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邪神さんの街への買い出し49

色々とあったが無事にフラウの服と帽子を買う事が出来たフィルは、

今はフラウと共に集合場所である食料品問屋へと向かっていた。


「なんだかフィルさん嬉しそうです?」

早速買った白いつば広帽子の端に手を当てて、フラウが此方を見上げて尋ねると、

尋ねられたフィルは上機嫌で「もちろんだとも」と頷いた。

「なにせ第一の目的を達成できたからね」

「そうなんです?」

そう言って不思議そうにフィルを見上げるフラウを見てフィルは目を細める。

フラウが今被っている白いつば広帽子は

華美な装飾は無いが、大きな青いリボンが付いていて女の子らしく可愛らしい帽子で

こうして改めて見てもフラウにとてもよく似合っていると思う。

これがあればこれから本格的に夏になり、日差しが強くなっても

日射病の心配無く安心して外を歩き回れるだろう。

本人も喜んでくれているみたいだし本当に良い買い物をしたものだ。


(これは教えてくれたダリウ達には感謝しないとかな?)

丁度街に訪れていたこの機会に買う事が出来たのはダリウ達のおかげと言えるだろう。

サリア達と一緒に何やら悪戯を企んでいる様だが、

まぁ悪意がある訳でも無いし、大目に見るべきか。

そんな事を想いながらフラウの帽子に視線を戻すと、

帽子のつばの端が僅かに擦れている事に目が留まった。

古着とは言え売り物なだけあって全体的に綺麗に洗濯されてはいるが、

流石にダメージの補修まではやってはくれていないらしい。

魔法を使えばこうした傷を修復する事も出来るのだが、

まぁ、そんな事をしたら銀貨数枚では買えなくなってしまうので致し方無い所だろう。


「ん? 少し帽子の端が擦れているみたいだね。 一応古着だし後で魔法で直そうか?」

この世界ではメンディングやメイク・ホウルの呪文でアイテムの破損を修復する事も出来れば

プレスティディジテイションの呪文で新品の様な綺麗な状態にも出来るので、

多少の服の傷や汚れなど大した問題ではない。

流石に道中転がっていた死体から剥ぎ取った鎧をその場で装備するとか

幾ら魔法の品で鑑定が済んで見栄えを綺麗にしたからといって、

さすがにどうかと思う時もあるのだが……それはそれである。

とにかく魔法を使えば新品同様の見栄えにする事は容易い。


「はいです。えへへ、おせんたくもそうですけど、魔法ってすごいですよねーっ」

「はは、万能って訳じゃないけどね」

一応謙遜はするものの、こうして素直に褒められると、

こそばゆいながらもやはり嬉しい物だ。

「そうなんです?」

「うん。メンディングだと魔法のアイテムを直す事ができないし、それに呪文は一日に使える数が決まってるからね」

「なるほどですー。あ、でも、この前つかった、つめたいのをだす棒は何回でも大丈夫でしたよ?」

「ああ、ロッド・オヴ・フロストか。たしかに無制限に使用できるマジックアイテムを作るという手はあるね。初級呪文のメンディングなら大したコストは掛からないだろうしね」

決して安い物ではないが、それでも一般的なマジックアイテムと比べれば安いものだ。

初級呪文で術者レベルが効果に影響しないメンディングの呪文なら

回数無制限で一日五回呪文を使えるとして材料費はおよそ金貨五百枚と言ったところか。

確かにと頷いているフィルをフラウは期待に満ちた目でこちらを見つめている。


「ふふっ、それじゃあ今度試しに作ってみようか? 色々便利かもしれないしね」

決して安い物では無いがそれでもフィルにとっては手の届かない金額ではない。

というより、自分でエンチャントするなら製作依頼費は掛からないし

大抵の必要な素材は既に持っている。

最近ちょっとフラウに甘すぎるかもしれないが、まぁ、いいだろう。

「わぁー! たのしみです!」

こうしてフラウも喜んでくれている訳だし、

なによりメンディングを自由に使えるマジックアイテムというのは便利そうだ。


実際、こう言った物を修理する呪文はとても便利で

大きな商会などでは高価なアクセサリーや美術品、服など買い取った際には

懇意のスペルキャスターに依頼して呪文による修理を行って新品同様に直したりする程だ。

特にメンディングは魔法のアイテムを修理できないという制限はあるものの、

ウィザードやソーサラーだけでなく、クレリック、ドルイド、バードと扱えるクラスが多く、

呪文が容易で依頼料金も少なく済むとあって修理依頼の需要も多い。

そしてそんな需要が多く有るとあって、

術者、特に見習い達の小遣い稼ぎとしてメンディングによる道具修理は人気が高い。

なので、もしも街中でメンディングを無制限に使えるロッドを広めたりしたら、

彼ら見習い達の大顰蹙を買う事間違いなしだが、

山奥の村で一振り作るぐらいなら普通に便利な道具として重宝する事だろう。


「あ、あといっしょにおせんたくも出来るとべんりかもです!」

良い事思いついたとばかりに元気良く言うフラウに

フィルはそうだねと笑顔で頷く。

フラウの言う通りプレスティディジテイションも衣服や身なりを綺麗にしたり、

水をお湯にしたりと日常生活にはなにかと便利な呪文である。


「ははは、そうだねー。うん。初級呪文を二つ載せるぐらいなら問題無いかな?」

その分のコストはかかってしまうが、これもまぁ、問題ないだろう。

ちなみにフィルの技量なら同時に三つまでエンチャントを乗せる事が可能だ。

それにいざとなったら例の力を使えばそれ以上のエンチャントだって可能なのだが……

まぁ、得体の知れない力をフラウに使わせる気など毛頭無いが。


「この呪文とあとはライトが使えれば、もう立派に初級ウィザードだね」

「えへへー。あ、そしたら皆さんのをお洗濯したり、なおしてあげたいです」

強力な呪文を自在に操るウィザードは人々から畏怖される存在だが、

フラウの言う拙い呪文でも人の為に尽くしてくれるウィザードは

それとは逆で人から好かれる存在になるのかもしれない。

多分、多くのウィザードが聞いたら馬鹿々々しいと鼻で笑うか

偉大な魔術を無駄に扱うとは何事かと怒るのかもしれないけれど。


「フィルさんフィルさん。私もまほうをつかえるようになりたいです。おしえてほしいです」

だから、フラウがそう言って此方を見上げた時も

この娘ならきっと魔法を人の為に使うのだろうと、そんな事を思ったのだった。

フィルは此方を見上げるフラウに優しく微笑みかけた。

「そっかー。それじゃ文字を覚え終わったら、次は魔法の練習もしてみようか? ウィザードの秘術呪文なら僕も教えてあげられるしね」

ウィザードの修行には相応の努力と時間、資金が必要になるものだが

これからも一緒に暮らすならフラウもフィルも時間はたっぷりあるし、

学院の様に詰め込むのではなく、ゆっくり無理せず学んで行けば良いだろう。

資金についても私塾や学院だと学費必要になるが、

一緒に暮らすフィルが個人的に教えるのだから問題ではない。

もしも途中で挫折してしまったとしてもそれはそれ、

途中まで学んだ事でもきっと何かの役に立つはずだ。


「わー。いいんです?」

「ああ。まぁ、ちょっと大変かもしれないけど、無理せずやってみればいいさ」

「はいですー! がんばります!」

フィルの返事にフラウは無邪気に喜びフィルの腰に抱きついた。

今日は何度かこんな事を繰り返しているような気がするが、

それだけこの子にとっては嬉しい事が良く起こっているのだろう。

フィルはそんなフラウの帽子にぽんぽんと手を載せる。

「覚える事は沢山あるけど、まぁ、無理しない程度に頑張ろう」

「はいですっ」

フラウが魔法を未知の物として怖がるのではなく、

興味を持ってもらえる事がフィルには嬉しかった。

そんな満足感一杯の二人が集合場所に戻ると

そこには既にダリウとラスティの二人が到着してフィルとフラウの二人を待っていた。



フィル達より一足先に雑貨市場に到着していた二人は市場で色々と買い物をして来たらしく、

彼らの足元には大きな籐で出来たバスケットが置かれており、

その中には何かの本や道具らしい物がはみ出して見えている。

「おう、二人共楽しんできたか?」

到着したフィルにダリウが尋ねた。

その顔は普段の厳めしい顔と大した違いは無いが

それでもフィルにはどこか楽し気に見えた。

「何か良い物はあったか?」では無く「楽しんできたか?」という事は

やはり確信犯なのだろう。

とはいえ、そこを追求するのはかえって策に嵌った事を認める様な物だ。

フィルは敢えてその点には触れない様にして普段通りの顔で応じた。


「ああ、時間一杯買い物を楽しませて貰ったよ」

「とっても楽しかったですー」

フィルの返事に続いてフラウも楽しそうに返事をした。

フラウの場合は正真正銘、心から楽しみましたという感じの嬉しそうな様子だ。

「そうか、それは良かったな」

本心から言っているのだろうが、何とも無骨な受け答えで

そしてそこで会話が途切れてしまうのが、

なんとも口下手な彼らしいといえばらしいと言える。

そんな事をフィルが思っていると隣のラスティが話の続きをしてくれた。


「それじゃあ、先に申し訳ないんだけど、僕達の買った荷物を預かってもらっていいかな?」

「ああ、構わないけど、その籠で全部?」

「ああうん。そうなんだけど、籠はこの後使うから中身だけ預かってもらえるかな?」

そう言って差し出された籠の中を改めてよく見てみると、

なるほど、色々と買って来たらしい。

農作業に使う道具らしい物や布織物に何かの書籍、

変わった物だと大きな白濁した鉱物の塊まで籠の中に詰まっている。

「ん? 構わないよ。……これは岩塩?」

「ああ、家畜に与える岩塩だよ。これを山羊や羊、牛なんかに与えると家畜が元気になるんだよ」

「へぇ~。なるほど……」

そう言えば以前レンジャーの仲間に野生の動物は岩や土をなめると聞いたが、

あれは塩を取っていたのかもしれない。

「昔はこうして塩と一緒に街に来た時に買っていたらしいけど、ドラゴンの所為で街に行けなくなっていたからね。村のはもうとっくに尽きちゃっていたから、今回家畜を買うのに合わせて買っておいたんだよ」

「なるほど……量はこれだけで大丈夫なの?」

「今回飼う分なら、これだけあれば半年は大丈夫だと思うよ」

「へぇ~」

自分の知らない知識と言うのはやはり多いなとしみじみ思いながら

フィルは物珍し気に岩塩の塊を眺めた。


籠の中には数キロは有ろうかという見事な塩の塊が三個ほど、

流石にこの塊だと料理に使うには砕いたり削る必要がある。

それに精製されていないために、不純物が混じっている事も多く

それ故、重さに対する価格は精製された塩と比べると若干お安くなる。

なので交易品として儲けるのなら精製した塩の方が有利なのだが

何故か岩塩も交易品としてそれなりに取引されており、それを以前から不思議に思っていたが、

なるほど、こうして必要とする人々が居るからこそなのだろう。


「さて、それじゃお腹も大分空いたし、そろそろお昼御飯にしようか? 今日は市場の屋台で良いんだよね?」

荷物を入れ終え、提案するラスティに一同は頷く。

時刻はまさに昼飯時と言ったところだ。

フィルは勿論だが他の三人もきっとお腹が空いているに違いない。

「ああ、俺もそれでいい」

「僕もそれでいいよ」

「わたしもいいですー。じつはおなかぺこぺこですー」

「はは、今日はずっといろいろな所を見て回ったからね」

「はいですっ」

「そういえば、ここでは何か名物とかはあるのか?」

「どうなんだろう?フィルは何か知ってる?」

「いや、前に来た時に食べたパンは普通に美味しかったけど、繁盛している店を選べば大体外れは無いんじゃない?」

「ああー。確かにそうだな」

フィルの言葉にダリウは頷く。

そんなダリウの納得を合図に一行は目の前の広場の中央にあるフードコートへと向かった。


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