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邪神さんの街への買い出し53

次に一行は家畜を購入する為、家畜の取引所へと向かった。

家畜の交易所は城門近くに建つこじんまりとした建物で、

ここでは街から出入りする度に通行税を取られる街の外の人間を相手にした

壁の外にある牧場との取引を仲介する店だった。

ちなみに今フィル達が利用しているこの店は

街に滞在している者向けの出張所というか分所の様なもので、

本店は街の外にあり主な取引はそこで行われている。

街の外に本店がある理由は家畜も城門を通る際に通行税が必要となる為で

多くの商人は街に到着して早々に通行税のかからない街の外で取引を済ませてしまうのである。


そんな小さな店舗の扉を開けてフィル達が店内に入ると

今も店員と旅の商人らしき男性が商談をしている最中だった。

「フィルさん。ここでやぎさんを買うんです? どこにもいないですよ?」

店内を見回して怪訝そうにフラウが尋ねる通り、

こじんまりとした建物の中は商店というより事務所といった雰囲気で

家畜の取引所という割にはどこにも動物の姿は見られず、

有るのは沢山の書類や商談の為のカウンターばかり。

とても動物を扱っている店には見えない。

「あはは、そうだね。ここは街の近くの牧場で飼育されている家畜を管理しているんだよ。街の周辺にあるどの牧場に何匹売ってもいい家畜が居るとかを管理していて、ここで買う事も出来るんだよ」

「なるほどです……。でも、それじゃあヤギさんは見られないんです?」

「ははは、ご希望とあれば、後で実際に牧場へ見に行くことも出来ますよ」

心底残念そうなフラウに、商談をしているのとは別の店員が二人に話しかけてきた。

柔らかい営業スマイルを浮かべた男性はいかにも商人といった風体で

先程の二人の会話を聞いていたのだろう。


「いらっしゃいませ。本日は家畜の購入でしょうか?」

にこやかに尋ねる店員にフィルはええ、と頷いた。

「家畜を幾らか購入しに来ました。とはいっても、僕は付添で、購入するのは此方の二人ですけど」

そう言って傍にいるダリウとラスティを紹介すると

先程の馬車工房でのやり取りと同様、

ラスティが口を開いて店員へと要件を伝える。

「村で育てる山羊を何頭かと、あとロバを二頭買いたいんです。繁殖もしたいので、出来れば雄雌共に若いのを探しているのですが」

「おや、そうでしたか。それではあちらで詳しいお話をお伺いしますね」

店員に案内されて商談用のカウンターへと向かうダリウとラスティ。

フィルとフラウの二人も此処では特にする事が無いので

二人の後ろについて行く事にした。


「繁殖ですね。今ですと丁度、今年の春に生まれた子山羊が何頭かお分けできますよ。繁殖用も居ますが、食肉用を買って育てても良いと思いますよ。こちらは食肉用が金貨一枚で、繁殖用ですと金貨二枚ですね」

「食肉用というと、早めに離乳させた奴ですか?」

確認するラスティに店員はそうですと頷いた。

「ええ。早くから牧草を食べさせている分、発育が少し悪いですが、成長すれば繁殖用と同じになりますよ」

「なるほど……。それだとまず食肉用のメスを四頭といったところか。食肉用のオスは去勢されてないのか?」

一緒に話を聞いていたダリウが尋ねる。

ラスティも消して交渉が得意という訳ではないので

一人では取引時に確認漏れが出る事も有るかもしれないが

二人でなら安心だし、その分交渉に余裕も出来るというものだ。

「ええ、オスも未去勢ですから種としても使えますよ」

「それじゃあ、食肉用のオスを二頭とメスを四頭買おうと思うのですが、大丈夫ですか?」

「六頭ですね。それならたしか……こちらの牧場で揃える事が出来ますよ」

「一つの牧場だと血が濃くならないか?」

「ああ、その辺は大丈夫ですよ。ここの牧場は毎年繁殖用のオスを別の牧場から取り入れてますからね。血統も濃くないですし良い山羊が揃ってますよ」



(……ふむ、商談は順調そうだ)

この分なら程なく無事に終了する事だろう。

特にする事も無いからと、ラスティ達の商談を後ろでのんびり聞いているフィルに

フラウがフィルの袖を引いて尋ねてきた。

「フィルさんフィルさん」

「うん? どうしたんだい?」

「フィルさんはどうしてはんしょくようと、しょくにくようで分けるかしってます?」

えへへーと楽し気に尋ねてくる事から、

多分フラウは理由を知っていて謎掛けのつもりなのだろう。

難しい言葉を使ってちょっと得意げな様子が可愛らしい。

フィルとフラウの二人はする事も無いので、これはちょっとした暇つぶしなのだろう。


この辺の農業や牧畜といった知識については、

これまでの人生で知り得たある程度の知識はあるものの、

やはり本職の者達の知識とは比べるべくも無い。

そういえば普段はあまりそんな事気にしないなぁと思いつつ、

知識として足りない分は他の知識を元に推測で補完して

フィルはふむと考えてみる。


「うーん、多分、山羊の乳を多く欲しいからじゃないかな? だから必要が無ければ早めに離乳させて、本来子山羊が飲む分を人間が飲むんだよ。たしか山羊の乳は出産から暫くの期間しか出ないと聞いた事があるし」

「わ、せいかいですー! フィルさんすごいですー」

笑顔で褒められるのはなんだか母か姉に褒められている様な気分になるが

フィルとしては不思議と満更でもない気分だ。

「じゃあですねー……」


後ろで二人がそんな会話をしている間もラスティ達と商人との商談は進み、

最終的に食肉用の子山羊を六頭、ロバを二頭購入する事に決めた様だった。

代金は合計で金貨二十二枚。

ちなみにロバは一頭につき金貨八枚で子山羊六頭より高価である。

随分高い様に感じてしまうが、これでも相場通りの価格で

これが馬だと、最も安価なライト・ホースですら金貨七十五枚と

完全に予算オーバーになってしまう事を考えれば十分に買い易いお値段だ。


購入する家畜を決めた一行は実際に確認しようという事で

商人に案内されて、まずは子山羊を飼育している牧場へと見学に行く事になった。

牧畜というのは広い土地が必要になる施設であり、とても街の中で行えるものでは無い。

そのためフィル達が訪れる牧場も街の外にあり、

本来なら街の住人でないフィル達が城門を行き来するには通行税を払う必要があるのだが、

家畜の見学の為に一時的に外に出るのは特例で無料で良いらしい。


城門で店員が衛兵になにやら伝えて銀貨を渡すと、

代わりに衛兵から木札が店員に手渡される。

その後を続くフィル達は簡単な身分確認のみで、

特に通行税を払う事無く通行の許可が下りた。

どうやらこういった店員が同行しての牧場見学では通行税を一旦は支払いはするものの、

今日中に街に戻ってくれば戻った時に木札を返却すれば

支払った金額が返却されるという仕組みらしく、

先程は店員が一行の分の通行税を一括で払ってくれたらしい。

通行税や関税は街の収入には違いないが、

厳しく税を取り立て過ぎると今度は街の交易が委縮してしまう。

要所ではきちんと税金を取り立てつつも、交易の阻害はしない様にして

活発に交易をさせようという事なのだろう。



そんな事をぼんやりと考えている内に

フィル達一行は店員に案内されて目的の牧場へとたどり着いた。

どうやら羊を主とした牧場の様で、

山羊は食用はもちろん羊皮紙の為に飼育しているのだと言う。

今は親は放牧中で、子山羊達が囲いの中で遊んでいる最中だった。

「わぁ~。すっごいかわいいですね!」

牧場の一角に放し飼いにされている子山羊達を前にしてフラウは目を輝かせた。

「ここに居るのは生後二か月ほどの子山羊達ですよ。まだ成熟して無いのでオスメス一緒に育てていいます。どうぞ、もっと近くで実際に触っても大丈夫ですよ。ちょっと私は牧場の者を呼んできますね」


店員の言葉に嬉しそうに柵の方へと駆けて行くフラウ。

山羊の子供達は今は畜舎の傍でグループになって遊びに興じている所だった。

生まれてからまだ二か月というが、既に離乳も済ませ

元気に草を食んだり、子山羊同士での追いかけっこに一生懸命になっている。

フラウが柵に近づくと、さっそく好奇心旺盛な数頭の子山羊が

メェ~と鳴きながらフラウの所へとやって来た。


「わぁ~! フィルさんフィルさん。すっごくかわいいですよ! ちいさくてかわいいですー!」

差し伸ばした手に顔を近づける子山羊にはしゃぐフラウに

フィルも笑顔になって目を細めた。

「そうだねー。なんだかこうして見るとちょっと犬みたいだね」

「えー。でも鳴き声はぜんぜんちがいますよー」

「あはは。確かにそうだね」

「あとあと、歩き方もぴょんっぴょんってしててかわいいです!」

「あはは、そうだねー。子山羊ってこんな風に歩くんだね」

はしゃぐフラウと一緒に柵の中の子山羊達を眺めるフィル。

フラウがこれだけ喜んでくれたのだから、

それだけでも牧場に来た甲斐があったと言うものだ。


フィルとフラウが無邪気に子山羊と戯れている間もラスティ達の商談は続いており、

今はフィル達のすぐ傍で牧場の山羊飼いから

柵の中で遊びまわっている子山羊達について

性格や相性等をあれこれと聞いている所だった。

「あの子山羊は元気があるんだが、少し腕白で、大人になったら他と喧嘩をするかもしれないね」

「なるほど、群れで飼うには少し都合が悪いですよね……。大人しめのオスは居ますか?」

「そうだねぇ。あそこでみなで遊んでるのなんかは比較的大人し目かな。見ての通り他の山羊との仲も良いね」

「確かに、あの山羊なら群れでも仲良くできそうだ。血の方は大丈夫か? 出来るだけ濃くならない様にしたいのだが」

「そうだなー。あの山羊なら、あれと、あれが血が近いな。それ以外なら大丈夫だろう」

山羊飼いの的確な説明にふむふむと頷く二人。

それからも親の病歴や体格など色々と確認していて

子山羊を選ぶだけでも色々考える事があるのだと思い知らされる。

真剣に検討する二人に対して山羊飼いも二人の質問に懇切丁寧に答えてくれた。

彼としてもせっかく育てた子山羊達に愛着があるのだろう。

丁寧に説明をしてくれて、結果として繁殖に良さそうな子山羊を六頭選んだ一行は、

明日の朝に城門前に連れてきてもらう約束を取り付けて

無事に取引を終える事が出来た。


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