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邪神さんの街への買い出し38

酒場での食事を終えてすっかりお腹一杯になり

一行が店を出る際、フィルはふと思いついて

周辺に出没する他の山賊や野盗の依頼書の写しを貰う為に

皆には外で待っていてもらい再度依頼の窓口へと向かった。


出没する地域が被っているだけでなく、街道上と遭遇箇所が限定されており、

さらに言うと、こちらが会いたくなくても向こうから襲い掛かってくるような輩だ。

たとえ依頼を受けていなくても遭遇する可能性は高い。

そんな時に賞金首の情報と依頼の達成条件をあらかじめ知っていれば、

遭遇時の敵かどうかの判断に有利なだけでなく、

依頼の達成条件を予め知っておけば、指定された物品や情報を確保して置き

後からでも依頼を受領し、それから提出する事で

依頼達成として報酬を得る事が出来るのだ。


まぁ、実の所を言えば

討伐依頼の報酬金だとか達成条件というのは

冒険者にとってはさほど重要な事では無い。


この程度の相手では依頼人から支払われる報酬なんて精々金貨数十枚と微々たる物で、

むしろ討伐での儲けの大半は倒した敵の装備や貯め込んだ財宝といった

戦利品がその殆どを占めているからだ。


だから冒険者が依頼書を確認する一番の理由は

あくまで討伐相手の情報を知る為、

賞金首の人相や出没場所を確認しそれが討伐対象であるか判別し易くする為で、

報酬額や達成条件の確認はあくまでおまけ、

条件が楽そうならついでに貰えばという程度の物だった。


何故なら依頼達成時の報告で提出する証拠品が

首魁の装備品や耳や指といった条件ならともかく、

野盗の首だとか魔物の死体を持ってこいだとかになると

かなり面倒で、且つ気分の悪い作業になってしまう。

本当に駆け出しで少しでも多く金貨が必要なパーティならともかく、

それなりに経験を積んで資金的にも余裕があるパーティとなると

面倒の方が勝り、代わりに鹵獲した装備を少し多めに持ち帰った方がよほど金になると判断されて

結果として討伐の報告だけして依頼未達成のまま終わる事もままあった。


店側でもそういった事情は把握しているが

多くの店では脅威の排除を優先して

(依頼者には気の毒だが)依頼の達成に拘らずに

依頼の張り紙につかう依頼書を余分に用意しておき

依頼を受けない冒険者にも周知して依頼外での討伐を認めているのが普通だった。


そう考えるとわざわざ依頼を受領する必要は無い様に思えるが

勿論、依頼を受ける事にもメリットがあって

依頼を受ければ依頼人からより詳しい情報を聞く事が可能だろうし

冒険者の店からも正式に依頼を受領したからこそ教えてもらえる情報がある。

それに何より依頼達成の暁には依頼者の信用や信頼を得られる可能性がある。

そんなものは銀貨一枚にもならないと考える冒険者も多いが金額は兎も角として、

依頼人の悩みを解決して彼らの信用を得る事は決して無駄では無いとフィルは考えている。


フィルの予想通り依頼書は余分に作成されており

受付のお姉さんはフィルの頼みを聞くと

後ろにある戸棚の引き出しから数枚の依頼書を取り出すと、

書面の内容を少し確認した後でフィルに手渡してくれた。

「こちらですね、ここ最近の更新は無いみたいですけど、討伐されたという話も聞きませんからまだ居るのだと思います」

そう言われて渡された書面に目を通すと、

数か月前の情報を最新に、遭遇した当時の状況が書かれており、

その時点でどの集団もそこそこの規模である事が分かる。


「……ふむ、なるほど参考になりました。ありがとうございます」

「いえいえ、被害は年々酷くなっていますから、それを何とかしてくれる方に協力は惜しみません」

「酷くなっているんですか?」

「ええ、最近では単独だとかなり高い確率で襲われるそうです。その所為で今では護衛を付けるか複数で固まって行かないと危険な場所になっているんですよ」

「なるほど、護衛の依頼がやけに多く感じたのはその所為か」

「最近では護衛を付けても襲われるなんて話も出ているんですよ。護衛の冒険者が全滅したという話も出ているんです」

憂鬱気に語る受付のお姉さんに、フィルもなるほどと頷いて見せる。

「まぁ……相手の勢力が大きくなればそうなるでしょうね」

おそらくこれまでの「仕事」が成功しすぎて

野盗の規模が大きくなっているのだろう。

規模が大きくなれば養う為に必要な物資も増大するので

それを満たすためにさらに活発に襲うようになっていく。


一般的に野盗や追いはぎが獲物を襲うのは道を通る全体の内一、二割程度と言われる。

考えなしに手あたり次第襲っていると

損害を重く見た国や街が直ぐに対策として冒険者や軍隊を派遣してくるだろうし

行動パターンも直ぐに相手に悟られてしまう。

滅多に遭遇しないから今回もきっと大丈夫だろうと

不用心な商人が何も備えず通ろうと思えるぎりぎりの頻度で襲うのが

山賊や野盗として一番長く稼ぐげるのだという。

だがその追手が存在せず、安全に襲う事が出来るのならそんな遠慮はいらない。

そうして歯止めが効かなくなった結果が今の状況なのだろう。


書面に書かれた内容を見てみれば、

被害があった場所や襲撃者の構成がかなり事細かに書かれている。

これだけの情報が集まるまでになっているという事は

相当な被害が出ているのであろう事が伺える。

わざわざ此方から探し出して討伐する余裕は無いが、

これだけ同じ地域で活発に活動しているのならわざわざ探さなくても

帰り道でも一つぐらいは遭遇する可能性はあるかもしれない。

その時に討伐対象についての情報と依頼の達成条件を知っておくのは無駄にはならないだろう。



依頼の情報を受け取り冒険者の店を出ると、

先に外に出ていたリラ達一行がフィルを出迎えてくれた。

既に日が落ち辺りはすっかり暗くなっていたが

冒険者の店が建っている街の入り口近くのこの区画は

酒場や宿屋が集まる大通りの中でも最も賑やかな場所であり、

道沿いに並ぶ酒場やレストランはランプや松明に照らされ

店内やテラスでは酒や食事を楽しむ人々で溢れ、

道沿いには料理や菓子を売る屋台が並び

それを目当てに行き交う人々で人混みとなるほどの賑わいを見せており

むしろ昼よりも華やかな雰囲気すらあった。


「わぁ~」

屋台や居酒屋で楽しそうに食事をする人々の姿に声を漏らすフラウ。

それ以上の言葉が続かないのは周りの雰囲気に夢中になっているからか。

人込みで迷子にならない様にフィルの手をしっかりと握りながらも

もの珍し気に屋台や酒場をきょろきょろと見回してる。


「すっごい賑やかなんだねー。なんか昼間より人多くない?」

「仕事を終えた人がご飯を食べに来てるんですよ。日が落ちて涼しくなったこの時間は皆さん一番元気な時間帯ですしねー」

「なんだかお祭りでもあるみたい」

「ほんとうね。人込みで迷子にならない様に気を付けましょう」

「あ、それなら迷子になったら集まる場所とか決めておいた方が良いかもですね。万が一はぐれたらあそこで合流するとかどうです?」

フラウだけでなくリラ達年上の少女達も普段見ない光景にもの珍しげに見回している。

街灯の殆ど無い村では、夜に外を出歩く人なんて殆ど居ないのだから仕方ない。

戸惑いながらも楽し気に辺りを見回すリラ達に

サリアは慣れた様子で街の説明をしている。

その様子を見るにやはりサリアは都会育ちの娘なのだろう。


(そういえば前回街に来た時も昨日も夜の街を散策したりはしてないもんな)

これまでフラウやリラ達と街に来ている間は、

夜と言えばずっと宿でのんびりしていた。

夜の街で屋台の食べ物を食べたり酒場で飲んだりするのは楽しいものだが、

一方で夜の街は危険もはらんでいる。幼い少女を連れているのなら猶更だ。

それにわざわざ外出する理由も無かったので外を出歩く事はしなかったのだが。

こんなに楽しそうにしてくれるならもっと早く連れて行ってあげても良かったかもしれない。


「とっても賑やかなんですね! お祭りみたいです!」

「ははは、そうだね。でも暗い所は危ないから僕から離れちゃ駄目だよ?」

「はいですー。あ、フィルさんフィルさん。あっち行ってみたいです」

目に付いた屋台に行こうと繋いだ手を引っ張るフラウに

一緒に歩くフィルは少女に引かれるままについて行く。

つい先程、酒場でお腹一杯になるまで食べたというのに

もの珍しい屋台の料理や焼きお菓子を見て食べたそうにしているフラウに

フィルは思わず笑みを浮かべるが、

どこかの女冒険者が言っていた甘い物は別腹という言葉を思い出して、

なるほどこれがそうなのかと改めて理解する。


結局フラウだけでなくリラ達も加わって

通りの屋台で夜食代わりの食べ物を幾つも買った一行は

それらを持って宿屋へと戻ったのだった。

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