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邪神さんの街への買い出し83

「あんたら、あの村から来たんだって? 村の様子はどうなんだね?」

「ええ、まぁ、何とかやっているという感じです。今回は村で養う家畜とか野菜の種を買いに来たんですよ」

早速興味津々といった様子で尋ねる職人風の中年親父にラスティが律儀に答える。

ラスティの返答に親父はそうかそうかと満足気に頷きながらエールをあおる。


既に十分に酒が入っているように見える街の職人親父達はもとより

ダリウやラスティも晩飯時に酒を幾らか飲んでいた事もあって、

日頃から交渉役として他人と話す機会の多いラスティだけでなく

普段はあまり話さず、強面で口数が少ない為に不機嫌なのだと誤解されがちなダリウでさえも、

今は街の中年親父達を相手にそれなりに会話し楽しそうにしている。


「金なんか良く残っていたなあ。財産なんてドラゴンに真っ先に巻き上げられなかったのか?」

「レッドドラゴンといやぁ、破壊と支配欲の権化っつーからな」

「案外支配する為に村人を活かしてたんかね?」

ラスティに尋ねた親父とは別の親父が更に口を出して会話に収拾が付かない。

まぁ、相手は酔っ払いだ。抑えが効かないのも仕方無い事か。

今の質問なんてドラゴンに支配された村の当人に尋ねるのは

当時を思い出させる、かなりきわどい質問だと思うのだが、

まぁ、この年頃の中年親父、ましてや酔っている状態の相手に

デリカシーを求めるのが無理な話なのだろう。

冒険者同士であれば、こんな質問が来れば即座に酒をぶっ掛けられて、

そのまま速やかに殴り合いに移行していた所だ。

比較的(あくまでも比較的だ)乱闘に寛容な冒険者の店ならともかく、

堅気の酒場で乱闘騒ぎなど即座に出禁になりかねないので御免被りたいものである。


と、職人親父達を他人事の様に分析しているフィルではあるが

フィルとて中身は同じ中年男であり決して他人事では無い。

軽はずみな言葉でリラ達若い娘達を傷つけたりしないか、常々自戒する日々である。

……ちゃんと気を配れているよね?

似た様な質問を過去に少女達にした事があったような気がして、

なんだか少し、自信が無くなってきた……。


そんな職人親父達なのだが、村代表の若者二人はと言うと

特に気分を害した風も無く苦笑いを浮かべる程度だ。

村では貴重な若者として日頃から年上や年寄りと関わる事が多いだけあって、

酔っ払い親父達の扱いも心得たものなのだろう。

フィル達が若い頃なんて、別のパーティの中年冒険者なんて

面倒だからと無視を決め込んでいたというのに、まったく出来た青年達である。

「ええ、おかげで村には殆ど残って無かったんですけどね。先日村を襲いに来たゴブリンを倒した戦利品を売って金にしたんです」

ラスティの説明は意外だったのか、尋ねた親父以外の親父達も「ほう……」と声を漏らす。


「あんたら村人だけでゴブリンを退治したのかね?」

「いえいえ、そこの彼が冒険者なんですよ。だから戦力はかなりの部分彼任せでしたよ。あと村に冒険者志望の若者が何人かいて、彼等と村の男達とで幾つかの班で分かれてゴブリン狩りをしたんです。ね、フィル?」

と、不意に自分の名前を呼んでからこちら見てにっこり笑うラスティ。

どうやら親父達の注目をこちらに向けさせ、会話に引き込もうという魂胆らしい。

愛想笑いを浮かべるだけで話に加わっていなかったのがバレていたようだ。


「あー、一応手伝いはしたけど、かなり部分は僕以外だったと思うよ。ほら、洞窟内では村人達のパーティもゴブリン達と正面からやり合ったりしてたしね」

「ああ……、あの時は結構必死だったな。洞窟の奥から大量のゴブリンが雪崩込んできて……」

フィルの言葉にダリウがしみじみと頷く。

「そういえば、あの時、奥で何をしたんだ?」

「うん? ああ、まぁちょっと派手に驚かしただけだよ」

そういえばと問いかけるダリウにフィルは曖昧に笑って誤魔化した。

あの時フィルは奥の広間に単身で向かい、ファイアーボールを使ったり、

数体のゴブリンを立て続けに殺したりしてゴブリン達が怯えさせ、

出口に逃げる様に追い込んだりした訳だが、

この辺の具体的な事はゴブリンが逃げ出した先で待機していたダリウ達には

どうやって殺したのかは曖昧に伝えるのみで伏せていた。

一応焼け焦げた死体などから大凡の事は察せられるがその程度である。

パーティの仲間以外に自分達の技量力量を極力伝えないというのは

二十年以上冒険者を続けてきた中で身に染みた癖の様なもので、

実際それのお陰で命拾いした事は多かった。

なので他意は無いのだが、フィルとしては今後もこの癖を変えるつもりも無かった。


フィルがそんな事に思いを馳せている間にも

ラスティの語るゴブリン狩りの様子は続き、倒したゴブリンを埋葬した事や

戦利品を村人総出で修理して売れる状態にした事を語って聞かせる。

話が終わる頃には地元の親父達はすっかり満足した様子となっていた。

「にしても……よく今まで生きてこれたもんだ。まったく随分と逞しいもんだ」

「ははは、ドラゴンと比べたらゴブリンなんてかわいいもんだろうしな」

「その冒険者志望の者達も良くまぁ生き残ってこれたな」

それぞれ好き勝手に感想を述べる職人親父達に、

ダリウとラスティ、それとフィルは困ったような苦笑いで視線を交わす。


話の中では冒険者志望の若者達の勇敢な様子が結構脚色されていた様な気がする。

それは主にラスティが語っていたのだが、

途中からはダリウも所々で相槌の様に彼等の勇敢な様子を追加していた。

そう、話をしている間ずっとラスティは「彼等」とだけ言って、

その者達のクラスはおろか性別は敢えて言っていなかったのだ。

おそらく職人親父達の頭の中ではガタイの良いファイターの青年達の姿が描かれている事だろう。

話の流れが聞いていたダリウもそれを察して、

嘘にならない範囲でラスティの話を膨らませる事を楽しんでいる様だった。

色々不躾ともいえる事ばかり尋ねて来た職人親父達への

彼らなりのささやかな仕返しなのかもしれない。

……まぁすぐにばれそうだし、そうなったらそうなったで見物ではある。


「そういえば、明日は市場や家畜を買いに近隣の牧場に行こうと思うのですが、何処かお勧めの場所とかってありますか?」

一通り話を終えたラスティが今度はそちらの番とばかりに尋ねて、

それからテーブルにある職人親父達のつまみ物の皿に手を伸ばした。

それにつられてか、ダリウもまたつまみ物の皿に手を伸ばす。


テーブルには親父達が元々注文していた揚げた鳥皮が盛られた皿と

ポテトフライが盛られた大皿に追加して

フィル達の持ち込んだドライソーセージとピクルスの皿が並んでいた。

晩飯を既に食べているフィル達としては、

ポテトで腹を膨らませるよりは薄切りのソーセージや揚げた鳥皮の様な

腹には溜らず、口の中に適度な塩気を残してくれる物の方が有難い。

なにせその方がエールが旨いのだ。


「お前さん達、それだけじゃ腹が減るだろ。こっちのジャガは食わんか?」

「ああ、いや、実は俺達、晩飯は食っていて……」

二人の手が揃って鳥皮が盛られた皿へと延びるのを見て

自分達の前にあるポテトの大皿を勧める別の親父に対して、

ダリウは遠慮がちながら自分達が夕食を食べている事を説明する。

口下手でありあまり喋らないのに加え、顔が厳つく誤解されがちな彼だが、

そんな彼がこうして戸惑っている姿は、逆になんだか愛嬌が湧いてくるというものだ。


「なんだ、そうなのか?」

「ええ、すみません。でも一緒に飲めるのは喜んで。いろいろこの辺の話を聞きたいですし」

親父の顔が残念そうになるのをすかさラスティが合いの手を入れると、

親父はそうかそうかと納得してにかっと笑う。

「おお、儂等もあの村の事は気になっていたからなあ。こっちも願ったりだ。で、家畜や野菜の種だったな。そうだな……」


話を聞くに彼等はやはりこの街に住む職人で、

それぞれ細工物職人、家具職人、木製食器職人なのだという。

全員ギルドに所属している者らしく、だとすると年齢からして相応な熟練工なのだろう。

そんな親父が幾つかのお勧めの牧場や野菜の種を取り扱っている店を教えてくれた。

そんな話を聞きながら、フィルもまた鳥皮揚げを摘まんで食べてみた。


口に入れると、振りかけられた塩気にじゅわっと染み出る油のコクと鳥の旨味が加わり、

確かに親父が自慢する旨さなだけはある。

「これは旨いな……!」

「うん。これはエールに合う味ですよね」

鳥皮揚げの味に喜ぶフィルとラスティの反応に中年親父が自慢げに頷く。

「だろう。こいつはこの店の裏メニューでな。旨いんだがいかんせん量が少なくてな。料理に使う油を鳥の皮から抽出してるんだが、それで出た出し殻分しか無いから表のメニューには載らないんだ」

「あー、なるほど。常連のみ知るってやつですね」

親父の説明になるほどと納得するラスティ。

さり気なく向こうが店の常連である事を持ち上げる事も忘れない。


酒場では良くある事で、常連の顔馴染みのみ知る料理、裏メニューというのがある。

それはまかない飯だったり、通常のメニューでは使われない部位や端材を活用した物だったり、

あるいは試作中の料理だったり、初見の客では食べられない料理というのは、

どんな店でも大抵一つや二つはあるものだ。

この親父達は地元の常連だけあって、裏メニューにも精通している様で、

お陰で同席しているフィル達も御同伴に預かれているのである。


まぁ、それで言うならフィル達の頼んだピクルスやドライソーセージの薄切りでも良いのだが、

此方の鳥皮揚げの特徴は何より価格が安い事である。

料理用の鶏油を取り出した時に余る鳥皮の出し殻をつまみとして提供しているので

値段は他の料理と比べても格安なのだそうだ。

その分、提供できる量が少なく通常のメニューにする事が出来ないのだが。

だからこその常連だけ特権なのだろう。


「そんなに気に入ったのなら、家畜を飼うに鶏肉も良いんじゃないか?」

「ああ、そうだな。それなら北の牧場が良いんじゃないか? 確かあそこならニワトリだけじゃなくアヒルやガチョウもあったはずだ」

「アヒルにガチョウか……ニワトリは村にも居るが、アヒルやガチョウも良いな」

「そうだね。飼う場所も重ならないし何羽か買ってみるのも良いかもね」

親父達の言葉にダリウとラスティが乗り気なのを見て、

親父達もそう言う事ならと詳しく牧場の位置を教えてくれた。

これで明日の彼等の目的地は決定だろう。


そんな話で男達が盛り上がっている所で、

湯浴みを終えた少女達が一階の酒場にやって来て、

酒を飲んでいるフィル達を見つけたのだった。

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