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邪神さんの街への買い出し32

どうにか冒険者登録を済ませた一行は

酒場の方でテーブルと席を確保してくれているフラウ達の所へと戻った。

既に料理の注文は済んでいる様で彼らの座っているテーブルの上には三人分のジョッキと

ナッツやドライフルーツ、ジャーキーといった乾物のおつまみが入った皿が置かれている。

おそらく直ぐに提供できるからという理由で注文したのだろう。

三人はフィル達が説明を受けている間に既に飲み始めていたようで

皿に盛られたおつまみは既に幾分減っていた。


ちなみにこうした乾物は保存食として

同じ酒場で一日分で銀貨五枚の量り売りで販売されていたりする。

なのでフィルやベテランの冒険者には馴染みの悪く言えば結構食べ飽きた味で

酒場ではあまり注文しないメニューだった。


だが冒険者でも行商人でもないダリウ達にとってはごく普通のおつまみだ。

フラウも食べた事の無い珍しい果物のドライフルーツに興味津々といった感じで

大ぶりな干し果実を両手で持って美味しそうに食べている。

……それはそうと……三人の手元にあるのが皆大ジョッキなのだが、

まさかフラウのジョッキの中身もエールなんて事はあるまい……。

木製のジョッキの中身はここからでは分からないが

果実水でも頼んだのだろうか?多分そうなのだろう。



「おまたせー。いやーなんか説明が長引いちゃった」

「おう」

「私達の登録は直ぐだったんだけどねー。フィルさんが怪し人に見えちゃってね」

「そうか?」

明るく説明するリラに言葉少なく応じるダリウ。

知らない人が聞けばぶっきらぼうで、不機嫌なのかと思いそうな応対だが、

この青年は口下手なのはこの場に居る全員が承知の事。リラも気にせず話を続ける。

「あ、料理頼んでくれてたんだ? ありがとー。飲み物はどうやって頼むの?」

「あそこにメニューがあるから給仕を呼ぶか、あそこのカウンターに行って頼めばいい。色々あったから自分で選んだ方がいいだろう」

そう言ってダリウは壁に書かれたメニューと

酒場のカウンターで夜の営業に向けて作業している店員を指さす。

どうせ飲み物はすぐに出てくるのだし、中途半端に全員一律にエールを頼むよりは

各人、各々好きな飲物を飲んだ方が良いという判断なのだろう。

「なるほどーありがと。ところでどんな料理を頼んだの?」

「ラムチョップにミートパイ。あとは干鱈のコロッケに干鱈のフリットにシュークリームの蜂蜜掛けに……」

リラの質問に律儀に一品一品答えるダリウ。

お肉中心の居酒屋メニューが多いが

さりげなく女子の好みそうな甘味をきちんと頼んである辺り

配慮の出来る青年なのである。


「……ああ、そうだ」

注文した料理を説明しながら何かに思い出したようで

ダリウはポケットに手を突っ込むと、

そこから銀貨と銅貨を取り出してフィルに手渡した。

「二枚もらってたおかげで色々頼めた」

「ああ、お釣りだね。ありがとう」

受け取ったコインを軽く確認見てみると銀貨はまだ結構残っていて

お釣りから注文した料理の金額は金貨一枚と少しだろうという事が分かる。


「お店の人が言うには四人前で頼んで皆で分けると丁度良いよって教えてくれたからそうしたけど、それでも結構な金額になっちゃったよ。やっぱり街で食べるとお金が掛かるね」

そう言ってラスティが苦笑いを浮かべる。

一回の食事で金貨一枚超えといえば結構な金額のようにも見えるが

八人分の金額でこれなのだから十分にリーズナブルと言えよう。

フィル達が今利用している宿の食事も大体似たようなものだ。

村の食堂では食材を持ち合ったりして殆どお金は使わないから、

一食で金貨一枚支払うという感覚に慣れないのだろう。


「まぁ八人分あるし、その辺は仕方ないよ。食堂とかで食べるとどうしてもお金がかかっちゃうからね」

街で暮らす場合でも自宅を持っていて自炊できる環境なら

材料費のみでお金の消費も抑える事もできるのだが、

旅人や行商人、冒険者といった根無し草には無理な話だ。

一応、懐が寂しくてどうしようも無い場合には

食事の質を落として安い食事で済ませたり(切り詰めれば一日銀貨一枚位まで抑える事も可能だ)

宿を大部屋の様な安い部屋にしたり野宿も出来たりするが

せっかく皆で遠出して街に来てるのだし、

今は十分に所持金だってあるのだから

わざわざそんな苦行みたいな事をする必要も無いだろう。



「それじゃあ僕も飲み物を頼んで来るよ」

ダリウから受け取ったお釣りを懐にしまい、

自分の分の酒を頼もうと店内とカウンターを見やるフィル。

酒場のカウンターではダリウに負けないぐらいに厳つい強面の親父が

夜の営業の準備に勤しんでいる。

どうせなら若い給仕の娘さんにでも注文したい所だが残念ながら近くに給仕は見当たらない。

どうせ飲み物を頼むだけだし、カウンターで頼んで受け取った方が断然早いだろうと

フィルがカウンターへ行こうとすると

「あ、ちょっと待って下さい。私も一緒に行きますから」

サリアがそう言ってフィルを呼び止めてきた。


「私とフィルさんとで注文してきますけど皆さんは何を飲みます?」

どうやら皆の分を纏めて注文しようという事らしい。

「あ、じゃあ私シードル!」

「私もシードルでお願いします」

「私はミード」

「はいはい……っと。あ、私もミードでお願いします」

そう言ってフィルの方へと向いてニッコリ笑うサリア。

どうやら支払いは皆の分を纏めてよろしくという事らしい……。

「はいはい。わかったよ」

満面の笑顔で押し切ろうとするサリアに溜息で返して、

フィルはサリアを伴って酒場のカウンターへと向かった。


「すみません。エールを一つとシードル二つ、ミードを二つお願いします」

酒場の注文なんてどこでも大抵同じようなもので、

無愛想な親父に欲しい酒を伝え、カウンターに数枚の銀貨を置く。

「あいよ」

親父はちらりとこちらを見やると一言だけ返事をして

それ以上は特に何も言わずに銀貨を回収してカウンターの奥へと戻っていく。

「へ~。やっぱり慣れた感じですね?」

「ん? そうなのかな?」

以前なら「親父、エール一つ」ぐらい雑な注文をしていたものだが

今この場所では新参者でしかも若返っていて年季からくる貫禄もないので

結構気をつけて丁寧に注文したつもりだった。

それでもサリアから見たら手慣れている様に見えるのかもしれない。

「まぁ、ここじゃないけど冒険者の店の酒場はよく利用したからね」

フラウ達の村に住んでからあまり酒を飲んでいないが、

かつてのフィルはかなり典型的な冒険者の生活だった。

つまりは酒場で冒険を探し、冒険に出て、冒険を終えて酒場で打ち上げをする。

当然、酒場で酒を飲む頻度もかなり頻繁で

冒険者の店の酒場なんて宿屋もあるので文字通り家代わりに利用していた施設だ。

「なんかこういう所で注文するのって緊張するんですよね」

「そうなんだ。こういう場所は注文の時に支払う所が殆どだから先にお金を置きさえすれば大抵は……ってサリアはもう何度か店を使ってるんだったね」

「あまり酒場は使った事無いんですけどねー。一人だと色々面倒ですし?」

「ふむ?」

曖昧な笑顔を浮かべるサリアにフィルは首を傾げるが

若くてしかも可愛らしい娘が一人でこんな場所に居れば、

そりゃ変な輩に絡まれる事も多かったのだろう。

「ふふふっ。今はフィルさんも居ますし。頼りにしてますからね?」

コインを回収した親父がフィル達の酒をジョッキに注いでいくのを眺めながら

楽しげに言うサリア。

「あまり頼り過ぎは駄目だよ?」

「いいじゃないですかー。みんなだってフィルさんの事、頼りにしてるんですから」

そう言って此方を見上げるサリアに

まったく甘え上手な娘だとフィルはやれやれと溜息を吐いてから

隣に立って此方を見上げる少女の頭をワシャっと掻き乱す。

「あーー。んもう!」

「さっ、酒を持っていこう。サリアはその二つを持って」

文句を言いたげなサリアを遮って、

酒を受け取り、二人で人数分のジョッキを手に持ってテーブルを戻ると、

テーブルには何故かダリウとラスティの二人しか居なかった。


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