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邪神さんの街への買い出し51

フードコートで無事に合流して昼食となった一行。

ダリウ達を見てみると、二人ともフラウの言う所の「育ちざかり」の様で

どちらもフィルに負けない位の量の料理を買っていた。

やはり健康で一般的な男性ならば、この位食べるのは普通だという事なのだろう。

……まぁ、この三人全員が食いしん坊という可能性は、大いにある訳だが。


そんな二人がどんな料理を選んだかと言えば、

まずダリウはフィルと同じ店の巨大サンドイッチと

具沢山のシチュー、そして山盛りの揚げ鳥肉。

大きな籠を腕から下げて両手にシチューの皿と揚鳥のボウルを持ちながら

更にその上にパンを載せて(片方の揚げ鳥の山なんて今にも崩れそうだ)バランスを取るという、

なんとも難易度の高い持ち方をしている。

前々から思っていた事だが、何気に彼は器用な男である。


どうやらダリウもフィルと同様、あの屋台の巨大サンドイッチの魅力に抗えなかったらしく

フィルの前にある自分のと同じサンドイッチを見て

お前もそれを買ったのかーと笑っているのだが

同じパンを好きになった同好の士として言わせてもらうのなら、

バランスを崩してパンを落として駄目にしてしまう前に

早くその食器とパンをテーブルの安全な場所に置いて欲しいものだ。


もう一方のラスティはというと、

こちらは手堅くフードコートで貸し出されている大きな木の皿の上に

大きなミートパイにこれまた大きなソーセージ、

それと牛か豚か猪か、いずれかの獣の串焼きを載せていて、

相方と有様と見比べるとどうしても凄く安定している様に見える。

もう片方の手にはスープの深皿を持っているのだが、

どうやらこの辺では珍しい魚介のスープを買ったようで

乾燥した魚の切り身やイカやタコの切り身

それに豆がたっぷりと入ってこちらも食べごたえがありそうだ。

保存しやすく乾燥させた食材とはいえ山間部では見慣れない海の幸を選ぶとは

普段は手堅い彼だが、案外、料理では冒険をするタイプなのかもしれない。

そして豆以外に野菜が無い所を見るに結構な肉食派である。


「わぁ~おにーさんたちの料理もすっごくおいしそうですー。ねっ、フィルさん」

「ああ、そうだね。だがしかし……」

ダリウ達の料理を見て素直に美味しそうですねーと言うフラウに相槌を打ちながらも、

フィルは男二人の手に持っている物を渋い表情で見つめている。

いや、恨めしげとと言ったら良いのか、物欲しげと言ったら良いのか。

視線の先にある物。それは二人とも料理だけでなく木製のマグを手にしており、

そこにはどうみてもエールの泡らしき白い物が顔をのぞかせていたのだった。


(やっぱ自分もエールを頼めば良かったか……いや、フラウと一緒に居るのに酒を飲むのもアレだし……)

そんな事を悶々と考えながら、じっとエールを見つめるフィルに気付いたのか

ダリウがニヤリと笑って手にしたマグをちょいと持ち上げて見せた。

「なんだ、買わなかったのか? 美味い飯にはやっぱこれだからな」

「いやー。みんな買ってるから、つい、ね。それにここのエールはかなり評判いいらしいよ?」

ダリウだけでなくラスティまでも追い打ちをかけてきて、フィルは更に渋面になるが

「フィルさん。エールがのみたかったんです?」

と、隣に座るフラウに一言尋ねられた途端に渋くなった顔を慌てて笑顔に戻して首を振った。


「ああ、いや、エールも良いけど今はこっちが良いと思ったんだよ? うんうん」

まったく、酒が飲めないからと不機嫌になるなんて聞き分けの悪い子供ではないか。

慌てるフィルの言い訳にフラウはえへへと嬉しそうに微笑むと

「はいですー。とっても美味しくて暑い日にぴったりです」

と無邪気に甘い果実水の入ったマグに口を付けて、こくこくと喉を潤す。

そんなフラウの様子にフィルはエールの事はこれ以上考えないに限る、

と気持ちを切り替えてもう一つの疑問を口にした。


「ところでその籠だけど、何か買ってきたのかい?」

フィルが指さした先にあるのはダリウ達が持っていた籠だった。

先程食品問屋で中身だけを預かったのだが

今はダリウが持ち歩いており、昼食を探すのと一緒に何か買ってきたらしく

籠には日差し避けか、上に布が被せられている。

「なんだか、甘いにおいがします? くだものが入っているんです?」

フラウが尋ねた通り、たしかに中からはうっすらと果物らしき甘い香りが漂っていた。


「ああ、そうだ。市場を見るついでに果物を幾つか買ってきた」

尋ねる二人にようやく食器とパンを置いたダリウが籠に掛けられた布を捲ると

籠の中には様々な旬の果物が甘い香りと共に新鮮なその顔を覗かせていた。

ベリーにチェリー、スモモといった小さな果物ばかりでなく

リンゴ、オレンジ、大きい物ではメロンなんてのもある。

どれも結構に熟していて、とても美味しそうだ。


「わぁ~。すっごくおいしそうです!」

「へぇ……果物かぁ。それにしても沢山買ったね」

「後で食べて種を取って、育ててみようとかと思ってな」

「ああ、なるほど……」

後で村で育てられないか、実験しようという事なのだろう。

新しい野菜や果物が育てられる様になれば、それだけ村で美味しい果物が食べられる。

幸いにして、村の土壌は肥沃で、

丁寧に面倒を見てやれば多少気候が合わない作物でも育てる事が出来るらしい。

実に農家らしい発想で、心なしかダリウの厳つい顔も楽しげに見える。

(ふむ、でも、野菜は買わないんだ?)

食事事情を良くするなら野菜も増やしたほうが良いのではと、そんな考えが頭をよぎるが、

「できれば野菜も欲しいんだけど、野菜って葉物だったり未成熟で収穫する事が多いからね。こっちは後で直接、種を買おうと思ってるんだよね」

疑問を口にする前にラスティが追加で説明してくれて、

フィルは更に「なるほど……」と頷いた。


「早めに食べないと傷んじゃうから昼ご飯の後でも幾つか食べようと思ってるんだけど、フラウは何か食べたいものはあるかい?」

「わぁ~。それじゃあ、チェリーが食べたいですー!」

リラ達には内緒だよ? と悪戯っぽく笑うラスティに、フラウが元気よく返事する。

そうして今日の昼食には更にもう一品、デザートが追加されたのだった。



「あーそうだ。そういえばご飯を切り分けないとだね」

「はいですー」

ダリウ達との話に気を取られてしまっていたが

お昼御飯は分けあって食べてると言っていた事を思い出したフィルは

そう言って腰のダガーを引き抜くと、手慣れた手つきで料理を切り分けていった。


フィルが刀身をパンに当てて短剣を引くと、

パンはすうっと圧し潰される事もなく、線を引くかの様に二つに別れていく。

「わぁ~。すって切れちゃうんですねー」

「ははは、一応、魔法のダガーだからね」

ダガーの切れ味に感心するフラウにフィルは得意げに言った。

このダガーもまた、嘗ての冒険で得た戦利品の一つを改良した物で

アダマンティン製の刀身は他の金属を易々と貫き、

合言葉を唱えれば神聖属性と純粋な魔力を纏った刃が相手を燃やし

更に別の合言葉では通常の炎を刀身に纏わせる事が出来るという代物だ。

ダガーなのでメイン武器として戦闘で使われる事は殆ど無いが、

今も腰で紐で縛られ封印されているロングソード等とは違い、

日常の道具としてみなされる為に街中でも自由に扱える事を活かして

予備の武器としてや、王宮等の通常の武器を持ち込めない場所での護身用の懐刀として、

常にフィルの傍にあった、付き合いの長い武器である。

さらに言うと合言葉で能力を起動さえしなければ、

ただ丈夫で切れ味が鋭いだけのダガーなので

それを活かして移動時の藪払いや野営時の薪割、調理で食材を切る時、

ついでに焚火に火を付けたり、鉄の箱をこじ開けたり、岩に目印を付けたりと、

冒険の様々な場面で役に立つ便利な一振りとしても随分と重宝していた。


そんな使い慣れたダガーを器用に扱い、

フィルは自分の大きなサンドイッチを四等分、フラウのサンドイッチは二等分で切り分け、

その次は薄板に載ったキッシュを二等分で切り分けて、

更にその隣にフォークで串からばらした串焼き肉を添えていく。

途中、合言葉を唱えれば、光輝と純粋な魔力による炎が刀身を包み

切った時に付いた油汚れを綺麗に焼き落として再び綺麗な刀身に戻る。

「わぁ~すごいですねー」

「ふふふ、そうだろう?」

「洗い物しなくていいって、とっても便利なのです!」

本来は敵に切りつけた際、追加でダメージを与える能力で、

付着した血糊を焼き払うのはそのついでなのだが、

フラウにとっては洗い物要らずの便利機能という事なのだろう。

市場で買えれば金貨三万枚(腰のロングソードの十倍以上の価値だ)は下らない

高価なマジックアイテムであるのだが、まぁ、実際フラウの言う通りだし、

こうして感心してもらえるのはフィルとしても気分が良い。


そんな話をしながらも料理を切り終えたフィルは「よしっ」という声とともに

フラウには屋台でキッシュを買う時に一緒に付いて来たフォークを渡し

自分は野営で使う自前のフォークをカバンから取り出した。

「はい。食べる時はこのフォークを使うと良いよ。僕はこっちのフォークを使うね」

「はいです。ありがとうございますー」


「なんだ、二人は分け合って食べるのか?」

二人が料理を切り分け一緒に食べようとしている所を

既にサンドイッチにかぶりついていたダリウが見て尋ねた。

当人はというと既に巨大なサンドイッチの端からかぶりついていて、

まさしくフィルが思い描く理想のサンドイッチの食べ方そのものとなっている。


「ああ、その方が二人共、色々食べれるからね」

「えへへー。私一人だと一つでおなかいっぱいになっちゃうからって、フィルさんが言ってくれたんです」

「なるほど……」

笑顔で答えるフラウにダリウは頷き、

それから少し考えた様子だったが直ぐにそうかと言って

再びサンドイッチにかぶりつく。

「色んな種類の料理も良いが、一つを腹いっぱい食べるのも悪くないぞ?」

「ははは、まぁ僕も一人の時はそんなもんだったよ。ひたすら茹でたジャガイモを食べてたりしてたしね」

「なんかこう、デカい飯を食べると食べたーって実感がするんだよな」

その言葉通り、巨大なサンドイッチを端から征服していくかのように食べていくダリウ。

その食べ方が美味しいのは、独り身で長年同様の食べ方で食べていたフィルには良く分かる。

というか、以前所属していたパーティでは、メンバー全員が中年の男ばかりとあって、

酒場で大皿料理を頼んだのならいざ知らず、

普段それぞれが個別の料理を頼んだ時は、分け合うなんて事は一切しなかった。

……というか、中年男同士で仲良く料理を分け合いっこするとか、

非常時で食料を管理する必要がある時ならいざ知らず、

特に必要性も無い平時に何故する必要があるのか……といった感じだろう。


「僕はどちらも良いものだと思うよ。一人で心置きなく食べるのも美味しいし。こうして分け合って食べるのも良いと思うしね」

何がどう良いのかは上手く言葉に出来ないのだが、

フラウと一緒に暮らし、共にする様になってからの食事は

何時だって美味しく感じられている様な気がする。

最近ではフラウが何かと自分に世話を焼きたがったりするが

それだって美味しく食べる一つの要因になっていると思う。


フィルがそんな事を考えていると隣のフラウがちょんちょんと袖を引いてきた。

どうしたのだろうとフラウの方を見てみると、

フラウは自分の方を見上げて嬉しそうに微笑んでいた。

「えへへー。私もフィルさんといっしょに食べるごはん大好きです!」

「ははは。僕もフラウと一緒に食べるご飯は大好きだよ」

フィルはそう言ってにっこりと微笑むフラウの頭にポンと手を載せて微笑んだ。

多分、美味しいと思える一番の要因は、この娘と一緒にいるからなのだろう。


そんな二人の様子を見て呆れたのだろうか、

「確かに、そりゃそうだな」

ダリウは笑って頷くとそれ以上は特に行くこともせずに、

再び自分のサンドイッチを征服する作業に戻っていった。

フィルとフラウはそんな満足そうにサンドイッチを食べていくダリウの様子を一旦は眺めてから

もう一度、二人で顔を見合わせて笑い合って、

それからいよいよ自分達の昼食を食べ始めた。

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