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邪神さんの街への買い出し68

獣道を抜けた先は広場の様になっていた。

広場の中央には元は猟師達の拠点だったのか、

数人は寝泊まり出来そうな、そこそこの大きさの

丸太を組んで作られた山小屋の様な建物が建っていた。

山小屋の周囲には以前の家主の名残である薪小屋や物干し台以外には

山積みになった強奪された荷物と共に、

幾つかのテントや焚き火跡など野営の痕跡が残されており、

この場所がすっかり野盗達に占拠されている事が伺い知れた。

おそらく当初はあの建物を占拠して寝泊まりしていたが

人数が増えると建物だけでは賄いきれずに

あぶれた者達がテント暮らしとなったのだろう。

今のあの建物には首領の様なリーダー格が生活しているか、

あるいは貴重品なんかを貯め込む倉庫に使われているか、

まぁ、いずれにせよ中を確認してみれば分かる事だ。



「ええと……誰も居ないみたいですね?」

「んー……そうだね。多分、広場には罠も無いんじゃないかな? ここは生活の場として使ってるみたいだしね」

広場の様子を見回しながら呟くリラに、

その頭の後ろから覗く様に立つフィルが同様に広場を見回しながら相槌を打つ。

フィルが視線を少し下に落とすと二人並んで広場の様子を窺うリラ達の後ろ頭が見える。

一行は広場から少し離れた獣道の路上で一旦立ち止まり、

今はこれからどうするか作戦会議を始めていた。

別にこの場所が相手の死角になっているという訳では無いので

広場の方からもフィル達のいるこの場所は丸見えであったが、

リラの言う通り、広場には敵が潜んでいる様子も無く至って静かなもので

おそらく残っている人はほぼ居ないだろうと思われた。

とは言え物陰に隠れて不意討を仕掛けれられる可能性は残っているし

突入する前にこれからの手筈をここで決めておこうといういう訳である。


通常の探索ではパーティ内で捜索の技能が最も高いフィルが先頭に立つの常だが

今は先頭にリラとトリスが立ち、

フィルはその後ろで二人の頭越しから広場を覗き込むという並びになっている。

罠の捜索などでしゃがんでいる時ならともかく、

立っている状態では身長差もあってフィルの体がリラ達の視線を遮ってしまうので

今みたいな場面ではこうしてリラ達が先に立った方が

三人同時に前方の確認が出来て効率が良いという訳だ。

以前のパーティではもう一人のウィザードを覗いて全員が同程度の身長だったので

今みたいな身長差を活かした配置をした事は無かったが

やってみると結構便利なもので、ハーフリングが居るパーティなんかで

細い通路の捜索の際に彼らが前に立つと後ろの者も周囲を警戒できて

探索が楽だと言うのを聞いたことがあるが、多分それと似た様な感じなのだろう。

細い通路でも自分の視界を遮らず他の仲間も前方を確認できるというのは

確かに便利なものである。

まぁ、こんな場面はそんなに多くは無いだろうが。


野営地の広さや建物の大きさ、テントや焚き火の数からして、

ここで生活をしている人数はおそらく多くて二十人程度といったところか。

先の襲撃の人数を考えると、もし後詰や留守番が残っていたとしてそう多くは無いだろう。

(この人数なら力押しでも十分行けそうか)

罠や不意討に注意は必要だが、それはどんな時でも変わらないし、

大人数を相手にする危険が少ないのは朗報と言える。

これなら今はあれこれ策を講じるより行動に移した方が良い結果が得られるだろう。


「見張りも居ない……という事は、襲撃は全員で来てたのかな?」

「どうなのかしら? 物陰に隠れてるのかもしれないし、あとはあの建物の中に居るとか? だとすると私達が来たのは知られちゃってるかもしれないわね」

リラの疑問にトリスがほらと幾つかある焚火の一つを指さす。

まだ煙を上げている三脚が置かれた焚火のすぐ脇には

大鍋が焚火から避けるように置かれており、

すぐ傍にはまな板代わりの切りかけの野菜の載った切り株があったり、

その近くには桶や麻袋などが置かれている。

おそらく昼食の準備の最中でフィル達の襲撃に向かったために料理を中断したのだろう。


「ここに人が残っていて私達が来ると思ってないなら、お料理の支度を中断しないで代わりの人が続けてるんじゃないかしら?」

「あー。確かにそうかも。じゃあ隠れて戦う準備をしてるとか……それとも全員で来たからここにはもう誰も居ないかって事かな……フィルさんはどっちだと思います?」

「ん? 冒険では最悪のケースを常に想定するのが鉄則だけど、まぁこの規模なら残っていたとしても数人という所なんじゃないかな? 僕らなら此方から捜索して残りが居ないか探し出すかな?」

「なるほど。確かに居る前提でこちらから探すのが一番確実か……。どうする? 私もそれでいいかなって思うけど?」

リラが隣のトリスに確認を取るとトリスはそうねと頷く。

「私もそれで良いと思うわ。それと、一通り確認し終えたらあそこの焚火を借りて休憩をとりましょう。ここまでずっと休憩無しでしたし、そろそろお昼の時間ですし」


トリスのお昼という言葉に後ろで聞いていたサリアとアニタ、そしてフラウが反応した。

「あー……そろそろお昼御飯の時間ですもんね……私、結構お腹ぺこぺこなんですよねー」

「私もお腹空いたかも……フラウちゃんはお腹空いてない?」

「えへへ、私もお腹すきましたー」

「うんうん。早朝からずっと、ここまで何も食べて無かったですもんねー。育ち盛りには辛いですよねー。まぁ、私達も育ち盛りなんですけど!」

と、フィルの後ろでお昼の話題で盛り上がる少女達。


一旦話が始まると話題はお昼は何を食べたいかという話になり、

さらに探索の方から離れて行ってしまう。

今はまだ探索は終わっておらず、探索中に余計な事を考えていては

集中力が途切れ技能に失敗し命を落としかねない。

その事を咎めようかと迷うフィルであったが、

「あー、それならあそこに有る食材で昼食にしても良いかもですねー。でもこういう所の食材って使っていいんですかね? フィルさんはどうしてました?」

と、サリアに尋ねられてフィルも少女達の話題に引きずられて行く。


基本的にこうした野盗や山賊、その他の脅威となるモンスターを倒した戦利品と言うのは

盗品であっても戦利品として冒険者の物とするのが一般的だ。

本来なら盗品は持ち主に返すのが一番なのだが、大抵の盗品は返す相手が分からないし、

それ以前にこうした野盗が持っている物品は返す相手が既にこの世にいない場合の方が多い。

それに特に食材の場合はたとえ後で衛兵に引き渡す事にしたとしても

持ち主不明で彼らの備品になって彼らの胃の中に収まるのが落ちだろうし、

それをフィル達自身の物にしたとしても大した差は無いと言えるだろう。

特にオークやゴブリンでは無く自分達と同じヒューマン向けの食料、

それも自分達と同等の文化圏の食料が手に入る機会は意外と少なく、

しかもバッグ・オヴ・ホールディングに入れれば腐敗は防げるという事もあって、

フィルとしても此処にある食材に興味が沸かない訳では無い。


「そうだね……。まぁ相手が野盗とかで戦利品を返す先が分からなくて、ヒューマンやエルフ、ドワーフ、ハーフリングの資材であれば遠慮なく使わせてもらうかな……他の種族の場合は穀物とかはともかく、肉類は避けるかな」

「そうなんですか?」

「ああ、たとえ善の種族であっても食文化が違う種族と言うのは結構あるんだよ。その手の食事に関しては特にドラゴンボーンなんかは気を付けた方が良いかな。彼らは人型の……言葉を喋る者の肉でも食べるのを躊躇しないからね……」

「ドラゴンボーン! 竜の血をひく種族ですね! フィルさんは会った事あるんですか?」

「あ、ああ、何度かあるし一緒に冒険をした事も何度かあったよ」

ドラゴンボーンと言う単語に興味津々と言った様子を隠しきれないサリアに

フィルは若干引き気味に答える。


ドラゴンボーン、彼等は古代の竜の血を引くと言われる種族で、

荒々しい二足歩行をする竜といった見た目だが、

善の種族であり大概のものは友好的であり、そして紳士的である。

そんな他の善の種族とも仲の良い彼等ではあったが、

種族の違いとして注意すべき点として、彼らは他の知的生物を食す事を忌避しないというのが有る。

しかも文明人らしく綺麗に調理して美味しく食べるので余計に言及に困る。

まぁ他の知的生物といっても極論は他の動物の肉であり、

別に同族食いという訳でも無く、忌避感もあくまで心理的であり、

弱肉強食というか自然の摂理としては彼らの方が正しいのかもしれないが、

とは言え大抵の善の種族からしたらそれは野蛮な行為であり禁忌である。

まぁ、ドラゴンボーンという種族は大抵は紳士的な者が多く

そう言った種族間の文化についても理解しており配慮してくれるのだが、

だが彼らの親族の集まりなどに御呼ばれされた際には特に注意が必要となる。

数々の腕に縒りをかけて作った料理達に紛れ「そう言う食材」の料理が置かれているのだ。

そういう時は素直に自分達が食べれない料理を教えてもらい食べない様気をつける訳だが、

分かった後も彼らが腕に縒りをかけて作った料理は見た目からして非常に美味しそうで

思わず食べたくなるのを懸命に堪えなければならないのだ。


「まぁ、彼等に悪意がある訳でも無いし、あくまで文化の違いだからね。こちらも何も言えないんだよね」

……と、興味深々に耳を傾けてくれる少女達相手に話し込んでしまい、

気が付けば自分も随分と本題から外れてしまっている。

冒険中に余計な事を考えていると碌な事が無いのは

これまでの経験で痛い程学んでいるはずなのに

どうにもこの娘達と一緒にいると以前の様に動けていない様な気がする……。


フィルがそんな事を反省している間も少女達の議論?は進んでいる様で

今はリラとトリスの二人も加わり料理を作るか、

それとも街の道具屋で買った保存食を食べてみるかという話題で盛り上がっている。

「じゃあ、なんの料理を作るのかは向こうにある物を確認してからにしましょう。あ、リラは御飯食べれそう?」

「あ、うん。今日はだいじょうぶっ。ありがとね」

どうやら結論としては高価な携帯食料は温存しておき昼食を作る事に決まったらしい。

トリスに心配されたリラが苦笑いで頷く。

そう言えば前回のゴブリン狩りでは戦闘直後は疲労と心労で殆ど昼食が喉を通らない程だった。

そう考えると今回は戦闘があっさりと終わったという事もあるが

あれからまだ然程経っていないというのにこうして疲れた様子を見せず、

食事もちゃんと食べられるというのは彼女も戦場慣れしたものだと、

フィルとしてもその成長に感慨深いものがある。

普通の親であれば娘が人殺しに慣れるなんて卒倒しかねない事だろうが、

冒険者となるのであればそれは生き残るための重要な条件であるとも言える。


「それじゃあ、予定も決まった事ですし、そろそろ行きます?」

「決まったのはお昼の予定だけだよ? 探索の方針も決めないと」

「あー、そうでしたね。ついつい決まった気になっちゃってまして」

アニタの指摘にてへぺろっとうっかり道を間違えた時みたいな軽い感じのサリアに

今は命のやり取りをしている最中なのだよと、

物事の優先順位をしっかり自覚してもらう為にも厳しくしようフィルは窘める。

「あー、ほら、残りはあの建物と広場だけだし、先に安全である事を確認してからにしよう。分担して手早く済ませてもいいしね」

……まぁ、振り返った顔の中にフラウも一緒に居る時点で、

元より厳しくするなんて無理な話だったのだ……。

下手に威圧なんかしてフラウを怯えさせるなどとんでもない。


「たしかにそうですね。それじゃあ、分担して探索します? ええっと分ける戦力だけど……」

リラが何事も無かったかのように話題を引き継いでくれて他の娘達も素直にリラに従う。

こういう時、こうして何事も無かった様に流してくれるのは有難い事である。

「一応広場も敵が残っている可能性はあるけど、一番可能性が高いのは建物の中なんですよね?」

「じゃあ、分ける戦力は同じ位に戦闘が出来る人で分ける感じいいかしら?」

「んーでもそうすると、フィルさんとそれ以外……ってなっちゃうよ?」

アニタの一言にあー……と一同がフィルの方へと向く。


「まぁ、それでもいいけどね。 僕としては今は自分達の安全を第一に考えるのは正しいと思うし、後探索を効率良く進めるべきだと思うしね。ただそうなると、一人で広場の捜索は大変だから僕は建物の方にさせてもらおうと思うけど良いかな?」

建物なら捜索範囲も限定されるし一人でも然程時間は掛からないだろうし、

それに戦闘になったとしてもこの大きさの建物であれば

範囲攻撃呪文を使えば数の不利など大した問題にはならない。

そもそも屋外と違い建物の中の様な限定された空間と言うのは人数による優位を活かし辛い。

問題があるとすれば人質を取られた場合とかだろうが、

それを踏まえても屋外よりはやり易いだろう。


とは言え少女達からしては、敵がいる可能性が高い方へ

一人だけ向かわせるというのはなんとも居心地悪い事である。

「ほんとにフィルさん一人で大丈夫なんですか?」

「ああ。ま、さっきの野盗の強さを見るかぎり、大丈夫なんじゃないかな?」

尋ねるサリアにフィルは肩を竦めて見せる。

本来なら冒険中の単独行動というのは危険な行為であり

冒険中はローグが先行して捜索する場面でもない限り、一人での行動は慎むべきなのだが、

このパーティに限って言えば、フィル一人が単独行動する事に不安があるというよりも

フィルとしては寧ろ戦力的に低いリラ達の方が心配である。

尋ねるサリアにしても、フィルや自分達の身を案じてというよりは

冒険のセオリーと違うが良いのかと言う、念の為の確認なのだろう。

まぁ、先程の戦闘で彼女達も十分互角以上に野盗と戦えていたので、

その心配は過保護なのかもしれないが、それでも不安になるのはフィルが心配性だからだろうか。


「もしあの建物に何人か籠もっていたとしても建物内での戦闘なら僕一人で大丈夫だよ。それに一人の方が色々都合が良いからね」

単純な剣の腕は言うに及ばず、建物内で範囲攻撃呪文をつかえば

先程戦闘した野盗程度の相手なら全員を殲滅する事も無力化する事も容易な事だ。

その時に仲間が同行していては呪文の巻き添えにしてしまう可能性もあり、

寧ろ一人の方が都合が良いとすら言える。

そんなフィルの提案に少女達は少し考えて、それからうーんと更に考えている。

「本当に任せちゃっても大丈夫です?」

「まぁ、大抵の相手なら僕一人でも大丈夫だろうしね」

リラが心配そうに尋ねてくる。どうやらこちらは純粋にフィルの身を案じてくれているらしい。

それは嬉しい事ではあるが、万が一あの中に強敵が居た場合、

フィル一人で戦闘した方が戦いに専念出来るし、

範囲攻撃などの巻き添えで仲間に余計な被害も出ないというものだ。

……まぁ、流石に彼女達の前でそんな事は言えないが。


「もし何かあれば建物からすぐに出て助けを呼ぶよ」

「まぁ……それならいいですけど……」

フィルの言葉にリラが頷こうとしたところで、

「んー……やっぱり私、ついて行っていいです?」

そう申し出てきたのはサリアだった。

「そりゃフィルさんなら一人で大丈夫かもですけど、それでも何かあった時のサポートに誰か居た方が良いと思いますし、出来るだけ安全策を取ったほうがいいと思うんです」

サリアの提案に他の少女達もうんうんと頷く。

彼女達としても幾ら確実だからと、フィル一人に任せる事にはやはり抵抗が有ったのだろう。

まぁフィルとしても無理に一人で踏み込まなければならないという事は無い。

それに中の様子がどうであれ、何れ全員が知る事になるのだ。

ここであれこれ言っても始まらないだろう。

サリアの提案にフィルも素直に分かったと頷く。


「分かった。それじゃあサリアは僕と一緒に、リラ達は広場の捜索をお願いするね。物陰にまだ隠れているかもしれないから、バラバラにならずに固まって行動するんだよ?」

「「「「はーい」」」」

「あとは野外だか足跡をよく見て、それから……」

「ほらほら、フィルさん。フラウちゃんが心配なのは分かりましたから、もう行きますよー。そう言う事はみんなもう分かってますからねー」

さらに説明しようとするフィルの腕をサリアが掴んでひっぱる様にして建物へ向けて歩きだす。

そんなサリアとフィルの様子を楽しそうに眺めるリラ達と共にフィルは広場へと踏み込んだ。

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