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邪神さんの街への買い出し50

昼飯時の広場の雰囲気は朝とは大分変わっていた。

早朝に見られた食材を売る露店が幾つか減った代わりに

昼食として直ぐに食べれる調理済みの料理を売る屋台が増えていて

客層も朝は食材を買いに来た街の住民達が主だったのが

今は食事をする為に訪れた行商人や旅人といった外からやって来た者達の姿が増え、

中には冒険者らしき者達のグループも見かけられる。


「わぁ~。さっきよりもっと賑やかになったみたいです!」

目の前の市場の賑やかな雰囲気に、フラウがフィルの方を見上げ

楽しそうに「本当にお祭りみたいですねっ」と言った。

「そうだねー。みんなお昼時でご飯を食べに来てるみたいだね」

「なんだか村の食堂みたいなんですね。村の食堂もお昼になるととっても人でいっぱいになるんですよ」

「ははは。確かにそうかも。昨日食べた食堂みたいな場所も沢山あるから、街の人が全部って訳じゃ無いだろうけど、確かに同じ役割なのかもしれないね」

「町の人があつまるとこんなに賑やかになるんですねー」


「すごいですねー」とフラウが感心するのも無理はない。

広場の中は昼食を食べに来た沢山の人々が行き交い、

通りに沿って道を歩くのも苦労するほどだった。

先程の雑貨市場の数倍はあろうかという人の密度は、

それなりに身長もあって遠目でも見つけられるダリウとラスティの二人は兎も角として

幼くて小さいフラウはこの人込みでは直ぐに埋もれてしまうだろう。

うっかりすると即座に二人共はぐれてしまいそうだ。


「これは、気を付けないとはぐれちゃいそうだね」

「フィルさんフィルさん。はいですっ」

フィルのぼやきを聞いて、すかさずフラウがフィルの手を握る。

その顔は得意げで、準備はバッチリですといった風である。

「これで安心ですっ。えへへー」

「ははは。そうだね」

フィルを見上げてにっこりと微笑む少女にフィルもまた微笑みかけて

二人ははぐれない様、手を繋いで通りに並ぶ屋台を見て回る事にした。


「いろんなお店がいっぱいで、どれも美味しそうでまよっちゃいますねー」

何件目かを巡った所でフラウが言う通り、

広場の屋台で売られている料理はどれも美味しそうで迷ってしまう。

腹持ちも良さそうで主食にぴったりな大きなミートパイや

長細いパン一杯に肉や総菜を挟んだパン、

酒のつまみにも良さそうな肉の串焼き、焼いたソーセージ、揚げポテトなどなど。

食べ物以外にも果物と定期的に組んでくる井戸水とで作る冷たい飲み物を売る店や、

まだ午後には仕事もあるだろうにエールやワイン、ミードといった

酒を売る店もあったりして……これが結構繁盛していたりする。

特にエールを売る店には午後も仕事があるはずなのに大勢の大人達が群がっているのだが、

……まぁ、多少酒が入っているぐらいが午後の仕事の効率もはかどろうという事なのだろう。


他にも街に住むご婦人が焼いたお菓子を売る店や

周辺の村で採れた地元特産の野菜を使った郷土料理の店、

さらには遥か遠くからやってきた商人の出す異国の食材で作った料理を出す店など、

様々な露店が中央のフードコートを囲むように軒を連ねており

確かにフラウの言う通り、どれを食べようか迷ってしまう。


「確かにどの店も美味しそうだねー。うーん、これは悩ましいなぁ」

「ああ。そうだな」

ダリウとラスティの二人もフィル達と同様に何を食べるか迷っているようで

困ってはいるが楽しそうに周囲を見回すラスティにダリウが言葉少なに頷いている。

ダリウは相変わらず厳つい顔だが、

どれが旨そうだろうかと、きょろきょろと見回しているのがなんだか微笑ましい。


取り敢えず繁盛していそうな店を探せば大丈夫だろうと思って来たものの

どの店も結構に繁盛しており、どうやら完全に当ては外れてしまったようである。

ならば仕方ない。どうせならどんな料理があるのか見て回ろうと

一行は一軒一軒、目に付く屋台を巡ってみる事にしたのだが……。

たっぷりの肉を挟んだサンドイッチの屋台を覗けば、サンドイッチが食べたくなるし、

その隣の大きなソーセージを挟んだホットサンドの屋台を覗くと、

今度はホットサンドが食べたくなってしまう。

店を覗くたびに肉やパンを焼く匂いや音が空きっ腹を刺激して、これは中々に辛いものである。


「えへへー。どのお店も美味しそうで決められないですー」

「一つ目の店で食べたいなって思っても、次の店を見ると、そっちが食べたくなっちゃうんだよね」

「わたしもですー。とってもまよっちゃいますよね!」

先程から引き続きフィルの手を引いたまま、

楽しそうに此方を見上げて言うフラウにフィルも笑って頷いた。

ダリウ達とは既に別行動……というか見失ってはぐれてしまい、

今はフラウと二人で屋台の料理を見て回っている。

まぁ、あの二人なら遠目からでも見つけ易いし、

見つからなくても広場中央にあるフードコートのテーブル席に座っていれば

向こうから探して探してくれるだろう。

その内合流できるだろうし大した問題では無い。


「フィルさんは食べたいの決まりました?」

「ああ、僕はあっちにあった肉を挟んだサンドイッチと肉の串焼き、あとは揚げポテトかな?」

一通り屋台を見終えて尋ねるフラウに、

フィルが指さした先には大きく細長いバケットに切れ込みを入れて

そこにたっぷりの肉を詰め込んでいる屋台があった。

美味しそうな見た目は勿論だが、注目すべきはその大きさで、

他の屋台のパンよりも二回りは大きなパンにこれでもかと具材を詰め込んでいる。

流石にあれだけの本格的なパンをこの場では焼けないようで

屋台にはあらかじめ焼いたパンが高く積まれている。

お値段の方は言うと普通のサンドイッチよりは若干値が張るものの、

それでも普通のを二つ買うよりはずっとお安い。

そんなボリュームたっぷりのサンドイッチはどうやら食いしん坊の男性にかなり人気の様で、

露店の前には常に多数の男性が並んでいた。

今もフィル達が見ている先ではドワーフの男性が二本のサンドイッチ受け取って

歩きながらさっそく一本目のサンドイッチにかぶりついている所なのだが

……なんとも羨ましい光景である。


「わぁ~。あれってすっごくおっきいのですよね! フィルさんあれ全部食べれちゃうんです?」

ドワーフが抱えているパンの大きさと、それを食べると言うフィルに驚くフラウ。

とは言え、あそこに並ぶ男達と同様、

一本ならばフィルも無理なく美味しく完食できる大きさだ。

流石にあのドワーフみたいに二本は無理だろうが……。


「ははは、あれぐらいなら結構するりと入っちゃうんだよ。いやー。あれを見たら無性に食べたくなっちゃってね」

「フィルさんにそだちざかりさんですねー」

「そうかもねー。フラウも好きなのを頼むといいよ? お金は僕が出すからね」

「えへへ~。はいです!」

「ああそうだ、せっかくだし色々な料理を頼んでみるといいよ? ここには色々な料理があるみたいだしね」

「はいですー。でも、いろいろなのたべてみたいですけど、一つでお腹いっぱいになっちゃいそうです」

そう言ってちょっと残念そうに微笑むフラウ。

フラウとしても気持ちは色々食べてみたいのだろう。

そんな少女にフィルはふむと頷く。

「そっかー。それなら、僕と分けて食べようか? それなら色々なのを食べれると思うよ?」

互いに買った料理を分け合えば更に色々な料理が食べられるだろう。

もしもフラウが食べきれない時でも、自分なら全然食べきれるだろうし、

どうせならフラウには色々と美味しい物を食べさせてあげたい。

そんなフィルの提案にフラウはぱぁっと嬉しそうにフィルを見上げた。


「わぁ、いいんです?」

「ああ、フラウが構わないなら僕は全然構わないよ」

「それじゃあ……、それじゃあ、あっちのを食べてみたいです!」

嬉しそうにそう言ってフラウが指さした方にはキッシュを売る店があり、

見るとキノコや鶏肉がたっぷり入ったキッシュを切り分けて

それをフードコートで食べれる様にと薄板に載せて売っている。

とても美味しそうだがなかなかに大振りで

確かにフラウ一人ではあれ一つで大分お腹一杯になってしまいそうな大きさである。


「ほほう。美味しそうなキッシュだね。じゃああれを買うとして、パンとかは良いのかい?」

「えーっと、それじゃあ……あ、あれがおいしそうです!」

そうして指さした先には具にハムと卵に野菜を挟んだサンドイッチを売る店があった。

此方はハムのピンクにチーズの白、そして野菜の緑と、

フィルが選んだ肉の茶色一色のサンドイッチと比べてなんとも華やかである。

「ほほう。あれもなかなか美味しそうなサンドイッチだね」

「えへへー。はいです! フィルさんもいっしょにどうぞですー」

「ありがとう。それじゃあさっそく買いに行こうか?」

「はいですー!」


料理を買い揃えた二人はついでに果実水を近くの屋台で二人分買い、

それら料理を手で抱えてフードコートへと向かった。

フードコートは青空の下で昼食を楽しむ人々で一杯で、

見回して見たのだが残念ながらダリウ達の姿は見つからなかった。


「皆さん居ないですね。まだ屋台で買ってるのかもです?」

「そうかもしれないね。とりあえず席に座っちゃおうか、このままだと直ぐに満席になっちゃいそうだしね」

「はいです!」

運良く空いたテーブルに陣取り、

つい先程買って来たばかりの昼食をテーブルの上に広げる二人。

結局席を探している間もダリウ達は見つからず、先に食べる事にした二人だったが、

二人が席に座って暫くすると、料理を買って来た二人がこちらを見つけやって来て、

すぐに四人での昼食となった。

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