹が減った時に自分で盛り付けてもらえば良いだろう。

(あーいや、でも待てよ、ここなら……)

フィルの頭の中、想像の平パンに少し修正を加えてみる。

丁度窯を温めている事だし、平パンの上面にソースや具を配置して

ピザのように焼いても良いかもしれない。

脳裏に酒場なんかで食べたピザの味が思い出される。


冒険者が集まるような酒場にあるのは専用のピザ窯なんて立派な設備では無いが、

オーブンで焼かれたピザも十分に旨いものである。

それに我が家の窯ならかなり大きなピザでも焼き上げる事が出来るだろう。

(そういえば以前フラウとピザを食べようって話もしたっけな)

ちらりと窯の隣を見て、通常のパンを取り出すのに使われる木製のピールの他に

薄手の料理を取り出したりするのに便利な鉄製の薄い物もあるのを見て

今日の夜食はピザにしようと心に決めるフィル。


そうと決まれば次はその上に載せるソースや具材である。

(そう言えば以前買ってあったトマトソースがあったな)

フラウ達と出会う以前、以前のパーティの時に買ったトマトソースを思い出し、

フィルは自身のカバンの中から素焼きの壺を取り出した。

壺の中には煮詰めたトマトをベースに粗挽き肉や香辛料を混ぜ合わせたものが入っており、

通常はパスタにかけたり混ぜて使う事が多いがこうしたピザに使っても美味い。

(前パーティのアイテムはなるべく使わない方針ではあるけど……まぁいいか)

つい先ほど以前のパーティの時の食料は使うつもりは無いと決めたばかりなのだが、

今日は皆、一日歩いて大変だったし、この位は構わないだろう。

それになにより、一度ピザが食べたくなってしまったフィルの思考が

今更ピザ作りを止めるという事を許してくれないのである。


ソースの次は上に載せる具材だが、

こちらは市場で買って置いたチーズとドライソーセージを主役に

後は彩として、キノコとオニオン、ピーマンを取り出した。

ソーセージと比べて彩の量は少なめだが、

フィルが肉を食べたいのでこれで良いのである。

他にも必要な材料を台所の上に並べ終え、フィルが満足げに頷いた所で、

丁度フラウが少女達を連れて厨房へと戻って来た。


「フィルさーん、ただいまですー」

「ああ、お帰り。焼き菓子と飲み物はそこに置いておいたよ。コップは食器棚から持っていってね」

「はいですっ、あ、フィルさんはたべないんです? おやしょくのよういです?」

台所の上に並んでいる食材を見てフラウがフィルに尋ねた。

普段食べる様な食材とは違う事に気が付き更に尋ねる。

「これって、バンのざいりょうです?」

「ああ、ピザを作ってみようと思ってね」

「わぁ~ピザってまえにいってたのです?」

「うん。なんか無性に食べたくなってね。ただ生地を作るのにちょっと時間がかかるから、皆は先にお菓子を食べて休んでいると良いよ」

「わっ、作ってるいるとこみてみたいです!」

「あはは……本職じゃないし、そんな凄い事なんてなにもないよ?」

興味津々といった風で見上げるフラウにフィルは少し恥ずかしそうに答えた。


酒場や食堂なんかではそれこそピザ生地を手の上でくるくる回したりなんかして

あれは見ていても楽しいものだったりするのだが

素人のフィルにはそんな芸当、とても無理である。

地味に捏ねる姿なんて見てても楽しいものでは無いと思うのだが

とはいえ、一緒に見たいという少女の願いを断る理由にはならない。

そんな訳で、リラ達にはシルを連れて飲み物やお菓子と一緒に先に応接間に行っていてもらい、

フィルとフラウの二人は厨房で生地作りをする事になったのだった。


「……まぁ、ピザ生地作りといっても、パンとそんなに違いはないのだけどね」

「そうなんです?」

「うん。まず材料として、小麦粉、砂糖、それにパン種を少々……っと」

そういってフィルは先程整理したばかりの食料庫から持ち出した材料を一つずつフラウに紹介していく。

ちなみにこのパン種は前にダリウ達が市場で買っていたもので、

それを少し分けて貰ったのだが、早速役に立った。

もともと分けて貰った量がさほど多くないので

今回ピザに使ってしまうと小瓶の中身は半分以下となってしまうが

今の時期なら、そう時間もかからずに増やすことが出来るはずだ。


「で、まずは小麦粉に塩をいれてよく混ぜてから、そこにオリーブオイル、それからパン種を入れて……そこにぬるま湯を少しづつ入れて、それからよく混ぜて……っと」

暫くの間、力を込めて小麦粉を捏ねるフィル。

途中ぬるま湯を加えたりしながら五分ほど捏ねまくる。

「なんだかたいへんそうです」

思わず漏れたフラウの感想に、確かにと同意するフィル。

実際、めいっぱい力を込めて捏ねており、結構な重労働である。

「こうすると美味しくなるなるらしいんだよ」

「そうなんです?」

「僕もよくは知らないんだけど宿の料理人に教えて貰ってね。力いっぱいこねるのが良いらしいんだよ」

「なるほどですー」

「やってみる? ……と言いたい所だけど、踏み台に乗ってだとちょっと危ないか?」

「えへへ。そうかもです」

踏み台に乗っての作業では

包丁を使ったりお鍋をかき混ぜたりするならともかく

思い切り力をかけてとなると、バランスを崩したりしたら怪我をしてしまうかもしれない。

フラウもその辺は自覚しているようで、素直に諦めてくれた。

そんな感じて暫くはフィルが生地を捏ねていると

始めはべちゃっとした生地がだんだんと纏まってくる。

纏まった所で今度は木の板の上に生地を置いて、

そこから更に折り曲げたり潰したりして更に捏ねていく。

「まだまだこねるんです?」

「うん。こうすると、荒さが無くなってつるんとした感じになっていくんだ」

「わぁ……」

一通り捏ねて生地を引っ張って伸びを確認し、

満足がいったところで小分けに丸めた生地を木のボールにいれて

その上に濡れ布巾をかぶせた所でひとまず終了である。

「これでよしと」

「ちゃんとつるんとなりましたねっ」

「うん。今の時期なら一時間程でそこそこ膨らむだろうから、そしたら焼き上げだよ」

「はいですー!」


捏ねるのは結構大変だったが、その分なかなか良い生地が出来た。

これなら焼きあがったピザの出来も期待できそうである。

「後は待つだけだから、僕らもお菓子を食べに行こうか」

「はいですっ」

(とはいえ、このまま応接間に行って菓子は残っているかな?)

結構時間がかかってしまったので、全部食べきるとは言わないまでも

持って行ったお菓子は大分減っている事だろう。

そんな事を思ったフィルは、フラウの分として追加の焼き菓子の取り出すと

それを小皿に載せて二人は応接間へと向かった。


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