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邪神さんの街への買い出し94

「さて、次はどこへ行きます? あ、私は何処でも構いませんよ?」

焼き菓子を片手で摘まみながらのサリアが尋ねると

両手で包むように持っていたハーブティーのカップから口を離したアニタが

「そうだねー」と相槌を打った。


ここは森の女神の寺院……なのだが、小洒落た室内に並ぶテーブルで、

少女達がお茶とお菓子を楽しむという光景は、

どう見てもカフェや喫茶店にしか見えない。

ついでに言えば店の奥では大柄のオオカミが寝そべり、

フラウの膝の上には小さな子オオカミが乗っていたりして、

さしずめペット同伴可能な喫茶店、もしくはどこぞの都市にあると噂で聞いた、

店内で犬や猫と戯れる事が出来るという動物カフェとかいうものに近いのかもしれない。

先程まで女性ドルイドの講義を受けていたフィル達四人は

そんな動物カフェで今はお茶とお菓子で小休憩といった所である。


講義が終わった直後は一様に疲れた様子の少女達だったが、

今は甘いお菓子とハーブティーでゆっくりのんびりしたお陰か

大分元気を取り戻した様にも見える。

勿論同席していたフィルとて例外ではなく、

殆どが既に知っている知識とはいえ、長い講義というのは気疲れもするもので、

今は疲れた頭に焼き菓子の甘さが何とも有難い。


そんなお茶とお菓子を楽しんでいる一行だが、

サリアの言うように次の目的は幾つか有るものの、まだどこに行くのかは決まっていない。

とはいえ時間の猶予はたっぶりあるし、別にわざわざ行き先を決めず

気ままに巡ったとしても今日中に全ての店を巡る事は十分可能なので

今の問いかけも別に真剣に相談をしているという訳では無く、

お茶の席の他愛無い話題の一つといった程度なのだろう。

サリアの言葉にフラウもアニタもうーんといった感じで考えてみるが、

その間もお茶を飲んだり焼き菓子を口にしたり、のんびりしたものである。


「ん。やっぱりシルちゃんの身の回りの道具を買いそろえるのが良いんじゃないかな? 確かお店もここから近いみたいだし」

サリアの質問から少し間を置き、それからのんびりと答えるアニタ。

彼女はずっと講義のメモをとっていた事もあって

フィルを含めた他の三人と比べると、少しお疲れの様にも見える。

呪文や特技を使用してリソースを消費したという訳では無いが

長時間の会議や説明をメモに取るというのは中々に大変なもので

特に長い会議でずっとメモを取らされた時の疲労感なんてものは

呪文を行使した時のそれに勝るとも劣らないものだ。

以前のパーティではウィザードだからとよく書記役を押し付けられていたフィルにも

馴染み深い苦労であるだけに、アニタにはお疲れ様という思いであるが、

この場で口にするのはちょっと恥ずかしいのでここでは黙っている事にする。

とはいえ何時か何らかの形で報いてあげたいものである。



ちなみにシルのお世話については

ドルイドの女性から三件のお店を紹介してもらっていた。

一件目は雑貨屋で、ペット用のブラシや首輪、

床に置いたときに犬がご飯を食べても安定するような円錐台状の深皿など

ペットを飼う為に必要な雑貨を色々取り揃えているのだという。

二件目は家具屋で此方は普段はタンスを作る家具職人なのだが

本業の傍らでペット用のトイレや犬小屋、

あとは大型の獣でも使える爪とぎなんかの比較的大きな物を取り扱っているそうで、

どちらの店もドルイドが協力して動物達から直接使い心地を聞いて

その感想が商品に反映されており、動物からの満足度が高いこれらの品は、

街に来たドルイドが買いに立ち寄る程なのだという。

そしてドルイドが愛用しているという噂は街の中や外に広まり、

今では近隣からもペットを飼っている人々が買い来る人気店なのだという。


……さすがはドルイド、

やはり動物や植物に関する事柄では信用されている感が半端ではない。

時折農民や猟師と揉めたりといった話も聞いたりするが、

直接動物はおろか植物とすら会話できる彼らは

ペットの愛好家や園芸家等の一部からは絶大な信頼を得ており、

ドルイド達が懇意にするのであればと買い求めるのも頷ける。

そこから更に噂が広まり今に至ったという感じなのだろう。


そして最後の三件目は前の二件と違い食料品店なのだが

此方はペットのおやつを売っている店だそうで、

こちらもドルイドと協力して作られているのだという。

この店で作られるペットフードは動物達から直接味の好みを聞いて作られているそうで、

様々な動物の種類や年齢性別別に様々な種類があり、

犬や猫用となると、さらに複数の好みが用意されているのだという。

そんなこだわりのおやつはペット達に大人気で、話を聞いたペット大好きな飼い主達が

躾や特別な日のご褒美に是非とも欲しいと連日買い求めにやってくるらしい。

ちなみに生モノなので常温で保存する事が出来ないそうなのだが、

フィルのバッグ・オヴ・ホールディングがあればその辺は問題無い。


そんな女性ドルイド……というか店主の女性のセールストークを聞いたフラウは

期待一杯という顔でフィルを見上げて言うのだった。

「フィルさん。ぜんぶのお店に行ってみたいです!」



「そうですねぇ。それじゃあ近いところから順にまわっていきましょうか。フィルさんとフラウちゃんもそれでいいです?」

「はいですっ」

尋ねるサリアに楽しみで仕方ないといった風のフラウが頷く。

授業の最後の方はふらふらになっていていたフラウだが、

授業が終わり、甘い焼き菓子を食べ始めてからはすっかりいつも通りに回復したようで、

幸せそうに甘いお菓子で口の中を満たしてはお茶で口の中を洗い流して

「お茶がおいしいです」と上機嫌である。

今はシルがこの焼き菓子は犬が食べても大丈夫と店主の女性に教えてもらったので

早速シルに焼き菓子を分け与えて、その反応を見て喜んでいる。

フラウに焼き菓子を貰ったシルはどうやら甘い物に目覚めてしまったようで、

四肢をぴんと張ってもっとくれと言わんばかりにフラウを前足でペタペタと叩いて

愛くるしい上目遣いでねだって、とうとうフラウから追加のお菓子を貰う事に成功している。

なんとも微笑ましい光景である。


「それで良いよ。ああそうだ。シルのお世話道具を買った後で良いから、市場に行ってもいいかな?」

「私は構いませんけど、何か買い忘れとかです?」

フィルの言葉にサリアが尋ねた。

「いや、シルのおやつだけでなくご飯も準備しておいた方が良いだろうからね。市場で肉を多めに買っておこうと思うんだよ」

一応村の周囲は山で囲まれているので、そこで鹿やウサギなどの野生の獣を狩る、

もしくは村の猟師が狩った獣を購入するという事も出来るが、

そう頻繁にフィルが狩に行ける訳ではないし

村人から買うとしても、彼等が獲った動物は彼等の胃袋に入るべきだとフィルは考えている。


幸いバッグ・オヴ・ホールディングに収納した物は腐敗が進行しないので

傷みやすい所為で価格の安い内蔵などを市場で多めに買い込んでも

使いきれずに腐らせてしまうといった心配は無い。

(多少多く買ったとしても自分達で食べても良いし)

ミートパイにしても美味しいし、新鮮なものなら焼いて食べても結構美味かったりする。

少女達はどうか分からないが、酒の肴に困らなくなるのは有難い。

とはいえ、あくまで目的はシルのご飯を買うためで、

お摘みとして使うのはその次である。

(スパイスや塩も多めに買っておこうかな)

「あー、なるほど、シルちゃんのご飯ですかー」

サリアが納得と両手をポンと合わせる。

「フラウもシルにお肉を食べさせてあげたいよね?」

「わぁ~、はいですっ」

フィルの提案にフラウは嬉しそうに賛成すると、

「よかったですねー」と言いながら膝に乗せたシルの背中を撫でる。

シルはというと、先程まで焼き菓子を夢中で食べていたが

今は満足したのかフラウの膝の上で寝転がって昼寝をしている様で、

そのまま膝の上でもぞもぞと寝返りを打ってはフラウを喜ばせている。


フィルの提案はサリアとアニタの賛成も得られ

その後の予定は市場への買い出しとなり、お店巡りの順番も決まった一行は、

店主の女性にお礼を言って店……もとい寺院を後にした。


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